私達がやって来たのは普段使われていない広間の一つ。
ホグワーツって非常に大きいし、なんか見た目以上に内部がでっかいんですよね。
さて、ホグワーツ、というか魔法族にとって、「決闘」というのは一種のスポーツ的なものらしいです。
お互いに魔法を撃ちあって、倒した方が勝ち、と。
結構物騒な代物ではあるんだけど、ある意味単純な代物だなあ、と。
本来の決闘は呪文を撃ちあうのが基本で、殴ったりけったりはアウト。
ただ、私達がやるのは「決闘」という名前のリンチでしかないわけです。
向こうはよっぽど自信があるのでしょうな。
なにせリーダー格のワルター・グレイ先輩は「
これは難易度が高く、実践で使える人はそう多くないとの事。
「闇祓い」なんかの犯罪捜査官と機動隊のような制圧部隊を足したような職業の人達ならともかく、って感じらしい。
なかなかに強いじゃないの。
まあ、だから、もちろん手加減なんてできないよねえ。
「ルールは知っているな」
じゃねえよ。
こちとら1年なんだぞ。
決闘の作法なんて確か2年からだろうが。
知らんと言ってやると、
「は、これだからマグル生まれは!
いいか、教えてやる、その足りない頭でしっかり覚えろよ!」
じゃねえよ。
こちとらろくに呪文なんて使えないんだからな。
「はん、ならばマグルらしく平手でも使ったらどうだ?
もしくは狗らしく噛みついてこいよ! なあ!?」
周囲の連中もげらげら笑ってますな。
むう、意外にうまいな。
これ、こっちを挑発するために「仕込んで」ある様子。
5年間もスリザリンでぼうっとしてたわけじゃあないな、これ。
油断大敵、ってね。
「分かりました、殴っても良い、って事ですね」
こちらがそう言うと、
「そうだ、まあ当たるわけがないがな」
ここでまた嘲笑。
ちょっとわくわくしてきた。
実際に魔法使いと戦った事はない。
だから、これは私の
しっかりと。
楽しまないと、ねえ。
焦り:スリザリン寮寮生ドラコ・マルフォイの言
その日、ドラコ・マルフォイはビンセント・クラッブやグレゴリー・ゴイルとサロンでゆったりとしていた。
ビンセントはぼんやりと魚影の映る窓の外を眺め、グレゴリーはうつらうつらと舟を漕いでいた。
やっと授業にも慣れてきた感じだ。
このままゆったりとした日々が過ごせれば…。
それは無理な話だったようだ。
「助けて!」
その声は、サロンの中によく響いた。
声の主はパンジー・パーキンソン。
ドラコの友人であるマリー・ウェリントンのルームメイトの一人である。
彼女はいつもの彼女らしくなく、息を切らしている。
純血の家系の中でも「聖二十八家」「聖二八一族」と呼ばれる名家の一つの出身である。
当然淑女教育を受けており、めったなことでは声を荒げたりしない(はずな)のだが。
「なにがあった!?」
嫌な予感がする。
パンジーは息を整えながら、
「マリーが、上級生に、連れてかれちゃった!!」
そう告げた。
最近マリーに対する風当たりが強いのは知っていた。
マリー自身が全く気にしていなかったからドラコも知らぬふりをしていたが。
そうもいかなくなったようだ。
ビンセントとグレゴリーに声を掛け、自身の魔法の杖を持ってドラコは立ち上がった。
色々な意味で悪い予感がするのだ。
マリーの事は無論心配だ。
だが、あの用心深いマリーがこんなにあっさり上級生に連れて行かれるだろうか。
何か策があるのか。
もしそうだとしたら、今度はむしろ上級生たちが心配だ。
ドラコはスリザリン生の常として、仲間意識が強かった。
それはマリーに対してもであるが、上級生達に対してもあるのである。
ドラコ達はパンジーがマリー達を見たという場所から、周囲を探し始めた。
暫くすると、大きな物音が聞こえてくる。
多分その音の元にマリー達はいる。
ドラコ達は音の方角へと向かった。
暫く走ると普段使われていない広間への扉が見えてきた。
中からは何か大きな音と、悲鳴らしきものが聞こえてくる。
ドラコ達(というかビンセントとグレゴリー)が扉を開け中に入る。
「マリー、無事か!?」
そしてドラコ達が見たものは…。
