ソードアート・オンライン ボンド・アンド・ディスペア   作:Maeto/マイナス人間

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残すところ、あと2話です......
長かった冒険にも、段々と終わりが見えてきました......


Ex.9 vs青薔薇の剣

制限時間:∞

ステージ:セントラル・カセドラル 99階

主武装:

・マエト:《ストラグラ》《シャドウリッパー》

・ユージオ:《(あお)薔薇(ばら)(けん)

 

 

(また遮蔽物(しゃへいぶつ)がないフィールドだな......)

 自分がいま立っている場所を軽く見回して、マエトは内心で(つぶや)いた。

 今マエトがいるのは、セントラル・カセドラルの99階。床も壁も白い大理石でできた、直径30メートルの円形の部屋。簡素と言うより、殺風景な空間だ。

 調度も一切ない(ひら)けた空間は──やろうと思えばやりようはあるが──(くず)しの材料が極端に少ないため、正直に言うとマエトはあまり好きではない。

 だが、文句を言っても仕方がない。小さく息を吐くと、マエトは改めて、少し離れた場所にいる人物を見た。

 マエトの視線の先にいる、亜麻(あま)(いろ)の髪の青年。その足許には、(たた)まれた青いマントやら、アイスブルーの籠手(こて)やらすね当て(グリーブ)やらが置かれている。つい先ほどまで彼が装備していたものだ。

 上半身を守る胴鎧(ボディアーマー)をそっと置き、最後に左腰に長剣の(さや)()げると、青年──ユージオはふぅと息を吐き、マエトを振り向いた。

「待たせちゃってごめんよ。君なら装甲の隙間(すきま)を狙うくらいはできる気がしたから、それなら身軽さを優先しようと思って」

 申し訳なさそうな笑みを浮かべて素直に謝ってくる相手に、マエトは「いえいえ」と小さくかぶりを振った。

 ユージオが着ているのは、ロングコートに似た青い布防具──と言うか服だ。当たり前だが、全身ガチガチのフルプレートアーマーよりは軽い。確かにスピード型の敵が相手なら、防御を固めるより回避を優先した方がいい。

 とは言え、わざわざマエトに了承を得てから鎧を脱ぎ、その上待たせたことに謝ってくるとは。真面目と言うか律儀と言うか......いや、単に《いい人》なんだろう。

 そう結論づけたマエトに、ユージオが思い出したように声を投げかけた。

「そうだ、()きたいことがあったんだ。君も《アインクラッド流》の使い手なのかい?」

「......あいんくらっどりゅー?」

 首を傾げる少年に、ユージオは言った。

「あれ、違ったかい? キリトが教えてくれた独自流派なんだけど、君の戦い方......もっと言えば、戦いの組み立て方が、アインクラッド流っぽい気がして......」

 ユージオの言葉を聞いて、マエトは「あー」と小さく声を()らした。

 今までの整合騎士の戦い方から察するに、アンダーワールドの剣術は、一撃の威力を追求した単発技が主流だ。いや、そもそも連撃技を使わないと言った方が正しいか。

 そして恐らく《アインクラッド流》とは、そんな単発技だけの世界においてキリトが使い、同時にユージオに教えた連撃技主体の剣技──つまり、SAO由来のソードスキルのことだろう。

(あの人ほんと色々やってるなー)

 そんな呆れに近いことを思いつつ、マエトはユージオの問いに答えた。

「いや、おれの剣もアインクラッド流だよ。キリトさんのとは少し型が違うけど」

 そう答えるや、ユージオの顔がぱぁっと明るくなった。

「本当かい!? うわぁ、キリト以外のアインクラッド流の使い手には初めて会ったよ! 手合わせできるなんて(うれ)しいなぁ!!」

 その様子に、思わずマエトは苦笑した。なんとも素直と言うか、純粋と言うか。こういう点は、どことなくユウキに似ている。

 そんなことを思っていると、ユージオは剣の(つか)に手をかけた。同時にマエトに向けて声を投げる。

「それじゃあ、さっそくで申し訳ないけど、初めてもいいかな?」

「どーぞどーぞ、ご遠慮(えんりょ)なく」

 そう言って(うなが)しつつ、マエトもまた、ユージオを遠慮なく観察していた。

 マエトの視線の先で、ユージオが腰の鞘から剣を抜いた。涼やかな音を鳴らしてその身を(さら)した青白く細い刀身は、氷のように透き通っている。見た目はかなり繊細(せんさい)華奢(きゃしゃ)だが、マエトの(かん)が正しければ、あの剣は相当に重い。

