ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア 作:Maeto/マイナス人間
遅くなってすいません。
......え?遅かった上に短いって?前の話の前書きを見てください(言い訳)
マエト vs リネル&フィゼル
制限時間:∞
ステージ:セントラル・カセドラル 廊下
主武装:
・マエト:《ストラグラ》《シャドウリッパー》
・リネル:《ルベリルの毒鋼の短剣》
・フィゼル:《ルベリルの毒鋼の短剣》
「......なんか、あんま強くなさそうだね、ネル」
どこか拍子抜けしたような声で言う強気そうな少女──フィゼル・シンセシス・トゥエニナインに、同じ修道服を着た大人しそうな少女──リネル・シンセシス・トゥエニエイトは
「ですねえ、ゼル。私たちの前の18番と19番の人の方が、まだもう少し強そうでしたね」
リネルとフィゼルは、一応は修道女見習いではあるが、とある事情から10歳そこそこにして高い戦闘力を有している。先代の18番目と19番目の整合騎士と試合をして圧勝し、特例で《番号付き見習い》として整合騎士の番号を与えられているほどだ。
そんな彼女たちから少し離れた場所に、紫色の服を着た少年が立っていた。
左右の腰に、やや短めの片手剣を1本ずつ装備している。落ち着いた様子でじっとリネルとフィゼルの方を見ているが、その目に闘志や殺気のようなものは一切見受けられない。
プレッシャーといった類のものが──アンダーワールド人である2人はプレッシャーという言葉を知らないが──一切感じられないのだ。
軽くため息を吐くと、フィゼルはかぶりを振った。
「まぁいいや。とりあえず、あの人の首とっとと落としちゃお」
「そうですね、どうせいつもみたいにすぐ終わります」
そう言うと、2人は緑色の腰帯に下げられた木製の
《ルベリルの
修道女見習いらしい服装でありながら、あまりにも
かなりのスピードで駆けてくる2人を見て、マエトは素早く思考を
ダガーの刀身の色と、それ自体が放つ気配に、マエトは覚えがあった。
(ジョニー・ブラックが使ってた毒ナイフと同じ感じがする......あのダガーも毒ありって想定で動いていーな)
ゆえに、相手の攻撃は絶対に回避。相手の方が人数が多いため、動きが止まるガードもいくらか避けた方がいいかも知れない。
そこまで判断したところで、斜め下から暗緑色の刃が跳ね上がってきた。不可視の糸に引かれるように、寸分の狂いもなく首に向かってくるダガーを、マエトはステップで回避した。
直後、回避したばかりのマエトの首を目掛けて、次のダガーが迫ってきた。見事な
(へぇ......)
わずかばかり驚きながら、マエトは再び回避。今度は少しだけ大きめのバックジャンプで距離を取る。
追撃を警戒して視線を切らずに移動するが、2人の少女は少しだけ目を丸くして立ち尽くしていた。
不思議に思い、内心で首を
「なんか意外。今ので絶対殺せると思ってたのに」
「本当ですね。あの人、実は強かったりするんですかね?」
今までどんな相手でも一撃で首を落としてきた彼女らにとって、1撃目を
なんの圧力も感じない小柄な少年だが、少し気を引き締めた方がいいかも知れない。
そう思って、2人は視線を交わし、
滑るように飛び出すと、再び連携して攻撃する。ただし、先ほどよりも更に速く動き、かつ連携のタイミングをシビアにする。
右下から鋭く跳ね上がったフィゼルのダガー。それを躱したマエトの首を斬り落とそうと、リネルのダガーが素早く振るわれる。
ギリギリのところで、リネルの攻撃は
次々と、何度も迫りくる猛毒の刃を、しかしマエトはことごとく回避した。
「うーん、やっぱり当たらないです」
「でも、あの人ずっと避けるだけで反撃できてないよ。防戦一方ってやつ?」
フィゼルの言う通り、ここまでマエトは彼女らの攻撃を全て回避してはいるが、反撃は一切していない。
相棒の言葉に頷くと、リネルはマエトに向けて言った。
「そんなに必死に避けなくても大丈夫ですよ。私たち殺すのすごく上手いですから、痛くないですよ」
「そーそー。一瞬でスパッとやれちゃうから」と、これはフィゼル。
