頭痛い。
ハグリッドさん、春の陽気で頭沸いたんか。
そもそもドラゴンって、ワーロック法ってので飼育が禁止されてんだよね。
ドラゴンの飼育は国家レベルでの許可が必要で、そんなんよっぽどの事がないと許されないんだよ。
それなのになんでハグリッドさんはそう言うことをやらかすのか。
マルフォイ君はもう鼻息も荒く、
「これであの半巨人をホグワーツから追い出せる!」
と息巻いてます。
とは言えなあ、私はハグリッドさん大好きだし。
それに、だ。
「こう言っちゃなんだけど、ハグリッドさんは今のホグワーツには必要な人だと思うよ」
と言う私の言葉に、
「なんでだよ!? あんな怪物ホグワーツにふさわしくない!」
とマルフォイ君が反対します。
その言い方も分からなくもない。
本来であれば「禁じられた森」は十分な実力を持った魔法使いが管理すべき貴重な素材も沢山ある所だ。
なんだけどさあ、
「あそこ、ものっそい危険なんだよねえ…」
いやほんとに。
正直言って、ハグリッドさん位頑丈でないといきなりぽっくりいっておかしくない所なんだよねえ。
熊とか猪とかは当然として、いろんな魔法生物が縄張りを持ってるし。
少なくとも三つのトロールの集団がいるし、「狼人間」も集落があるね。
「うわぁ…」
さらに、
「まだあるの…」
巨大蜘蛛の足跡見た。
「巨大蜘蛛って、あれか、アクロマンチュラ。
おかしいだろ、あれ南米産じゃなかったっけ?」
そうかも知んないし、そうじゃないかも知んない。
でも少なくともハグリッドさんの小屋とおんなじくらいの高さがある蜘蛛みたいな生き物の影は見えたねえ。
マルフォイ君は顔が真っ青になってます。
これが「脅し」ならまだましなんだけど、マジなんだよなあこれが。
他にもケンタウロスとか人間に「比較的」友好的な種族もいるけど、相手を尊重しなかったりすると一発で関係がこじれるだろうね。
そう言った「めんどくさい」状況を引き受ける優秀な魔法使い、さているのか、って話だよね。
高い技量があって、戦いなれてる魔法使いの賃金の相場がどれくらいか知らないけど、多分ハグリッドさんの給金よりも十倍以上は飛ぶんじゃなかろうか。
魔法使いじゃなく、頑強な肉体を持ち、それほどお金が必要でない、という人はそうそういないんじゃないかな?
とは言え、ドラゴンを飼い始めた、となればそれはそれで大問題。
そんなもんホグワーツで飼われてたまるか、ってところだよね。
「本当にな! 危なくて仕方ない!」
いや全く。
はあ。
いざとなったら私が
「…マリー?」
ん? どしたの?
「なんか…、怖いぞ今のお前」
…ううん、顔に出てたかなあ。
いかんいかん、私は可愛いマリーちゃんだぞ、と。
裏社会とやりあうのとは違うからね、落ち着こう。
「…とにかく、あいつらから目を離さないでおこう。
最悪ホグワーツにドラゴンが野放しにされちゃう」
そしたら先生方には相談する?
「…そうだな、スネイプ先生には話しておこうか」
だね。
「何たることか…」
スネイプ先生は頭を抱えてます。
「今、面倒事を増やされるのは非常に困るのだ」
へ?
「何故ですか? 何かあるんですか?」
マルフォイ君がそう先生に聞きました。
「詳しくは話せんが、そうだ。
お前達は今回の事を見なかった事にしろ。
事は非常に繊細だ、下手な事をすれば、騒動が魔法界全体に波及することになる」
え? そこまで!?
私もマルフォイ君も目を丸くして驚いてます。
いや、魔法界全体って、どんな話なんですか。
首をかしげつつ私達はスネイプ先生の研究室を後にしたのでした。
あ、先生の所にクッキー置いてきました。
そして数日、胡散臭いなあ。
ロン・ウィーズリー君の手がぼろぼろになってました。
犬に噛まれて、とか言ってますがどう見ても毒のある生き物に噛まれたとしか見えませんなあ。
マルフォイ君はここぞとばかりにウィーズリー君をからかいまくってます。
どうやら先のクィディッチのグリフィンドール×スリザリンの試合の時におちょくりすぎてウィーズリー君に殴られたのを根に持っている様子。
そっかあ、なんだ言ってくれれば私ががっつり殴りとばしておいたのに。
…なんでそんなに引くのかな?
