ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア 作:Maeto/マイナス人間
次回はがっつりバトル回です。
§ダークテリトリー・南の遺跡
振りかぶられた両手剣。その巨大な刃が、ギラリと光った。
振り下ろされたそれを左手で受け止めると、アスナは右手に握った
急所を一撃で破壊されたことで、赤騎士──一般兵士アカウントでログインしていたアメリカ人VRMMOプレイヤーはHPを全損し、アンダーワールドから去った。
血を
またしても振り下ろされた剣を素早く回避してやり過ごし、この騎士の頭部にもレイピアを突き刺す。
こんな戦いを、どれだけ続けただろうか。いったいどれだけの人を殺してきただろうか。
倒れそうになるアスナの前で、まだ大勢残っている赤騎士が
STLを使ってダイブしているアスナは、イメージによって回復できる。つまりこの体が倒れるのは、心が折れたときだけ。
「──ならわたしは、永遠に立ち続けられる!!」
自分に言い聞かせるように叫び剣を構えるアスナに向かって、赤騎士の軍隊が駆けた。
そのとき、天から青い光が降り注いだ。アメリカ人プレイヤーがログインしてきたときと、同じ現象。
「敵の、援軍......?」
思わず気力が
次の瞬間、人の形に変わった光が、高速で回転した。切れ味をもった旋風が巻き起こり、広範囲に渡って赤騎士たちを切り裂く。
この現象、いや
カタナ重範囲攻撃技《
長いカタナを振り抜いた体勢で着地したサムライは、悪趣味なバンダナを揺らしてアスナを振り向いた。
「よう。待たせたな、アスナ」
「クライン、さん......!?」
驚きの声を上げたアスナの上から、再び光が降り注いだ。1つや2つではない、もっと多くの光の雨。
地面にまで伸びたその光柱から現れたスキンヘッドの巨漢が、後ろからアスナに襲い掛かろうとしていた赤騎士を両手斧で叩き伏せる。
「エギルさん!」
名前を呼んだアスナにサムズアップし、斧戦士はニヤリと笑った。
「すまねェ、遅くなっちまった」
そのすぐ近くに、3つの光が降りた。現れた3人の少女を見て、アスナは顔をほころばせた。
「リズ! シリカちゃん! ユウキ!」
思わず駆け寄り、
「来て......来てくれたのね」
そう呟いたアスナに、リズベットが「来るわよ、もちろん!」と答えた。シリカとユウキも、
「当ったり前じゃないですか」
「アスナのためなら、ボクはどこにだって行くよ!」
と言って、リズベットと一緒にアスナを抱きしめる。
「こんなに無茶して、傷だらけになって......頑張りすぎだよ、アスナ」
「あとは、ボクらに任せて」
「大丈夫です、みんな来てくれましたから」
そんな言葉に、アスナは顔を上げた。
戦場に降り注いだ青い光の雨は、どんどん人の形を成していく。
白銀の軽鎧を
黄色を基調とした装備の
その他様々な装備、様々な種族のプレイヤーが、次々と戦場に降り立った。ユウキがリーダーを務める
いや、ALOプレイヤーだけではない。数は少なく、アンダーワールドの世界観に
その隙を逃さず、アリシャとユージーン、サクヤが指示を飛ばした。
「あの赤いのが敵だぁー!!」
「前衛、突撃! 押し返せぇっ!!」
「後衛は
猛然と駆け出した
「テメェらに個人的な恨みはねェが、ダチをさんざ痛めつけてくれた借りは返すぜ。3倍返し......いや、1000倍返しだ! この野郎共ォ──!!」
そう宣言し、クラインとエギルは駆け出した。
元の世界に無事に帰ることができるかも解らない。にも関わらず、彼らは大切なキャラクターを失う覚悟でコンバートしてきてくれたのだ。
それを見て、アスナは深い感慨に襲われていた。
そんな親友に、リズベットが言った。
「あたしたちがSAOやALOで頑張ってきたのは、きっと今この場所で大切なものを守るためだったんだよ」
「......うん、そうだね。ありがとう」
目尻に浮かんだ涙を拭うと、また新たに光が降り注いできた。
こんなにも大勢の人が、助っ人として来てくれた。そう思うだけで、力が湧いてくる。
イマジネーションを集中させ、アスナは全身に負った傷を自己治癒した。力強い笑みを浮かべると、腰の
「よぉーし、ボクの大事な友達をいじめたお返しだぁ──ッ!!」
威勢のいい声と共に愛剣《マクアフィテル》を構えて駆け出そうとするユウキに、アスナはあることを思い出して声をかけた。
「あ、待ってユウキ!」
「ん? なに?」
キキッと急ブレーキをかけて振り返る
「そう言えば、マエトくんは? ユウキが来てるなら、あの子も来てると思ったんだけど......」