 そんな剣を軽く素振りすると、ユージオは右足を後ろに引いた。左手を前に出し、右手の剣を後ろに柔らかく構える。

 (りき)みは少しもなく、しかし剣先はわずかにもぶれていない。オーソドックスながらも力強い、キリトとよく似た構え。

 ただ1つ気になるのは、構えがキリトに似ている以外にも、あの青年にどこか懐かしさのようなものを感じてしまうことか──

 小さくかぶりを振って余計な思考を振り払うと、マエトはすっと腰を落とした。(ゆる)く開いた両手をだらりと下げ、脱力した自然体の構えをとる。

 お互いにじっと(にら)み合い、耳が痛くなるほどの静寂(せいじゃく)が流れる。

 それを、ユージオの雄叫びが破った。

「おおおおッ!!」

 気勢を上げて駆け出すと、ユージオを剣を振り上げた。剣の重さにダッシュの勢いを余さず乗せ、重くも鋭い一撃を叩き込む。 

 その直前、マエトも動き出した。逆手抜剣したストラグラの一閃を蹴り足で加速させ、正面からぶつかる。

 がぎぃんっ! という硬質の音が響き、(まばゆ)い火花が宙に流れる。

 直後、予想以上の重さに押され、マエトの体がわずかに浮いた。小柄な体が後ろに飛ぶ。

「ちっ......」

 小さく舌打ちすると、マエトは両足と左手でブレーキをかけた。止まるや否や、即座に飛び出して反撃する。

 驚いたのはユージオも同じだ。次々と襲い来る闇色の刃をなんとか(さば)きながら、内心で相手を賞賛(しょうさん)する。

 そもそもユージオは小柄なマエトを見て、まずパワーでは勝てると思っていた。だからこそ、わざと防御・迎撃(げいげき)可能な程度の速さでの一撃を繰り出し、それを受けたマエトが姿勢を崩したところを秘奥義(ソードスキル)で攻めるつもりだった。

 だが実際は崩すどころか、大して後ろに弾けもしなかった。むしろすぐに反撃してきて、今では自分が防戦一方だ。 

 驚異的なのは、剣の重さと筋力の差をある程度打ち消せるほどの、技の速さと鋭さか。

(武装完全支配術で足を止めたいところだけど、詠唱をしてる余裕なんかない......!)

 そう結論づけたユージオは、意を決して剣を振るった。支配術を使う余裕がないのなら、純粋な剣の腕前で立ち向かうだけ。

 相手の剣が動き始めた直後を狙い、ユージオは後ろに小さく下がりながら(よこ)()ぎに剣を振るった。

 静止こそしていないが速度も乗りきっていない状態の剣に、振り回されて速度の乗った剣の先端が衝突した。弾かれながら、マエトは小さく舌打ちした。

 見事なカウンターだ。ここまで(うま)い返しは久しぶり(・・・・)に喰らった。

 磨き上げられた大理石の上を(すべ)る少年に、ユージオは青薔薇の剣を振り下ろした。

 マエトはややのけぞり気味に姿勢を崩している。ここから回避する余裕はないはずだ。かと言って防御すれば、パワーと重さでさらに崩せる。ユージオが圧倒的に有利だ。

(一気に決める......!)

 決然たる意志を込めたユージオの上段斬り。それをマエトは、防がなかった。

 (ひざ)の力を抜きわざと重力に引っ張られることで、体をガクンと沈め、ユージオの斬撃の軌道のさらに下へと(もぐ)ったのだ。

 予想外の回避行動に驚くユージオの前で、マエトは床を蹴った。床面スレスレのバックジャンプで距離をとり、転がりながら着地。間髪(かんはつ)入れずに飛び出した。

 縦横無尽に駆け回り、飛び回りながらの絶え間ない攻撃。ユージオはそれを、ギリギリで受け続けた。

 どんな連撃だろうと、どこかで必ず(すき)はできる。そこまで()えて、一瞬を狙う。

 じっと耐え続けるユージオに、マエトはストラグラで斬りかかった。

 攻撃の軌道に氷の刀身を()え、マエトの一撃をやり過ごすユージオ。その目の前に、いきなり蹴りが飛んできた。剣を振るった動きのまま床に手をつき、側転の要領で不意討ちの蹴り技を叩き込む、マエトの得意技だ。

