Other Side
攻撃は、イリヤスフィールとフィフスが同時に行った。
突撃するバーサーカーに合わせるように、イリヤは髪でできた使い魔から魔力の射撃を叩き込む。
フィフスは自らマシンガンによる射撃を敢行しつつ、駆動鎧達に射撃を行わせる。
イリヤスフィールの攻撃は全体に散らばっていたが、フィフスの攻撃はバーサーカーに対する一点集中。
これは魔術師の観点から見れば極めて正しい。
そもそも位置取りから言って、攻撃の殆どはバーサーカーで遮られる。同時にバーサーカーとイリヤスフィールでは、戦力という観点において圧倒的な開きが存在する。
最強戦力に攻撃を集中して短時間に鎮圧する。これは成功すれば敵の士気と戦力を同時に大きく削れる策だ。
しかし―
「■■■■■―――ッ!」
―それは、最強戦力を瞬時に無力化できるだけの手段がある場合のみ。
一切通用を受けていないといわんばかりの突撃に、攻撃を受けて若干だが隊列を乱していた駆動鎧たちは吹き飛ばされる。
駆動鎧はすべてが両腕をウェポンユニットとして運用していた。
その腕に組み込まれている四つの基部が展開して、魔力による障壁を張っていてなお跳ね飛ばされたのだ。
そして、それによって大きく崩れた駆動鎧達に刀身が突き立った。
鮮血を零し崩れ落ちる駆動鎧を見て、イリヤは少しぶぜんとした表情を浮かべた。
「ふーん。科学技術が高すぎると聞いたけれど、駆動鎧っていうのは
「流石はアインツベルンの誇る自然の嬰児。
フィフスもまた、平然とその光景を見ながら、棍を軽く構える。
死体が一気に十数人も増えるような惨状を、お互いに何も感じてないとしか思えない態度で当然の結果としてのみ受け止める。
その光景に何人かが息を呑むのは当然だろう。
フィフス・エリクシルはいい。相当の年月を生きてきて、更に殺し合いの経験も豊富で、とどめに精神面においても危険人物というほかない。
だが、まだ幼女から少女に移り変わる時期にしか見えないイリヤスフィールの在り方は、子供という無邪気故の残酷さだけとは思えないものを持ち合わせていた。
「……いい機会だから覚えて起きたまえ。
そう、二世は前置きする。
「魔術の鍛錬は多少なりとも命の危険を伴うものや、取り扱いを間違えれば悲惨な死に方をする者が存在し、その危険性を教える為に動物を対象として失敗の結果を見せるというのは少なからずある。また
自分達は世界の裏側という凄惨な場所に住んでいることを、二世ははっきりと断言する。
「子供であっても魔術師ならば、殺し合いを経験して二桁殺しているということも珍しくはない。そちらが殺さないのは勝手だが、殺さないなら殺さないで容赦なく無力化することをお勧めするよ」
その言葉を、目の前の戦闘が証明している。
その光景を弓を構えながら見つつ、アーチャーは息を呑む士郎に冷たい視線を向ける。
「覚えておくといい衛宮士郎。これは衛宮切嗣という男が辿ってきた道のりでいうのなら、まだぬるい部類だ」
「……え?」
問い返す士郎に、アーチャーはもう視線を向けていない。
「その意味を理解せずに踏み込んだところでお前の夢は叶わん。理想と共に溺死するだけと覚えておけ」
「……いや、そんな場合じゃないだろ!? っていうか、そもそも止めなくていいのかよ!」
士郎はそう声を荒げる。
冷静に考えれば、此処にいる者達はみな武闘派なのだ。
グレモリー眷属や時空監理局の者達は、正真正銘実戦を経験しているどころか、それをすることが仕事の立場と言ってもいい。
それ以外の者達にしろ鉄火場は潜り抜けている。少なくとも、ただ体を鍛えているだけの自分より遥かに戦えるだろう。
なら止めるなり助太刀するなりすればいいと、そう言いたかったが。
「おい兄ちゃん。悪いんだが今は動けねえよ。……動きたくても動けねえんだよ」