一撃で急所を破壊し、速やかに相手をログアウトさせる。アスナが神経をすり減らして何度も何度もしてきたそれを、マエトならより速く、より高精度で行えるだろう。
この戦場における戦力として見たとき、あの少年は一騎当千の
そう言われ、ユウキやリズベットたちも周りを見るが、あの少年の姿はどこにも見当たらない。
「一緒にコンバートしたはずなんだけど......まぁいっか! 戦ってれば、きっと見つかるよ!!」
そう言って、ユウキは改めて駆け出した。
その少し前、戦場となっている
アンダーワールドにログインして上空から落下してくる途中、マエトは遺跡後方に複数台の馬車が止まっているのを見つけた。恐らくは補給部隊だろう。
そしてそこから、キリトの気配を感じた。
(戦う前に、ちょっと様子だけ確認しておくか)
そう思って、マエトは着地するや敵に背を向けて駆け出していたのだ。
何となくの
灰色を基調とした服に、ブレストプレートを重ねた少女が2人。そして、車いすに座る黒髪の青年。
右腕を肩から欠損していたり
(思ったより早く見つけれたな)
そんなことを思いながら前に進むと、赤髪の少女が素早く立ち上がり剣を抜いた。
「と、止まりなさい!! さもなくば斬ります!!」
コーヒー色の髪の少女も、キリトを守るようにして剣を構える。
隙が無い──とは、お世辞にも言えない。はっきり言って1対2でもこの2人には余裕で勝てると、マエトは思った。
だが、誰かは知らないがキリトを守ろうとしている。ならばひとまず、ここを任せておいていいだろう。
「ふむ、
そう言って立ち去ろうとすると、コーヒー色の髪の少女が訊ねてきた。
「え......? あ、あのっ! もしかして......アスナ様と同じ、リアルワールドから来られたキリト先輩のご友人の方、ですか......?」
リアルワールドという名称は初めて聞いたが、確かにあの世界を呼称するにはぴったりだ。
「うん、そーだよ。マエトっていいます」
初めましてと言ってペコリと頭を下げると、2人の少女も名乗った。
キリトに視線を向け、マエトはどちらにともなく訊ねた。
「あんたらは、キリトさんがなんでこんなになったか知ってる?」
その質問に答えたのは、ロニエと名乗った少女だった。
「は、はい.....。セントラル・カセドラルで整合騎士様や最高司祭様と戦って、一緒に戦ったユージオ先輩が、その......亡くなって......」
その説明の途中で、ティーゼと名乗った赤毛の少女が涙を浮かべたが、マエトは構わず再度訊ねた。
「ユージオってのは、キリトさんの友達?」
それには、ティーゼが答えた。
「はい。キリト先輩と、ずっと一緒にいて......友達と言うより、親友というか双子というか......先輩たちはお互いを、相棒のように思っていると言っていました」
2人の説明を聞いて、マエトはため息を吐いた。馬車に入って最初にキリトの目を見たときにした予想が、そのまま的中していたからだ。
(どーりで......昔のおれと同じ目してるわけだよ)
胸に痛みを感じつつ、マエトはキリトに歩み寄った。しゃがんで、正面から真っ直ぐに目を見る。
「ぁ......あぁ、あー......」
乾いた唇を震わせ、ひび割れた声を出すキリト。その顔を、目を、じっと見つめた。
そのまま、数秒が経過した。すっくと立ちあがると、マエトは満足そうに頷いた。
「ん。それじゃー、おれは行くね。キリトさんのことよろしくー」
3人に背を向けて歩きつつ言うと、2人の少女は見たことのない形の敬礼を返してきた。
カーテンを押し開け、外に出る──直前、マエトは振り返ると思い出したように言った。
「あ、そーだ。ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ────」
「おりゃぁぁあああ────ッ!!」
勇ましい雄叫びと共に、黒曜石の輝きを放つ長剣が振るわれた。素早く連続で閃いた鋭刃が、赤騎士たちを次々に斬り伏せていく。
「す、すごい......!」
ユウキという名前のあの少女は、アスナの話では二度もキリトを打ち負かした最強の剣士らしい。
聞いた当初はあのキリトを二度も下したなどとはにわかに信じがたかったが、あのような暴れっぷりを見ては納得する他ない。
彼女だけではない。リアルワールドからやってきたという騎士たちは皆、個人・集団を問わず素晴らしい、いや
赤騎士の軍隊に数では劣るものの、それを圧倒的な実力と優れた装備で補っている。
(我々も、負けるわけにはいかない......!)
