ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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特に言うことはありません。
なぜって?本文書いてて燃え尽きたからです。


第20話 深淵の剣

「とっとと来い。そのニヤケ(ヅラ)、斬り刻んでやるよ」

 その言葉を受けて、PoHは凶悪な笑みをより一層深くした。

 地面を蹴って飛び出し、マエトに大型ダガー《友切包丁(メイト・チョッパー)》を振り下ろす。

 血のように赤黒い致死の刃を、マエトはその場から1歩も動かず、軽く体を(ひね)るようにして(かわ)した。その捻りをそのまま予備動作にして双刃を振るう。

 《白鞘(しろさや)切鬼(せっき)》の青白銀の刃と《黒鞘(くろさや)裂鬼(れっき)》の赤黒銀の刃が、斬撃の軌道上に割り込んだダガーを叩く。甲高い金属音。

 ガードされても構わず、マエトは攻撃を仕掛けた。

 予備動作なし(ノーモーション)から突然飛び出す高速斬撃。連撃に開けられた不規則な()が、防御のタイミングを狂わせる。

「ボクとデュエルしてるときと、全然違う......」

 震える声で(つぶや)くユウキだが、それも当然だ。

 あれが剣士としてではない、人斬りとしてのマエトの本気なのだから。

 そのとき、PoHが動いた。マエトの連撃の隙間を狙い、素早く肉切り包丁を振るう。(けむ)るほどの速度で横なぎに走った刃が、ズバン!! という音と共に、仮想の大気を震わせる。

 舞い上がった砂煙が晴れるのと、PoHの2メートルほど後ろにマエトが無傷で、音もなく降り立ったのは同時だった。

「今のを、躱したのか......!?」

 ソルティリーナの(かす)れるような声をかき消すように、PoHが飛び出した。一瞬遅れて、しかしPoHを上回る速度で、マエトも駆ける。

 蒼刃と凶刃がぶつかり、(まばゆ)い火花が暗闇を照らす。直後、仮想の衝撃波が吹き荒れた。

 砂塵(さじん)が乱れ舞う中、悪魔たちが(すさ)まじい勢いで剣を振るう。氷の青、炎の赤、そして血の赤の3色の光が、薄暗い戦場で何度も(またた)く。

 空恐ろしいほどの速度のラッシュに、その場の全ての人間が圧倒された。

「す、すごい......!」

 思わずそう呟いたティーゼに、ソルティリーナとロニエも同意した。

「なんて速さの乱撃だ......」

「キリト先輩よりも速い......」

 だが、ユウキとアスナがかぶりを振った。

「ううん、違う......」

「えぇ、あれは乱撃なんかじゃないわ」

 その言葉を(いぶか)る3人。そのとき、掠れるような声がした。

「バ、バカな......!」

 振り向くと、若き整合騎士(せいごうきし)レンリ・シンセシス・トゥエニセブンが目を見開いていた。

 高速で飛び回る投刃の使い手だからこその優れた動体視力ゆえか、人界人の中でいち早くそれ(・・)に気付いたのだろう。まだあどけなさの残る顔は、驚愕(きょうがく)で満たされていた。

