ホグワーツの中にある一室。
そこにクィリナス・クィレルは監禁されてました。
ホグワーツって学校と言うよりは城砦の体を成していて、勉強だけに使うにはおかしいんじゃないか、って部屋もある。
昔の魔法使いの抗争なんかがうかがえる作りなんだ。
かなりしっかりした作りの扉と部屋の所々に彫り込まれた、ルーン文字かな? がここにいる存在の魔法の力を抑え込み、脱走を食い止めるのだろう。
そんな部屋の中で、クィレルはそれだけ奇妙に新しくてきれいなベッドに寝かされていました。
「…私に、なんの用ですか?」
クィレルはそう私に言いました。
まあそりゃそうか。
1日前には喧嘩してた相手だし、クィレルにしてみたら自身の大望を打ち砕いた奴らの一人だしね。
でもなあ。
それは本当にクィレルの望んだ事だったんだろうか。
本来、クィレルは自分を認めさせることが目的だった。
で、ヴォルデモートを名乗る
けっきょくそれって「ヴォルデモートが凄いんであってその部下はそのお零れにあずかってる」だけなんだよね。
ヴォルデモートって言う大きな支えがなくなると崩れちゃう代物だ。
そんなのをあれだけの肉体を実戦のみで作り上げた
いずれ我慢が出来なくなると思うんだよね。
まあそんな事は良いんだ。
私はクィレルの前に立って、
片膝をついた。
「ん?」
クィレルは眉をしかめた。
「私はあんたを認める。
あんたの培った『武』は本物であり、高みにあるものだ。
あんたは間違いなく『
誰が否定しようと、あんたと戦った私があんたを認める。
あんたは強い」
これが言いたかっただけなんだよね。
我ながら身勝手なもんだ。
だけど、これは言っておきたかった。
この人が培ってきた武術、それがどれだけ凄いものか、ここじゃ私しか分からない事だから。
あの芸術的な左手での受け流し、流れる様な関節の極め、そこからタイムラグのない投げ、どれもこれも一朝一夕で完成するものじゃない。
それこそ「男塾」の面々が死ぬ思いをして血反吐と涙と汗を流し、完成させていった超人技、それに匹敵する。
だから私は彼をこう呼びたいんだ。
「
達人と呼ばれた男:クィリナス・クィレルの言
「
彼女、マリー・ウェリントンはクィリナス・クィレルをそう呼んだ。
それはクィレルにとって最も渇望していた言葉だった。
かつてミネルバ・マクゴナガルは学生だった彼にこの格言を与えた。
「知は力なり」と。
しかし、今彼は己がその言葉を「完全に理解していなかった」ことを理解した。
知は力なりとは哲学者であり魔法使いであったフランシス・ベーコンの言葉だ。
ベーコンは、「知識とはなにか?」という問いに対して、「力だ」と断言している。
人類を前進させ、未来を変える、圧倒的な「力」なのだと。
そしてその力は、「観察」と「実験」によって結実すると。
故に、クィレルはただ知識を収集するのではなく、それがどのように作用するかを観察し、実際に使用し、実験を重ねた。
そうすることで知識は彼の中で結実した。
武術も同じだった。
彼が最初に手に入れたものは日本のマグルの出版社が販売していた「合気道入門」なる、武術の秘伝でも何でもない教書だった。
クィレルはそれを読み解き、実戦に実戦を重ね、この武術が何故このような動きをするかを徹底的に分析、解析していった。
やがて彼は様々な武道、格闘技の書物を集めた。
中には胡散臭いものもあったが、その中に「道士の為の武術書」、つまり中華圏の魔法使いの為の格闘指南書も含まれていた。
その要諦をクィレルは抜きだし、自身の修めた合気道の格闘動作に組み込んでいき、己の為の武術を作り上げた。
武術に限らず習いごとには「守・破・離」という言葉がある。
まずは師匠の模倣から始まり、それに他流派の技術などを取り込んで自分なりのカスタムを行い、精通しきった技を完全に己のものとして一流派を完成させる。
そういった意味がある。
彼は、在学中の数年間で一つの流派を構築したと言って良い。
それだけのことをしてのけたのだ。
しかし、それはあまりに魔法族の中では異質だった。
彼の成し遂げたことを理解できる者はいなかった。
故に彼は修行の旅に出た。
実績を作れば世界は彼を認めると思った。
残念だが、そうはならなかった。
魔法こそが力、そう認識されている魔法族の社会に置いて、武もまた力であると認める者はいなかったのだ。
そこに付け込まれた。
アルメニアの森の中で、彼は幽霊のような存在となったヴォルデモートと出会ったのだ。
ヴォルデモートはクィレルの心の中にある燻りを上手く炊きつけた。
奴は「この世には力のある者と力を求めるには弱すぎる者がある」と言った。
この時点でクィレルは間違えた。
力すなわち知である。
