炎を突っ切った先、そこには。
「おとなしくしなさい…」
後頭部になんかきっしょい顔をへばり付けた誰かさんが、ポッター君に手を伸ばしてるっていうホラーっぽい絵面が飛び込んできた。
とうぁっ!
発作的に後頭部の人面瘡に蹴りくれてた。
見事に直撃、私の全体重と加速を付けて叩きこんだ蹴りだ、普通はKO必至なんだけど。
この野郎上手く衝撃を逃してダメージ最低限にしやがった。
その分十分に突き飛ばせたけど。
ポッター君の前にシュタッと立って、相手を睨みつけた。
…クィリナス・クィレル先生やん。
全く予想してなかった。
授業の雰囲気は、ものっ凄い弱気な魔法使い。
これで「闇の魔術に対する防衛術」の先生だもんな。
大体の生徒がまあ甘く見てるような人。
しかし、後頭部にあんな妖怪みたいなの、というか妖怪人面瘡そのものをへばり付けてる、ってのは完全にアウトだろ。
どうもここに隠してあるだろう「何か」を…。
『ハリー・ポッター、賢者の石を寄こせぇ』
人面瘡がなんかわめいてます。
ほほう、「賢者の石」ねえ。
それがホグワーツに隠されてたお宝、かな?
どうやらポッター君はそこいら辺知ってたっぽい。
でもスネイプ先生が狙ってると思い込んでたのは間違いだった、という訳か。
自分達に攻撃的だからと言って、敵とは限らん訳だしねえ。
まあこの野郎が一角獣を襲ってた犯人で間違いないだろうし、とっとと叩きのめす!
こおぉぉっ。
全身に「気」を巡らせる。
前戦った時はそんな余裕がなかったけど、今の私の打撃力はヘビー級ボクサーに匹敵する。
ジャブですら、モロ喰らいすればちょっと洒落にならないダメージになる。
身軽なフットステップで近づき、素早いジャブの連打で攻撃する。
いくら技量が高いと言っても、この攻撃なら…、!?
ぞっとして私は一気に後退した。
今のペースで撃ちこんでたら…、なっ!?
私が後退する速度、それに合わせて、クィレル先生、いや、クィレルがするすると近づいてくる。
これは!
「武術の歩法か!!」
上半身を揺らす事無くまるで滑るように近づいてくる、その技術。
様々の武術で取り入れられている歩法、だがそれは流派によっては「奥義」と呼ばれるものだ。
一朝一夕で身に付くもんじゃない!?
「くっ、このぉっ!」
苦し紛れに撃ったパンチ、それをクィレルはこともなげに左手で受け止め、
「ふっ!」
「だぁっ!?」
手首の関節を決め、投げ飛ばしにかかる。
このままだとまずい!?
私はそのまま流れに任せ投げ飛ばされ、
「!?」
喰らえッ! 空中回し蹴りだっ!!
投げ飛ばされながら体を捻ってクィレルの後頭部を蹴飛ばしてやろうと…、なにぃっ!?
何時掴まれたかもわからないまま、私の体は右の足首を支点にぐるんと一回転、地面に叩きつけられた!?
攻防を見た少年:ハリー・ポッターの言
目の前で行われた攻防、ハリー・ポッターはその優れた動体視力でそれを見ていた。
マリー・ウェリントンが繰り出した右のフック、それは普通避けられるようなものではなかった。
それをひょいと左手で掴んだのはクィリナス・クィレル。
クィレルは受け止めた手をくいっと捻る、そうするとマリーは魔法のようにくるんと投げ飛ばされた。
しかし、彼女はそれだけではなかった。
空中で回転している最中にクィレルにキックを放っていたのだ。
ところが、クィレルはマリーの手を離し、くるりと蹴り足を左手で受け、さらには彼女の足を脇に抱え込んだのだ。
そのままクィレルは倒れこむように一回転、マリーもその動きに合わせるように回転し、
「ぎゃんっ!!」
地面に叩きつけられた。
きっつ。
叩きつけられた後(後から考えるとドラゴンスクリューで投げられたみたい)、追撃されちゃかなわんとちょっと無理して体を跳ね上げる。
正直言って舐めてたか。
こりゃ「ある程度」なんかじゃない。
「
こいつぁポッター君庇いながら戦ってらんねえぞ、マジで。
「ポッター君、逃げろ!
君がこっから出られればこっちの勝ちだ!」
そう、勝利条件はポッター君が持ってるだろう「賢者の石」を守り抜く事。
それさえ出来ればクィレルはじり貧だ。
ならば私が壁になってポッター君を逃がせば、そう考えた時だ。
ポッター君が走り出す。
その先に、
ばしん!
紅い閃光が走った。
クィレルが
それがポッター君の動きを止めていたんだ。
なんと、こいつ魔法戦士って奴か!?