「あの動きで、あの速さで......全部、同じ場所を叩いているのか......!?」

 そう。絶え間ない攻撃の全てを、マエトは友切包丁(メイト・チョッパー)の刃の一点のみに集中させているのだ。乱撃などではない、緻密(ちみつ)極まる連撃。

 だが、PoHはガードしているのではない。彼もまた剣を振るい、攻撃しているのだ。

 斬撃の軌道を正確に予測し、狙った座標に相手よりわずかに速く割り込む。それも寸分(たが)わぬ精度で。

 スピード、照準、タイミング。どれか1つでも、わずかにでもズレれば即座に破綻(はたん)するそれを、ここまで10秒以上も維持し、今なお続けている。

 騎士どころか衛士ですらない少年が、どんな世界で、どんな生き方をすれば、あそこまでの実力(ちから)を身に付けられるのか。

 何があれば、あのような領域に行けるのか。

 恐怖すら覚えるレンリの目には、マエトの剣速は神器(じんき)雙翼刃(そうよくじん)》よりも(はや)く見えた。

 そして、ソルティリーナもまた、レンリ同様に戦慄(せんりつ)していた。

 目の前で死闘を繰り広げている2人の剣技に、彼女は見覚えがあった。その既視感の正体はすぐに解った。

 彼女がノーランガルス北帝国の修剣学院において上級修剣士だった頃、(そば)()きとして一緒に稽古(けいこ)をしていたキリトの剣。実戦流派《セルルト流》すら上回る、異質とすら思えるほどの超実戦流派《アインクラッド流》。

 様式美などは完全に削ぎ落した、ただ相手を切り裂き、貫くことだけを目的とした剣技。

 あの2人は秘奥義こそ使ってはいないが、間違いない。

 あれもアインクラッド流だ。あれがアインクラッド流だ。

 実戦流派の究極形。勝つための剣ではない、殺すための剣。

 初めて目の当たりにした、(きわ)めるべきとは()(がた)いその境地は、途方もなく重かった。

 そのとき、

 ────カリッ。

 重く暗く苦しい空気が流れる戦場に、かすかに、だが確かに、小さな音が生じた。

 直後、PoHが後ろに跳んだ。即座に追いかけてきたマエトに、カウンター気味に縦斬りを見舞う。

 マエトは振り下ろされたダガーに向け、逆手に握った切鬼と順手に握った裂鬼を十字に交差させて振るった。ハサミのような交差斬りが、友切包丁(メイト・チョッパー)の刃に──その一点に刻まれた極小の傷に吸い込まれるように走る。

(狙いは武器破壊か......!)

 かつて旧アインクラッドで戦ったときも、マエトはPoHを直接殺しには行かずに武器破壊(アームブラスト)を狙った。

 PoHのダガーの腕は天才的だ。特に、キリトの愛剣《エリュシデータ》と同等の魔剣クラスである大型ダガー《友切包丁(メイト・チョッパー)》を入手してからというもの、その戦闘力は攻略組のプレイヤーですら恐れるほどのものとなった。

 だがそんなPoHでも、マエト相手に武器をもたない丸腰の状態になってしまえば、確実にとまでは行かずとも、負ける──殺される可能性は格段に高くなる。

 舌打ちするとPoHは、今度はダガーを振り上げながら大きくバックジャンプした。

 そのとき、マエトが切鬼と裂鬼を握ったまま、両手の親指、人差し指、中指を伸ばした。同時に、その口が小さく動く。

 直後、マエトの伸ばした指の先で、真紅の光が(またた)いた。

「ッ!?」

 (おどろ)くPoHを目がけて、6本の炎の矢が一直線に飛翔した。

 ギリギリで回避したPoHに、今度は双刃が振り下ろされる。何とかガードするも、マエトの攻撃の軌道から刀身の傷を咄嗟(とっさ)にズラしたせいか、PoHの体勢は良くない。マエトの方が有利だ。

「い、今のは......神聖術!?」

 レンリの言う通り、マエトは神聖術を用いてPoHの体勢を崩したのだ。

『システム・コール。ジェネレート・サーマル・エレメント。フォームエレメント、アロー・シェイプ。フライ・ストレート。ディスチャージ』

 マエトの口がそう動いていたのを、レンリは見逃さなかった。

 だが、リアルワールドの騎士たちは神聖術に(うと)いと、アスナはそう言っていた。

 にも関わらず、あの少年は一切の(よど)みもなく術式を発動させた。しかも術式の形態に、飛翔速度と貫通性を重視した《アロー・シェイプ》を選んでいる。素早い上に的確な判断だ。