 体を(ひね)って回避すると、ユージオはその捻りを全身に伝え、遠心力を乗せて剣を振るった。着地して即追撃を入れようとマエトが振るった紫剣に、氷剣が衝突した。甲高い音。

 全力で剣を押し合う2人。その圧力がせめぎ合い、咲いた火花が剣士たちの顔を照らす。

 (つば)()()いの最中(さなか)、歯を()(しば)りながら、ユージオは内心で相手を賞賛(しょうさん)した。

(この子は、やっぱりすごい......! キリトとはまた別の強さだ......!)

 速く鋭い動き。その1つ1つで常に2択3択を迫り、遅れればやられるというプレッシャーで判断を鈍らせる。徹底して相手を追い詰め、仕留めるための戦い方だ。

 ある意味では、相手の攻撃を見切って近距離から攻め続けるキリトの戦い方よりも恐ろしい。

 武装が片手剣で、流派が《アインクラッド流》という共通点こそあれど、強さの質はまるで別だ。

 恐らく剣士としての実戦経験も実力も、この少年には敵わないだろう。

 それでも、

「負ける、もんか......!」

 声を絞り出しながら、ユージオは剣を握る手に力を込めた。刃の接触点からギギッと音が鳴り、青白い刀身が少しずつ、だが確かに前に出る。

(負けるもんか......僕だって、アインクラッド流の剣士なんだ.......!)

 以前、親友であり剣の師でもあるキリトはこう言った。

『この世界では、剣に何を込めるかが大事なんだ』

 この幼くも自分の遥か上を行く熟達の剣士が、剣に何を込めているかは解らない。

 だが、ユージオだって、これまで必死に鍛えてきたのだ。剣に想いを、覚悟を込めてきたのだ。

「負ける、もんかぁぁあああっ!!」

 腹の底から雄叫(おたけ)びを(ほとばし)らせ、ユージオは青薔薇の剣を全力で振り抜いた。けたたましい音を響かせ、小柄な少年が勢いよく弾き飛ばされる。

 なんとか体勢を立て直して着地しようとするマエトだが、勢いが強すぎて足を地面につけても弾かれてしまう。

 着地に失敗して体勢を崩すマエト。その視線の先で、ユージオは青薔薇の剣を逆手に握り替えた。床に剣を突き立て、力強く叫ぶ。

「エンハンス・アーマメント!!」

 瞬間、閃光と破裂音を放ちながら、剣尖(けんせん)を中心に(しも)が広がった。氷柱が(すさ)まじい勢いで空間を突き上げ、マエトに殺到(さっとう)する。

(氷、こっち来る、凍らされる、拘束(こうそく)──)

 瞬間的に脳内で弾けた思考も置き去りにして、マエトは両手を床に向けて伸ばした。指先に風素(ふうそ)を1つずつ生成し、同時に解放。勢いよく上昇すると、壁の柱上部に取り付けられた装飾に(つか)まった。

 ぶら下がりながら視線を下に向けると、床の半分近くが分厚い氷に(おお)われていた。

「なるほど、氷で広範囲の相手を拘束する技か。薔薇(ばら)の装飾がある割には、剣の素材が氷っぽいとこだけが特徴なんだね」

 そう言ったマエトの口許で、吐息が白くなった。解ってはいるが、改めて冷気の強さを実感する。

 そんなマエトに、氷の向こうからユージオが答えた。白い息を吐きながら、どこか不敵な笑みを浮かべている。

「そんなことないさ。この氷に触れれば、そこから氷のイバラが伸びてきて、君は拘束される」

「へぇ......」

 小さく呟き、マエトは分析した。ユージオが発動させた技について、ではない。ユージオ自身についてだ。

(この人、かなり考えながら戦うタイプだ。いま技の詳細をバラしたのだって、突破されない自信があるからじゃない。わざと情報を与えることで、おれの意識に(しば)りをかけて、思考を誘導するためだろーしな......)