いや、拳法を使うから魔法拳士?
とにかく真っ当じゃないぞこいつ!?
…まさか!?
「くっそ、もしかしてあんた」
トロールとか、武術で叩きのめして従えてたんじゃ?
「よく分かりました、ね。
そうです、私は、手足のある相手なら、だいたい倒せますから」
そういやミイラ倒したとか言ってたっけ。
あと吸血鬼とやりあったとか。
「ええ、ええ、ミイラは呪いさえ気を付ければ楽な相手でした。
とてもやりにくかったですよ」
やりにくいで終わるのかよ。
こうやって話している間にもポッター君に魔法を飛ばし、どんどんと彼は出入り口から離されてる。
右手の杖魔法と左手の合気。
かなり、いや恐ろしく練りこまれた戦闘スタイルじゃないか。
なんでこんな強い奴があんな
「…不思議ですか? わたしが、ご主人様に従っているのが」
…まあねそんだけの実力を持ってたら、普通そんなんの誘いなんて受けないちゃうのん?
「私はね、魔法の力はたいしたことない。
学生時分も、私より優秀だった奴も沢山いた。
だから私は学んだ。
だがね、確かに私は優秀だったが、同時に『最も優秀』ではなかったんだよ。
知識にかけては私は当時最高峰だった、そう自負出来るさ。
だがね、魔法使いはやはり魔法を実践してこそだ。
実習において、私は私より知識に劣る者たちの後塵を拝してきた。
だからだ、私はマグルの『武術』に目を付けた。
それを修めれば、私は強くなる!
もう知識に劣る者たちに負けない! とね。
ちょうど良かったよ、武術とはどのように戦うかの知識の集大成だ。
どう戦うか、だけではない、どう肉体的に強くなるか、も含まれていた。
ああ、マクゴナガル先生、確かに『知は力』でした!」
そう言って、クィレルはべリリとローブを体から引っぺがした。
そこから現れたのは、鍛え抜かれた鋼の肉体。
決して筋骨隆々と言う訳ではない。
しかし、その体は金属製のワイヤーをより合わせたような、ある意味芸術品の風格を呈していた。
信じらんない、あれは、あの肉体は。
「そう、私はこの肉体を『戦い続ける事』で手に入れた。
禁じられた森に分け入り、森の中に住まう狼人間、トロールと戦い続けることで、ね」
こいつ
ホグワーツで優秀な成績を収めると同時に。体を壊し最悪死ぬかもしれない実戦で武術を鍛えたっての!?
確かに、昔の武術の達人はひたすら組手やって実戦向けの体を作り上げたっていうが、そんなん実戦の連続で培うって頭おかしいレベルだぞ!
「男塾」の連中ですら「死ぬかもしれないような特訓」を積んで強くなったってのに、ひたすら実戦だけで、あの肉体育て上げたっての!?
凄まじい向上心の修羅、それがクィリナス・クィレルってことかよ…。
「だが、結局私を魔法界は認めなかった。
どれだけ強い妖怪、闇の魔法使いと戦い、勝ったとしても、だ!!」
その顔には、理不尽に認められない男の悔しさが浮かんでいた。
「だから、だ。
私は『ご主人様』と契約した。
彼の御方が復活した日には私をその際側近として認め、使ってくださると!
その時こそ私は魔法界にその人あり、と勇名を馳せる事が出来るのだ!」
ぬぐぅ…。
これは、何とも言えん。
私の前世がおんなじことを考えていたから。
強くなれば認められる。
強くなれば報われる。
かつての私が暮らしていた所はまあ平和な所だったから、自身で道場を開くか、せいぜいプロレスラーかプロ格闘家になるしか武術を修めた奴がその技術で飯を食う方法ってなかったんよね。
でも前世の私が修めてたのって「殺法」、人を殺す技術だった。
もちろん裏の社会にいけばそれなりに役には立ったかも知んない。
でも、それを良しとはしなかった。
その結果、普通の職に付いて、普通に働いて、その技術を塩漬けにしたまま死んじゃった。
その後悔は分かるんだ、だけどさ。
私が唇をかみしめた時だ。
「そんなの間違ってる!」
…さすがグリフィンドール。
まっすぐに突っ込んでいく。
私には出来ない事だ。
…クィレルがひるんだ。
やっぱりそうか。
確かに技術を塩漬けにしてそれが生かされない、それは悲しい事かも知んない。
でもさ、それはそれで良い、クィレル、あんたはそう思った事はあったんじゃねえか?
「何を…」
楽しかったんじゃねえの? 学生の時、ホグワーツで教師やってた時。
「先生は授業の時、ちゃんと教えてくれてた」
だよな。
確かにあんたは侮られてた。
だけどさ、あんたの教えてた事、それが私らの知識、血肉になってくことに喜びを感じてなかった、たあ言わせねえよ。
「黙れ…」
「マクゴナガル先生と話してるとき、クィレル先生は楽しそうだった」
だな。
どっかおどおどしてたけど、それはヴォルデモートに取っ憑かれてんのを気にして、だろ。
楽しかったんだよ、あんたは。
「黙れ……」
「だから、あなたはスネイプを殺さなかった!