目つきが怖いって? ははっ、そんなことあるわけないじゃない、私は淑女だよ、せいぜい奥歯の2、3本くらいで…、ってさらに「うわぁ」って顔になってるけど、おかしいかな?
「うん、おかしい。
淑女はビンタで奥歯壊したりない」
むう、そうかあ。
ってかビンタなんて、やっぱり拳骨でしょ。
「なおさらだ!」
あれ?
魔法界は難しいなあ。
「きっとマグルの世界もおんなじだと思う」
…そっかあ。
やっぱり「男塾世界」は真っ当じゃないんだなあ。
一つ勉強になりました。
「…やっぱりマリーには僕達が付いてなきゃ。
いつか大ごとになっちゃうかも知れない」
マルフォイ君が小声でなんか言ってるけど、どうかした?
「いや、なんでもないさ」
? なによ?
さらにそこから数日。
そろそろ5月にも入って、暖かく、というかちょっと暑くなってきてると思う、そんな時期。
ウィーズリー君の手は元通りになってた。
まあ良かったねえ。
しかし毒の牙なり爪があるドラゴンってなんだっけな。
後から調べとこう。
私は気にしないように努めてたけど、やっぱりマルフォイ君は気になる様子。
間抜けにもウィーズリー君の持っていた本の間に挟んであった手紙で、ドラゴンをルーマニアのドラゴン保護区に移送する計画がある事が知れたからね。
クラッブ君やゴイル君にも話したかったようだけど、スネイプ先生に止められてた。
まあ、ドラゴンが居なくなるならこっちとしても都合が良いしねえ。
ちゃっちゃと持っていってくれ。
と、思ってたんだけどねえ。
夜中、みんなが寝静まってから、ちょっとのどが渇いたんでサロンにあるデキャンターでお水を頂いこうと起き上がると。
ごるごる…
ん?
なんか寮の入り口が開いたぞ。
こんな時間に誰が外に…。
どうしようかね。
…やめとこう。
スネイプ先生にも手を出すなって言われてるし。
おそらく五年か六年の先輩方の誰かでしょ。
お腹すいて厨房にでも残り物漁りに行くとかなんとか、そんなとこだろう。
だと、思うんだけどなあ…、いやまさかね。
まさか、ね。
…
ちょっと心配になったので、見に行きます。
何やってんのさマルフォイ君。
さっきの壁が開く音はやっぱりというか、マルフォイ君が外に出て行く音でした。
ランタン持って、彼はホグワーツの廊下を歩いていきます。
まだまだ春の夜は肌寒いってのにちょっと薄着が過ぎないかね、体さすってるよ。
夜のホグワーツは、そう危険でもない。
なにせこの時間は幽霊たちの独壇場でもある。
何かやらかすようなとんでもないのは基本的にすみかであるどこかの秘密の場所から動かない。
やらかすようなら幽霊達が教えてくれる、そうなってる。
でなければ、職員の方々が見回りとか、おっかなくて出来ないっての。
とは言え、危険なところには入り込んだ事がないマルフォイ君だ。
逆に言うと、普段歩きなれてない夜のホグワーツ、やばい所に入り込んだりしないとは言い切れない。
私はこっそりマルフォイ君の後を付けていく事にしました。
まあ軽功の基本は忍び足だからね。
私は気配を消し、這いつくばるようにしてマルフォイ君の数m後を付いていきました。
周囲に気を配り、危険のないように…!
まずい! 誰か来る! この気配は…、ふう、マクゴナガル先生ですか。
まあ彼教師に対しては問題行動起こしてないから減点とお説教だけで済むでしょう。
とは言え、私まで見つかるとスリザリンの減点が大きくなっちゃくからね。
私はすうっと距離を取りました。
マルフォイ君はカンテラを隠すという事もしなかったもんで、あっさりとマクゴナガル先生に捕獲されました。
当然と言えば当然ですが。
どうやらスネイプ先生の所に引っ張っていかれる様子。
これなら安全は確保できましたねえ。
んじゃ、マルフォイ君の気にしてた三馬鹿の様子を確認してから帰りますか、いや、いっぺんスネイプ先生の所によってこうか。
こっそりと手紙に書いてあったホグワーツで一番高い塔に移動すると、ポッター君、グレンジャーちゃんが大き目の箱を足元に置いてぜーぜー言ってた。
ここにはウィーズリー君来てないのね。
箱の中にはがたごとと何かが動いている様子。
多分これがドラゴンの幼生体だろう。
結構近くにいるんだけど、自慢じゃないが
戦いとかに慣れている人、このホグワーツにはけっこういるんだけど、でないと鼻っ柱をつままれても分かんないだろう。
逆に、マクゴナガル先生やおそらくスネイプ先生なんかもむき出しの殺意がぶつかる戦場、ってのを経験したことがありそうだ、そう言う人には私の修練が足んなくて、まず通じないんだよなあ。
ん? 下から誰かが上がって来る。
これは…、フィルチさんか。
ポッター君達、お気の毒。
遠足は帰るまでが遠足ですよw
最後の最後でミッションフェイルド、ですなあ。
なんて考えてると、闇夜からすうっと四人の人物が箒で降りてきた。
なるほどね、この箒四人がかりでドラゴンを箱ごと輸送するのか。
たしかルーマニアまで持ってくんだっけ?
