ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア 作:Maeto/マイナス人間
制限時間:∞
ステージ:セントラル・カセドラル 50階《
主武装:
・マエト:《ストラグラ》《シャドウリッパー》
・ファナティオ:《
その空間を一言で表現するなら、
20メートルもの高さの天井と、セントラル・カセドラルのワンフロア丸ごとの床面積が生み出す広大な空間を、左右の壁の大窓から入ってくる陽光が満たしている。壁や床、柱の素材となっている大理石が、光に照らされることでより強く、白く輝いている。
(霊光、ねぇ......)
内心でそんなことを
1人の女性騎士だ。彼女が身に
腰に
(今度は普通の剣士か......まぁだからって、今までの3人より
いつも通り
素早く愛剣《ストラグラ》の
「ごめんなさいね、急に笑ったりなんかして。何だか少し
「嬉しいって、何が?」
首を
「私の素顔を見た者のほとんどは、私が女だからと言って本気で戦わないのよ。だけど、あのキリトの
ファナティオの説明に、マエトはなるほどと納得した。例えば旧SAOにも、パーティーに入りたいというタンク志望の女性プレイヤーに対して、
『女のタンクなんか信用できない』
そんなことを言って、まともに取り合わないような差別的なプレイヤーが多数いた。
この女騎士もまた、女性だからという理由で不当な扱いを受けてきたというわけか。
「ふーん......まぁおれもキリトさんも、強い女の人いっぱい知ってるしね。ていうか、実力があれば性別とかどーでもいいでしょ」
当然のことのように言ったマエトに、ファナティオは小さく
(
そんな確信を抱きつつ、少年の言葉に答える。
「そう思ってくれる人って、案外少ないものよ。だからこそ、あなたたちと会えたことには感謝している......そして」
そこで句切り、しかし次の瞬間には、ファナティオの眼光は鋭いものになっていた。
「だからこそ、あなたたちとは本気で斬り結びたい。初めから全力で行かせてもらうわよ」
言いながら、ファナティオは左腰の鞘から剣を抜いた。高々と
「システム・コール。────エンハンス・アーマメント!!」
高らかなコマンド発声。それと同時に、剣が放つ光がひときわ激しくなった。
目もくらむような閃光の下、騎士が名乗りを上げた。
「整合騎士第2位、ファナティオ・シンセシツ・ツー......参る!!」
ふと、マエトは何かを感じた。直感に従い、素早くその場から
直後、数瞬前までマエトが立っていた場所を、純白の光線が
(速い......)
内心でそう呟いたときには、細剣が再び輝きを放っていた。
次々と飛んでくる光線を、マエトはダッシュとステップを
だが、何発目かに放たれた光線が、マエトの左腕を
「ちっ......」
小さく舌打ちしつつも、ひたすら回避し続けること数秒。ようやく攻撃が止んだ。着地して長く息を吐きつつ、マエトは素早く視線と思考を
自分が回避したことで、光線は壁や柱に当たった。それは当然だ。問題は、その壁や柱の着弾点が赤熱、溶解して、丸い穴が空いているということだ。
この部屋の壁や柱や床は、パッと見た感じでは、デュソルバートと戦った場所の床や壁と同じ大理石で出来ている。
だが、デュソルバートの
対して、ファナティオが放ったレーザーは壁や柱を溶かし、穴を空けている。
弓と違って予備動作がほとんどなく、矢よりも弾速も速射性も火力も上。とてつもなく
(飛び道具使いが相手の場合、
攻撃の正体を考えるのと並行して、どう接近するか、接近後どう戦うかも考える。
そんなマエトに、ファナティオは言葉を投げかけた。
「坊や、鏡って知ってるかしら?」
そんな唐突な質問に、マエトは一瞬首を
問いかけの意図が解らずにいるマエトに、ファナティオはゆっくりと歩み寄りながら続きを言った。
「ソルスの光をほぼ完全に跳ね返すことができる鏡の性質に着目した最高司祭
そこまで聞いて、マエトはハッとした。ファナティオの
マエトの顔を見て、ファナティオはまたしても微笑を浮かべた。ただその雰囲気が、今までのものとわずかに違うように、マエトには感じられた。
「最高司祭様は、その1000枚の大鏡を
ソルスという単語は知らないが、恐らくアンダーワールドにおいて太陽を指す言葉だろう。
つまりファナティオの言葉をまとめると、あの細剣の能力は《刀身で太陽光を反射させ、超高火力のレーザーを放つ》ということか。
数秒の
それを考えなしの特攻だと思ったのか、どこか残念そうな表情を浮かべ、ファナティオは
しゅばあっ! という音。それよりも速く光線が放たれた。
そのときにはもう、マエトは動いていた。
「システム・コール。ジェネレート・クリスタン・エレメント。フォーム・エレメント、シールド・シェイプ。ディスチャージ」
神聖術の
──そんなものが何になる。
そう思ったファナティオの顔が、次の瞬間には
天穿剣の光を受けた晶素製の盾は赤熱し、既に溶ける寸前だ。だがその後ろで、こちらに向かって走っているマエトには、一切光が当たっていないのだ。
驚くファナティオだが、そんな余裕はなかった。透明な盾を光線が突き破ると同時に、光線の下から地を
