イッセーSide
なんか状況が動きすぎているので、俺達ちょっと待機を命じられた。
とりあえず、なのはさんの知り合いで現地の時空監理局の暫定的なリーダーになっているリンディさんって人と、仮にも冥界政府で外交を担当しているセラフォルー様が、蓮蓬の人達と話をしているらしい。
だから俺達はちょっと手持ち無沙汰になってる。
ちなみに誰一人としてそばアレルギー持ちの人がいなかったので、今夜の晩御飯はアーチャーが主軸となって世界各地の蕎麦を使った料理になるらしい。
ソバの実のおかゆ*1やそば粉を使ったクレープ*2とかに、普通に麺類の蕎麦や、そば粉を熱湯で練ったそばがき*3ってのが出るとか。
それはそれでちょっと楽しみなんだけど、まあそういうことで俺達は休憩が言い渡された。
とりあえずリビングに招くと、頑張った皆が全員ちょっとだれている感じだ。
まあ、あれはそうだよなぁ。
特にバーサーカーを倒されたイリヤスフィールがうなだれている。
短い反応だったけど、バーサーカーのことを信頼してるみたいだったからなぁ。そりゃそうだろとは思う。
そんな俺達が水分補給をしながら無言で休んでいると、立ち上がる音が聞こえた。
ちらりと視線を向けると、間桐がなんか拳を震わせながら部屋から出ていこうとしていた。
……そういえば、まだあんまり話したことがなかったな。
と、衛宮がそれに気づいてこっちも立ち上がった。
「どうしたんだ慎二。まだ休んでいた方が―」
「休むも何も僕は戦ってない。第一、話なら
ぶっきらぼうにそう言った間桐は、そのまま出ていこうとする。
……ん~。なんかすっごく苛立ってるな。
「そんなことは無いだろ。お前だって巻き込まれてるんだ、話を聞く権利は―」
「―権利ぃ? それをお前が言うのかよ、衛宮……っ」
な、なんか殺気だってないか、間桐の奴。
めちゃくちゃ衛宮のことを睨んでる間桐は、何て言うかこぉ……シャルバを思い出した。
いろんな意味で追いつめられてプッツン言っていたあいつ程じゃないけど、かなり精神的に追い詰められてるとかそんな感じがするんだけど、大丈夫か?
「と、とりあえず落ち着けよ二人とも。衛宮も、もうちょっとこぉ……間桐が落ち着けてないのに気づいてやろうぜ、な?」
俺が割って入ってなだめようとしたけど、なんか間桐の殺気だった睨みがこっちにまできたんだけど。
え、あれ? 何か間違えた?
「……主役張れるような奴は、言うことが違うねぇ……っ」
睨みつけてる目が血走ってるし、食いしばってる奥歯が割れそうなぐらい力が籠ってる。
ど、どういう方向性なんだ、これは!?
「………あぁ、そういうことなんですね」
と、スパロが目を伏せながらそう呟いたのが聞こえてきた。
なんだろう、めちゃくちゃ悲しそうな雰囲気に、俺達は一瞬呑まれている。
居たたまれないような。憐れんでいるような。嘆いているような。悔やんでいるような。そんな表情を、あえて間桐に向けずに俯いている。
そんな感情を向けることが、何より間桐にとって失礼だと言わんばかりに。
「……スパロだっけ? おたくに何が分かるって―」
「……間桐の魔術回路は、既に枯れ果ててしまったのですね」
そのスパロの言葉に、間桐は二の句が継げなくなっていた。
口をパクパクさせているのは、たぶん図星なんだろうけど。どういうこと?
「……魔術回路というのは、基本的に血と歴史に宿る物。そもそも神秘が歴史との相性がいいこともあり、
宮白が、麦茶でのどを潤しながら、そう言ってきた。
ああ、そんな感じのこと言ってたような気もするけど……それが?