「なぜ、リアルワールドの騎士が......!?」

 その疑問に、ティーゼが答えた。

「あの方は戦場に行かれる前に、キリト先輩の様子を見に補給部隊の馬車のところに来て、そこであたしとロニエに会ったんです。それでその後、えっと、確か......」

 記憶を辿(たど)ろうとしたティーゼの言葉を、ロニエが引き継いだ。

「『この世界の《マホウ》について教えてほしい』と......そう言って神聖術の基礎知識を覚えて行かれました」

「と言っても、あたしたちが他人(ひと)様にお教えできるのは素因(そいん)の属性や基本的な式句だけですし、扱いの難しい闇素(あんそ)に関しては、ほとんどお教えできませんでしたけど......」

 それを聞いて、アスナとユウキは納得した。

 様々な状況を想定し、使える手札を限界まで増やす。

 初めての場所、初めての状況、それらにすら即座に対応する。それができるから、彼は1年間、旧アインクラッドを単独で生き延びられたのだ。

「魔法かよ......。刃物(ヤッパ)しか能がねぇくせに、小賢(こざか)しい真似を......」

 吐き捨てるように言ったPoHを、マエトはせせら笑った。

「使えるものは何でも使うってのが殺しの基本だろ? それを小賢しいとか、ぬるま湯はテメェの方なんじゃねぇの?」

「ハッ、言ってろ!」

 右腕に力を込め、半ば強引に友切包丁(メイト・チョッパー)を強振してマエトを吹き飛ばすと、PoHは即座に追撃を入れるべく飛び出した。

 武器が破壊されるのは不都合ではあるが、友切包丁(メイト・チョッパー)は魔剣クラスの超レア武器ゆえに、切れ味・耐久値共に圧倒的な高スペックを(ほこ)る。しかもとある理由によって、そのスペックは普通に武器を強化した状態よりも(はる)かに高い。

 そんな剣の刀身が傷付くほどの猛攻をして、マエトの方も剣の耐久値が減っていないはずがない。しかも細く繊細(せんさい)な刀身は、肉厚で無骨な肉切り包丁のそれよりもずっと折れやすそうだ。

 普通に斬り合ったとしても、先に耐久値を全損して武器消滅(アームロスト)するのはマエトの方だ。

(あぶ)ねぇ危ねぇ。またこいつの作戦に、まんまと引っかかっちまうところだったぜ)

 冷静さを取り戻してニヤリと笑うと、PoHは反撃を始めた。先ほどまでよりさらに速く、さらに強くダガーを打ち込む。

 吹っ切れたことで攻撃に躊躇(ためら)いがなくなり、1発1発に先ほどまで以上の重さとスピードが乗る。

(開き直りやがったか......。まー、その程度は想定内だけどな)

 PoHの攻撃を受け続けながら、マエトは右手の人差し指をこっそり伸ばした。同時に、可能な限りの速度で式句を詠唱(えいしょう)

「システム・コール。ジェネレート・エアリアル・エレメント。バースト・エレメント」

 2秒半の高速詠唱によって、PoHの目の前で緑色の光が弾けた。同時に烈風が吹き荒れ、PoHを後ろに吹き飛ばす。

 再び距離が空いた瞬間、マエトの指先から再び炎の矢が飛んできた。6本の火矢を、タイミングをズラして発射している。それもPoHの動きを読んだ上でだ。

 思いの外厄介な攻撃に、しかしPoHはニヤリと笑った。口の中で、無音で呟く。

「やっぱりオマエ、弱くなったな」と。

 PoH──本名ヴァサゴ・カザルスはかつて、《ソードアート・オンライン(S A O)》という剣だけが支配する世界にいた。その世界から生還した後、アメリカの大手ハイテク民間軍事会社(P M C)であるグロージェン・ディフェンス・システムズのサイバー・オペレーション部門に職を得たことで、今度は《ガンゲイル・オンライン(G G O)》という銃だけが支配する世界──つまりSAOとは真逆の世界を知った。

刃物(ヤッパ)だけの世界と(チャカ)だけの世界......両方見てきたから(わか)んだよ)

