Log Horizon 〈星詠みの黒猫〉   作:酒谷

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chapter 19

 アキバの街の南端にかかっている橋、ブリッジ・オールエイジス。アキバの街の中と外をつなぐこの石橋は、アキバの街の〈冒険者〉達が出撃の起点とする場所である。現在、私はそこにいた。

 天秤祭が催されていることもあっていつもより大地人の出入りが多い。私は通行人の邪魔にならないように橋の出入り口の門の脇に立っていた。

 なぜこんなところにいるのか。それは、ある人物がアキバにくるというので待ち伏せをするためだ。意識を集中させて指定領域を現在の自分の限界値まで広げて待ち人の情報を探る。私の目の前を通り過ぎる荷馬車を見送り始めて数十分、その人物はやってきた。

 ある一つの荷車から降りてきた女性が二人。ふわりとした若草色の髪の〈大地人〉と女郎花色の髪を一本の三つ編みにした〈冒険者〉だ。どうやら目的地が同じということで行商人の荷車に乗せてもらって来たらしい。ありがとうございました、助かりました、と言って行商人と別れてアキバの街に歩いていく二人に声を掛ける。

 

「こんにちは」

 

 私の声に振り返った二人は、こんにちはとにこやかに返してきた。私は大地人の女性の方に近付いてにこりと笑いかけた。

 

「はじめまして、ではないですよね? 確か、マイハマでお会いしたと思うんですけど」

「……ええ、覚えています」

 

 にこやかな笑みを崩すことなくスカートの裾を持ち上げてお辞儀をする姿は、どこかの立派な令嬢かと思わせるほど美しい姿だった。

 なぜアキバにと聞けば、祭りを見に来たんですと女性は視線をアキバの街に移した。楽しんでいってくださいねと一歩引くと、ありがとうございますと言って女性はアキバの街の雑踏に消えていく。その背を見送った私は顔に張り付けていた笑みを消すと、眉を顰めて残された〈冒険者〉の方を向いた。

 

「君が来ることは聞いてなかったんだけど」

「またまた。言わずとも分かっていたのでしょう?」

 

 でなければここで待ってなどいないのではないですか? と可愛らしく首を傾げて彼女は笑う。相変わらずの様子に私は隠しもせずに大きなため息をついた。

 

「それで、何しに来たの? ラァラ」

 

 〈冒険者〉ラァレイア=ドードゥリアは私の声に笑みを深めるだけで何も言わない。

 確かになんとなくあの〈大地人〉と一緒に誰か来るだろうなということは感じていたが、まさか彼女と一緒に来るとは思わなかった。

 

「随分と気に入られているようだけど?」

「ええ、そうみたいで。お供することを許してくださったのですよ」

 

 そうと一言だけ返すと何を思ったのか焦ったように、私がお慕いしているのはリンセ様ただ一人ですのでご安心を! と食い気味の主張してきた。別にそこを心配した気は一切ないんだがと苦笑いになる。そんな私とは対照的に絶えずにこにこと可愛らしい笑みを浮かべているラァラに、段々頭が痛くなってくるのを感じた。

 

「ラァラ、面倒事だけは起こさないでよ……」

「あら、しませんよそんな事なんて。リンセ様のご迷惑になるようなこと等いたしませんわ、誓って」

 

 ラァラは指を胸の前で組んで穏やかな笑みを浮かべているが、その真意は全く読み取れない。自分を慕ってくれるのは一向に構わないのだが、こういうところが本当に恐ろしいと思う。

 彼女は自分の好んでいる相手とそうでない相手の扱いの差がひどいのだ。それで人と揉めることも少なくない。この天秤祭でそのような問題は起こされたくないのだが、本人がその事に関してひどく無自覚だからと歪む表情を隠せない。

 

「そうですわ! 今から一緒に天秤祭をまわりませんか?」

「いや、遠慮する」

 

 いい事を思いついたとでも言うように満面の笑みを浮かべてそう提案してきたラァラに、祭りのようなにぎやかな場所はそんなに得意じゃないことも含めて断れば、残念そうにしながらも割とあっさりと身を引いた。

 

「では、私は天秤祭に向かいますね」

「ああ、うん。最後にもう一回確認していい?」

「はい?」

 

 なんでしょう? と笑みを崩さず首を傾げたラァラの一挙手一投足を見逃さないように彼女を注視する。

 

「ここに、何しにきたの?」

「……ふふ、何を心配しているのかはわかりませんが、害を及ぼそうなどとは思っていませんよ?」

「……そう」

 