俺が首を傾げていると、宮白はコップの水面を見つめながら、ため息をついた。
「だが、土地を移ったことに由来する悪影響や、そのその一族的な血の限界により、魔術回路が世代を経るごとに衰退していくケースがあるんだ。……
「……そして、間桐は元々欧州より流れた魔術師の一族。土地と魔術回路が合わなかったのか、それとも移り渡った当主の代で魔術回路が限界だったのか、私が知る限りでは後継者に困っている状況だったはずです」
宮白に続いたスパロの言葉に、間桐はもう、恨みつらみとか言った方がまだましな気がする表情になっていた。
「……よくご存じなことで。ああそうだよ、僕は
盛大にうっぷんを爆発させて、間桐は衛宮を睨み付けた。
「……間桐の跡取りのはずの僕にはなくて、別に魔術師の血を引いているわけでもない衛宮にはあるぅ!? 挙句の果てに、魔術師より遥かに強いサーヴァントが何騎も出てきて殺し合いするような戦いに巻き込まれるぅ? ……ふざけんなよ、桜も衛宮もアンタらも、どんだけ僕をみじめにさせれば気が済むんだ……ぁあ~っ!!」
髪をかきむしり、勢い余って肌も血が出るまでひっかいて、間桐は耐えきれなくなったかのように奇声まで上げる。
え、え、えっと……。
しかもスパロはスパロで目を強く閉じて俯いているし、え、これどういうこと!?
「ど、どうしたんだよ慎二! それに桜もって、いったいどうして―」
「――桜は養子だよ。間桐臓硯……間桐家当主のお爺様が、魔術師としての盟約で、縁のある魔術師の次女を引き取ったらしい」
間桐の言葉に、衛宮が絶句する。
え、あの、状況がさっぱり分からないんだけど!?
「
「それに間桐家当主という間桐臓硯は、特殊な手法で延命しておりますが当人自身はかのヴァン・ホーエンハイム・パラケラススとも個人的な縁があった人物です。
「そうだな。少なくともそこまでなら、
宮白もスパロも二世もそんなこと言ってる。
「……最も、神秘の秘匿が大原則の
更にスパロが俯きながらそう補足する。
なんかもう、涙を流さずに泣いているって感じで見てられない。
「まあ、口封じに殺すってのは基本的に悪手だがな。死体関連の処理は必須だし、殺すという時点で「何かある」と思わせるのには十分だし、むやみやたらと殺せばその国と折衝してる法政科がブチギレるだろう。基本的には暗示の魔術を使用した記憶操作だ」
うんうんと宮白が補足するけど、めちゃくちゃえげつないな
伏魔殿で大伏魔殿ができているとか言ってたけどさ、そんな大伏魔殿で特大伏魔殿ができてないか?
「……その観点でいうならば、今の間桐家は腐敗しきっていますね。養子に出した方の魔術師の家も、冷酷非情で手段を択ばないのか、単純に間桐家に逆らえないほど恩か弱みがあるのか。……流石にそうでないのなら、養子に出す先の実態調査ぐらいはするでしょうし、盟約も破談になると思います。まさかその辺りを一切考慮していない馬鹿なんてことは―」
「……その件だが、はっきり言って最後と言えるだろう。当時の当主は生粋の魔術師だが子煩悩ではあり、
スパロがその桜って子の実家のことを三分の二ぐらいでこき下ろしたら、二世が盛大に肯定したよ。
っていうかすいません。それってつまり「娘たちが参加して殺し合って優勝を競うなんて、どっちにとってもハッピー」とか言ってるんだけど!?
「……まあ、現代魔術師がその理念をしっかりと貫いているのならば、血族が根源に辿り着ける可能性を大幅に増やせると確信してるなら、それぐらいはやるだろうさ。自分を使い潰して後継に情報を託すことも、親兄弟と全身全霊の殺し合いも、喜んでやれてこそ
宮白が遠い目をしながら言ったけど、マジかよ。
真剣にドン引きなんだけど。親としての愛情が確かにあってそれって、ちょっと頭のねじが外れてないか?