 考えながら戦う、いわゆる頭脳派な相手とは、これまで何度も戦ってきている。そういう相手には、状況に思考を追い付かせなければいい。

 ちらりと氷を見やると、マエトは柱の装飾から手を離した。落下が始まる直前に壁に両足で触れ、思い切り蹴る。

 一気に前に飛び出しながら、左手で青の片刃剣《シャドウリッパー》を抜剣。順手に持ち替えつつ、口を動かす。

「システム・コール。ジェネレート・エアリアル・エレメント」

 両手の人差し指と中指で計4つの風素を生み出すと、マエトは右足で無造作に氷に触れた。

「なっ......!?」

 驚くユージオだが、氷のイバラが伸び始めるより早く、マエトは飛び出した。逆手に持った右手の剣で襲ってくる。

 斬撃の軌道上に青薔薇の剣を割り込ませてガード。即座に反撃しようとするが、マエトは床を蹴って大きくジャンプ。今度は壁を蹴って突っ込んできた。

 マエトの突進を、ユージオはステップで回避した。ユージオの後ろ側は氷だ。そのまま突っ込めば、マエトは氷に(とら)われる。

 だが、その直前でマエトの口が動いた。

「バースト・エレメント」

 直後、マエトの左手の風素が1つ解放された。風圧に押されたマエトがユージオ目掛けて方向転換、先ほど以上の速度で突っ込んでくる。

 (あわ)ててパリィするユージオだが、その後も同じだ。マエトは床・壁・氷を足場にして、そして足場のない空中では風素をバーストさせて、ユージオを全方位から高速かつ変則的に攻め立てる。捕捉(ほそく)など、とてもじゃないができたものではない。

 どっしりした動きの伝統流派と違い、アインクラッド流では主軸となる高速連撃技の他にも、(はや)()けや跳躍(ちょうやく)が重視されている。

 相手の打ち込みを(さば)き、(かわ)すための体術もまた(しか)り。つまりは体捌(たいさば)きが重要となってくるのだ。

 だが、それにしても──

(この子の身のこなしは尋常(じんじょう)じゃない! さっきの回避だけじゃない。こんな攻撃、防ぐので精いっぱいだ......!)

 恐らくこの攻撃は、足場の少ない(ひら)けた場所ではできないのだろう。床や壁だけでなく、ユージオが生み出した大量かつ巨大な氷まで足場にしているのがいい証拠だ。

 相手を拘束するための技で、逆に相手を自由にしてしまうとは、なんとも皮肉な話だ。氷のイバラも、伸びる前に逃げられてしまっては捕まえられない。

(──だったら!)

 素早く策を練ると、ユージオはわざと背中側に(すき)(さら)した。見え見えの罠だが、それでも相手は乗ってくるだろうと、ユージオは予想した。

 案の定、マエトは壁を蹴ってユージオへと突っ込んできた。速度の出る風素術ではなく、あえて壁を蹴って突進する辺り、ユージオの動きはしっかり観察されているようだ。

(それでも、アインクラッド流を名乗っていた僕がこの技を使うのは、想定外のはずだ!)

 カッ! と目を見開くと、ユージオは青薔薇の剣を構えた。直後、青白い刀身が赤のライトエフェクトを宿す。

「せぁぁあああっ!!」

 雄叫びを上げ、ユージオが剣を振り抜いた。カウンターの水平斬りが、宙に赤い円孤を描く。

 バルティオ流、《逆浪(ゲキロウ)》──またの名を、両手剣単発技、《バックラッシュ》。

「......!」

 小さくない(おどろ)きに、マエトの反応がわずかに遅れた。無理もない。ずっと片手直剣だと思っていた長剣で、両手剣ソードスキルを繰り出してきたのだから。

 ここからの回避はさすがに無理だ。かと言って、これをただ防ぐわけにもいかない。

 このカウンターを受けた場合、弾かれる先は氷の海だ。さすがにソードスキルで弾かれれば、着地から移動までの間に時間が空く。そうなれば、氷のイバラに捕まる。

 そこでマエトは、防御でも回避でもなく、攻撃を選んだ。素早く持ち上げたシャドウリッパーが、刀身よりもさらに(まばゆ)い青に輝く。基本単発技、《バーチカル》。

 赤の水平斬りと、青の垂直斬りとが衝突(しょうとつ)。ノックバックが発生し、ユージオはぐらりと姿勢を崩した。素早く体勢を立て直そうと、足を踏ん張る。

 対してマエトは、斥力(せきりょく)に逆らわず、床を思い切り蹴った。飛ばされるままに後ろに大きく跳び、宙返りして壁に着地。同時に口を小さく動かした。

 直後、ユージオはマエトの左手の指先に、2つの光点を見た。黄緑色の輝きを発するそれは、

風素(ふうそ)......解放の勢いを利用した突進か!)

