卒業ファイト選抜会も終わり、空乃と紫音は帰路についていた。空はすでに薄暗く夕焼けの茜も遠くに見えていた。
空乃「明日はついに卒業式か〜〜、3年ってあっという間だったね。」
紫音「そうね。いろいろあったわ」
2人は中学での思い出を語りながら帰路を歩く。空乃と紫音は子供の頃からずっと遊んでいた家の近くの公園へと足を向かわせた。極越市の冬は厚着さえしてれば過ごせるくらいでそれほど寒くはない。だが3月中旬というだけあって肌寒さは感じる。2人は自販機で温かい飲み物を買って、公園のベンチに座った。
紫音「ねえ、空乃」
空乃「ん、何?」
紫音「その、私達は高校生になったら別々の学校に行くじゃない」
空乃「うん。そうだったね……」
紫音は少し声のトーンを落として寂しそうな声を出す。普段の紫音からは珍しく声だけではなく、表情からも少し寂しさを感じた。
空乃と紫音は幼稚園の頃から一緒だった。母親同士が親友でお隣同士だったこともあって、どちらかに用事が無い限り常に一緒に行動していた。なんの偶然か小学生から中学生までクラス変えで別れた事すらない。本当に2人はずっと一緒だったのだ。だが学校から志望高校のプリントが配られた時、紫音は空乃とは別の学校名を第一志望に記入していた。一緒に居るのが嫌になったとかではなく、それにはちゃんとした理由があった。その理由はまだ空乃には話していない。
紫音「私が他の学校に行く事に決めた理由をまだ話してなかったわね」
空乃「うん……」
紫音「私達はいつも一緒だったわね、幼稚園の頃から今日まで。そして私達の目指す場所も同じでしょ」
空乃「うん、そうだね……」
2人が目指す場所、言わずともわかる。それは2人が憧れた現日本チャンピオン"千流院 玲奈"が居る場所だ。
紫音「私、思ったの。今のまま空乃と一緒に居たら私はもっと先に行けないかもしれないって……」
紫音にはとある高校からスカウトが来ていた。「北極越市立ブルーローズ女子学園」バディファイトにおいては特に力を入れている女子高校であり、全日本のバディファイトの大会に何度も出場している常連校でもある。紫音は全中学生バディファイト大会で優勝する実力を持つ。その実力を認められ、紫音はブルーローズ女子学園の理事長とバディ部の部長が直々にスカウトに来たのだ。
紫音「最初は私も迷ったわ。私だって空乃達と離れるのは寂しいもの……、だから断ることも考えた。」
空乃「………」
紫音は甘口の缶コーヒーをひと口飲んで一息入れる。
紫音「今まで通り空乃達と一緒に隣を歩いて行くのも良いと思ったけど、やっぱり私は先を行きたいって思った。姉さんの居るあの場所を本気で目指すなら、いつまでも空乃の隣を歩いているだけではいけない……。空乃よりも一歩も二歩も先を歩くしかない、追い抜かなければいけないって思ったのよ。だから私はブルーローズ女子学園からのスカウトを承諾した。」
紫音は普段よりも少し声を張り上げて空乃を見る。紫音の目には揺るぎない意思が宿っていた。
空乃「そっか……。」
紫音「ええ。」
2人の間に少しばかり沈黙が流れる。肌寒い風が頬をかすめ、2人は何口か缶コーヒーを口に運ぶ。その沈黙を切ったのはまた紫音からだった。
紫音「でも勘違いしないでね空乃。バディファイトで繋がってる限り、私達はいずれ大会とかで顔を合わせる時が必ず来るわ」
空乃「そうだね………、うん、そうだよね!」
紫音「そう。これは決別じゃない。私達の目指す場所は変わらない。ただ少し2人のスタート位置が変わるだけよ。」
空乃「うん。寂しいって気持ちはあるけど、でもそれが紫音ちゃんが選んだ道なんだよね。だったら私はそれを否定しないよ。」
少し寂しそうな目をしていた空乃だが、紫音が選んだ道に意義を立てる気はさらさら無かった。
実のところ紫音は少し怖かった。別の学校へ行こうという決意を空乃に否定されたらどうしよう……、喧嘩別れみたいになったりしないだろうか……。空乃に限ってそんな事はないとわかってはいたが、やっぱり理由を話すのは怖かった。けど空乃はちゃんと自分の決意を受け入れてくれた。空乃の笑みと言葉に安心したのか、紫音は緊張が溶けたように目から一筋の涙を流す。
紫音「ありがとう、空乃……」
空乃「うん。」
2人は缶コーヒーを飲み干して公園を後にする。2人の家は公園から2分くらいの距離にあった。
空乃「明日の卒業ファイト楽しみだね。」
紫音「ええ、私は負けないわよ空乃。」
空乃「私だって負けないよ!」
空乃と紫音はお互いの家の玄関の前で別れる。空乃が家に入るのを見届けてから「空乃、本当にありがとう。」と紫音は小さく呟いて玄関のドアを閉めた。
紫音「ただいま、お母さん」
紫音母「お帰りなさい、紫音」
帰ってきた紫音の顔を見て紫音の母は何かを察する。
紫音母「空乃ちゃんには話したの?学校のこと」
紫音「うん、話したわ。」
紫音の表情は安堵したように柔らかい笑みを浮かべている。その様子を見て母も安堵してそれ以上のことは聞かなかった。
紫音母「そう。寒かったでしょ、お風呂入って来なさい」
紫音「はい。」
いつもより足取り軽くお風呂場に向かう紫音の背中を見送って母は夕飯のしたくを再開する。
紫音母「ありがとうね、空乃ちゃん」
娘が選んだ道を受け入れてくれた、お隣りに住む幼馴染みの少女、紫音の母は改めて空乃へのお礼を小さく呟いた。
今回も感想をぜひ!
今回はファイトシーンは無いので2200文字小程度の超短い回になってしまいました。申し訳ない………
いやファイトシーンを入れようかなとは考えましたが、卒業式のシーンとか経由するのでめちゃ長くなるかもな〜〜と思って次回に持ち越します。