「……人間として善悪のどちらにも拘らず、意図的にしろ自然体にしろ、倫理観や道徳心を踏み越えられるのが精神的資質とはよく言ったものね」
リアスがげんなりした表情でそう言うけど、そこで話が戻ってきた。
「……ああそうだね。間桐に関しちゃその通りさ」
なんだろう。落ち着いた口調なのが逆に不安になるんだけど。
俺が不安になっていると、間桐は衛宮にどす黒い座った目を向けながら、話を元に戻し始める。
「僕は小さい頃から自分の家が
「補足すると、
宮白が間桐に的確なフォローを入れてきた。
面倒見がいいというか手回しがいいというか。
……そういえば、俺のエロ本やエロゲーを調達したりもしてるみたいなことを言っていたような。その経験からかな?
そんなことを思っていると、間桐は遠い目をしながら更に過去を話し始める。
「……最初の頃、桜が他の家から連れてこられた時も面倒を見てやっているつもりだったさ。優秀な人間が劣る人間を保護するのは当たり前のことだし、態々
そう言って、間桐は少し黙る。
握っている拳から血が流れるぐらい、間桐は何かを堪えていた。
こらえて……そして、吐き出した。
「だけど数年前に見たんだ。間桐の魔術鍛錬を……僕が見たこともないあんなものを、寄りにもよって桜が受けていた。……ああ、お前らの言うとおりだよ! 桜の奴は僕が魔術師でも何でもないから連れてこられた、
めちゃくちゃ何かが籠っているって、俺はその叫びを聞いて直感した。
元々グレモリー眷属には、結構重い来歴の奴が多い。
一番軽いだろうロスヴァイセさんだって、主神のおつきっていうめちゃくちゃ勝ち組に見える役職だったのに、オーディンの爺さんがうっかり忘れて置いていった所為で、戻るに戻れなかったところをリアスがスカウトした形だ。
ゼノヴィアは元々信徒だったけど、和平前に神様の死を知ったことで、破れかぶれになったのがきっかけだ。和平を結ぶ前の教会上層部も、ゼノヴィアがそれを知ってしまったことを理由に追放した。これに関しては仕方がない理由はあったけど、それを知ったのは悪魔になった後だ。
アーシアは和平前に神器で悪魔を癒したことが原因で、聖女とまで言われてたのに追放された。これも仕方がない理由だったけど、勝手に聖女を押し付けてたこともあって、俺は教会から来たゼノヴィアに不満を盛大にぶつけたこともある。
俺は俺で、人間だった頃では神器が扱えないだろうという理由で、神の子を見張る者のエージェントに殺されて転生した形だ。自分でも気づいてなかったけど、結構なトラウマになってたしな。
ギャスパーはハーフ吸血鬼だけど、神器の性質もあって家族から疎まれて追放されて、殺されたところをリアスに拾ってもらった過去がある。その時のトラウマとかから、引きこもりだったし今でもまだちょっと残ってる。
木場は教会の暗部的な計画の被検体で、当時の主任がクズ過ぎて毒ガスをまかれて、死ぬ直前にリアスに見つかって転生することになった。その主任は教会から追放されたし別件で死んだけど、当時の木場は聖剣が絡むとよく暴走してたっけ。
小猫ちゃんは姉が転生悪魔になって冥界に拾われたけど、その悪魔が色々やらかしていたこともあって、姉がそいつを殺してはぐれになった。その姉とはちょっとは和解することになったしはぐれの件も減刑されそうだけど、当初は過剰に警戒した上役に始末されそうになったらしい。
朱乃さんは母親が五大宗家っていう日本にいる異能者の大手の出身だけど、当時敵対していた堕天使のバラキエルさんとの間に生まれた子供だったので、お母さんを目の前で殺されたり色々あったらしい。その影響でバラキエルさんのことを中々受け入れられなかった。
そんな仲間達の事情を知っているからか、俺は間桐の叫びにいろんなものを感じ取っていた。
逆に衛宮は、そこには思い至ってないらしい。
別のことに思い至ったのか、怒りを顔に浮かべると、間桐に詰め寄ろうとしてた。
「……おい、まさか桜と仲が悪くなってたのは、そんな理由で―」
「落ち着け衛宮!」
慌てて俺は衛宮を羽交い絞めにする。
いやいや、ちょっと嫌な事情をイメージしたけど、ちょっと待って!
