ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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Ex.6 vs天穿剣

制限時間:∞

ステージ:セントラル・カセドラル 50階《霊光(れいこう)大回廊(だいかいろう)

主武装:

・マエト:《ストラグラ》《シャドウリッパー》

・ファナティオ:《天穿剣(てんせんけん)

 

 

 

 その空間を一言で表現するなら、(まばゆ)い、だろうか。

 20メートルもの高さの天井と、セントラル・カセドラルのワンフロア丸ごとの床面積が生み出す広大な空間を、左右の壁の大窓から入ってくる陽光が満たしている。壁や床、柱の素材となっている大理石が、光に照らされることでより強く、白く輝いている。

(霊光、ねぇ......)

 内心でそんなことを(つぶや)いて、マエトは天井から視線を落とした。視線の先には、大理石の白より眩い光を放つ存在があった。

 1人の女性騎士だ。彼女が身に(まと)う薄紫色の(よろい)が、陽光を反射している。

 腰に()げられた(さや)の細さから見て、相手の武装は細剣(さいけん)だろう。速さと手数を優先するタイプということか。

(今度は普通の剣士か......まぁだからって、今までの3人より()りやすいってことはないだろーけど)

 いつも通り油断(ゆだん)なく観察していると、不意に、女騎士の口許(くちもと)に微笑が浮かんだ。

 素早く愛剣《ストラグラ》の(つか)に右手を走らせるマエトを見て、整合騎士──ファナティオ・シンセシス・ツーは謝罪した。

「ごめんなさいね、急に笑ったりなんかして。何だか少し(うれ)しくて、ついね」

 (つや)っぽい声で言うファナティオに、マエトはある程度の警戒はしつつ(たず)ねた。

「嬉しいって、何が?」

 首を(かし)げる少年に、ファナティオは答えた。

「私の素顔を見た者のほとんどは、私が女だからと言って本気で戦わないのよ。だけど、あのキリトの(ぼう)やは、私の素顔を見ても本気で戦ってくれた......そんな坊やと、あなたは同じ目をしている。それが嬉しくてね」

 ファナティオの説明に、マエトはなるほどと納得した。例えば旧SAOにも、パーティーに入りたいというタンク志望の女性プレイヤーに対して、

『女のタンクなんか信用できない』

 そんなことを言って、まともに取り合わないような差別的なプレイヤーが多数いた。

 この女騎士もまた、女性だからという理由で不当な扱いを受けてきたというわけか。

「ふーん......まぁおれもキリトさんも、強い女の人いっぱい知ってるしね。ていうか、実力があれば性別とかどーでもいいでしょ」

 当然のことのように言ったマエトに、ファナティオは小さく()()しそうになった。

閣下(かっか)が気に入りそうな子ね)

 そんな確信を抱きつつ、少年の言葉に答える。

「そう思ってくれる人って、案外少ないものよ。だからこそ、あなたたちと会えたことには感謝している......そして」

 そこで句切り、しかし次の瞬間には、ファナティオの眼光は鋭いものになっていた。

「だからこそ、あなたたちとは本気で斬り結びたい。初めから全力で行かせてもらうわよ」

 言いながら、ファナティオは左腰の鞘から剣を抜いた。高々と(かか)げられた刀身が、白銀の輝きを放つ。

「システム・コール。────エンハンス・アーマメント!!」

 高らかなコマンド発声。それと同時に、剣が放つ光がひときわ激しくなった。

 目もくらむような閃光の下、騎士が名乗りを上げた。

「整合騎士第2位、ファナティオ・シンセシツ・ツー......参る!!」

 ふと、マエトは何かを感じた。直感に従い、素早くその場から()退()く。

 直後、数瞬前までマエトが立っていた場所を、純白の光線が(つらぬ)いた。

(速い......)