知を蓄えてそれを正しく使うものと、使いきれない者があり、自分は力を持ち、使えるものだと錯覚したのだ。
ヴォルデモートが、最強の魔法使いがそう肯定した事により。
彼は間違った。
マクゴナガルより貰った格言、「知は力なり」、その言葉に含まれる禁忌を理解していなかったがために。
この言葉を生んだベーコン、彼はその書の中で「四つのイドラ(先入観、偏見、間違いなどの意味)」を挙げている。
人間の感覚における錯覚や本質に基づく偏見である「種族のイドラ」。
個人経験を絶対と考える各個人が持つ偏見や誤りからくる「洞窟のイドラ」、「井の中の蛙大海を知らず」と言えば分かりやすいか。
歪んだうわさ話など、人が交際する過程で生まれる情報の不適当さ、不正確などから生じる偏見である「市場のイドラ」、
そして「劇場のイドラ」
思想家や科学者の間違った証明から生まれた間違った法則を権威や伝統から無批判に受け入れることで起きる誤りの事だ。
例を挙げるならば「天動説」だろうか。
現在では様々な研究から天動説は否定されているが、二十一世紀に入るまで天動説はキリスト教によって肯定されていた。
キリスト教会と言う巨大な権威が天動説を否定させなかったという事だ。
クィレルがやった誤り、それはヴォルデモートと言う強大な魔法使いの言葉を無批判に受け入れてしまったがため、マクゴナガルから貰った言葉を汚してしまった事にあった。
座右の銘を汚してしまった自分には何もない。
クィレルはそう考えていた。
だが。
それでも自分の進んできた道を否定しないものがここにもいたのか。
何もない訳ではないのか。
クィレルはそれだけでこの先を生きていける、そう思えたのだった。
それから二日ほど。
学年度末パーティーの日です。
大広間に校内のみんなが勢ぞろいし、最後のパーティーをする訳ですな。
で、行ってみると、
「おお! エメラルド色!」
そう、今年のクィディッチ寮対抗戦はスリザリンが勝ったために、寮対抗杯は七年連続でスリザリンが頂く事になったんだよね。
大広間の飾り付けがグリーンに銀糸の垂れ幕、そしてスリザリンの象徴であるおっきな蛇の像がどーんと。
いやはや、私とマルフォイ君の減点が響かなくて幸いでしたわね。
これで堂々とご飯が食べられるってもんです(重要)。
ぐるりと見回すとグレンジャーちゃん、ウィーズリー君が見えます。
グレンジャーちゃんは私の顔を見るとこちらに来るかどうか逡巡してたようですが、私が軽く手を振ると、ちょっとはにかんだように笑ってくれました。
うむ、少女の笑顔はかわええのお。
それはともかく。
暫くするとポッター君が入ってきました。
おうおう、ここんとこですっかり話題になったもんなあ、ポッター君。
マルフォイ君がぶんむくれてますな、分からなくもないけど。
規則の範囲内でやろうとするスリザリンと、規則を踏んづけてでも自分の意志を通そうとするグリフィンドール。
グリフィンドールのやり方は外れると大打撃、今回だとドラゴン輸送の件とか、だけど、当たればホームラン、ってなもんだからね。
ポッター君の活躍はウィーズリー君が散々話している。
おかげですっかりポッター君は
やれやれですな。
ちいっと魔法族、噂とかに乗っかりすぎではなかろうか。
…もしくは魔法族はそう言う存在なのか。
魔法を使う時には「感情」が重要だと言う話で。
ってことは、感情が強いと魔法の力が強い、ってなこともあるかも知んない。
年経た魔法使いは、感情の使い方、制御とも言うのかも、が上手いからこそ強いのかもしれないなあ、と思う。
きっとダンブルドア校長なんかは若いころの気力十分な状態の頃よりも今の穏やかな心の状態こそがより強いんじゃないかなって。
刀は抜き身よりも鞘に収まっている方が怖い。
同じように、普段感情的でない魔法使いがごく稀に見せる激情こそが強いんじゃないかな、と。
そんなことを考えていると、校長先生のお言葉が。
…なるほど。
寮対抗杯の表彰を行うのね。
グリフィンドール三一二点、ハッフルパフ三五二点、レイブンクロ―四二六点、で
結構やばかったなあ、危なくレイブンクロ―におっつかれそうになってた。
ドラゴン騒動がなければグリフィンドールが四六二点、うちらが四九二点、おや、それでもうちが勝ってたか。
周りが盛り上がるなか、そんなことを考えてると。
「しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」
そう校長が付け加えた。
そして、
「駆け込みの点数を幾つか与えよう」
おいおい、レイブンクロ―に点が入ると下手すると逆転もあるぞ、おい。
そうなると私とマルフォイ君、というか私に非難が来るじゃないか、めんどくさい。
で、
「ロン・ウィーズリー君」
げ、これはあの騒動についてか!