 ラァラの形作られた笑みは崩れない。ここでこれ以上探ったところで真意は分からないだろう。

 不安は大いに残るものの仕方ないと引くことにして踵を返す。

 

「じゃあ、楽しんでおいで」

「はい!」

 

 ではまた、と笑みを深めるラァラを残しギルドハウスへと歩を進める。しかし、背後から聞こえてきた呟きを私は聞き逃しはしなかった。

 

「……ええ、害を及ぼそうなどとは思っていませんよ。元ギルドメンバーに挨拶にしに行こうと思っているだけで」

 

 これだから恐ろしいのだ、ラァレイア=ドードゥリアという人間は。

 

  ※

 

 ミナミからアキバの街まではるばるやって来たラァラは、一人で天秤祭を散策していた。散策といっても街中を歩いているだけで、露店になど一切目を向けてなどいない。ただただすれ違う人々を見ながら、いや、すれ違う人々のステータスを確認しながら特定のタグをつけた人間を探していた。

 

 なかなか見つからないものですね……。

 

 ラァラはなかなか見つからない探し物に苛ついたように眉間に皺を寄せる。

 

 彼女がアキバにやって来たのは天秤祭が目的ではなかった。〈彼女〉に誘われたからというのもあるが、本当の目的は元ギルドメンバー、ひいては、リンセに会うことだった。

 

 運命の日、〈大災害〉。

 あのとき、現実となった異世界に立ったラァラは真っ先にフレンド・リストを確認した。そこで自分がこの世で最も慕っているリンセもこの世界にいることを知った。その瞬間、ラァラはこれは運命なのだと思った。一度も現実で会うことが叶わなかった最愛の彼女と直に会い、言葉を交わし、その存在に触れることが出来る、と。これまでの画面越しでしか言葉を交わせなかった苦痛の日々はこのためにあったのだ、と。

 それからから5ヶ月、ようやくラァラは自身の女神に出会うことが出来たのだ。

 

 そこに辿りつくまでには様々な出来事があったのだが、それは今回は割愛しよう。

 

 そしてもう一つ、ラァラが〈大災害〉に感謝することがあった。それはリンセに直接会うことが出来るように元ギルドメンバーにも会うことが出来ることだった。それもただの人としてではなく〈冒険者〉としてだ。ただ、そこにはリンセに対して思うような感情は全くなく、むしろ逆方向のベクトルの感情だけが存在していた。

 ラァラは元ギルドメンバー、否、マキ=ルゥという人間が心底嫌いだったのだ。あそこが気に食わないとか。そりが合わない。その程度ならよかった、いや決してよくはないのだが、それだけならどれだけよかったことか。ラァラはそういった相性の問題以前に、マキ=ルゥという人間がこの世に存在していることに嫌悪を抱いていた。リンセにあれだけの負荷をかけた、マキ=ルゥという存在が心底嫌いだった。それこそ反吐が出るくらいに。

 だからこそ、せっかく会うことが出来るのだから実際に会って完膚なきまでに叩き潰してやろうと思っていた。痛めつけて、踏み躙り、二度と這い上がってくることの出来ない絶望の沼に叩き落して、肉体も精神も粉々にして存在を抹消してやろうと思っていた。そう、これ以上リンセの害にならないように。

 自分の唯一(小燐森)に、これ以上迷惑がかからないように。

 その思いを胸に完璧に作った笑顔を貼り付けて、ラァラはこのアキバまでやってきたのだ。

 

 それにしても見つからない。こんなことならあの女をフレンド・リストから削除しなければよかったとラァラは溜め息をついた。

 アキバの人口が多いことは知っていたがまさかここまで多いとは思っていなかった。まさか〈冒険者〉の祭りで、これほどの大地人が来ているとは彼女も予想していなかったのだ。しかし、彼女が慕うリンセはそのことまで見抜いているはずだ。さすがリンセ様! そう叫びそうになったラァラは口を押さえることでその衝動に耐える。

 やはり、〈イースタル〉との条約締結が関係しているのだろうか。

 そこまで考えてラァラは思考を放棄した。それは彼女の仕事ではないからだ。自分はただ、マキ=ルゥという存在をリンセから永遠に引き離す、いや、マキ=ルゥという存在を葬りさることだけを考えればいい。それだけを考え、実行し、リンセの平穏を守ることだけに心血を注げばいい。

 極端に言ってしまえば、小燐森の存在さえ守ることが出来れば世界が滅びたって構わない、彼女はそんな人間だった。

 