 内心でそう呟いたときには、細剣が再び輝きを放っていた。

 次々と飛んでくる光線を、マエトはダッシュとステップを()()ぜた不規則な動きで(かわ)した。

 だが、何発目かに放たれた光線が、マエトの左腕を(えぐ)った。二の腕が半円柱の形に削れる。

「ちっ......」

 小さく舌打ちしつつも、ひたすら回避し続けること数秒。ようやく攻撃が止んだ。着地して長く息を吐きつつ、マエトは素早く視線と思考を(めぐ)らせた。

 自分が回避したことで、光線は壁や柱に当たった。それは当然だ。問題は、その壁や柱の着弾点が赤熱、溶解して、丸い穴が空いているということだ。

 この部屋の壁や柱や床は、パッと見た感じでは、デュソルバートと戦った場所の床や壁と同じ大理石で出来ている。

 だが、デュソルバートの神器(じんき)熾焔弓(しえんきゅう)》の炎は、壁や床に穴など空けていなかった。せいぜい絨毯(じゅうたん)を燃やしたくらいだ。

 対して、ファナティオが放ったレーザーは壁や柱を溶かし、穴を空けている。

 弓と違って予備動作がほとんどなく、矢よりも弾速も速射性も火力も上。とてつもなく厄介(やっかい)な遠距離攻撃だ。

(飛び道具使いが相手の場合、(ふところ)に入るのがおれの()(かた)だけど......剣士の懐に、片腕が死んだ状態で入るのはめんどくさいな......)

 攻撃の正体を考えるのと並行して、どう接近するか、接近後どう戦うかも考える。

 そんなマエトに、ファナティオは言葉を投げかけた。

「坊や、鏡って知ってるかしら?」

 そんな唐突な質問に、マエトは一瞬首を(かし)げた。もちろん知っているが、それが一体どうしたというのか。

 問いかけの意図が解らずにいるマエトに、ファナティオはゆっくりと歩み寄りながら続きを言った。

「ソルスの光をほぼ完全に跳ね返すことができる鏡の性質に着目した最高司祭猊下(げいか)は、かつて1000枚もの大鏡を使って真夏のソルスの光を一点に集め、純白の炎を生み出したそうよ。そしてその炎は、身の丈ほどの大岩をものの数分で溶かし去った」

 そこまで聞いて、マエトはハッとした。ファナティオの得物(えもの)の正体に気付いたからだ。

 マエトの顔を見て、ファナティオはまたしても微笑を浮かべた。ただその雰囲気が、今までのものとわずかに違うように、マエトには感じられた。

「最高司祭様は、その1000枚の大鏡を(もと)に1本の剣を生み出された......それがこの神器《天穿剣(てんせんけん)》よ」

 ソルスという単語は知らないが、恐らくアンダーワールドにおいて太陽を指す言葉だろう。

 つまりファナティオの言葉をまとめると、あの細剣の能力は《刀身で太陽光を反射させ、超高火力のレーザーを放つ》ということか。

 数秒の黙考(もっこう)の末に短く息を吐くと、マエトは勢いよく飛び出した。

 それを考えなしの特攻だと思ったのか、どこか残念そうな表情を浮かべ、ファナティオは剣尖(けんせん)をマエトに向けた。

 しゅばあっ! という音。それよりも速く光線が放たれた。

 そのときにはもう、マエトは動いていた。

「システム・コール。ジェネレート・クリスタン・エレメント。フォーム・エレメント、シールド・シェイプ。ディスチャージ」

 神聖術の詠唱(えいしょう)。直後、マエトの両手の先から3つずつ光点が飛んだ。6つの光が集まると、マエトとファナティオの間に、晶素(しょうそ)でできたガラス質の分厚い盾が生成された。