地面スレスレから跳ね上がってきた抜き撃ちを、ファナティオは細剣で受け止めた。
甲高い金属音が響き、刀身の接触点から火花が散る。
「あなた......一体何をしたの!?」
騎士のその問いに、マエトは事も無げに答えた。
「別に。ちょっと光を曲げただけだよ」
天穿剣は光を集めて、全てを焼き貫く光線を放つ。その原理は、
つまりあの光線には、太陽光の性質がほぼそのまま残っているということだ。
晶素で作った大きな盾は、言い換えれば巨大で分厚いガラス板だ。水や氷よりも高い屈折率を
ただ1つ、この対策には穴──攻略法がある。
(なら......その晶素の盾すら
ファナティオがそう決意するのと、マエトが小さくバックステップしたのは、ほぼ同時だった。
わずかに姿勢を崩す騎士に、マエトは逆手に握ったストラグラを振り下ろした。
高速で走った刃をパリィするや、ファナティオは即座に反撃。鋭く切り込むが、それをマエトの追撃が弾く。
激しく動き回り、剣を振るう。高速連撃と高速連撃とがぶつかり合い、オレンジ色の火花が流れる。
攻撃で攻撃を防ぎ、すり抜けてきた攻撃を躱しながらさらに攻撃する。紫と白銀の刃が乱れ舞い、宙に鮮やかな軌跡を
時間にすればわずか十数秒の
マエトとの距離がわずかに空いた次の瞬間、ファナティオもまた大きく後ろに跳んで距離を取った。
即座に警戒するマエトだが、ファナティオは光線を
代わりに、この日何度目かも解らない微笑を口許に浮かべた。それもとびきり幸せそうな。
「ふぅ......こんなに激しく戦ったのは、あのとき以来......いえ、あのとき以上かも知れないわね。坊やの剣、彼よりも速いんだもの」
ファナティオの言う《彼》が誰のことかまでは解らなかったが、ファナティオの笑顔が本心からのものだということはマエトにも解った。
エルドリエ、レンリ、デュソルバートの3人の攻撃は、どれも一撃の威力を追求したものだった。速さに特化した連続攻撃という文化がアンダーワールドにないというのは、それで何となく察しがついた。
だが女であるがゆえに、一撃の重さに特化した剣技では勝てない。ゆえに女ならではの速さとしなやかさを活かした連撃技で、これまで戦ってきたのだろう。
つまり、戦場においてファナティオは、女であることと連撃技の使い手であること、2つの意味で
それが今では、同じく連撃技の使い手と斬り結んでいる。自分と同質の剣士と全力で戦っている。
今までの戦いとは決定的に異なる感覚を味わえる喜びが、彼女の
そこまで考え、しかしマエトは油断しなかった。
その感覚に喜んでいるからこそ、あの女騎士が本気で勝ちに来るという確信があった。
じっと警戒するマエトに向けて、ファナティオは真っ直ぐに切っ先を掲げた。
己が磨き上げてきた連続剣で、あの少年に勝ちたい。そんな1人の騎士としての
だからこそ、彼女は天穿剣の《記憶解放術》を使うと決めた。それで敗れたなら、あの少年もそこまでだったということ。
もし記憶解放術すら打ち破り、再び懐に飛び込んでくることができたなら、あの少年を人生最高の相手と見定め、連続剣で倒す。
口許の笑みを消し去ると、ファナティオは艶のある声で叫んだ。
「リリース・リコレクション!!」
瞬間、かつてないほどに
目が焼けるかと思うほどの閃光に、マエトは舌打ちした。
恐らく、先ほどまでよりも高火力かつ広範囲の光線が来る。
躱す、防ぐ、散らす、
発射前に潰すのが最も確実だが、ノーモーションから超高速で放たれる光線の先手を取るのは、厳しいと言う他ない。
ならば──
「システム・コール。ジェネレート・アンブラ・エレメント。フォーム・エレメント、ウォール・シェイプ。ディスチャージ」
3秒強の高速詠唱の直後、マエトが生成した6つの
だが、記憶解放された神器の一撃は、その程度では防げない。
闇の防壁ごと貫くべく、光線を放とうとしたファナティオ。その視界の
「
直後、一切の混じり気のない白が、天穿剣の切っ先から
先ほどまでとはまるで違う、圧倒的に強大な光線が放たれた。もはやガラス板での屈折も、鏡での反射も効かないであろう、陽神の一撃。
2者の間に
その直前、ファナティオは気付いた。
闇素の壁から顔を出したのは、切断されたマエトの左腕だったことに。
(使えなくなった腕を、自ら斬り落として
などと考えている余裕はなかった。
後ろに跳んだファナティオだが、わずかに遅かった。鋭く振るわれたストラグラの剣尖が当たり、紫色の
メタルクロー系ソードスキル突進技《アキュート・ヴォールト》。その
「くっ......いえぁああっ!!」
全力の
そこに、天穿剣の刃が
刺突を回避されたファナティオは、突き出した右腕をそのまま横に振るい、
回避直後のマエトに、白銀の刃が後ろから襲い掛かる。
勝ちを確信したファナティオの攻撃は、しかしマエトが踏み込みと同時に身を
「なっ......!」
驚きの声を
神速の旋刃は首裏の装甲を粉々に砕き、
彼女の天命が半分を切ったかなど、確認するまでもない。
それほどの一撃を
「ファナティオ副騎士長すら倒すとは......キリトのそれ以上に曲芸じみた剣ですが、実力は認めざるを
次回 vs