そう、銀時は言い放った。
それに怪訝な表情をする者も少なからずいるが、その答えを理解できていない者だからこその反応でもある。
それに対して、アザゼルが肩をすくめながら周囲を見渡した。
「来てるのは三桁だって言ったろ? フィフスが引き連れてるのはごく一部だ。間違いなく三桁は超える数がこの辺一帯を囲んでいる。場慣れしてる連中ならすぐに分かる隠れ方でな」
その言葉に士郎が驚愕する中、兵夜は周囲を警戒しながらもため息をついた。
「人海戦術はフィフスの十八番だ。古来より敵より多くの数を用意するのは戦術の基本だが、あいつはあの手この手でそれを用意するのが得意でな」
「なるほどね。そしてイリヤスフィールを呼び寄せた以上、事情を知れば彼女が仕掛けることは確実。だから最初から、それ以外の介入をけん制する為の布陣を取っていたということね」
周囲を警戒しながらリアスはそう悟り、ゆえに確信する。
フィフス・エリクシルは最初から、イリヤスフィールとの戦闘を主眼に置いている。それはつまり、彼女が連れるサーヴァントとの戦闘も想定しているということだ。
つまり、最初から勝算があるからこそ挑んでいる。
あれは無意味な賭けを好んでするようなタイプではない。懸けるのならば可能な限り勝算をしっかり計測するタイプだろう。
それにイリヤスフィールは気づいていない。そして、それを指摘するより早く戦闘が始まってしまった。
故に、イリヤスフィールの苛立ちは当然の結果だろう。
「……どうしてよ。なんで、バーサーカーが本気で狂ってるのにまだ殺せないの!?」
「狂ってるからだよ、イリヤスフィール」
その言葉を聞き取り返答できるほどに、フィフス・エリクシルは余裕を保っていた。
剛力と瞬息を併せ持つ、バーサーカーの石斧による斬撃。掠めただけでも上級悪魔すら四肢がもぎ取りかねない斬撃は、彼が最強格のサーヴァントであることの証明だ。
しかし、それをフィフスは棍だけで凌いでいる。
振るわれるすべての攻撃をいなし、それどころか顔色一つ変えずに平然と言った対応でそれらすべてを凌いでいた。
イリヤスフィールはこの光景を認めたくても認められない。
アインツベルンが最高傑作を投入する最後の賭けともいえる第五次聖杯戦争に投入することを決めたサーヴァント。その猛攻をこうもしのがれていることが認められない。
そして、その光景をいくらかの者は納得しているように見ている。
銀時やアーチャー、そして兵夜にアザゼル。この四人は特に納得という言葉を態度に示していた。
「……そういえば、時空監理局ではこういった言葉が多少広まっているらしいな。「自分より強い相手を倒すのに、相手より強くなければならないか?」とかいうのが」
そう、全ての攻撃をいなしながらフィフスは告げる。
「……そうだね。私もその言葉は戒めているよ」
「そうか。悪いがこの世界でその言葉は通用しない」
なのはに被せるぐらいの勢いで、フィフスはそう告げる。
その言葉に、グレモリー眷属を中心とするこの世界の者達は、どこか納得した雰囲気を示していた。
そして、フィフスは大上段から振り降ろされる斬撃を棍でいなして、更に反撃を叩き込む。
いなしたときに生まれる勢いを利用して、そのまま懐に入り込む。
その勢いを足に乗せて、バーサーカーの膝に足を乗せる。
更に勢いを乗せることでそのまま宙に浮かせ、対応ができない瞬間に棍を突き上げる。
どれだけバーサーカーが強大であろうと、空中飛行能力を何一つ持ち合わせていなければ、空中での衝撃をいなすのには限界がある。なにより踏ん張る者頑ければ、宙で喰らう打撃はそのまま反作用に則って吹き飛ばされることを意味する。
必然、バーサーカーは数十メートル上空に打ち上げられた。
「何故なら、この場合の強さとは
