ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア 作:Maeto/マイナス人間
§新生アインクラッド第22層 森の家
「はい、どうぞ」
アインクラッド第22層のログハウス、アスナがテーブルに置いた皿が仮想の湯気を上げる。思わず鼻をひくつかせたマエトが感嘆の声を出した。
「おぉー......! これは実にうまそーだ。いいのかアスナさん、こんないいものを?」
キリトとユウキ相手の連続デュエルを終えたマエトに、アスナは手料理を振る舞って労うことにしたのだ。
「ふふっ、もちろんよ。召し上がれ」
アスナがそう言うや否や、
「いただきます」
素早くフォークを握って手近な皿に手を伸ばし、大きめに切り分けられた魚を口にした。そこで、
「......、」
ピタリと動きを止めたマエトを見て、不安になるアスナ。
(もしかして、口に合わなかったのかな......)
そう思った直後、
「はむっはむっはむっ、んまいんまい」
魚の照り焼き、添えられたキノコや野菜類、パン。それらを次々と口に放り込み、モギュモギュと音が聞こえそうなほどに頬張る。それを見てほっ、と安堵の息を吐くアスナを尻目に、
「あー! とー君ズルい!! ボクもアスナの料理食べたい!!」
マエトの隣に座り、ちゃっかりフォークを握ってユウキも料理を頬張り始めた。一瞬のアイコンタクトを交わした後、2人のインプは競うようにフォークを動かし始めた。凄まじい勢いで空になっていく皿を見て唖然とするアスナ達。キリトやクラインに至っては、
「ダメだ、おりゃ腹減ってきたぜ......」
「俺もだ......アスナ、あとで俺にも飯作ってくれ......」
と情けない表情を浮かべていた。
ものの数分で料理を平らげたマエトとユウキは、同時に満足そうに息を吐き、同時にフォークを置き、同時にアスナを見た。
「ごちそーさまでした」
「ごちそうさまーっ!!」
「お、お粗末様でした......あはは......」
あまりの勢いに圧倒され、苦笑する他ないアスナであった。
後片付けが済むと、すかさずリズベットが口を開いた。
「ねえねえ、あんた達がちっちゃい頃の話聞かせてよ」
「あ、あたしもそれ気になります!!」
「あたしもー!!」
便乗してきたシリカとリーファ、そこにアスナも加わる。
「わたしも、ユウキのちっちゃい頃の話聞いてみたいな」
ユウキとマエトは顔を見合わせ、
「「オッケー!!」」
と同時に言った。
「とー君はねー、けっこうインドア派だったね。教室で本読んだりお絵描きしたりしてる方が好きだったよね」
「うん。それをユウちゃんが外に引っ張り出してさ、やれ鬼ごっこだのかくれんぼだのサッカーだのって」
「それでとー君転んじゃった時、ボクが一緒に保健室まで行ったんだよね」
「あと読んだ本の冊数で勝負したりね」
「あー、やったねー。その勝負はとー君の全勝だったっけ?」
「うん。ユウちゃん悔しがって、『次は読んだページ数で勝負!!』って言い出したけど、ユウちゃんそれでも負けたもんね」
「とー君の本読むペースが速すぎるの!! 国語の先生言ってたよ、『あんなに速く読めるなんて日頃から本を読んでる証拠だ』って」
「ユウちゃんもけっこう読書家だけどね」
「外で遊ぶ方が多かったもんねー」
「でも放課後は一緒に遊んだよね、家でじゃなくて公園で」
「うん、あと一緒に手繋いで帰ったりもしたね」
「家で遊んだ時は疲れて手繋いだまま寝落ちしたことあったよね」
「あったー! それでママが写真撮って見せてきたんだ、あれちょっと恥ずかしかったー」
「おれもー」
思い出話に花が咲き、リズベットやアスナ達にリクエストされたことも忘れて話し込む2人。それを見てアスナ達は思わず顔を綻ばせた。
『はー、これで今日の授業終わり!!』
「お疲れ様、ユウキ」
マエトとデュエルした日から4日後、SAO事件の被害者達が通う帰還者学校の校内を、
「ユウキ、最後の数学の授業で唸ってたね」
『しょうがないじゃん、ボク国語は得意だけど数学は苦手だもん。それにボク、本当ならまだアスナの学年の数学なんて習わないよ』
「予習になってちょうどいいじゃない」
『アスナは真面目だなぁー』
などと会話を弾ませるユウキと明日奈。それに対して隣の和人は、
「うーん......」
数学の授業中のユウキのように唸って何かを考えていた。
『キリト、何を考えてるの?』
「はぁ。キリトくんってば、こないだからずっとマエトくんのこと考えてるのよ」
『え、とー君のこと? なんで?』
ユウキが意外そうな声を上げる。明日奈も不思議そうな目を和人に向ける。
「いや、冷静に考えるとおかしいだろ」
和人の言い分に、明日奈は首を傾げた。
「おかしいって、何が?」
明日奈の問いに、和人は問い返すように返事をした。
「マエト、あいつ強すぎないか?」
「......え?」