そう思い、自分を狙って接近してきている6人の赤騎士を
6人も同時に相手取るのは少々厳しいと言わざるを得ないが、ここは戦場だ。弱音を吐いている暇などないし、やるしかない。
愛用の大型剣を握る手に、グッと力を込める。
そのとき、赤騎士たちの首を横切るように光が
直後、6人の赤騎士の首がほぼ同時に転がり落ち、光となって体ごと消え去った。
「お姉さん、ダイジョブー?」
「あ......あぁ、助かった.....ありがとう」
のんびりと訊ねてきた少年に、ソルティリーナは何とか礼を言った。
だが内心では、
(6人の敵兵を、ほとんど同時に斬った......!? しかも全員、鎧と
速さ、精密さ、どちらをとっても異常だ。それをこんな少年が両立させていることが何より異常だった。
驚きで身動きができないソルティリーナ。そのとき、
「あっ! とー君!」
「マエトくん!」
そんな声が聞こえてきた。声のした方を見ると、あのユウキという少女とアスナが駆け寄ってきていた。
「アスナさん、ユウ。キリトさんとこ行ってて、ちょっと遅くなった。すまん」
そう言うと、マエトと呼ばれた少年は左手の剣をくるりと回した。ぱしっと音を立てて青色の剣を順手に握り替えると、にししと笑った。
「まー遅れたぶんはちゃんと働くよ。じゃー行ってくるー」
いっそ気楽とすら思える言葉を残し、マエトは飛び出した。
1歩目を踏み出したときには、その顔から
複数人で突進してくる赤騎士たちの首を、全て一瞬で斬り飛ばす。それを何度も、何度も繰り返す。
ただただ速く、精密に、
もはや
「あ、あはは......とー君、やっぱりすごいねぇ......」
「う、うん......1人でスリーピング・ナイツのみんなと同じくらいのペースで敵を倒してる......」
「さぁ、わたしたちも負けてられないわ! ユウキ、リーナさん、行きましょう!!」
「うん!」
「はい!」
日本のVRMMOプレイヤーたちが戦闘を開始してから、かなりの時間が経過した。
カタナを振るい赤騎士を斬り伏せたクラインと、レイピアで赤騎士を貫いたアスナのちょうど近くに、マエトが音もなく着地した。
見れば彼から少し離れた場所で、5つの人影が光となって崩れている。この少年は戦闘に参加してからここまで、常に3~4人以上を一息で倒している。おまけに無傷で息も切れていない。
「おうマエト、絶好調だな!! このまま順調に行けりゃあ......」
そんなクラインの言葉をマエトはあっさりと否定した。
「そんな順調でもないよ。今んとこ旗色はそこまで良くない」
この赤騎士たち、つまりアメリカ人VRMMOプレイヤーは、1人1人で見るとそこまで強くはない。1対1で戦えば、旧アインクラッド第74層に出没したトカゲ男──レベル82モンスター《リザードマン・ロード》の方がまだいくらか手強いだろう。
また指揮官のような者もいないらしく、アメリカ人たちの動きに統制はない。各々がゲーム気分で雑に武器を振り回しているだけだ。
現時点では、まだ《装備と実力の差》が《数の差》を補ってくれている。こちらの方が優勢なのは間違いない。
だが、1つの
もしアメリカもしくは他国から、さらに敵の増援が来たら。
たったそれだけで、この戦況はあっさりとひっくり返る。
優勢にも見えるこの状況は、実はそれほどまでに危ういものなのだ。
旗色はそこまで良くない。ただ別に悪くもないというだけ。いつ悪くなってもおかしくない。
「気ぃ抜こーが抜くまいが、先に崩れるとしたらこっちの方だ。何回も言うけど、有利なのは数が多い方だよ」
マエトのシビアな指摘に、アスナとクラインを気を引き締めた。
5万人ものアメリカ人VRMMOプレイヤーたちがログアウトしたことで、大勢は決したと思っていた。
だが、アスナもクラインもいくつかの手傷を負っている。他の日本人プレイヤーたちもそうだ。現時点でまだ1度も傷を負っていないのは、圧倒的な反応速度を誇るユウキと、対多数の長時間対人戦に慣れているマエトの2人だけだ。
もし敵側にこれ以上の増援が来たら、ほぼ確実に押し負ける。
「だったら、もうひと頑張りするだけだぜ!!」
威勢良く叫びカタナを構えるクラインに、アスナも
「えぇ、まだまだ行くわ!」
そんな2人をチラリと見やり口許に笑みを浮かべると、マエトは素早く戦場に向き直った。
紫の愛剣《ストラグラ》と青の愛剣《シャドウリッパー》を握り直し、駆け出そうと──
ゾクッ!!