そう言って駆け出した2人に、マエトは何とはなしに声をかけた。
「ふむ、ずいぶんな自信だな」
マエトの言葉に、2人は攻撃を続けながら
「そりゃあそうですよ。あたしたちは、その訓練を積んできたんですから」
フィゼルの言葉と攻撃に、リネルが続く。
「私たちは、このカセドラルで生まれ育ったんです。そして5歳の頃から、完全に失われた天命を回復させる《
小さな口から
ステップで回避を続けるマエトを攻撃しながら、2人は言葉を続けた。
「でも、最初は蘇生術も全然上手く行かなくて。爆発して粉々になっちゃう子とか、変な肉の
「私たちも、無駄に痛かったり生き返れないのは嫌でしたから、2人で色々研究して、なるべく一撃でキレイに殺した方が、痛みも少ないし、蘇生成功率も高いって気付いたんです」
そこで一度句切ると、2人は攻撃の手は止めないまま、少し疲れたような顔をした。
だがそれは、マエトに攻撃することに対してではなく、自分たちが話している内容についてのことだった。
「ただ、その一撃でっていうのが大変だったよねー」
「そうなんです。限りなく速く、滑らかにスルッと心臓を刺すか、それとも首を落とすか。これが難問だったんですよ」
「他の子が寝てる間も、2人で素振りとかしてたよねー」
それが、この2人が高い戦闘力をもっている理由だ。
明るい口調で恐ろしい過去を語った2人は、そろそろお
短剣を逆手に握り替えたフィゼルが、小さく舌なめずりして躍り出た。
今までで一番のキレの一撃が、マエトの首に吸い込まれるように走る。
直後、マエトの両手が
2人の少女の後ろに立つと、マエトは両手の剣を軽く振って、刃についた血を払った。
そして、ポカンとした表情のフィゼルとリネルの右腕が、マエトが双刃を鞘に納めると同時に、どしゃっと音を立てて床に落ちた。
「「──────っ!?」」
そんな少女らに、マエトは冷たく言い放った。
「あんたら2人は強いよ。急所を狙っての最速最短の一撃。すごい完成度だよ......そんで、それだけだ」
そこで句切って振り向いたマエトの顔に、2人は
「あんたらはそれしかやってない。それくらいおれでもできるし、慣れれば誰だってできる。あんたらは殺すのが上手いんじゃない、作業が上手いだけだよ」
確かに、急所目掛けて最速最短で飛んでくる一撃は
だが言い換えれば、
「そーゆー攻撃って、軌道が読みやすいんだよ。自分の首と心臓の位置と、あんたらのブレードの位置さえ把握してれば、どんな軌道で攻撃が来るかなんてすぐに解る」
だからマエトは、途中からわざと反撃をしなかった。最初は毒を警戒しての回避だったが、そのまま防戦一方を演じることで相手の油断を誘い、反撃しやすくしたのだ。
あとは相手の攻撃に当たらないようにしながら、相手の腕を斬り落としてやればいい。
暗緑色の刀身をもつ毒剣を拾い上げると、マエトは2人を見下ろした。
「まー、その程度で良かったね」
マエトの口から落ちてきた冷たい言葉の意味を、フィゼルたちは理解できなかった。
こうして戦闘不能に追いやられ、殺されることなく痛みを感じ続けさせられているこの状況の──さらに言えば、それの要因となった自分たちの弱さの、どこが良かったのだろうか。
痛みに耐えながら視線を送る2人に、マエトは続けた。
「自分が人を殺したことを、あーやって楽しそうに語れるんだから。上手く行ってなかったとは言え、殺した相手も蘇生してもらえてたんだから無理はないかもだけど」
そう。幼い頃から殺し殺され、そして生き返ることを日常として生きてきた彼女らは、人を殺すことの重さを、本当の意味では知らないのだ。
普通に聞けばあまりにもおぞましい彼女らの過去にも、マエトは何の感動も覚えなかった。
あえて言うとすれば、『浅い。軽い』。それだけだ。
「吸った血と奪った命の重さで、どんどん地獄に引きずり込まれるのが人殺しの剣。おれからすればあんたらの剣は、軽い上に大して
マエトの言葉が、2人の心に重くのしかかった。
「その程度ならまだ戻れると思うから、まー頑張ってね」
そんな言葉と共に、マエトは毒剣を投げた。
風を鳴らして鋭く心臓に突き刺さったダガーは、フィゼルとリネルの天命を、一瞬で半分以上も奪い去った。
次回 vs