Log Horizon 〈星詠みの黒猫〉   作:酒谷

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chapter 4

 〈三日月同盟〉のギルドホールから出てきて、明日に備えて寝ようということになった。

 と、その前に久々に連絡でも入れとくか。

 ということで、脳内メニューのフレンド・リストから彼の名前を出す。

 もしかしたらもう寝てるかも、と思ったが伝えておいて損はないだろうから。

 何回かのコール音の後、目的の人物に繋がった。

 

「もしもし」

『こんばんは、リンセち。数日ぶりですにゃ』

「そうですねー、ご隠居。最近は戦闘訓練してるもんだから宿に戻るとすぐ寝ちゃって」

『でも、元気そうで何よりですにゃ』

 

 そう、我らが元〈放蕩者の茶会〉のご隠居様だ。

 

「夜遅くにすいません」

『それは構いませんにゃ。それより、こんな時間にかけてきたのですから、何か用事があったのではないですかにゃ』

 

 久しぶりのご隠居の声に、向こうも変わらずだったんだと知る。

 

「ああ、そうだった。実はですね、明日ススキノに向かってアキバを発つんです」

『にゃ? ススキノに来るのですかにゃ?』

「そゆことです」

 

 ご隠居は不思議そうな声色だ。

 それもそうだろう。まだトランスポート・ゲートは復旧していない。

 

『一体何故?』

「実は、知り合いのギルドの子が一人ススキノに取り残されちゃってるんですよ。その子を迎えに行くんです」

『そうにゃんですか』

「ええ。多分、その子、最近ご隠居が言ってた〈ブリガンティア〉に追っかけ回されてるんだと思うんです。えっと、セララっていう子なんですけど」

『おや、セララさんのことでしたか』

「え、知ってるんですか?」

『ヒューマンの〈森呪遣い〉の女の子ですにゃ』

「そう、多分その子です」

 

 これは、思ってもみない状況だ。不幸中の幸いってこのこと言うんだね。

 私は少し安心した。ご隠居なら、そう簡単にやられることはないし。

 

『街の隅で丸まっていたのを拾ったのですにゃ』

「拾ったって……。猫じゃないんですから」

『どちらかというと、子犬ですにゃ』

「いや、拾ったって表現を変えてほしかったんだけど……。まあ、いいや。その子、無事なんですよね」

『今のところは、ですけどにゃ』

「ならいいです。そのまま匿ってあげてください」

『無論ですにゃ』

 

 ご隠居の落ち着いた声に思わず笑みが零れる。いつだって、彼は“ご隠居”なのだ。

 

「そっちにはグリフォン使って行くから結構早いと思います」

『そうですかにゃ。ところで、お一人というわけではにゃいでしょう?』

「ああ、うん。四人です。その内、私とあと二人はご隠居の知ってる人ですよ」

『ほう。その二人とは一体誰ですかにゃ?』

「んー、秘密にしといた方が面白いでしょ?」

 

 ちょっとでいいから、ご隠居をびっくりした顔がみたいからシロエと直継のことは黙っておこう。そんな私の考えを見抜いているかのように、ご隠居は小さく笑っている。

 

「なんで笑うんですか」

『いや、そういうところも変わってないなと思いましてにゃ』

「ちっ」

 

 これじゃ完全に子供扱いじゃないか。ご隠居から見たら、十分子供だけど。

 

『女の子が舌打ちは良くないですにゃ』

「はいはい」

『返事は一回で十分ですにゃ』

「はーい」

『伸ばさない』

「はい」

 

 そんなやり取りをして、二人同時に笑いだす。

 夜遅くなので、なるべく声を殺して。

 

「なんか、久し振りですね。こういう会話」

『最近は情報交換が中心でしたから』

 

 確かに、連絡をとっていたときは情報交換が主だった。だから、こんな軽口を叩くことなんて少なかった。今、それができてるのは少しは余裕が持ててきたってことなんだろうか。

 

「なんていうか、お兄ちゃんみたいですよね、ご隠居って」

『そんなこと言うのはリンセちだけですにゃ』

「そう?」

『そうですにゃ。でも、我が輩にとってもリンセちは妹みたいですにゃ』

「手のかかる、でしょ」

『よくわかってるにゃ』

 

 「ひどい」と言いつつ、思いっきり言い返せないのが癪だ。周りからもよく言われていたし。

 