「止めないでくれ兵藤! こいつ、そんなことで妹に乱暴を―」
ああやっぱりそんな感じか!
でもそれでも、ちょっと落ち着けって。
「今の一言でムカつく理由は分かったけど、それでも落ち着け!」
いや、俺も結構感情的になってやらかすこととかあるけど。
それでも、それでもちょっと落ち着いた方がいいって俺は思う。
「俺も魔術師の家については知らないけど! それでもそっからの間桐の家での扱いはなんとなく分かる。……だから落ち着け、たぶん、間桐は家じゃろくな扱いを受けてない……っ!」
由緒正しい異能の家系に生まれながら、異能の要素を持ってない男。俺はそれを聞いて、すぐに同じ部屋にいる人を思い出す。
サイラオーグさん。血統を大事にする悪魔からは現四大魔王様より重要視される、大王バアルの本家の次期当主。
……そんなサイラオーグさんは、今までの話に共感していたのか、目を閉じていた。
「……立場は違うし、悟れる内容は到底褒めれん。だが、選民思想すら持つ異能の一族に生まれて異能を一切持たない……それが泥まみれにされるほどの屈辱を味わうことは理解できる。俺もそうだったしな」
「……あんたもなのか?」
サイラオーグさんのその言葉に、間桐は毒気が抜かれたのかまじまじと見つめていた。
「
「今はな。……いや、今でもバアルとしては戦力として有用な手札として、お互いに利用し合っている程度の関係でしかないから、今でもともいえるか」
サイラオーグさんは、そう言って少し苦笑する。
「悪魔というのは転生によるものでも魔力を持つことができるが、俺は大王バアル、それも本家の長男として生まれながら、家が司る消滅の魔力どころか、普通の魔力すら一切持って生まれなかった。グレモリー本家に嫁いだ叔母上が生んだサーゼクス様やリアスは、消滅の特性を色濃く受け継ぎ魔力そのものも絶大な素養だったにも関わらずだ」
ああ、サイラオーグさんは魔力を一切持たない。
俺が転生悪魔になった時も、子供未満だったけど、それはなりたての時で、今は少しぐらいはある。
だけどサイラオーグさんは、今に至るまで持ってない。大王バアルの本家で、元七十二柱のヴァプラ家のお母さんから生まれたのに、だ。
「母は父に欠陥品を生んだとをなじられた。ヴァプラ家が引き取りを申し出た時も、家の恥である俺をよそに出すことだけは固辞され、結果として母と俺はバアル領の田舎に追いやられた。……下級中級の悪魔に公然と虐められた上級悪魔など、きっと俺ぐらいの者だろう」
そういうサイラオーグさんに、誰も何も言えなかった。
「……母に励まされ、体を鍛え、母が眠りから覚めぬ病に倒れても鍛錬を続けてきた。俺のバアル次期当主の地位は、それをもってして弟を決闘で下し奪い取ったものだ。……全て俺のような不遇なものを生まぬ為、魔力が無くても努力次第で悪魔は力を持てると証明する為だ」
何とも言えない表情で、サイラオーグさんは自分の握りしめた拳を見る。
「大王派からは魔王派に対する意趣返しができる戦力として見込まれているが、所詮はその程度。俺はただ体よく利用したいと思っている連中に、軽蔑されながら利用し合っていた程度だ。……次期当主になって本城に住むようになっても、家族とまともに会話を交わしたこともない。父は不満を隠そうともしないし、弟からもまともに会話すらできないほど恨まれているようだしな」
「……はっ。確かに僕と似てるけど、やっぱり全然違うじゃないか」
間桐は、俯いてそう絞り出した。
「軽蔑されてる? 嫌悪を隠されない? 恨まれている? ……ムカつくぐらい羨ましい………っ」
