ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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Ex.7 vs金木犀の剣

ステージ:セントラル・カセドラル 80階《雲上(うんじょう)庭園(ていえん)

主武装:

・マエト:《ストラグラ》《シャドウリッパー》

・アリス:《金木犀(きんもくせい)(けん)

 

 

 《霊光(れいこう)大回廊(だいかいろう)》を(まばゆ)いと表現するなら、この場所は(あざ)やかと言うべきか。

 中央に小高い(おか)があり、その(ふもと)小川(おがわ)が流れている。川には橋もかかっており、丘の周囲には木が林のように密集している。

 陽光を浴びて小川がキラキラと輝き、若草が青々と(しげ)っている。そこかしこに花も咲いている。

 白一色の空間から一転して、何とも色彩豊(しきさいゆた)な空間だ。とても建物の内部とは思えない。

「ふむ......」

 興味深そうに周りをキョロキョロと見回すマエト。その目を、黄金の輝きが射抜(いぬ)いた。

 丘のやや高い位置に立つ、金色の(よろい)を身に着けた女性騎士だ。見たところファナティオよりも若い......と言うより、キリトやアスナと同い年くらいか。

 彼女──整合騎士アリス・シンセシス・サーティを一目見たマエトの最初の感想が、

『あの人、隠蔽(ハイディング)できなさそう』

 だったのも無理はないだろう。

 何せ鎧だけでなく、腰に()げた長剣と(さや)、そして小さな頭から流れる長髪も、見事なまでの金色なのだ。特に(まぶ)しいほどの金髪は、ファナティオの神器(じんき)にも(おと)らない輝きと、それ以上の美しさを(あわ)()っている。

 と言っても、マエトにとっては見た目の美しさなどどうでもいい。少しでも多く情報を集めるのが最優先だ。

 そう思ってじっと視線を向けていると、アリスもまた、サファイアのような(ひとみ)をマエトに向けてきた。

 だが、別にマエトのように情報を集めて分析をしていたわけではないらしく、彼女は静かな口調でマエトに話しかけた。

「剣を2本持つような酔狂者(すいきょうもの)は、恰好(かっこう)をつけたいだけの上級貴族と相場が決まっている......と言いたいところですが、4人もの整合騎士を打ち倒したとなると、酔狂者とは呼べませんね」

 そう言うと、アリスは左腰の鞘へと右手を伸ばした。悠然と、音高く抜き放たれた長剣が、陽光を反射して強く輝く。

(片手剣......バスタードソード寄りだな。重さ優先型か......)

 そう分析し、マエトは少し悩んだ。

 一撃の重さを優先するタイプが相手の場合、機動力で撹乱(かくらん)して(すき)を作るのが一番()く。

 だが、今まで戦った整合騎士らには、得物(えもの)(もと)となったオブジェクトの特性に基づいた大技があった。あれが恐らく、整合騎士の奥の手だろう。

 問題は、その大技の特性と武器種そのものの特性が必ずしも一致しているわけではない、ということだ。

 本来なら近接武器であるはずの細剣(レイピア)から、長射程高速高火力のレーザーが発射されるくらいだ。下手にSAOやALOと同じ理屈(りくつ)で攻めるのはまずい。

「......で、お姉さんはどんな大技を使ってくれるの?」

 ゆえにマエトは、あえてアリスに大技を使わせることにした。先に相手の得物の特性を把握(はあく)し、そこから()を考える。

 マエトの挑発めいた発言に、アリスは一瞬だけ首を(かし)げ、しかしすぐに言葉を続けた。

「大技? ......あぁ、武装完全支配術に、記憶解放術のことですか。確かに、そなたがこれまでに戦った騎士たちは(みな)、そなたの実力に敬意を表して初めから支配術を使っていましたね......」