 相手の狙いを読んだユージオは、体勢を整えるや、迎撃(げいげき)するべく剣を中段に構えた。

 マエトが本当に狙っていたのは、それ(・・)だった。

 警戒するユージオの視線の先で、マエトが不意に左手を下に伸ばした。下へ向けられた指先、その前には──

 先ほどユージオが脱いだ胴鎧(ボディアーマー)があった。

 ハッとするユージオ。だが、遅かった。

「バースト・エレメント」

 短い詠唱。直後に吹き荒れた突風が、ユージオ目掛けてアーマーを吹き飛ばした。

 反射的に剣で鎧を叩き落したユージオだが、次の瞬間、それが失敗だったことに気付いた。

 (よろい)でユージオの視界が塞がれた一瞬の間に、マエトが近距離まで接近していたのだ。右手を引き絞り、紫色の剣を構えている。突き技が来る。

「くっ......!」

 歯噛(はが)みすると、ユージオは左手の甲で、ストラグラの剣の腹を殴った。裏拳が直撃し、薄紫の片刃剣が弾かれる。

 次の瞬間、ユージオは、あまりの驚愕(きょうがく)に息を呑んだ。弾いた紫剣の奥から、アイスブルーの刀身が姿を現したのだから。

 つまりマエトは、シャドウリッパーの切っ先でストラグラの柄頭(ポメル)を突き、2発の突き技を同軌道上で放っていたのだ。

 隠し弾(ブラインド)の裏に、さらにもう1発の隠し弾(ブラインド)を仕込む。鎧でユージオの視界を(さえぎ)ったのは、そのための布石でもあったのだ。

(あの一瞬で......そうじゃなくても、あんなに激しく剣を打ち合いながら、こんな複雑な作戦を......!?)

 防ぐにしても弾くにしても、剣や左手を引き戻す余裕はない。ここまで接近されては(かわ)すこともできない。完敗だ。

 だが、()いはなかった。

 全力は出したし、これほどまでに見事な剣に負けるなら、思い残すことはない。

 そう思ったユージオの目と鼻の先で、蒼刃がビタッと止まった。

 文字通り目の前で静止する鋭い剣尖に、ユージオは目を(しばたた)かせた。

 そのとき、少年が口を開いた。

「悪いけど、降参してもらっていい? 後ろに下がっても無駄だしさ」

 そう言った彼の左手には、いつの間にやら3枚刃の投刃が握られている。確かに、回避しても無駄なようだ。

 元々完敗だと思っていたのだ、降参するのは別に問題ないが。

「えっと......どうして......?」

 疑問を上手く言葉にできなかったユージオに、マエトは少し目を()せて言った。

 ユージオにはその目が、どことなく(さび)しそうに見えた。

「......あんたの雰囲気がさ、死んだ相棒になんとなーく似てるんだよ。それに気付いたら、なんか殺せなくなった」

 ユージオの素早く硬い守りが少しだけ、見事なカウンターがかなり、隣で守ってくれそうな雰囲気がすごく、ベルフェゴールに似ていたのだ。

 当然、2人には何の関係もないし、気のせいと言われればそうだろう。思い過ごし、勘違い。そう言われても否定できない。

 髪型も体格も声色も話し方も、そもそも戦闘スタイルだってまるで違う。

 だが、この青年と剣を(まじ)えるうちに、マエトは2人の面影(おもかげ)を重ねてしまった。

 重ねてしまっては、もう殺せない。

 どこか(あき)れたように、長く息を吐くマエト。その肩にそっと手を置くと、ユージオは言った。

「君みたいな強い剣士の隣で戦ってたってことは、きっとその相棒君はすごく強かったんだろうね。そんな人と似てるなんて、光栄だよ」

 優しく微笑むユージオの言葉を聞き、ふとマエトは目に熱を感じた。視界がぼやけ初め、すぐにマエトはハーフコートの(そで)目許(めもと)(ぬぐ)った。

 少し心配そうな表情を浮かべるユージオに笑みを向けると、マエトは親友との過去に想いを()せた。

「うん。すごい強いんだ、あいつ」

 




次回 (いろ)()せぬ想い出
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