あんたにとって大事な日常、ホグワーツの日常を、あんたは壊したくなかった!
あんたはホグワーツが大事だったんだ!
「黙れぇぇぇっ!!」
『そうだ耳を貸すな、お前の望み、魔法界に我が片腕として名を轟かすのはもう目の前だ…』
「うぉおおおぁぁっ!!」
雄たけびを上げながらクィレルが突っ込んでくる。
ここは真っ向勝負!
腕の一、二本はくれてやらぁっ!
そう思って構えた時。
私もクィレルも全く考えていなかったろう。
「ぅわああぁぁっ!」
ポッター君がクィレルに掴みかかったんだ!?
それは双方にとって思いも掛けない効果を生んだ。
「ぐわぁぁっ!?」
ポッター君が掴みかかって、それを難なく受け止めたクィレル、その手から焼け焦げるような臭いと煙が上がる。
慌てて手を離すクィレル。
そのままポッター君はクィレルに掴みかかり、その動きを止めてくれた。
ここが唯一の
杖を捨てて、私は左の貫手をクィレルに突きこむ!
「ぐぅ、この程度ぉ!」
クィレルがそれを受け止め、捻り、
ぼきん!
私の左肘がへし折れる!
だが、それも想定の範囲内なんだよ!
本命はぁ!
「こっちだあぁっ!!」
その時、私は意識してなかった。
私の右の拳骨、そこに、うっすらと「青白い光」が灯っていたのを。
ガツッ、という衝撃と共に右のストレートがクィレルの顔に叩きこまれた。
そして、
『うぉぉぉおおおっ!?』
なんか押し出された!?
不気味な人間と蛇をいい加減に混ぜ込んだような奇怪なお化け、とでもいうものがクィレルから弾き出された。
クィレルは完全に気絶したようで、支えきれなくなったポッター君がほっぽり出してる。
やべえ、もう気力が持たねえ。
『許さんぞぉ餓鬼共ぉ…』
ふらりふわりと漂うようにそこにあるお化け。
両の腕を掲げ、こっちに掴みかかろうとしている。
「ポッター!」
私は咆えた。
「拳骨構えろぉっ!」
その声に、ポッター君はファイティングポーズをとる。
意外に様になってやがる。
「ほんでぇ、ぶっ叩けぇェッ!」
「うわああぁぁっ!!」
そして、ポッター君の拳骨はお化けの顔面を見事に捉え。
『うおぉぉぉぉ…』
そのまんま、お化けは散って消えていった。
ホグワーツ校長:アルバス・ダンブルドアの言
ロンドンでの会議を終わらせ、ホグワーツに戻ったアルバス・ダンブルドア校長。
彼がホグワーツに帰って玄関をくぐり、
「む、これは結界かの…」
感じ慣れぬ魔法の気配があった。
それを杖の一振りでかき消すと。
「あれ?」
「! 校長先生!」
出会ったのはロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーだった。
「賢者の石」を守っている部屋に侵入者があり、ハリー・ポッターが犯人と対峙していると言う。
彼はそれを聞いた途端、風のように走り始めた。
「妖精の魔法」の教室のある階の突き当り、三頭犬のいる部屋に飛び込み、済まなそうに頭を擦り付ける三頭犬に気にするなと手を振り。
そのまま扉に飛び込んで杖を一振り。
燦燦と輝く太陽の光と共に地下におり立ち、その後も杖を一振りする毎に扉を開け、一瞬にして最奥の部屋に辿りつく。
そこには。
「おお、なんという事じゃ」
床に倒れていたのはハリー・ポッター、マリー・ウェリントン、そしてクィリナス・クィレル教授だった。
三人とも傷はあるものの、命に別条はないようだ。
ダンブルドアは涙を浮かべた。
「クィレル、君も生き延びてくれたか…、ハリー、ようやってくれた。
そして…」
ダンブルドアはマリーへと目を向けた。
彼はマリーがここにいるとは思いもしなかった。
ダンブルドアは杖を振るい、この部屋でおきた事を「みぞの鏡」に映し出した。
「…そうか、彼女がクィレルを救ってくれたんじゃな、ありがとう、マリー」
ダンブルドアは嬉しそうな笑顔を浮かべた。
と言う訳で、クィリナス・クィレル武術の達人化でした。
彼の体型は「自重トレーニングの神様」のイメージです。
彼は学生時分にマクゴナガル先生から「知は力なり」という格言を贈られたそうで、そこから「知識・技術≒功夫」という化学反応が起きて生まれました。