撃ち上げられて攻撃を行うことができないバーサーカーを意識から僅かに追い出し、フィフスは告げた。
そう、それこそがフィフスがバーサーカーをどうにかできた最大の理由。
遍く攻撃のベクトルを最小限の動作で自分からそらす。その卓越した技量により、絶大な力を受け流したからこそ、フィフスはバーサーカーの猛攻をしのぎ切ったのだ。
「この世界ではそれも強さだ。
そう告げながら、フィフスは棍をどこかにかき消した。
そして破壊され殺戮された駆動鎧に近づくと、指を鳴らす。
瞬間、瞬時に燃え上がる駆動鎧。
当初から情報抹消用に組み込まれていただろう仕込みを起動させながら、フィフスは上から落ちてくるヘラクレスを見る。
落下速度を利用してより強大な一撃を叩き込む。よしんばいなされても、衝撃波で叩き潰すという意思が見て取れた。
それを確認しながら、フィフスは大きく息を吐くと、炎を喰らう。
そう、炎を喰らったのだ。
そして同時に、バーサーカーはフィフスに向かって落下した。
それをフィフスは、炎を纏った抜き手で迎え撃ちー
「火龍の鍵爪」
―そして、バーサーカーの胴体はあまりにも深くえぐり取られる。
心臓すら抉り取る一撃は、まごうことなき致命傷。
「……たかが一地方で暴れる程度しかできない連中が、文字通り世界を相手にする奴相手に無双できるとでも? 甘いんだよこれが」
そう吐き捨てるフィフスは、そのまま真っ直ぐにイリヤスフィールを見据える。
「思ったより簡単にしのげたんだが、次に進めていいか?」
その光景に、カルデアのメンバーは特に目を見開き、他の者達も大なり小なりが似通った反応を示していた。
バーサーカーの戦闘能力は非常に高かった。ことカルデアのメンバーは、全力で行動しているヘラクレスの猛威を改めて感じ取っていた。
あれを敵に回して勝てるのはごく一部だ。そして、圧倒と言ってもいい形で下せる者など希少種という言葉すら生ぬるい。
カルデアにいるサーヴァントでもここまでできる物はごく一部でしかない。それと同等の戦いを、サーヴァントでもない存在が成し遂げた。
その事実に瞠目するなか、しかしイリヤスフィールは平然としていた。
「……ふーん。言うだけのことはあるじゃない」
「まあな。だが、肝心の切り札を倒されてそんな余裕を見せれるとは、ショックで気でも狂ったか?」
顔色は少し悪いが、しかし冷静さを見せているイリヤに、怪訝な表情をフィフスが浮かべる。
それに対し、イリヤスフィールは小首を傾げた。
「あれ? 一度殺した程度でどうにかなると思ってるんだ。甘いんだね」
その瞬間、バーサーカーは即座に起き上がる。
明らかに心臓をえぐり取られた致命傷。そのはずだった負傷は半ば塞がっていた。
フィフスはその突撃攻撃をいなすが、しかしこれによって再びバーサーカーはイリヤスフィールを守る盾となる。
その光景に、フィフスは小さく舌打ちをする。
「……そうだったな。バーサーカーの宝具は殺しても死なない質の悪い宝具だったな」
「そうよ。サーヴァントが最低一つは持っている、己の伝承に由来する力、宝具。
イリヤスフィールの余裕は此処から生まれている。
そしてその信頼にこたえるように、バーサーカーは深く腰を落とし、いつでも攻撃できる体制をとる。
その待ちの構えに対して、フィフスは興味深そうに目を細めた。
「……へえ、普通に理性が飛んでいるタイプかと思ったら、思った以上に考える脳みそが残ってるようだな」
「■■■■■―――ッ!!!」
咆哮するバーサーカーは、今度は一転苛烈な攻めを見せない。
フィフスが攻撃を仕掛けるタイミングに合わせて迎撃することに徹し、自ら積極的に攻撃することを避けている。
必然的にフィフスも手出しが難しくなり、戦闘そのものは膠着状態に移行し始めていた。
だが同時に、イリヤスフィールは膠着状態であることに苛立ちを隠せない!