頼むから途中で落としてドラゴンを野放しにするような事、やめて下さいよ、ほんと。
で、その四人はおっそろしく優秀なチームワークで箱を箒につりさげ、そして去っていった。
ルーマニアの人なのかねえ、ずいぶん陽気で気持ちの良い人たちだった。
で、ポッター君達は足取りも軽く帰ろうとして、
「さぁてさてさて、これは、困った事にぃ、成りましたねぇ」
ニタニタとした顔のフィルチさんにばったりw
まあ嬉しそうだこと。
足元にはミセスノリスがいる。
彼女は私を見上げている、確実に見えてますね。
私は人差し指で「黙っててね」のポーズ。
彼女は足元をひっかくようにして「高級猫缶所望」のポーズ。
なるほど。
私は親指と人差し指でOKマーク。
彼女は納得したようでフィルチさんに付いて行っちゃいました。
こういうのはいつものコミュニケーションがものを言うんですよ、はい。
決して買収行為が日常化している訳ではありません。
しばらくして、私は塔を降りて、スネイプ先生のお部屋に移動していった。
一度ピーブスの気配を感じたんで物陰に潜んでやり過ごし、その後はときどき幽霊の何人かに遭遇しそうになる以外は問題なく研究室前までやってこれた。
しかし、幽霊って気配が薄いからなかなかに気を使うわあ。
感知失敗するとばったりという事になって、学校側に無断徘徊がばれちゃうからね。
さて、スネイプ先生のドアをノック。
「だれか?」
誰何の声が聞こえます。
「マリー・ウェリントンです。
例の事でご報告が」
そう言うと、
「雰囲気を出さんで良い。
入って来い」
せっかくの密偵ごっこが台無しにw
中に入って、さっきまで見たことを報告します。
「…やれやれ、ポッターのあれは血か?
行動力は優れているが、肝心なところで醜態をさらす」
結構辛辣ですねえ。
「その言い方だと、彼の親をご存じで?」
その途端、すっごい目で睨まれた。
これは突っ込んじゃいけない事案だな。
「…分かっているなら良い。
これ以上我輩を疲れさせるな。
マルフォイの件もあると言うのに…」
ん、なんかしました?
「ふむ、ここにも無断徘徊者がいるなあ」
え、ちょっと…。
「せっかくだからお前も怒られておけ、スリザリン二十点減点だ」
うわ、マルフォイ君の減点誤魔化すために私も減点するってひどくないすか?
「ふん、吾輩の授業で十分に得点を得ているだろう?
それに今後の授業で挽回すれば問題なかろう」
ひでえ無茶ぶりだ。
せっかくミセスノリスに見逃してもらったのに。
まあいいか、マルフォイ君無事だったし、ドラゴンも追っ払えたし、これでハグリッドさんもお咎めなしでしょうしね。
「全くあの男は面倒を増やしてくれる。
他の者よりはましとは言え…。
この時期は不味い、いや…、そうか…そういうことか?」
どうかしました? ずいぶん考え込んでましたが。
「うむ、今ホグワーツにある事案と、このドラゴン騒動が線で結ばれるとしたら?」
…まあ陽動ですかね。
ハグリッドさんがどうやってドラゴンを手に入れたか知りませんが、そうそう手に入るもんじゃない。
ドラゴンが騒動になった所で本当の目的に動く、…て、そうなるとトロールも?
「そうなるだろう…」
そこでスネイプ先生は私の顔をまじまじと見て、
「今言った事は忘れるように」
と一言だけ言って私を研究室から追い出しました。
どうやら途中で私が居ることを忘れて思索に没頭してたらしいです。
やれやれです。