ウィーズリー君に+五十点!? グレンジャーちゃんに+五十点!?
これはあれか、魔法使いとして先輩魔法使いの試練を乗り越えたって事でか!?
ってこたあ、
「その完璧な精神力と、並はずれた勇気を讃え、グリフィンドールに+六十点を与える!」
そう来たかあ!?
まあ確かにさあ、あの
正直同じく対峙した私としては校長の判断を否定できん。
これで+百六十点、グリフィンドールが四七二点でトップかあ。
ここでダンブルドアがぴん、と指を弾くと、その瞬間、グリーンの垂れ幕が真紅に、蛇の像が獅子に代わった。
グリフィンドールのみならず、レイブンクロ―とハッフルパフも大盛上がりだ。
まあここまでスリザリンが七連覇してたらしいしね。
しかし、まいったな、と思ってると。
「四番目は、」
校長がそう言い続けた。
周囲がしん、となるとともに、
「マリー・ウェリントン君! 友を庇い、自らが傷つこうとも決して引かぬその心意気に、三十点を与える!」
ぅお!? って事は…。
垂れ幕がもう一度グリーンに切り替わり、獅子の像が蛇に代わった!
スリザリンが四百八十二点でまたもやトップに!
…周りは盛り上がってるが、まさかまた、とか思ってると。
「勇気にもいろいろある」
校長がまた話し始めて大広間は静かになった。
敵に立ち向かうのは並々ならぬ勇気が必要、しかし、
「味方の友人に立ち向かっていくのも同じくらい勇気が必要じゃ」
そして、
「ネビル・ロングボトム君に十点を与えたい!」
その瞬間、垂れ幕が緑と真紅、銀糸と金糸に彩られ、獅子と蛇の像が並んで現れた。
爆発的な盛り上がりが会場を包んだ。
私は吊るし上げ食らわんでほっとしてたよ、うん。
さて、その後、授業が終了して、みんなが帰省する前、試験の結果が発表されました。
みんなで勉強に取り組んだ結果、学年末テストにおいて、全員が一定以上の順位を取る事になり、今まで上位を独占していたレイブンクロ―寮の皆を驚愕させる事になりました。
寮対抗杯の時よりも驚きは大きかったんじゃないだろうか。
スリザリンの良い所である結束、というのが本当にいい方向に向いた結果でした。
マルフォイ君は総合成績十二位、もうちょい勉強に身を入れればもっと上を狙えるのにもったいないです。
クラッブ君も大体真ん中ぐらいをキープ。
レイブンクロ―の成績下位よりもほんのちょっと上くらいの成績でした。
ゴイル君も赤点なし、うっしゃ!
うつらうつらするのを尻叩いて勉強させた甲斐があったのです!
まあレイブンクロ―の驚愕は、第一に学年トップがグリフィンドールのグレンジャーちゃんだった事によりますがね。
因みに私もそこそこいい感じの成績を取る事が出来ました。
全体で10位。
中々のもんです。
とは言え、
「一問、間違ったなあ…」
スネイプ先生からねっちねちと。
この人、みんなの分の他に私用に問題作り込んできやがった。
しかも参考書でおんなじ内容で違う記述のあるとこを引っ掛けに使ってんの。
「ふん、それは新しい方よりは古い方を参照しろ、と言っただろうが。
新しいからと言って正しいとは限らん。
マグルの科学雑誌とやらにもそう言う事はあるのだろう?
一年しない内に十発表された内の九は消える、と。
教えてくれたのは誰であったかなあ…」
ぐぬぬ。
次は見ておれ大魔王セブルス・スネイプめえ。
「ふむ、楽しみにしておこう」
ぐぬぬ。
で、あっという間に夏季休暇。
みんなに再会を誓ってお別れです。
「梟便を出すからな」
「じゃあまたな」
「次は新学期でな」
ほいよ。
じゃあまたね。
そう言って、私達はキングストン駅で別れたのでした。
しっかし一年生は激動だったなあ。
まあこんな事はそうそうあるまいて。
まさか来年度もこんなんじゃ…。
いやまさまかまさか。
…。
万が一考えて、休み中はもうちょっと鍛えとこうかな。
そんなことを考えながら、私は家路に着いたのでした。
次の年、マジで更なる激動が私を襲うとも知らないで。
第一部:ハリー・ポッターと賢者の石…とマリーウェリントン 完
以上、第一部完です。
これから時間がある時に書き溜めて投稿いたします。
だいぶ時間がかかるかと思いますが、申し訳ありません。
なお、フランシス・ベーコンを魔法使いとしたのは私のねつ造です。
そのような設定は「魔法ワールド」の中にはない、はずです。