 少しどこかで休もうか。そう思ったとき、視界の端に探していたものが映った。そう、〈Colorful〉のギルドタグだ。付けている人物は残念ながら自分の知っている人ではなかったが、まあいいだろう。

 

 ラァラは、笑みを深めて、その人物達に近付いた。

 

「こんにちは」

 

 背後から聞こえた声に二人組の女性、トウジョウとマルガレーテは振り返った。

 

 そこにはふんわりとした女郎花色の髪を揺らして微笑んでいるエルフ族の女性がいた。しかし、その人物に二人は見覚えがない。一体誰なのだろうと女性の情報を確認すれば、ギルドタグの箇所に〈Plant hwyaden〉の文字を見つけて二人は身構えた。何せそのギルドは〈大災害〉以降、ミナミを統率しているというギルドだったからだ。そのメンバーがアキバに何の用なのか。

 二人の警戒にラァラは薄ら笑いを浮かべた。その警戒心がギルドタグに対してのものであると気付いたからだ。

 

「そんなに警戒しないでください。わたくしはラァレイア=ドードゥリア、元々〈Colorful〉のメンバーだったものです。今回天秤祭に乗じてようやくアキバに来ることが出来たので、是非ギルマスのマキさんに一度お会いしてお話がしたいと思いまして。よろしければ、彼女の元までご案内してはいただけませんか?」

 

 表情を申し訳なさそうな笑みに変えたラァラに、トウジョウとマルガレーテは互いに顔を見合わせてどうする? と視線だけで相談した。元々〈Colorful〉のメンバーだったのなら連れて行っても問題はないだろう。でもそれが本当かどうかは分からない。

 悩む二人にラァラは出来るだけ罪悪感を煽るような苦笑を浮かべて、無理ならいいんですと告げる。その態度を見た二人は彼女の思惑通り、断ることに罪悪感を覚えて案内を買って出た。

 内心ほくそ笑むラァラを連れて、トウジョウとマルガレーテはギルドハウスまでの道を案内した。

 

 辿りついたギルドハウスでトウジョウとマルガレーテが幹部の誰かに声を掛けようとしたところ、偶然そこから出て来る人物がいた。

 

「あっ! ロゼッタさーん!」

 

 ぴょこぴょこと可愛らしい効果音の付きそうなステップでギルドハウスから出てきたのは超特攻型神官戦士であるロゼッタだった。

 自身の名前が呼ばれたことに気付いた彼女は、はーい! と元気よく返事をしてマルガレーテ達の方を向いて、目を見開いたまま数瞬固まった。

 

「え……あれ……? もしかして、見間違いじゃなければラァラちゃん?」

「お久しぶりです。ロゼッタ」

 

 久しぶりー、と駆け寄ってくるロゼッタにラァラは微笑み返す。自身の胸程しかないロゼッタに抱き着かれて、ラァラは仕方なくロゼッタの頭を宥めるように撫でた。

 

「あ、もしかしてトウちゃんとレーテちゃんが連れて来てくれたの?」

「はい!」

「元ギルドメンバーと伺いまして……」

「そっかそっか! ありがとうー」

 

 ロゼッタの反応に、ここに連れてきたのは正しかったのだと二人は安堵の溜め息をついた。

 

 二人が天秤祭に出掛けたことを知っていたロゼッタは彼女たちに、祭りに行ってきていいよと笑った。その言葉を受けて二人は天秤祭へと戻っていった。

 

 二人が去って行った後、そこに残ったのは先程までのにこやかなロゼッタとラァラではなかった。ラァラから離れたロゼッタは双のアベンチュリンに真摯な光を宿して、目の前の女郎花に縁どられたヘミモルファイトの瞳を見つめる。

 

「本当に……よく、アキバに来る気になったね。ラァラちゃん」

「ちょっとしたご縁がありまして……」

 

 自身よりも随分と小さいロゼッタを見下ろして、ラァラは先程までの笑みを綺麗に消していた。その表情を見て、やはりラァラは自分達を許してはいないのだとロゼッタは悟った。

 

「……あの、ラァラちゃんに言うことじゃないんだろうけど、その……ごめんなさい」

「そうですね。わたくしに言うことではありませんね」

 

 ロゼッタの謝罪をラァラはばっさりと切り捨てる。その切り捨て様にロゼッタは思わず視線を落とした。彼女の様子にラァラはクスリと笑う。その声に視線を上げたロゼッタはラァラの小さな苦笑を目撃することになった。

 

「……別に、わたくしは貴女のことを責めるつもりは毛頭ありませんよ?」

「……嘘だよ」

「本当ですわ」

 