 そこで句切り、黄金に輝く刀身をそっと()でると、黄金の騎士は宣言した。

「いいでしょう。我が神器《金木犀の剣》の力、身をもって味わわせてあげましょう。システム・コール。──エンハンス・アーマメント」

 詠唱(えいしょう)を受け、アリスの長剣がさらに激しく輝いた。

 直後、(まばゆ)いライトエフェクトに包まれた刀身が、ざぁっ! と音を立てて(くず)れた。いや、分解したのか。

 飛来する金色の突風を見て、マエトは《刀身を魔法に変換する能力》と言う可能性を考慮(こうりょ)した。

 だが、密集(みっしゅう)して迫りくるあれは、どう見てもALOの魔法やアンダーワールドの神聖術のようなライトエフェクトではない。緻密(ちみつ)膨大(ぼうだい)な──花。

 ヤバい。そんな直感に突き動かされ、マエトはすぐさま双剣を抜いた。逆手に握ったそれらの刀身を重ね、防御姿勢をとる。

 紫と青の刀身に、黄金の輝きの一片が触れた。

 瞬間、その圧倒的な重さによって、マエトの足が浮いた。勢いよく吹き飛ばされ、大理石の壁に背中を(したた)か打つ。

 激痛に顔をしかめたマエトの口から、(かす)れた息が()れた。

 何とか起き上がって手を(ひざ)に着き、(あら)い呼吸を整えながらも、マエトは内心で舌打ちしていた。

(範囲殲滅(せんめつ)型か......厄介(やっかい)だな......)

 同じ遠距離攻撃でも、レンリやデュソルバートやファナティオの技は、一点集中や直線軌道などの要素もあって、その軌道を読みやすかった。

 だが、広範囲に(わた)って強力な攻撃ができるとなると、接近するのはかなり難しい。

 かと言って、遠距離からあのプレートアーマーを(つらぬ)けるほどの火力を出す(すべ)を、マエトは持っていない。

 思考を(めぐ)らせつつ、その材料を引き出すべく、マエトはアリスに話しかけた。

「ずいぶんと重い一発だね。金木犀ってそんなすごい花だっけ?」

 ゆっくりと坂を歩き登る少年に向け、アリスは静かに答えた。

「この剣の源となったのは、ただの金木犀ではありません。セントラル・カセドラルが建つこの場所......(はる)かなる(いにしえ)の時代、創世神(そうせいしん)ステイシアによって人間に与えられた始まりの地。その小さな村の中央には美しい泉が()き、岸辺には1本の金木犀が生えていました」

 じっと言葉を聞くマエトに、アリスは小さな無数の花弁を刀身へと戻しながら続けた。

「その樹こそが我が神器《金木犀の剣》の原型。神の(つく)りたもうた樹の転生した姿......人界(じんかい)森羅(しんら)万象(ばんしょう)の中で、最も(ふる)き存在なのです。属性は《永劫不朽(えいごうふきゅう)》。舞い散る花弁のたった1つですら、触れた石を割り、地を穿(うが)つのです」

「へぇ......」

 小さく(つぶや)くと、マエトは即座に思案した。

 アリスの説明を端的にまとめると、あの剣は世界最古の破壊不能オブジェクトをベースに(つく)られた。それゆえに破壊不能、もしくはそれに限りなく近い物理的耐久度を(ほこ)るということか。

(範囲攻撃だけでもめんどくさいのにな......)