間桐は、本気だと誰でも分かるような声でそう吐き出した。
「魔術の鍛錬をしている桜を見た日、僕が何も言わないとでも思ったか? 問い詰めたさ! ずっと魔術の鍛錬を受けて起きながらっ! 何も知らずに間桐の魔術師を継ぐなんて言っていた僕を! 馬鹿にしてたんだろうって問い詰めたよっ!!」
「慎二! 桜が、そんな奴なわけ―」
「―知ってるさ!!」
衛宮の反論に食らいつくように、間桐は絶叫する。
「あいつが何て言ったかなんて、嫌ってぐらい覚えている! あいつはなぁ……ごめんなさいって言ったんだぞぉっ!!」
衝動的に、間桐は壁を殴りつけた。
かなり衝撃があったから痛いだろうに、間桐はそれを無視して吠えた。
「僕のすべてを奪っているくせに、あいつは同情してきやがった! 僕が桜の鍛錬を見てたことに気づいて以来、爺達は何も隠しもしない!! ……羨ましいよバアルさん。あんたはしっかり嫌って
血走った目で、憎しみすら籠めて間桐はサイラオーグさんを睨んだ。
サイラオーグさんの境遇は、俺達からすれば同情でしかない。間桐にも負けないぐらい、酷い来歴だって俺は思ってる。
そんな来歴を、間桐は憎悪すら籠めるぐらい羨んでる。サイラオーグさんが気圧されるぐらいの気迫を込めて睨みつけてる。
「爺も桜も僕のことを、嫌う対象とすら見ちゃいないんだぞ!? 侮蔑されたってならこっちだって、あきらめぐらいついたってのに! 挙句の果てに衛宮まで
髪をかきむしって間桐は絶叫した。
サイラオーグさんの来歴を、ここまで叫ぶぐらい羨ましいって言える人を初めて見た。
こいつはサイラオーグさんの来歴を理解してないわけでも、実感してないわけでもない。
きっと俺達が思う以上に分かった上で、本心から羨ましいって思っているんだ。それぐらい、間桐にとって今の境遇は耐えられないんだろう。
俺達が何も言えないでいると、間桐は崩れ落ちて床に拳を打ち付ける。
「……本当なら、僕は聖杯戦争に参戦できるはずだった。間桐家は御三家だから聖杯戦争に常時参戦するけど、令呪が出た桜にその意思はなかった。間桐家の秘術を使えば令呪を利用してマスター権を代理で行使できるから、それで参戦して……聖杯で魔術師になればいいと思ったんだ。それなのに……それすら僕はできなかったんだぞぉ!!」
床をかきむしって爪がはがれそうになってまで、間桐はため込んだうっぷんを全部出していた。
それは、俺が今まで見たことのないどす黒い、溜まった膿のような負の感情だと思う。
グレモリー眷属や俺の知り合い結構酷い過去を持っている人は多い。鬱憤の爆発とかなら敵対した奴らにも何人もいた。
だけど澱み切ってねじくれ曲がるような負の感情は、見たことがない。
これが、
俺達が何も言えないでいると、その時ふと二世が息を吐きながら立ち上がった。
「失礼、一本吸ってもいいかね?」
「構わないさ。副流煙対策の魔術は開発しているから、ちょっと礼装を……よし」
宮白がどこからともなく礼装を出して、その軌道を見てから二世は葉巻を一本吸った。
そして煙を吐き出してから、二世は慎二に向き直った。
「……間桐慎二。二つほど言いたいことがある」
真っ直ぐに、屈みこんで頭の高さを近づけて、二世は間桐に向き直る。
「……君は半端な知識故に
最初の方でムカついたのか、間桐が顔をあげる。
そしてそれを真っ向から見返して―
「……
―そう、はっきりと言い切った。
と、慎二にかなり焦点を絞った話の前編とでもいうべきものになります。