サッと顔を上げて視線を走らせ、一瞬だけ感じた殺気の出どころを探す。
いた。遺跡参道にいくつも並んで立つ、巨大な神像。その1つに、何者かが立っていた。
だぶっとした黒いポンチョに、
そして何より、先ほど感じたあの殺気。あの時あの場所で感じた、あの男のものとまったく同質の気配。
「野郎、何しに来やがった......!?」
珍しく声を
「そんな......ありえねぇ......」
「う......嘘、よ......」
彼らの視線に気付いたのか、人影は口許を笑みの形に
肉厚の刃が、血のような赤黒い光を放った。
愛用の大型ダガー《
いや、PoHだけではない。よく見ると彼の近くに、数十人もの赤騎士の集団がいる。
そして、それだけではなかった。
空から光の雨が降ってきた。ただし、日本人プレイヤーたちが来た時のような
遺跡宮殿の屋上に、赤騎士の集団が出現する。その数1万、いや2万、3万、まだ止まらない。
敵の増援。それは間違いない。だがアメリカ人VRMMOプレイヤーは、もう既に5万もの人数が、ペイン・アブソーバなしでの急所破壊という苦痛を
そのとき、大軍のあちこちから声が聞こえてきた。英語とは違う、聞き慣れない言語。それを耳にしたクラインの口から、声にならない声が
「やべぇ......やべぇぞ、こりゃ......! あの大軍の出どころは、日本でもアメリカでもねぇ......! 中国と韓国だ」
絶望に震える声を聞き、マエトは小さく舌打ちした。
「旗色、悪くなりやがった......!」
そのとき、赤騎士の大軍──中韓のプレイヤーたちに向け、大声で何かを話していたPoHが、こちらに向けてダガーを突き出し、一言叫んだ。
先ほどの演説は、中国語か韓国語と思しき、マエトらの聞き慣れない言語だった。
だが、その最後の一言だけは理解できた。
「
直後、怒りと憎悪に満ちた雄叫びを上げ、大軍が侵攻を始めた。
斬りかかってきた赤騎士を、アスナはラディアント・ライトで斬り伏せた。両断され、敵のアバターが消滅する。
突如、アスナの脳をスパークにも似た鋭い痛みが貫いた。がくりとその場に崩れ落ち、口から血を吐き出す。長時間の戦闘による負荷が、限界を迎えようとしているのだ。
「無理すんな、アスナ」
そんな声に顔を上げると、クラインがニヤリと笑っていた。
「こっちにも見せ場をくれよ!!」
「そうだ、ここはオレたちに任せろ!」と、エギルも斧を構える。
ソードスキルの光が弾け、赤騎士たちを吹き飛ばす。
2人以外も──リズベットやシリカ、ユウキ、マエト、種族領主、スリーピング・ナイツ、その他数多くの
そしてそれらをかき消すほどの、血しぶきと怒号と悲鳴。
怒りと絶望が渦巻く戦場に、甲高い笑い声が流れた。
黒いフードの下で、殺人鬼が
迫りくる
即座にカウンターを叩き込むべく、ユウキは足を踏み出そうとした。
だが、いきなり力が抜け、膝が曲がった。慌てて剣を地面に突き立て、なんとか体を支える。
ここまで彼女は、一度たりとも攻撃を受けてはいない。全て避けるか弾いてきた。ゆえに体に傷はない。
だが、体は無傷でも、心はそうではなかった。
頭が痛い。息が苦しい。吐き気がする。手が、足が、体が思うように動かない。
(避けなきゃ、防がなきゃ、動かなきゃ......!)