 ──そんなものが何になる。

 そう思ったファナティオの顔が、次の瞬間には驚愕(きょうがく)で満たされた。

 天穿剣の光を受けた晶素製の盾は赤熱し、既に溶ける寸前だ。だがその後ろで、こちらに向かって走っているマエトには、一切光が当たっていないのだ。

 驚くファナティオだが、そんな余裕はなかった。透明な盾を光線が突き破ると同時に、光線の下から地を()うような低さでマエトが襲ってきたからだ。

 地面スレスレから跳ね上がってきた抜き撃ちを、ファナティオは細剣で受け止めた。

 甲高い金属音が響き、刀身の接触点から火花が散る。

 (つば)()()いの最中(さなか)、ファナティオはマエトに(たず)ねた。

「あなた......一体何をしたの!?」

 騎士のその問いに、マエトは事も無げに答えた。

「別に。ちょっと光を曲げただけだよ」

 天穿剣は光を集めて、全てを焼き貫く光線を放つ。その原理は、(とつ)レンズを用いた収斂(しゅうれん)発火(はっか)に近い。

 つまりあの光線には、太陽光の性質がほぼそのまま残っているということだ。

 晶素で作った大きな盾は、言い換えれば巨大で分厚いガラス板だ。水や氷よりも高い屈折率を(ほこ)るガラス板を通過すれば、光線の軌道はズレる。

 ただ1つ、この対策には穴──攻略法がある。

(なら......その晶素の盾すら()()むほどの強大な光を放つ──記憶解放術を使うまで!)

 ファナティオがそう決意するのと、マエトが小さくバックステップしたのは、ほぼ同時だった。

 わずかに姿勢を崩す騎士に、マエトは逆手に握ったストラグラを振り下ろした。

 高速で走った刃をパリィするや、ファナティオは即座に反撃。鋭く切り込むが、それをマエトの追撃が弾く。

 激しく動き回り、剣を振るう。高速連撃と高速連撃とがぶつかり合い、オレンジ色の火花が流れる。

 攻撃で攻撃を防ぎ、すり抜けてきた攻撃を躱しながらさらに攻撃する。紫と白銀の刃が乱れ舞い、宙に鮮やかな軌跡を幾重(いくえ)にも(えが)く。

 時間にすればわずか十数秒の剣戟(けんげき)。それは、ファナティオの全力の突きをマエトがステップで躱したことで終わりを迎えた。

 マエトとの距離がわずかに空いた次の瞬間、ファナティオもまた大きく後ろに跳んで距離を取った。

 即座に警戒するマエトだが、ファナティオは光線を()たなかった。

 代わりに、この日何度目かも解らない微笑を口許に浮かべた。それもとびきり幸せそうな。

「ふぅ......こんなに激しく戦ったのは、あのとき以来......いえ、あのとき以上かも知れないわね。坊やの剣、彼よりも速いんだもの」

 ファナティオの言う《彼》が誰のことかまでは解らなかったが、ファナティオの笑顔が本心からのものだということはマエトにも解った。

 エルドリエ、レンリ、デュソルバートの3人の攻撃は、どれも一撃の威力を追求したものだった。速さに特化した連続攻撃という文化がアンダーワールドにないというのは、それで何となく察しがついた。

 だが女であるがゆえに、一撃の重さに特化した剣技では勝てない。ゆえに女ならではの速さとしなやかさを活かした連撃技で、これまで戦ってきたのだろう。

 つまり、戦場においてファナティオは、女であることと連撃技の使い手であること、2つの意味で異端(いたん)だったというわけだ。

 それが今では、同じく連撃技の使い手と斬り結んでいる。自分と同質の剣士と全力で戦っている。

 今までの戦いとは決定的に異なる感覚を味わえる喜びが、彼女の(ほほ)(ゆる)めているのだろう。

 そこまで考え、しかしマエトは油断しなかった。

 その感覚に喜んでいるからこそ、あの女騎士が本気で勝ちに来るという確信があった。

 じっと警戒するマエトに向けて、ファナティオは真っ直ぐに切っ先を掲げた。

 己が磨き上げてきた連続剣で、あの少年に勝ちたい。そんな1人の騎士としての渇望(かつぼう)と、ならばこそ己の技の全てを使って勝つという副騎士長としての(ほこ)りが、ファナティオの中にはあった。