今後の作品展開において、間桐慎二という癖の強いキャラクターにはある程度の保管を踏まえないと、これだけのメンツにおいてどうしても絡みづらい所があると判断してのことです。
間桐慎二はある意味において被害者ではありますが、そこから転じて加害者になったキャラクター。間違いなく能力があるので十分人生に成功する余地がありながら、魔術師とすらいえない間桐臓硯の支配する間桐家に生まれたことで人生が明確に歪んだキャラクターでもあります。
やっていることは間違いなく屑でありケジメは必須だが、だがこの家庭環境でまっとうに育てることをほめたたえられることこそあれ、幼少期からの積み重ねで歪むことがただの逃げだの弱さだのというつもりはありません。ことケイオスワールドは「幸運にも支えを得ることができたから前に進める者たち」が主体となっているので、人間的な弱さには理解を示すべきだとも思っております。
……兵夜という人物についてよく知っている物ならちょっと意外に思うところもあるかもしれませんね。ただ兵夜な彼女の来歴について多分に同情もしていますが、同時に「余計なスイッチを外部から押されて出さなくてもいいヤバい面を出してしまった」といった認識を持っていることも書いたつもりです。その上で自分自身や愛する女性たちが精神的な支えが外部にある手合いであることもわかりますから、例の「旦那」に関しても「まあ、あのサイコっぷりを見せられたらドン引きするわなぁ」という程度には同情してます。個人的にあの旦那は慎二と属性がかぶっているとも思いますので、「ケジメはつけさせたいがそれなりに優遇する」というスタンスにするだろうと、制作した身としては判断しました。
まあそのためには慎二が何かしらの形で精神的に成長する必要もあると思い、二話ほど使ってきっかけを入れようという感じですね。将来的には兵夜の文官的手駒としてホワイトに酷使する形にしたいところ。
で、それを書くにあたって以前の活動報告で慎二ネタを書いた時に九尾さんから返信であった「もしサイラオーグとあったらどうなるのか」「劣等感が晴れてきれいな慎二になるか、めちゃくちゃ反発してとことん落ちるかの両方の可能性がありそうです」を個人的に踏まえて考え、この作品の方向性も込みで絞殺した結果、指摘役として使うつもりだった二世も込みで「一方通行の羨み三角関係ができるんじゃないか?」と思った結果がこの流れ。
いっそのこと明確に馬鹿にされてさげすまれた方がまだましな方向に進むというか、桜の対応で神経を逆なでされたことも暴走の一因な節のある拗らせた慎二。
悪魔としての才が無くても他を磨けばいい世界を作るために努力し、そう言った代用の評価を他者にも与えられることを望む、一種の改革派思考のサイラオーグ。
個人的な考察ですが、むしろ慎二からすれば「敵視という評価がされてるのがうらやましい」と思いかねないと思い、本文中ではこういう反応にしました。
またサイラオーグは間違いなく二世の客観的評価や影響力に羨望を受けるでしょう。ちょっと方向性は違いますが、カウレスのパターンから考えても、二世は間違いなくかつての時計塔では評価されない者たちすら評価されるようにしましたし、何より魔術師として非才のみで魔術師社会に多大な影響を与えかねない人物なのですから。
まあネタバレになるので二世が慎二のどこを評価するのかは次の話をお待ちくださいと言わせていただきますが、アニメ版事件簿を見られた方ならある意味納得するのではないだろうか……と言わせていただきます。