 ロゼッタの言葉をラァラはまたもすっぱりと切り捨てた。ロゼッタを真っ直ぐ見つめながら、ラァラは語り出す。

 

「わたくしは貴女や佐々木さん、夕湖や他のギルメンに対しては負の感情を抱いていないのです。……貴女達はきちんと理解していたのですから」

 

 リンセ様がギルドを抜けた理由を。

 そう続けられた言葉に、ロゼッタはいつだったか〈記録の地平線〉に乗り込んだ日のことを思い出した。重荷になっていることを知りながら優しさに甘えていた自分達が、リンセにどれだけの苦痛を与えていたのかを思い知らされたあの日。〈Colorful〉はリンセの居場所ではなかった、それを他のメンバーが薄々感じ取っている中、マキだけは諦めることが出来ていなかった。帰ってくると信じて、帰ってきてほしいと懇願して、帰ってくるべきだと強制しようとした。

 初めて聞いたリンセの怒声をロゼッタは今でも思い出す。それは、普段なら他人を気遣って声や感情を荒げたりしないリンセの心からの叫びだったのだから。

 

「貴方達は気付いていた。けれど、マキ=ルゥだけは気付かなかった、いえ、気付いていたけれど認めなかった」

「でも……マキちゃんもね、〈大災害〉が起きてリンちゃんとお話ししてちゃんと謝れたんだよ?」

「それだけであの方の傷が癒えるとでも?」

 

 厳しい声でラァラにそう言われ、ロゼッタは唇を噛み締める。

 あの日、リンセを追おうとしたマキを止めた猫人族の〈盗剣士〉がいた。彼女の前に立ちはだかった彼の細められた目はひどく冷たかったとロゼッタは記憶している。きっと彼は知っているのだ、自分達のせいでリンセが負った傷が一体どれだけ深いのかを。

 

「〈Colorful〉のギルマスが貴女か佐々木さんや夕湖だったら、まだマシだったのでしょうね」

 

 残念でならないといった声色のラァラにロゼッタは何も言うことが出来なかった。

 何がマシだったのか、言葉にされずともロゼッタは理解していた。それは、リンセの傷の深さのことであり、また〈Colorful〉の今の形のことでもあり、〈Colorful〉が存在している理由のことでもある。

 沈黙が支配する空間でラァラとロゼッタが互いに一歩も動けずにいると、ギルドハウスから人が出てくる気配がした。

 

「ほら! 早く天秤祭行こうよ!」

「はしゃぎすぎよ。少し落ち着きなさい」

「だって、楽しみなものは楽しみなんだもん!」

 

 冷静に諫める声に活発過ぎて耳に痛い声。それはひどく聞き覚えがある。ラァラとロゼッタが声の聞こえてきた方に視線を向けると、ゴシック調の服に今紫の長髪の狐尾族、そして、活発そうな服装の桃色の髪のヒューマンがギルドハウスから出てくる姿が見えた。

 見間違えるはずもない。

 

「佐々木さんに……」

 

 ラァラの声に反応して出てきた二人が振り返る。レッドアゲートとアマゾナイトの瞳が驚愕に見開かれた。その片方、アマゾナイトをその目に捉えてラァラは憎悪に顔を歪ませた。

 

「……マキ=ルゥ」

 

 ラァラにとって目にするのも耳にするのも言葉にするのも嫌な名前だった。

 自分の唯一を深く傷付け、その上彼女に寄生する害虫の名前。

 ロゼッタは謝ったと言ったが、それだけで人間の性格が矯正出来たら苦労はしない。きっと、この女は同じことを繰り返す。その前に駆除しなければならない。小燐森の害になる前に。

 

「……なんでアンタがここにいんのよ? 裏切り者の〈楽聖〉さん」

「あら、相変わらずお頭が弱いみたいですね? “突進魔”さん」

 

 勇み足で近付いてくるマキにラァラは冷笑を浴びせる。マキがその笑みに怒りを覚えないはずがなく、直情型の彼女はその怒りのままラァラに掴みかかった。

 

「アンタはもう〈Colorful〉じゃなく〈Plant hwyaden〉でしょ!? さっさとミナミ(ホーム)に帰りなさいよ!」

「ええそうです。ですから貴女にわたくしの行動を制限する権利はありませんよね?」

 

 ラァラの人を小馬鹿にするような態度にマキの怒りのボルテージが上がっていく。その様を見てラァラは相変わらずだと鼻で笑った。それでマキの堪忍袋の緒が切れた。ラァラの服に掴みかかったままマキは彼女の顔面目掛けて拳を振るった。バキッといい音がしてラァラが地面に崩れ落ちる。