 内心での言葉を、PoHは声に出して引き継いだ。

「飛び道具に頼るやつは、近距離が(よえ)ぇんだよ!!」

 そう叫ぶや否や、友切包丁(メイト・チョッパー)を連続で振るい、前に出た。もう火の矢の速度は完全に(つか)めた。

 一斉に飛んできた残り3本の火矢も、あっさりとダガーで叩き落とす。この状況でなおも(せわ)しなく口を動かし、指先に緑色の光を灯す少年に、PoHはどこか失望すら覚えた。

 そのとき、突風が吹き荒れると同時に、テレポートじみた速度でマエトの姿が消えた。突然の風に目を細めたPoHに、背後から超高速で蒼刃が迫る。

 ギリギリでガードしつつ、PoHは先ほど(いだ)いた失望が間違いであったと(さと)った。

(飛び道具を使ったのは、オレの意識を中距離に慣れさせる(・・・・・)ためか......。そんでそのタイミングを狙って、今度は近距離で奇襲を仕掛ける......)

 ニヤリと笑い、PoHは鍔迫(つばぜ)()いのまま、体勢をじりじりと動かした。得物を自分の右脇に、少しずつ引き付けていく。

 その形を見て、マエトはハッとした。急いで飛び退こうとするが、

(おせ)ェよ」

 嘲笑(あざわら)うように言うと、PoHはくるりと手首を返した。友切包丁(メイト・チョッパー)の刀身が震え、高周波の音と赤い光を放出する。

 短剣4連撃ソードスキル《ファッドエッジ》。

「ちっ......」

 小さく舌打ちしたマエトは、咄嗟(とっさ)に右腕を持ち上げた。切鬼の白い刀身が、機関銃の(ごと)き勢いで撃ち出された初撃を受け止める。

 だが、2連撃目がマエトの右手を(とら)えた。刃が触れた直後にはバックジャンプして大きく距離をとったマエトだが、着地したときには右手の人差し指と中指が半ばから切断されていた。

(ここでのソードスキルは想定外だった......。エイジが首削ってくれてなかったら、指2本じゃ済まなかったな)

 止めを刺される直前、エイジは最後の力を振り絞ってPoHの首に噛みつき、皮膚(ひふ)と肉をわずかばかり引き千切った。

 PoHが体勢をソードスキルのプレモーションに近付けた際、首の皮膚が引っ張られたことでその傷が開き、痛みで技の軌道が少しだけブレたのだ。そうでなければ、恐らく右手の手首から先がなくなっていただろう。

 だがどちらにせよ、右手が使いづらくなったことに変わりはない。

 マエトはどこかのタイミングで、何かしらの手段でPoHから友切包丁(メイト・チョッパー)を奪うつもりで動いていた。武器破壊(アームブラスト)できればそれで良し。体術スキル武器スナッチ技《空輪(くうりん)》を使うも良し。ダガーを握った方の腕を切り落として引き離すも良し。

 とにかく、PoHの手から友切包丁(メイト・チョッパー)を引き()がすことさえできれば何でも良かった。PoHが相手でも、丸腰なら上手く制圧できる(・・・・・)可能性が比較的高かった。

 だが、右手の指を2本失った状態で、『五指で相手の剣を(つか)んで』奪い捨てる空輪(くうりん)がしっかりと発動するのかまでは、さすがにマエトも知らない。いざやってみて不発となれば、ノーガードで攻撃を喰らってしまう。

 ならば五指が無事な左手でと行きたいところだが、その場合は指を2本欠損した右手だけで、PoHの攻撃を(さば)く必要が出てくる。

(さて、攻め手が減った状態でどこまでやれるかな......)