ここは元々決闘ゲームが行われる場所だったらしく、広間の真ん中に大体二十五フィート(大体七メートルちょっと)くらいの四角い台があった。
本来はここで決闘が行われるのだろう。
決闘の作法として一定範囲から出たら負け、みたいなのはなかったと思うけど。
まあ、ここで「やりあう」訳だ。
「ふん、怖気づいたか! やっぱり狗は狗だな!」
ここでまた嗤い、ううん、なかなかコントロールされてるなあ、こう言う扇動術ってホグワーツで勉強するのかしら。
さて、私も「土俵」に上がりましょうか。
互いに向かい合うグレイ先輩と私。
本来なら互いの見届け人を用意するのだけど、周囲にいる人達八人は全部先輩の手下。
この状況で公正な戦い、とか言うのも笑えますが、一応の体裁を整えて、なにかあった時には言い訳が出来るようにしています。
ここら辺は伊達に五年間スリザリン生をやってる訳ではなさそうですな。
だからと言って、他寮生とならばともかく同寮生で問題起こして寮監のスネイプ先生に言い逃れが出来るとは思えないのだけどね。
そのあたりまだまだ青いw
グレイ先輩はにやにやと子どもっぽい癇癪を秘めた笑いを浮かべています。
周囲の子分達も同じような顔を。
グレイ先輩の勝利を疑っていない様子だ。
まあ当然でしょうね。
こちとら呪文なんて「妖精の呪文」の授業で学んだ生活魔法みたいな奴くらいなんだから。
もうちょっと授業が進むといたずらに使えそうな奴も教えてもらえるし、それを使えばそれなりにいけると思うんだけど。
まあだからと言って、「負けてやる気はない」んだよねえ。
くっくっく、さあ絶望させてくれるわ。
正直、思いっきり怒ってるからね、きっちり売った分の喧嘩はノシ付けて買ったげるよ。
向こうからもう一人、審判役?が出て来て、「杖、構え!」と宣言した。
グレイ先輩が杖を高く掲げた。
ああすんのね、私も杖を高く掲げる。
というか、杖を「上段に構える」。
周囲から笑いが漏れる。
「あれ本当に魔法の杖か?」「ただの木刀だろうが」
うん、私もそう思う。
そして、
「決闘、始め!」
そう言われた瞬間、
「
グレイ先輩から雷のような呪文の攻撃が飛ぶ。
それと同時に、
だんっ!!
私が右に跳ぶ。
攻撃はむなしく空を飛んで、すうっと消えた。
「くっ! よく避ける、だがっ!」
先輩から武装解除呪文がバンバン飛んでくる。
私は必死
「ふんっ、そうやって避ければ避けるほど疲労はたまるぞ! すぐに動けなくなる!」
いや、んなわきゃないでしょうが。
この程度の動きなら丸一日やっても疲れませんて。
ん? もしかして、私が特殊なのか?
「ええい! とっとと打ちのめされろ!
そろそろか。
私は回避し損ねた振りをして呪文を杖で受け、
「うわっ!」
魔法の杖を弾き飛ばされた。
「ははっ! どうだ…」
「ぎゃっ!」
大当たり。
弾き飛ばされた杖は私の後ろにいた手下君その一に直撃した。
一瞬だけそっちに意識を持っていかれる先輩。
そしてそれは私にとって十分な隙で。
だんっ!
踏み出すと同時に特殊な歩法を使ってグレイ先輩との間合いを一気に詰める!
武術の技術にある、瞬歩とか、縮地とか言われる技術だ。
で、そこからパンチ!
「く、
先輩の周囲に青白い光が現れ、パンチを弾く!
「へえ…」
「はっ、そんなもの、効く訳がなかろう!
これが魔法だ!」
言うだけはある。
だけど、衝撃そのものはある程度響いてる感じだ。
先輩の体がちょっと揺れた。
って事は、だ。
「うららららららっ!」
パンチの連打。
おうおう、ちょっとぐらついてるなあ。
それに、このバリア張ってる間は他の呪文が使えない様子。
んじゃあ。
「ふっ!」
すどん! と足を踏みならし、短い間合いからのショルダータックル!
距離を稼げない代わりに体重移動での威力増加を加えた体あたりだ。
「うぉあっ!」
バリアは解除されなかったものの、先輩は派手に吹き飛ぶ。
このまんま転倒でもしてくれればマウント取ってタコ殴りwなんだけど、先輩は何とか転倒せずに済んだ様子。
「くそ、やるな、だが距離が開い…」
はい悠長すぎ!