「どうしたのよバーサーカー! あなたは一度喰らった攻撃に耐性ができるでしょう!? もうそいつの攻撃は効かないんだから、さっさと押し潰して―」
「そこまでにしときな嬢ちゃん」
「うん、それは駄目だからね?」
その両肩にそれぞれ手を置いて、銀時となのははイリヤスフィールを諫める。
同時に二人は周囲を警戒し、一瞬の油断も赦されないような状態に陥ってた。
奇しくも、それは双方が近い来歴を持ち合わせていることに由来する。
幼少期に二度の世界を揺るがしかねない事件に巻き込まれ、その後も幾度となく戦いを繰り広げてきた、エースオブエースと称えられる高町なのは。
攘夷戦争に参じて白夜叉とまで呼ばれ、終わってからも一国の伝説を紡ぎだすような猛者との戦いを何度も経験した坂田銀時。
アザゼルやサーヴァントといった例外を除けば間違いなく最も戦闘を経験している二人は、バーサーカーの意図を完全に察している。
「耐性ができるってあれだろ? コロナウイルスのワクチンみたいに完全無効化とかができるわけじゃねえんだろぉ? つまり
「それに、バーサーカーは常にフィフスからあなたを隠せるように立ち回ってる。……それだけ危険な相手って判断していることだよ」
「ま、そういうことになるだろうな」
何故かタブレットを出している兵夜もまた、それに頷いていた。
「あいつはこの世界において主神と同格の戦闘能力を発揮できる奴を二人同時に相手どった事のある実力者だ。それにいくらサーヴァントの性能が強力だろうと、そのポテンシャルをマスターが発揮できなければ絡めとられる可能性は十分にありうる」
「……私がバーサーカーを生かせていないっていうの? バーサーカーがあそこまで強いのは―」
「
イリヤスフィールにそう断じると、兵夜は歯噛みしてフィフスを睨む。
「あいつはこの世界の在り方を理解した結果、己自身の戦闘能力をサーヴァントを打倒できる域にまで高め、
そう、フィフス・エリクシルはそれによって暗躍した男。
強大なサーヴァントの性能を更に高くすることに拘り、その為に理性という戦術や技巧を用いる為の要素を生贄に捧げられたサーヴァント。そしてその性能を十全に発揮する、絶大な魔力量と魔術回路を持った少女のマスター。
それに対し、アサシンという直接戦闘より謀略や偵察といった手法に特化したサーヴァント選んだのがフィフス。そして同時に、百年という長きに亘る年月を賭けることで絶大な性能を誇るバーサーカーの猛攻をしのぎ、一度は命すら奪ったその武術。
まごうことなきその結果こそが、アインツベルンの間違いとフィフスがそれを一歩は克服していることを示していた。
「……まあ、それだけというわけでもなさそうだがな」
そう目を細める兵夜に、イリヤスフィールは苛立ちすら見せる。
訳知り顔で語られた挙句、バーサーカーが押されているのは自分にも原因があると言われ、頭に血が上っていた。
「……ならあなたはバーサーカーより戦えるっていうの!? 今動けていないのに!!」
「お前がアインツベルンの問題だって言ったんだろうが。まあ、こっちも周囲の警戒があるから動けないってところもある」
そうはっきり告げ、しかし同時に不敵な笑みを浮かべている。
それに怪訝な表情を浮かべた次の瞬間―
「―最も、そっちの対処は最低限出来たがな」
―その言葉と共に、いくつも箇所で戦闘の音が発生した。
「……なんだ!? 敵襲か!?」
「いや、こちらの味方だ」
翔太郎にそう返し、兵夜は一歩前に出る。
「召喚されてからひと月ほどは情報収集と足場を固めることに専念していてな。ある程度は動かせる戦力や、戦闘用の手段は用意している。……ことフィフスを相手にする場合、質だけじゃなく数も揃えないとまずいんでな」
その言葉に合わせるように、戦闘箇所から異形の存在が現れる。
フィフスが引き連れていたのと同様の駆動鎧を相手に対抗するは、剣や盾、弓を持って挑むは、骨のような物体で構成される異形の戦士達。
「ちょっとした切り札の一つや二つは用意しててな。スパロの協力である程度の位置は算出できたから、こうしてカウンターを仕掛けて置いたってことだ」
唖然とするイリヤスフィールに兵夜はそう告げ、そして一歩前に出る。
「じゃあまあそういうわけで………そろそろ俺も介入させてもらう」
「………ああ、ようやく本番ってことで―」
そしてフィフスは拳を握り、バーサーカーの攻撃にその一撃を当て―
「―本気を出すかこれがぁ!」
―そのまま盛大にバーサーカーを弾き飛ばした。
リリカルなのはの漫画版で語られたこの言葉。実は最初の呼んだ時からずっと首をかしげていました。
弱点を突かれないように立ち回ることは立派な強さじゃないのか?
特定条件下でしか強さを発揮できない奴がいるとして、そういうのを最強といっていいのか?
こういった疑問符についていろいろと思ってたり考えていましたが、これはリリなのは「守るべきものを守り切る」といったところを重視しており、強くなることはそのための手段でしかないという考え方の人が多いからなのだろうという風に思ってたりはしました。
そういう意味ではFateのバーサーカーは間違いなく最強と彼女たちは考えるだろうけど、この作品の原作はハイスクールD×D。
強さの方向性としてパワータイプだけでなくテクニックタイプといった方向性が明確に存在する側では、そういう方向性の認識に疑念を思うものは結構いるのではないかと思い、フィフスの強さを示すこともかねてこうして一話使わせていただきました。