ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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Ex.5 vs熾焔弓

制限時間:∞

ステージ:セントラル・カセドラル 3階武具庫前

主武装:

・マエト:《ストラグラ》《シャドウリッパー》

・デュソルバート:《熾焔弓(しえんきゅう)

 

 

 真っ白な大理石の内装を(いろど)る、赤い絨毯(じゅうたん)。それよりも深い赤色の(よろい)(まと)った偉丈夫(いじょうふ)を見上げ、マエトは内心で舌打ちした。

 自分が立っている場所は廊下(ろうか)。相手が立っている場所は階段の(おど)()。そして、そんな相手の手に握られた得物(えもの)は、これもまた深紅の長大な弓だ。

(弓使い相手に上取られてるのは、けっこー厄介だな......)

 上からなら的が良く見える。もっと言えば、相手の動きの全体を見ることができる。あの弓使い──古参の整合騎士(せいごうきし)、デュソルバート・シンセシス・セブンは、マエトの動きをしっかり把握し、余裕をもって攻撃できるということだ。

 そもそも相手は階段の上にいるのだ。接近するには階段、もしくはその上か横の空間を通るしかなく、そしてその全てが相手の射程圏内だ。

 素早く階段の段数を数えつつ、考えを(めぐ)らせる。

(26段......。風で加速して一気に跳ぶとして、そこまでとそのあとの攻撃をどう(しの)ぐかな......)

 そんなマエトに、赤髪の騎士の太い声が降りかかった。

「整合騎士、デュソルバート・シンセシス・セブンである! 騎士サーティワン、及び騎士トゥエニセブンを撃ち破ったその力、実に見事であった。そなたに敬意を表し、我が全力をもってお相手しよう!!」

 そう宣言し、騎士は腰の矢筒から鋼鉄の矢を4本引き抜いた。そして、高らかなコマンド発生。

「システム・コール! ──エンハンス・アーマメント!!」

 瞬間、巨大な紅弓から紅蓮(ぐれん)の炎が()き出した。(またた)く間に広がった劫火(ごうか)が、大柄な騎士を包み込む。

 押し寄せてきた(すさ)まじい熱風に、マエトは顔をしかめた。

 ALOで火妖精族(サラマンダー)のメイジが使う炎属性の魔法よりも、遥かに熱く恐ろしく感じる。加えて、上を取られているこの状況。端的に言って、かなり面倒だ。

「我が神器(じんき)熾焔弓(しえんきゅう)》の炎は全てを焼き尽くす。消し炭になる覚悟をもって来るがいい!」

 そう言い終えるや、デュソルバートは4本の矢を同時に放った。豪然(ごうぜん)と迫る火炎を(にら)み、マエトは素早くステップしてその軌道から逃れた。同時に口を開く。

「システム・コール。ジェネレート・クライオゼニック・エレメント。フォーム・エレメント、バード・シェイプ。カウンター・サーマル・オブジェクト。ディスチャージ」

 世界(システム)が認識可能なギリギリの速度での詠唱(えいしょう)が、マエトの指先に3羽の青白い小鳥を生み出し、飛び立たせる。

 凍素(とうそ)で生成された光鳥は、熱源である火矢を追尾して飛翔する。

 だが、燃え盛る火炎に触れた瞬間、氷鳥はシュンッと短く音を立てて消滅した。

 その様子を観察しているマエトの耳に、新たな音が入ってきた。矢筒から矢を引き抜く音。第2撃が来る。

 階段の上に目線を向けると、マエトは再度の高速詠唱。

「システム・コール。ジェネレート・アクウィアス・エレメント。フォーム・エレメント、バード・シェイプ。カウンター・サーマル・オブジェクト。ディスチャージ」

 騎士の第2射も回避しながら、今度は水素(すいそ)製の小鳥を飛ばし、新たに放たれた4本の火矢にぶつける。氷属性の鳥は何も残さずに消え去ったが、水属性の鳥は真っ白な蒸気を残して消えた。

「へぇ......」

 小さくそう(つぶや)くと、マエトは足を止め、デュソルバートを見上げた。じっと相手の目を見返し、思考を(めぐ)らせ──

 両手を後ろに伸ばし、小さく口を動かした。

「システム・コール。ジェネレート・エアリアル・エレメント」

 少年の左右の指先に3つずつの風素(ふうそ)が生成されたのを見て、デュソルバートは即座に腰に手を伸ばした。矢筒から残りの矢を半分近く引き抜き、全て一度に(つが)える。

「逃さん!!」

 宣告が廊下に響き、直後、大量の火矢が上向きに斉射された。炎の雨となって広範囲に渡って襲い掛かるそれに、マエトは──

「バースト・エレメント」

 両手を上に向け、指先から飛ばした6つの風素を解放した。火矢が触れると同時に一気に拡散した風は、次の瞬間、大爆発を起こした。

 風と共に広がった爆炎が、降り注いでいた高優先度の矢を残らず焼き消す。何せ熾焔弓の炎は全てを焼き尽くすのだから。

 その隙に弾丸のように飛び出すマエトを見て、デュソルバートは感嘆した。

(風素での高速移動と見せかけて我の攻撃を誘い、それを燃やして炎の防壁を作るとは......なんという柔軟な発想だ)