そう思うが、力が入らない。
「
ユウキには聞き取れない中国語で叫びながら、剣を振り下ろす。
その直前で、赤騎士の全身がバラバラになった。細切れになって崩れ落ちた中国人プレイヤーの向こうで、マエトが血に
「とー、くん......」
中韓VRMMOプレイヤーたちが来てから、十数分が経過した。
初めの7分はなんとか戦えていた日本人プレイヤーたちは、その後3分ほど防戦一方になり、そこからはただ
大人数に囲まれて刃を突き立てられ、めった刺しにされる者など珍しくない。
切り刻まれ、叩き潰され、串刺しにされ、断末魔の悲鳴を上げて消えていく。
全身を返り血で真っ赤に染め上げた少年は、肩で息をするユウキに向けて言った。
「無理しないで、休むかギルドの人らと合流したら?」
その言葉に、ユウキは激しく
「とー君も......無理しちゃダメ、だよ......」
だがそれにマエトは、あははと笑って答えた。
「別に無理はしてないよ。
その言葉を聞いて、ユウキの体から力が抜けた。傷だらけの愛剣が乾いた音を立てて転がり、崩れ落ちるように地面に
こんな途方もなく苦しいものに、この少年は慣れていると言った。
これを、こんなものを、彼は1年間も味わい続けたのか。誰に守られることも、助けられることも、
ぶつからなきゃ伝わらないことだってあるよ。
ユウキは以前アスナにそう言い、これまでもそうしてきた。そしてもちろん、この戦場でも。
その結果、自分の友達を守りたいという思いは相手に伝わらず、逆に相手からの凄まじい怒りと憎悪だけが自分に伝わってきた。
色んなVRワールドでやってきた
戦って勝つためじゃない、殺して殺すための戦い──戦争。
それを実感したとき、ユウキは何か音を聞いた気がした。
苦しみと絶望に、心が折れた音だった。
「これを苦しいって思えるんなら、それは心が壊れてない証拠だよ」
そんな言葉に顔を上げると、マエトは優しく笑っていた。
「だからそのまま、慣れずに苦しんでて」
そう言うと、マエトはユウキに背中を向けた。
走ってくる6人の赤騎士のうち、先頭の1人に向けて剣を斬り払って血を飛ばし、視界を奪うや即座に斬り伏せる。先頭が急に速度を落としたことに戸惑い動きが鈍った隙に、残りの敵も一気に仕留める。
小さな竜巻のように、鬼気迫る勢いで剣を振るい、ユウキを守るマエト。
その姿を見て、他の場所にいた赤騎士が何かを叫んだ。直後、地響きを立てて、20人もの敵兵が駆け寄ってくる。
『あいつはひときわ強い、大勢で取り囲んで潰そう』
先ほどの叫びは、きっとそんな提案だったのだろう。開けた場所で、誰かを守りながらの1対20など、さすがにマエトも経験したことはない。
(これは、さすがに死んだかな......)
そんな確信が、マエトの胸の内に
そのときだった。
「ストォ────ップ!!」
空気を震わせるほどの大声が、戦場に響いた。直後、
周りを見ると、日本人プレイヤーはもう200人もいなかった。人界守備軍に所属するアンダーワールド人たちも、かなりの人数がいなくなっている。
全員が血まみれで、傷だらけだ。特にアンダーワールド人を守ろうと戦っていた日本人プレイヤーたちの有様は、
クラインは左腕を切り落とされた肩を、トレードマークのバンダナで
肩を震わせ、
「アスナ......アスナァ......!」
涙に
言葉など、何も出てきはしなかった。
武器を捨て
そして、それを見て勝利の雄叫びを上げる中韓プレイヤーたちの顔もまた、ヘルメットの下で
次回 リベンジャー