 すぐさま思考を走らせるマエト。

 そのとき、すぐ後ろから声が聞こえた。

「すまねえ、マエト......」

 ちらりと振り向くと、重傷を負ったスキンヘッドの巨漢──エギルがいた。少し離れた場所から、クラインも話しかけてくる。

「せめて何か......PoHの野郎をぶっ飛ばす手伝い、してえんだがよォ......」

 痛みだけでなく悔しさに顔を(ゆが)めるクラインの言葉を、エギルが引き継ぐ。

「こんなんじゃ、何もできやしねぇ......。オレらが不甲斐(ふがい)ねぇばっかりに......!」

 左腕を斬り飛ばされたクラインも、体をいくつもの槍で貫かれたエギルも、とても戦闘に参加することはできないだろう。確実に足手まといになるだけだ。

「すまねえ、マエト。こんなザマで言うのもなんだが......頼む。オレらの代わりに、あの野郎をぶちのめしてくれ......!!」

 そう懇願(こんがん)するクライン。だが、

「いや、斬り合い始めてから色々考えたけど、多分それじゃダメだ」

 マエトはそれを即座に否定した。思わず驚くクラインたちに、マエトは淡々と言う。

「中韓のやつらのキレっぷり見ただろ? 何言われたかは知らんが、あんなになるまで(あお)られたんなら、もう頭を潰したところで残った下っ端は止まらない。むしろそれに逆上して、余計に暴れるのは目に見えてる」

 YUNA(ユナ)の登場によって、彼らの日本人プレイヤーたちへの憎悪(ぞうお)はいくらか揺らいでいる。人によってはここは日本サーバーで、自分たちは何か(だま)されているのではないかと疑い始めたりもしているだろう。

 だが、それはあくまで現時点ではの話だ。PoHが本気で煽れば、5万人もの赤騎士の過半数は再び猛り狂うだろう。この状況ではPoH1人より、5万人の大軍に暴れられる方が脅威(きょうい)だ。

「PoHを殺し切るのは、中韓のプレイヤーを全員無力化してからじゃないとダメだ」

 冷静に状況を分析し、そう判断したマエト。だが、

「そんなこと、可能なのか......? この大軍を無力化なんて......」

 エギルの言葉を、マエトはさらりと認めた。

「無理だな、おれらじゃ」

 しかし、少年は続けて言った。

「でも、キリトさんなら多分やれる」

 ハッとしたような表情を浮かべるクラインとエギル。

「あの2本の剣で解る。この戦場で《戦闘力》と《この世界の知識・能力》を一番高いレベルで両立させてるのは、多分キリトさんだ。おれらには無理でも、あの人なら何かしらの方法をとれるかも知れん」

 それに、と言うと、マエトはふっと笑みを浮かべた。

「おれよりもあんたらの方が見てきただろ? あの人が、勝ち目のない戦いを何回もひっくり返すとこ」

 その言葉に、こんな状況ながら、クラインとエギルは(ほほ)(ゆる)めてしまった。

「へへっ、それもそーだ」

「それがキリトってやつだからな」

 そう呟いた2人に背を向け、

「おれがするのは時間稼ぎ。キリトさんを信じて、とにかく戦闘を引き伸ばすんだ」

 自分に言い聞かせるようにそう言うと、マエトは全速力で飛び出した。

 高速で接近するマエトを見て、しかしPoHはニヤリと笑った。

(時間稼ぎだぁ? よく言うぜ。オマエはさっきから、しっかりとオレを殺せる攻撃をしてきてる。その気になりゃ、今のソードスキルだって完璧(かんぺき)に避けるなり防ぐなりできたはずだ。その指の切断はわざとなんだろ?)

 本気で殺そうとしつつもダメージを負うことで、さもPoHが優勢であるかのように演出し、それによって相手が油断した隙に一気に仕留める。それがマエトの狙い。

 友切包丁(メイト・チョッパー)の刀身に傷を付けたのは、武器を破壊するためでもあり、PoHの動きを崩すための(わな)でもあり、本命の作戦を隠すためのカモフラージュでもあったのだ。

 PoHは旧アインクラッドにおいて、殺人者たちの頂点として、暗闇の中心にいた。

 だからこそ、同じ暗闇の中を生き延び続けたマエトのことを知っている。

 同じ穴の(むじな)であるがゆえに、大まかにとは言え、マエトの作戦を見抜くことができる。

「昔っからよくまぁ頭が回るモンだが......ブラフってのは、バレちまったら意味ねェんだよ!!」

 そう叫び、魔剣を振り下ろす。

 血の色の刃と、氷の色の刃が衝突した。




次回 足掻く者

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