どんどんぶっ飛ばすよ~っ!
もいっぱーつっ!
どん! どかん!
「ぐへっ!」
「ちょ、こっちくんぐえっ!?」
お、良い感じにグレイ先輩が手下その2くらいを巻き添えにはね飛んだ!?
! これだ!
「いぉおっし、ビリヤードやろうぜ! 私がキューでお前らボールな!!」
「は? なにおいってぎゃー!?」
今度は思いっきりフロントキックでぶっ飛ばして手下その3を狙うぞ~っと!
「うわぁぁぁ~ん、
おらおらひゃっほーぃ!
阿鼻叫喚:同級生ビンセント・クラッブの言
マリーが危機に陥っていると聞いて、ビンセントたち3人組とパンジー・パーキンソンは
そこでみたものは!
「あ~っはっはっはっっ! た~のしいっすねえせんぱぁいっ!!」
なんとも「イイ」顔をしながら5年生の先輩を蹴飛ばしたり、体あたりでふっ飛ばしているマリー・ウェリントンと。
「うわぁぁぁぁ!
ひたすら防御の呪文を唱えつつテニスの壁打ちのように吹き飛ばされては何かにぶつかって跳ね帰って来って、そしてまたマリーにぶっ飛ばされる、を繰り返す先輩。
なんというか、傍から見るとずいぶんとコメディックだが、実際にやられている本人にとっては地獄だろう。
「しかし、あんな風になるのな」
ビンセントはどこかずれた感想を持った。
防御呪文である
で、今の状況を見ると防護が突破できない程度の攻撃でも、突き飛ばすくらいは出来てる、って事なんだろう。
そして突き飛ばされて、その先にしっかり固定された障害物があると、そこにぶつかって跳ね飛ぶ、と。
跳ねかえって来た奴をさらに蹴っ飛ばして、って繰り返すとあんなふうになるんだあ。
ビンセントはどこかのんびりとそんな風に考えていた。
グレゴリーはもっとひどい。
「ああ、ボールみてえ」
それしか言わない。
パンジーに至ってはみているものが理解できていないらしく、動きが止まったままだ。
「これ、どうすればいいかな…」
ドラコがそう聞いてくるが、いや、それ考えるのあんたの仕事だろ、としかビンセントには言えなかった。
ビンセントを含む3人での意思決定は一番家格の高いドラコがする、そうなってんだから。
グレゴリーよりはものを考えているビンセントは、ドラコに従う事でマルフォイ家とクラッブ家の繋がりを維持することを理解していた。
とは言え、こんな訳分からん状態で聞かれても、ねえ。
「た、助けてぇ!」
あ、こっちに気が付いた奴が助けを求めて…。
「逃がさないよぉっ!」
あ、捕まった。
フルスイングで5年の先輩をふっ飛ばしてる。
まるでクィディッチのビーターがブラッジャーをぶん殴るみたいに。
あ、ぽいと捨てた。
どうやらあのやり方気に入ったみたいだ、転がってる先輩つかまえて、あ、また打った。
すっげえよく飛ぶなあ。
あー来年から俺もクィディッチ参加してえなあ。
すでにビンセントはややこしく考えるのをやめて、このギャグのような状況を楽しむ事にしていた。
どんな事にも終わりはある:スリザリン寮生ドラコ・マルフォイの言
目の前に起きているカートゥーンのような惨劇(笑)。
それも終わりがきた。
「ぷろてげほおっ!?」
5年のワルター・グレイ先輩が防御呪文を張り損ねたのだ。
延々と胸倉を掴まれて振りまわされているような状態だ、呪文を使い続けるのは難しかっただろう。
良い感じに入ってしまったフロントキック、マリーの靴の裏が完全にグレイの顔に食い込んでいた。
一瞬動きを止め、そのまま地面に倒れ込んだグレイ。
それを、
「ぬぁっはっはっはっはっっあ、まあだまだいきますよおせえんぱぁあい」
すっかりハイテンションになったマリーがさらに追撃しようとしている。
…さすがに止めるしかない。
という事で、ちらりとビンセント、グレゴリーを見ると。
あ、だめだ、こいつら思考停止してる。
パンジーは、だめだ、女の子にこの惨劇(笑)の調停? はむごいだろ。
じゃあ消去法で僕がやるしかない、と。
しぶしぶ、ドラコはマリーの元へと歩いていった。