和人の言葉に、ユウキと明日奈は改めてマエトの戦いぶりを思い出す。
「コンバートして1週間でユウキと互角以上に渡り合うなんて普通じゃないだろ」
「でも、GGOはPvP推奨なんでしょ? それで対人戦を繰り返していれば、あのくらい強くなってもおかしくはないんじゃない?」
「いや、そもそもあいつがGGOであそこまで上手く光剣を、しかも二刀流で扱えることも変だ」
『そうなの? なんで?』
今度はユウキが問いを投げた。
「第3回BoB以降、光剣を使う人が増えたらしいんだけど、でもそれでまともに戦えるプレイヤーは1人もいなかったらしい。GGO内で、光剣の扱いを誰かにレクチャーしてもらえる訳がないんだ」
「なのにマエトくんは、光剣......剣での戦闘でキリトくんと渡り合えた」
無言で頷いた和人は、
「マエトがGGOに来る前にやっていたゲームは何だったんだろうな......」
と呟いた。
そして、一行が曲がり角に差し掛かった時、内側を歩く和人の前に人影が現れた。
「おっと」
曲がり角の手前で止まる和人に対して人影は、和人を避けるために外側へと進路をずらした。結果、
「あてっ」
「きゃっ!!」
和人の隣を歩いていた明日奈とぶつかった。人影は後ろに下がると、
「どーも申し訳ない」
と言ってるペコリと頭を下げた。
シャツの上にブレザーでなくパーカーを着た、黒髪の少年だった。背はさほど高くはない。ALOで会ったマエトのアバターと、ちょうど同じくらいの身長で──。
「なっ」
「えっ」
『へっ!?』
和人、明日奈、そしてユウキから驚きの声が漏れる。顔を上げ、和人たちを見返してきた少年は、
「マエト!?」
「マエトくん!?」
『とー君!?』
「おー、久しぶりー。アスナさんの肩のそれからユウちゃんの声するけど、それメディキュボイドに繋がってんの?」
相変わらずマイペースな少年に、和人が問いかける。
「い、いやそんなことより、お前そのYシャツ......ってことは、やっぱりお前......」
「え? あ、うん、そーだよ」
和人の言葉をあっさりと肯定し、少年は続けた。
「2年間、おれもあの城の中にいた。あんたらと同じ、《SAO
(まさかとは思ってたけど、本当に生還者だったとはな......)
和人と明日奈がよく昼食をとっているベンチに腰かけた3人。和人の視線に気付いたマエトが、「何?」という目を向ける。
「あぁ、いや。ちょうどお前がなんであんなに強いのかを話しててさ」
「うん、そうなの。でも生還者っていうのなら、ちょっと納得ね。自己紹介してないのにわたしの名前知ってたもの」
「アスナはSAOではかなりの有名人だったからな」
『とー君、SAO事件に巻き込まれてたんだ......だからいきなりお見舞いに来てくれなくなったんだ』
「うん、それは本当にごめんね。で、強い理由だっけ? そうだなー、1年くらいずっとアホほど対人戦しててさ」
驚きはしたが、マエトの強さの理由は分かった。和人や明日奈と同じように、SAOで命懸けの戦いを生き延びたから。
「しかし対人戦をずっとやってたって、圏内でずっとデュエルしてたのか? それなら対人戦の腕も磨かれて当然だな」
和人の言葉に
しかし、
「デュエル? おれそんなのしてないけど」
マエトはそう言った。だが、それはあり得ない。いや、あってはならない。
「でもお前、SAOで対人戦って言ったらデュエルのことじゃ......」
和人の言葉を、マエトは今度はあっさりと否定した。
「んーん、デュエルじゃないよ。おれがしてたのは────殺し合いだよ」
和人達はゾッとした。目の前にいる年下の少年が、さも当たり前のように口にした《殺し合い》という言葉の冷たさは、尋常ではなかった。
「マエトくん......あなた、まさか......」
「まさかお前......レッド、なのか?」
明日奈と和人の問いにマエトは、
「あー違う違う。そうじゃなくて」
そう言うと少し考えるように黙った。そして、再び口を開いた。
「えっと、SAO後半の1年間で、
和人と明日奈は顔を見合わせ、頷いた。
マエトの言った通り、SAO後半の1年間で、オレンジ、及びレッドプレイヤーによる犯罪件数が減少したことがあったのだが、それとマエトに何の関係が──。
そこまで和人が思った時、
「あれ、おれがやったの」
マエトの声が冷たく響いた。和人も明日奈も、彼をよく知るユウキすらも、目の前の少年の不気味なまでに冷たい気配に
「おれがオレンジとかレッドを殺したんだよ」
その瞬間、和人と明日奈は思い出した。その当時、アインクラッドで流れた奇妙な
『1人のグリーンカーソルのプレイヤーが、大勢のオレンジカーソルのプレイヤーをキルしている』。
「お前、まさか......」
震える声を出した和人に、マエトが頷く。
1年間、単独で100人以上の犯罪者カーソルのプレイヤーを殺害した、レッド以上にレッドだった暗闇の住人。
「《
次回 血染まった記憶