 内心でそんな愚痴(ぐち)をこぼすと、マエトはいきなり右腕を持ち上げた。

 (かた)(かつ)ぐように構えたストラグラが、ライトグリーンのエフェクトを宿す。ほぼ同時に踏み込み、疾風のように一気に跳躍する。

 上段突進技《ソニック・リープ》。ノーフェイクでソードスキル。スピード勝負だ。

 一瞬で距離を詰めてきたマエトに、アリスも思わず目を丸くした。

 だが、相手の上段斬りの軌道に黄金の刀身を素早く割り込ませた。さすがの反応力だ。

 横一文字に構えられた両刃剣に、高速で振り下ろされた片刃剣が衝突(しょうとつ)した。

「──!」

 思わずマエトは息を呑んだ。当然だ。自分から撃ち込んだにも関わらず弾かれたのだから。

「えぇぇいっ!!」

 姿勢を崩したマエトに、アリスは(よこ)()ぎの一撃を見舞った。

 本来なら(かわ)せたであろう大振りの一発だが、今のマエトにはシャドウリッパーを斬撃の軌道上に(すべ)り込ませることしかできなかった。

 ガキィィンッ! という重く硬い音が響き、マエトは再び弾き飛ばされた。丘の傾斜(けいしゃ)を何度もバウンドしながら転がると、飛沫(しぶき)を上げて小川に落下した。

「全力で来なさい。ファナティオ殿を倒したそなたの実力が、この程度のはずがないでしょう」

 丘の上から冷たく言葉を投げてくるアリスを見上げ、マエトは短く息を吐いた。

(こっちから、しかも突進技で撃ち込んだのに弾かれた。それだけ重さが違うってことか......)

 素早く分析しつつ、視界左上のHPゲージをちらりと見上げる。

 一撃が重すぎるせいか、ガードの上から喰らったにも関わらず、HPゲージは既に4割近く削られている。

(これ以上でかいの(・・・・)喰らうのはやばいな......)

 ここまでの流れと自分の現状を改めて把握し、それらを踏まえて思考する。

 水の中に誘導(ゆうどう)して、凍素(とうそ)で足許を凍らせて動きを止める? いや、射程のある相手から機動力を奪っても効果は薄い。

 橋の両端を斬って地面から切り離し、盾として使って突っ込む? いや、この小さな橋がそんなに頑丈(がんじょう)とは思えない。

 丘の周辺の樹が密集しているエリアに誘導して、立体攻撃で削る? いや、あの範囲技なら足場の樹ごとこっちが削られる。

 《永劫不朽》属性の乗った攻撃と防御を破るのは、さすがに厳しいと言わざるを得ない。どうにかして使い手本人を崩さなければ、あの騎士には勝てない。

 そして今回は、崩しに欠かせない条件が3つある。

 攻撃と防御の判断を遅らせ、なおかつ相手の攻撃の軌道を(しぼ)る。これが接近の条件。

 ガードされると弾かれてカウンターを喰らうから、最速最短で殺し切る。もしくは戦闘不能にする。これが接近後の条件。

 殺し切る、もしくは戦闘不能にするまでは、アリスの攻撃を──最低でもノーガードでは喰らわない。これが前2つの条件の条件。

 これらを同時に満たせる崩しを考える必要がある。

 相当に厳しい条件だが......

「システム・コール。ジェネレート・──────」

 アリスには聞こえず、世界(システム)にはギリギリ届く音量で詠唱した後、マエトは小川から上がった。

 こちらを見下ろしてくる騎士に向かって、全速力で坂を駆け上がる。

 逆手に握った双剣で斬りかかると、アリスはそれを堂々とした動作でガード。弾かれると解っていたため今度は転倒するまでは行かなかったものの、やはり姿勢を崩したマエト目掛けて攻撃を仕掛ける。

 アリスの攻撃をなんとか(さば)くマエトだが、元々スピード型で軽いため、どうしても重さに押されてしまう。

 あっという間に、また小川の近くにまで追い込まれていた。

 アリスの攻撃を(かが)んで(かわ)すと、マエトは後ろに大きく跳んだ。橋の上に着地し、さらにステップで後退する。

 追撃を加えるべく、アリスも即座に走った。

 (きた)()かれた脚力(きゃくりょく)で地面を()り、一気に加速。(またた)()に橋の真ん中にまで辿(たど)()き、マエトに迫る。

 その瞬間を、マエトは待っていた。

「バースト・エレメント」

 ごく短いコマンド。直後、ずっ! という重く不気味な音が響き、同時に橋の下で大穴が開いた。

 青紫色の光に包まれた黒い穴──《闇素(あんそ)》だ。

(先ほど川に落ちた時に、橋の下に闇素を......!)