 

「何してるのよ、マキ!」

「あわわっ!? ラァラちゃん大丈夫!?」

 

 突然のことに止めに入る間もなかった佐々木はその直後にマキを引き離し、ロゼッタは倒れたラァラを支える。

 

「ちょっと!? 離してよさっちゃん!!」

「離すわけないでしょ! すぐ力に訴えるの、あなたの悪い癖よ」

 

 マキは自分を羽交い絞めにした佐々木に訴えるが、佐々木は訴えを却下して彼女を戒めた。

 

「ご、ごめんね……! マキちゃんが……」

「貴女が謝る事じゃないですよ、ロゼッタ」

 

 ロゼッタはラァラを支えながら悲痛の表情で彼女に謝罪した。ラァラはゆっくりと立ち上がりながらロゼッタに笑い返す。

 

「ちょっとロゼッタ! なんでそんなヤツのこと気にするのよ! ソイツは〈Colorful〉から出ていった裏切り者でしょ!?」

「あら、ギルドの入会や退会は個人の自由のはずでは? まさか、アキバの街は人権を無視した拘束が許される街なのですか?」

 

 ラァラのそれはアキバの街の名を出してはいるが、その実〈Colorful〉に対する侮辱に他ならなかった。

 リンセの作ってくれた居場所に対する侮辱。それにマキが耐え切れるはずもなく、彼女は理性を失った獣の様に叫び狂う。

 

「ふざけんな! よくも言ってくれたな、クソアマ! リンリンが作ってくれた場所を、〈Colorful〉をよくも侮辱したな!? 今すぐ消し炭にしてやる!」

 

 荒れ狂うマキを佐々木一人で抑えるには無理がある。それを見かねたロゼッタもラァラから離れてマキの制止に回る。佐々木とロゼッタに押さえられているマキを見ながら、ラァラも内心怒りを燃やしていた。

 

 ふざけるな、それはこっちのセリフだ。あの方の作った場所をいい様に扱って貶めているはお前の方だ。

 

 ラァラは目の前の女にそう言ってやりたかった。リンセがどんな思いを込めてギルドを作り、〈Colorful〉という名前を与えたのか。それを知らずに〈Colorful〉をいい様に扱ってのうのうと生きているこの女に。

 ラァラは思いの一切を口にせず、マキを一睨みしてその場を立ち去る。その背を見送り、マキは地面に唾を吐いた。

 

「あの女……今度会ったら絶対に神殿送りにしてやるっ!!」

 

 怒りの治まらないマキの姿を見て、佐々木とロゼッタは互いに顔を見合わせる。佐々木のレッドアゲートには危惧が、ロゼッタのアベンチュリンには懸念が宿っていた。

 

  ※

 

 まだ日が出ているうちにギルドハウスに戻ってきた私は、今ギルドマンバーは何をしているのか確認するためにダイニングエリアの黒板を確認した。

 どうやら、ご隠居と直継は祭り見物、五十鈴とルンデルハウスはわんこの散歩らしい。わんこの散歩? ああ、確かルンデルハウスがわんこっぽいやらなんやらの話を聞いたような聞かなかったような。共用の黒板にそう書いた五十鈴は大物になりそうだなと思わず笑った。例のシロエはどうやら帰ってきているらしい。それもそうか、あの量のケーキを食べて動き回ろうだなんて思えないだろうし。あれは実に傑作だった。いや、本当に。最高に笑わせてもらった。あとでそれとなくシロエにお礼を言っておこうと思った。

 

 それにしても。

 

「祭り、かぁ……」

 

 近くの窓から祭りが行なわれている街の中心地を見つめる。

 祭りというか、ああいったにぎやかな場所はいつまでたっても慣れない。離れた場所で見ているのが一番心地がいい。いや違う。安心する、のか。

 別に嫌いなわけではない、そう苦手なだけなのだ。ただ単純に。

 はぁ……と祭りの賑やかな雰囲気にはそぐわないであろう重い溜め息をつく。

 

「もう今日は大人しく部屋に引きこもってようかな……」

 

 明日はどうあがいても祭りに参加しなければならないのだ。だったら今日くらい引きこもっててもいいはずだ。

 誰に言い訳をするわけでもないのに、そう一人でもごもご呟いて私は自室に引きこもった。




 現在、活動報告にて今後の展開についてのアンケートを実施しております。
 お時間がありましたらご協力よろしくお願いいたします。

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