 だが、感嘆はしつつも攻める手は止めない。新たに矢を引き絞り、放つ。

 それを(かわ)しつつ、マエトは右手でストラグラを逆手抜剣。左手を持ち上げて神聖術のコマンドを発声した。

「システム・コール。ジェネレート・アクウィアス・エレメント。フォーム・エレメント、リキッド・シェイプ。ディスチャージ」

 そう唱えるや、マエトの指先から水が流れた。それを愛剣にかけると、マエトはすかさず凍素を生成。()れた刀身に青白い素因をぶつけると、ピキィィンと高い音を鳴らして、紫の刀身が凍り付いた。

 氷を(まと)った片刃剣を顔付近に(かか)げると、マエトは身を低くして疾駆(しっく)した。

 迎撃(げいげき)すべく、素早く弓を構えるデュソルバートだが、

「むっ......」

 そんな声を()らしたのも無理はない。

 マエトは元々小柄な体を低くして走っている。そのため、的が小さく狙いづらいのだ。その上で剣を盾のように構えて、首と心臓といった急所を守っている。撃っても躱され、急所に向かって飛んだ矢は防がれる。

 しかも剣を凍らせているため、灼熱(しゃくねつ)の火矢が当たっても氷の装甲(そうこう)が溶けるだけで、刀身に損傷(ダメージ)はない。更には顔付近に構えることで、氷が放つ冷気で顔と目を熱気から守っている。

 開けた空間ゆえに、デュソルバートの射撃を(さえぎ)るものは何もなく、非常に攻撃しやすい。

 そしてそれは同時に、デュソルバートの位置が常に把握されていることも意味している。

 攻撃の出どころさえ分かっていれば、反応速度次第で防御も回避もできる。

(判断が早く、動きにもまったく無駄(むだ)がない......(すさ)まじいな。......だが!)

 弓使いだからと言って、剣の間合いに入れば勝てると思ったら大間違いだ。整合騎士は(むち)や投刃や弓を主武装にしていようが、それ以前に超一流の剣士なのだから。

 矢筒に入った鋼矢全てを(つか)むと、デュソルバートは炎の(つる)を限界まで引き絞った。今までは散らして撃っていた矢を、今度はひとまとめにして放つ。

 一直線に飛んだ巨大な炎弾を、マエトは大きく跳んで回避した。

 その隙に、デュソルバートは左腰に手を伸ばし、素早く剣を引き抜いた。回避直後の瞬間を狙い、剣を振り上げる。

 100年以上の時を生き、幾多(いくた)の戦いを越えた経験からの予測と作戦。

 その唯一の誤算は、マエトもまた、デュソルバートが剣を抜く隙を狙っていたことだった。

 回避する少し前、デュソルバートの狙いを見抜いた瞬間に、マエトは口を限界ギリギリの速さで動かした。

「システム・コール。ジェネレート・アクウィアス・エレメント。フォーム・エレメント、アロー・シェイプ。フライ・ストレート。ディスチャージ」

 直後、マエトの両手の先から、6本の水矢が射出された。薄青い光の緒を引いて飛んだ矢は、熾焔弓の炎で熱されたデュソルバートの全身鎧に当たり──

 直後、じゅっという音と共に、真っ白な湯気を大量に生み出した。あっという間に広がった蒸気が、デュソルバートの視界を奪う。

 剣は抜いたものの相手を捕捉(ほそく)できなくなったデュソルバートは、だからこそ動かず相手の出を待った。

 自分の居場所を明かさないよう動かず、どこから攻められても即応できるよう剣を柔らかく構える。

 じっと待ち続けていると、わずかずつ湯気が散り始め、視界が戻り始めた。

 そのとき、突如(とつじょ)デュソルバートの斜め後ろの湯気が突き破られ、白の中から青紫が顔を出した。

「はぁっ!!」

 即座に反応し、素早く振るわれた騎士の長剣。その白銀の刀身に、ハーフコートがふわりとひっかかった。

(上着だけ......!?)

 思わず動きが固まったデュソルバート。その視界が、一瞬で反転した。

 ぐらりと動いた視界の中で、小柄な少年が剣を振り抜いた体勢で着地していた。その右手の先で、アイスブルーの刃が鮮やかに光る。

 華奢(きゃしゃ)でありながら鋭く獰猛(どうもう)な刀身を、首裏の装甲と首の隙間(すきま)(すべ)()ませたのだろう。

(蒸気が消え始めたばかりの、まだ視界が曖昧(あいまい)な状態で、なんて正確な攻撃を......!?)

 感嘆(かんたん)すら通り越して戦慄(せんりつ)するデュソルバート。その体が重い音を立てて倒れる様を見て、女性騎士は思わず口許に微笑を浮かべた。

「速く精密な剣......ふふ、私の剣とどちらが上か、興味深いわね」




次回 vs天穿剣(てんせんけん)
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