 アリスがそう気付くよりも早く、解放された闇素はブラックホールのように周囲のものを吸い込み始めた。

 水や土だけでなく、石や草、橋。そして、アリスの足までも。

 生々しい音を立てて、アリスの膝から先が(えぐ)られた。傷口から血が大量に流れ出る。

 ステイシアの窓を開かなくても、天命が急減少しているのが解る。

「ぐっ、ぁぁあっ!!」

 体勢を崩し、激痛で意識も乱れたアリス。その視界の端で、黄緑色の光が弾けた。

 顔を上げると、マエトが剣を肩に担ぐように構えていた。光源は、マエトの右手の剣。

(先ほどの跳躍技!)

 そう判断し、アリスは即座に金木犀の剣の武装完全支配術を使った。無数の花に分解した剣が、先ほど見た突進技の軌道を侵略する。

 それとほぼ同時に、マエトが動き出した。

 だが、超スピードで突進したのではない。非常に緩慢(かんまん)な速度で、前に倒れ始めたのだ。

 驚くアリスの視線の先で、ライトエフェクトが明滅。ストラグラの刀身が輝きを失った。モーションが崩れて、ソードスキルがファンブルしたのだ。

 しかし、マエトの後ろではまだライトグリーンの輝きが残っている。

 痛みと驚愕に支配されたアリスの意識に、マエトの小さな声が入ってきた。

「バースト・エレメント」

 直後、背後で()ぜた突風に叩かれ、マエトは一直線に突っ込んだ。風素(ふうそ)を解放したのだ。

秘奥義(ひおうぎ)の光で、素因(そいん)の光を(かく)した......!?)

 それに気付くと同時に、アリスはマエトの狙いの全てを(さと)った。

 橋の上におびき出し、置き弾として仕込んでおいた闇素を解放して追う足を削り、同時に姿勢を崩す。

 一度見せた上段突進技をこれ見よがしに使おうとして、それに対処させることで、支配術の軌道を(うえ)()げる。

 それによってできた下の隙間(すきま)を、風素の解放を使って突破する。

(ではまさか、川から上がってからの劣勢もわざと......? 私はいつから、彼の策略(さくりゃく)にはまって......!?)

 そんなことを考えている余裕などあるはずもなく、マエトはもう既に、アリスの目の前まで来ていた。

 引き絞った剣を高速で突き出すマエト。その突き技の軌道を予測し、アリスは素早く左腕を持ち上げた。剣の(つか)を握るマエトの右手首を(つか)み、動きを(ふう)じる。

 だが、相手は剣を2本持っている。すぐに左での追撃が来る。

 アリスの予想(たが)わず、マエトは即座に左手の剣を引き絞り、再び刺突(しとつ)を繰り出した。

 金木犀の剣の柄を持ち上げ、シャドウリッパーの青い刀身を弾こうとするアリス。

 その動きが、不意に(かた)まった。

 マエトが左手を(ゆる)く開き、青い剣を手放(てばな)したからだ。

 戦闘中に武器を手放す。そんな異常な行為によって、アリスの視線が思わず蒼刃に向いた。

 ハッとしてすぐに視線を戻したアリスの前で、少年の左手がライトエフェクトを宿していた。

 五指をぴったり(そろ)えた手刀がイエローの輝きを放つ。体術スキル零距離(ぜろきょり)技《エンブレイサー》。

 (あご)喉当て(ゴーゲット)の隙間をすり抜け、アリスの首を深々と(つらぬ)くと、手刀はわずか数秒でアリスのHPを半分以上も奪い去った。

 血で赤黒く染まった左手を無表情に引き抜く少年を見て、壮年(そうねん)偉丈夫(いじょうふ)は腕組みして呟いた。

「ふむ......あの少年、ちっと気になるな......()いてみるか」




次回 vs時穿剣(じせんけん)
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