異世界ストリップ~俺はレアアイテムをコンプリートして世界を手にする!~ 作:夏目八尋
ハーフサキュバスの少女、ミリエラ。
彼女は俺の予想に反して大人しく、清楚で、人付き合いの良い少女だった。
ここに来るまで相応の教育を受けてきたのか、理知に溢れた優等生だったのだ。
「マザー、おはようございます」
「はい、おはよう。ミリエラ」
「リザさん、シーツのお洗濯ですか? お手伝いしますね」
「え、ほんと!? 助かるー」
「ダンデさん。お野菜の配達、受け取ってきました」
「おう、あんがとさん。その年できっちりお手伝いできるとは、賢い子だなぁミリエラは!」
ミリエラが来てから、孤児院の様子はがらりと変化した。
「ミリエラちゃん。一緒に縫い物をしない?」
「ミリエラちゃん! あっちにキレイなお花が咲いてたよ!」
「ミリエラ、お手伝いありがとうね。おかげで大助かりだわ」
「ミリエラ!」
「ミリエラちゃん!」
「ミリエラー!」
誰も彼もがミリエラを放っておかず、あれこれ目をかけ世話を焼き。
彼女が自分から何かしてみせれば、それに対して何倍もの反響でもって褒め称える。
「「ミリエラちゃん、最高!!」」
一言でいえば、ミリエラはちやほやされまくっていた。
対して、俺の方はというと。
「はっはぁー! 今日もリザの下着ゲーット! さぁ者ども、俺を崇め奉れー!」
「………」
「……あ、うん」
「どうした、前は平伏するくらい喜んでたろ? いらないのか?」
「いやぁ……なぁ?」
「うん。言いにくいんだけど……そういうのもう、ダサいなって」
「なにぃっ!?!?」
これまで大反響だった行為が、男どもからまさかの「ダサい。」の一言で一蹴される。
そして。
「ねぇ、そんなことより庭でミリエラがお歌を歌うって言ってたわよ。行きましょ!」
「ちょっと待て、リンダ。望むならダンデさんの下着、今日持ってきてやっても――」
「セン」
「あ? なんだよ」
「……そんなことしても嫌われるだけ。ミリエラちゃんみたいに自分を磨いて本物の大人のレディになって、自分の魅力で振り向かせなきゃ意味なんてないのよ?」
「は?」
「子供のあんたにゃ分からないだろうけど、それが世界の真実なの。……フッ、ごめんね?」
「…………はぁーーーー!?」
ついには性癖ねじ曲がり予備軍だったリンダにまで、正論叩きつけられ見放される始末。
(これは……)
俺の頭の中でアラームが鳴り響く。
「孤児院に、いい子ちゃんブームが来てしまっているだとぉ!!」
可愛い子が来たやったー!! とか言っている場合ではない。
「これはまずい、まずいぞ……」
「何がまずいの?」
「孤児院がミリエラによって支配されてしまっている。俺の天下が大ピンチだ!」
「なるほどね。でも今はそれ以上のピンチがあんたを待っているわよ」
「あ?」
リザだった。
「反省室!!!」
「あいーーーーー!!!」
※ ※ ※
前世で読みかじったそれっぽい本に曰く。
「敵を知り己を知れば、百戦危うからず。だ!」
いっぱい知ってる奴は強い。だから勝つ。という意味に違いない。
勝利を確実なものにするためにはまず、相手の情報を集めるところからということだ。
というわけで俺は、ミリエラについて観察することにした。
「……んっ、しょっと」
マザーに頼まれ庭の野菜畑を世話するミリエラを、木の陰から覗き見る。
(……っかー。じっくり見るとやっぱり美少女だな)
サキュバス族。
あらゆるヒト種と子を成す力を持った女性のみの種族だと、本には書いてあった。
それはハーフも同じであり、例外としてつがい側の血が濃く出た異種族の純種としてでなければ、男性は生まれないそうだ。
またサキュバス族はそのいずれもが、何かしら魅惑的な力を持っているらしい。
目を惹きつける美貌。
フェティシズムをくすぐる肉体。
人心を弄ぶ小悪魔的精神性。
蕩けるような甘く囁きかける声。などなど……。
あまねくヒト種を魅了して、絡めとり、精を吸い上げる耽美の化身。
それがサキュバス族であり、そのハーフである。
「……とはいえ、本の知識と現実は違うよなぁ」
本に書いてあったサキュバス情報は、俺の前世知識のどスケベ種族様とそう遠くない内容だった。
じゃあ、今ここで畑に水をやっているミリエラはどうだといえば、半分正解くらいじゃなかろうか。
全体的にピンク色で、毛先あたりだけがクリーム色に染まった髪。髪型はポニテ。
やや垂れ気味の目には5才という幼さにして色気を感じるまつ毛があり、瞳は金色。
小顔めに整った美貌はヒューム族における美人ど真ん中を行くもので、将来性も抜群。
細く華奢な肢体は、栄養不足というよりも肉が締まっている印象を受ける。
この完璧な顔で愛らしく微笑んだり小首を傾げたりすれば、まぁまず男はノックアウトだ。
実際たまに見せてるその顔で、我が孤児院の男子どもは骨抜きにされている。
(見た目的には間違いなく、サキュバスオブサキュバスだよなぁ)
だが、だがである。
総じて末恐ろしさを感じるその見た目に反して、その心根は純粋無垢としか思えない。
その美貌で他者をコントロールする様子もなければ、露出の激しい服を好む感じでもない。
従順で、善良で、まさしく優等生然とした振る舞いは、お色気キャラとは程遠い。
(サキュバスとしての血が薄めのハーフだから、ってことか?)
いっそ今やっているすべてが計算ずくで、オタサーの姫的に動いていると疑ってみるか。
だがそれにしたってミリエラの普段の動きは利他的に過ぎる。
孤児院すべてに伝播するレベルの可愛く真面目なスーパーいい子ちゃん。
それが俺の目から見えているミリエラだった。
「……あっれぇ? 俺、勝ち目なくねぇ?」
現状のいい子ちゃんブームを巻き起こしているその当人が、完全無欠のいい子ちゃんである。
すでに主導権は奪われ、しかもおそらく奪った当人にその自覚がない。
本人はこれからも変わらずいい子であり続け、それに影響を受けたみんなもいい子になる。
みんないい子で手間いらず、大人もハッピー、子供もハッピー。万々歳。
(この俺を除いてな!!)
ガキ大将的ムーブで孤児院を手にしていた俺とは真逆のベクトルである。
(何かに秀でてかつ利益を生む存在は、人望を集めやすい)
俺よりスター性に富みかつ大人の覚えもいいミリエラがいる限り、俺の天下がないのは明白。
しかし今だからこそできる鍛錬の機会を、俺は奪われるわけにはいかない。
序盤の効率的な熟練度稼ぎが後々のプレイを左右するなんてのは、ゲーム攻略の王道である。
(たとえ今、勝ち目がなくても……)
俺はふわふわ揺れるピンクのポニーテールを見つめながら決意する。
(近いうちに必ずお前を追い落とし、俺の天下を取り戻してみせる!)
こうして俺は、孤児院にいたずらという悪徳を再び栄えさせるべく、さらなる知恵を絞り始めるのだった。
ひとつ屋根の下に美少女サキュバスなんていたら普通に性癖ねじ曲がると思う。
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