 だからこそ、彼女は天穿剣の《記憶解放術》を使うと決めた。それで敗れたなら、あの少年もそこまでだったということ。

 もし記憶解放術すら打ち破り、再び懐に飛び込んでくることができたなら、あの少年を人生最高の相手と見定め、連続剣で倒す。

 口許の笑みを消し去ると、ファナティオは艶のある声で叫んだ。

「リリース・リコレクション!!」

 瞬間、かつてないほどに(まばゆ)い光が(ほとばし)った。

 目が焼けるかと思うほどの閃光に、マエトは舌打ちした。

 恐らく、先ほどまでよりも高火力かつ広範囲の光線が来る。

 躱す、防ぐ、散らす、()らす、返す、どれも現実的ではない。

 発射前に潰すのが最も確実だが、ノーモーションから超高速で放たれる光線の先手を取るのは、厳しいと言う他ない。

 ならば──

「システム・コール。ジェネレート・アンブラ・エレメント。フォーム・エレメント、ウォール・シェイプ。ディスチャージ」

 3秒強の高速詠唱の直後、マエトが生成した6つの闇素(あんそ)が、濃密(のうみつ)漆黒(しっこく)の壁を生み出した。

 天穿剣(てんせんけん)の光線は光属性のため、反属性の闇素で防ぐと言うのは理に(かな)っている。

 だが、記憶解放された神器の一撃は、その程度では防げない。

 闇の防壁ごと貫くべく、光線を放とうとしたファナティオ。その視界の右端(みぎはし)で、闇壁の上部から紫色の小さな影が飛び出すのが見えた。

(のが)さん!!」

 裂帛(れっぱく)気勢(きせい)を上げたファナティオ。

 直後、一切の混じり気のない白が、天穿剣の切っ先から(あふ)れた。

 先ほどまでとはまるで違う、圧倒的に強大な光線が放たれた。もはやガラス板での屈折も、鏡での反射も効かないであろう、陽神の一撃。

 2者の間に屹立(きつりつ)する闇壁が、いや霊光の大回廊の空間全体が、純白に染まる。

 その直前、ファナティオは気付いた。

 闇素の壁から顔を出したのは、切断されたマエトの左腕だったことに。

 (あわ)てて逆サイドに振ったファナティオの視線の先で、隻腕(せきわん)の少年が柱を()って飛び出した。

(使えなくなった腕を、自ら斬り落として(おとり)に......!?)

 などと考えている余裕はなかった。

 猛然(もうぜん)と宙を(かけ)ながら、マエトは縦に高速回転。急降下と回転の勢いを乗せ、逆手に握った剣を斬り降ろした。

 後ろに跳んだファナティオだが、わずかに遅かった。鋭く振るわれたストラグラの剣尖が当たり、紫色の喉当て(ゴーゲット)が音を立てて(くだ)けた。

 メタルクロー系ソードスキル突進技《アキュート・ヴォールト》。その模倣(もほう)だ。

 (よろい)を破壊されながらも、ファナティオはすぐさま体勢を立て直すと、右手の剣を思い切り()(しぼ)った。

「くっ......いえぁああっ!!」

 全力の()()みと共に撃ち出した全速の刺突(しとつ)を、マエトは左にスライドして(かわ)し──

 そこに、天穿剣の刃が(せま)った。

 刺突を回避されたファナティオは、突き出した右腕をそのまま横に振るい、(よこ)()ぎの斬撃(ざんげき)に派生させたのだ。

 回避直後のマエトに、白銀の刃が後ろから襲い掛かる。

 勝ちを確信したファナティオの攻撃は、しかしマエトが踏み込みと同時に身を(かが)めたことで、(くう)を切った。

「なっ......!」

 驚きの声を()らす騎士の前で、マエトは踏み込んだ右足を軸に回転した。順手に握り替えた片刃剣を振り回し、遠心力を乗せたカウンターの一撃を、攻撃直後で無防備なファナティオに叩き込む。

 神速の旋刃は首裏の装甲を粉々に砕き、華奢(きゃしゃ)な整合騎士は(すさ)まじい勢いで吹き飛ぶと、大理石の壁に激突した。

 彼女の天命が半分を切ったかなど、確認するまでもない。

 それほどの一撃を()()たりにし、黄金の騎士は(ひと)()ちた。

「ファナティオ副騎士長すら倒すとは......キリトのそれ以上に曲芸じみた剣ですが、実力は認めざるを()ませんね......」




次回 vs金木犀(きんもくせい)(けん)
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