Log Horizon 〈星詠みの黒猫〉   作:酒谷

3 / 26
直継とリンセの対面


extra 2

 直継にとって(シャオ)燐森(リンセン)という人間は、わりと衝撃的な人物だった。

 

 初対面は、〈放蕩者の茶会(デボーチェリ・ティーパーティー)〉時代。

 まだ〈放蕩者の茶会〉が集まり始めた頃だった。

 にゃん太が彼女を連れてきたのだ。

 

「あれ、班長? その子、どうしたんですか?」

 

 偶然そこにいたメンバーがそういうと、周りもその存在に気付いた。

 にゃん太の左脇には、見覚えのない和装の少女。白い髪を一つ縛りにした女性アバターがいた。

 

「彼女は小燐森ですにゃ。とても腕のいい〈神祇官(カンナギ)〉ですにゃ」

 

 メンバーに誘ってみたところ、面白そうだとか言うので連れてきたのだそうだ。

 

「小燐森です。どうも」

 

 初めの印象は、あまり良くなかった。

 態度が悪いというわけではないのだが、なんというか、やる気が感じられないといったところだろうか。

 とりあえず、印象は良くなかった。

 

 彼女が自己紹介ともいえない簡素な紹介をした直後、シロエがやって来た。直継が彼に挨拶しようとすると、彼は真っ先に少女に声をかけた。

 

「クロ? どうしてここに?」

「にゃん太さんにここのこと聞いて、面白そうだから連れてきてもらったの」

「おや、シロエちは彼女のことをご存知なのですかにゃ?」

「はい」

 

 彼女に会ったシロエはいつもより明るかったように感じた。

 

「シロ、その子、えーっと、燐森ちゃん? とどういう関係なんだよ? 彼女か?」

「そんなんじゃないって。彼女は、えーっと」

 

 そう言い淀んで、シロエは彼女に話しかける。特に何かをしようとしていたわけではない彼女は「言ってもいいよ」と言った。

 

「そっか。あのね、彼女は僕のリアルの後輩なんだよ」

 

 シロエは友人を紹介するように言った。

 

「ちょっとやる気が見えないけど、やるべきことはきちんとやるし、結構頼りになる子だよ」

 

 「僕よりプレイヤー歴が長いしね」とシロエが明るく言う。

 そうか、と思いながら話を聞いていた。

 その時、急に彼女に声をかけられる。

 

「すいません」

「おっ、どうした?」

「今、自己紹介してまわってるんですけど」

「そうか。俺は直継っ! よろしくなっ!」

「直継さんですね。先ほどもご挨拶しましたが、小 燐森です。みんなリンセって呼ぶんでリンセって呼んでください」

「おうっ。俺のことは直継でいいぜ。あと敬語もナシなっ。仲良くやろうぜっ!」

「そう。じゃあよろしく、直継」

 

 

 ――そんな出会いから1ヶ月。

 

 直継は度々リンセとパーティーを組んでフィールドに出掛けた。

 回数で見れば、多いとはいえない回数。

 しかし、その数回のパーティーで彼は早くも彼女の異質さに気付く。

 

 今回はシロエを含め、3人のパーティーで行動していた。

 

「クロ、次はどのくらい?」

「4」

 

 シロエとリンセの主語のない会話。

 最初のうちは、主語を入れろよと思っていた直継も、次第にその会話に慣れていく。

 

「はいよっ、4体な」

 

 普通の会話をしているように見えるが、実はマップ上に敵のマークはない。だが、リンセが来ると言えば来るのだ。たとえ、マークがなくても。

 

 少しすると、マップに敵のマークが出現する。数は、4。

 

「よしっ、いくかっ!」

 

 フォーメーションはいつもどおり。

 前衛で直継が敵を引きつけ撃破。その援護をシロエが行い、リンセが補助をする。

 いつもどおりの戦闘を行いながら、直継は思う。

 

(リンセはどうしてマップ上に出てもいない敵の数がわかるんかねぇ)

 

 そう、常に彼女の敵の数の予測はドンピシャなのだ。マップに出ていない敵の数なのにだ。

 完全に把握していると言ってもいい。それくらいの的中率だった。

 なんでわかるのか不思議に思って彼女に疑問をぶつけてみたが、返ってきたのは「ただの勘」だった。

 ただの勘にしても当たりすぎだろ。

 

「直継、追加で3」

「え?」

「聞こえなかった? 追加で3体来るよ」

「おう、了解した」

 

 また、だ。

 また、マップに出ていないのに敵の数を叩き出す。

 一体どうやっているんだ。

 直継は首をかしげながらも、とりあえず今は敵を倒すかと頭を切り替えた。

 

 

「今日は結構やったな」

「そうだね」

「もうねむい」

 

 探索を終えて〈帰還呪文(コール・オブ・ホーム)〉を使ってアキバまで帰ってきた。

 

「じゃあ、私はこの辺で今日は上がるよ。お疲れっしたー」

「お疲れ様」

「おう、お疲れっ」

 

 リンセが一足先にログアウトした。

 残されたのはシロエと直継。

 

(そういえば、シロはリアルでリンセの先輩だったよな)

 

 シロエに聞けばリンセのあの勘の良さの秘密がわかるかもしれないと思った。

 思い立ったが吉日。

 直継はすぐにシロエに尋ねた。

 

「シロ、ちょっといいか?」

「ん? どうかした? 直継」

「あのよー、リンセってなんであんなに勘がいいんだ? なんか秘密でもあったりするのか?」

「秘密?」

 

 ちょっと驚いたようなシロエの声。

 すこし間が空いたあと、笑いを耐えるような声が聞こえてきた。

 

「秘密、秘密かぁ。あったら僕もとっくに聞いてるよ」

「はい?」

「クロのあの勘の良さはなんの種も仕掛けもないんだよ」

 

 いつだって、どんな状況だって、デスクトップに情報が流れてくる前に予測する勘の良さ。シロエは種も仕掛けも無いと言った。

 

「本当にないのか? なんかこう、周りのやつらがここでどのくらいの数のモンスターに遭遇したとかの情報を集めてたとかさー」

「ないみたいだよ。それに、クロの勘の良さは〈エルダー・テイル〉に限ったことじゃないから」

 

 つまり、日常生活でもその勘の良さを働かせてるってことか?

 

「あの子の勘は95パーセントくらいの確率で当たるよ。僕も最初は疑ってたけど、彼女の勘の良さは本物だよ」

「ほえー、そんだけ当たればすげぇもんだな」

「本当だよね」

 

 そのあとはちょっとしたくだらない話をしてゲームを終了した。

 

 それにしても、あの勘の良さはちょっと異常じゃないか?

 そんなことを思った直継だったが、彼女の勘にさらに驚かされることになるとは、このときは微塵も思っていなかった。

 

 

第六感の申し子(シックスセンス・ガール)

 

 

 ――彼女の勘の良さは予言に匹敵するほどの的中率。

 ――まさに、“予言者”だよな。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。