『リンセち』

 

 不意に真剣な声になったご隠居に私ははてなを浮かべる。

 

「ん? 何です、ご隠居?」

『無理は禁物ですにゃ。何かあったら“必ず”連絡するのにゃ』

「善処します」

『リンセち』

 

 ご隠居の声のトーンが下がった。これは口だけでも素直に従っておくべきだな。

 

「はい。わかりまし……」

『口先だけじゃ駄目なのにゃ』

 

 コイツ、なんで分かるんだ。顔も見えていないくせに、そう言うところは鋭いんだから。

 

『リンセち』

「……はい。頑張ります」

 

 向こうのため息が聞こえた。別にそこまで心配しなくてもいいのに。

 付き合いが長いせいか、彼は結構私の世話を焼きたがる。別にいやという訳ではないが子供扱い過ぎないかと思うことはある。

 

『リンセち?』

 

 私が不意に無言になったせいか、ご隠居が不思議そうに尋ねてくる。

 

『大丈夫ですかにゃ?』

「いや、別になんでもないですよ」

『何かあったら、言ってくださいにゃ』

「はいはい。じゃあ、一つお願いしてもいい?」

『何ですかにゃ?』

「再会できたら、もふもふさせてください」

 

 言ったら、ご隠居から返事が来なかった。

 

「やっぱ駄目ですか?」

『……いいえ、構わないですにゃ。ちょっと斜め上にきたからびっくりしただけですにゃ』

「そう。ならよかったー」

 

 これでもふもふできる。やばい、楽しみだ。

 

「じゃあ、そろそろ寝なきゃだから切りますね」

『わかりましたにゃ。気をつけて来てくださいにゃ』

「はい。では、おやすみなさい」

『おやすみなさいにゃ』

 

 通信が切れる。

 ずいぶん話し込んでじゃったな。今日はいつも以上に。

 

「さてと、寝ますか」

 

 自分の布団に潜り込み、そのまま意識を落とした。

 

  ※

 

 早朝、私たちは「ウエノ盗賊城址(ウエノローグキャッスル)」にいた。私たちを見送りにきたマリエールは、もう何度目になるかわからない確認をする。

 

「本当にええんか?」

 

 見送りに出てきてくれた〈三日月同盟〉のギルドメンバー達数人もマリエールの後ろで同じような表情をする。

 

「心配要らないって。マリエさん。その娘、可愛いんだろう? 俺がナンパする前に他の男には触れさせないぜ。遠征ナンパ祭りっ!」

「黙れ馬鹿」

 

 直継が取り方によっては不謹慎になりそうな発言をする。そんな直継にアカツキが肘鉄をいれた。

 

「大丈夫です。野営慣れもしてるし、この二週間くらいで訓練したから……」

 

 確かに、昨日言ったことは間違いではない。けれど、シロエは、昨晩切ってしまった見栄が恥ずかしくて、なかなかマリエールと視線をあわせられてない。

 

「シロくん、見送りに来てくれたんだから。それに会話するときは人の目を見る」

「でもさ……」

「行くって言ったんだし、それは間違いじゃないからもっと胸張りなよ」

 

 シロエに対してため息をつく。やっぱりすぐに出来ることじゃないのは分かってるけどさ。

 

「これ。……いつもので悪いんだけど、食い物だから。道中でさ、食って。シロ先輩、ごめんな」

「アカツキちゃん。これはメンバーが作った傷薬ですわ、お気をつけて」

 

 〈三日月同盟〉の心ばかりの支援物資を、シロエとアカツキは受け取り言葉少ないながらも感謝する。〈三日月同盟〉のギルドメンバーはそれをきちんと受け取ってくれた。

 

「マリ姐こそ気をつけてください。……その、PKとか」

「うん、うちらは平気っ。ちゃんと情報も集めておくっ」

「ばっち任せておいてよ。マリエさん」

「あはははっ。直継やんも、ちゃんと帰ってくるんよ? シロ坊はいらんみたいだから、直継やんにもませたげるからなっ。ほれほれ。お姉さんのは柔らかいぞぅ」

 

 マリエールは直継を胸に抱き込む。朝っぱらから何しているんだこの人は。

 

「ちょ、マリエさんっ。タンマっ」

「なんだよぉ。直継やんもシロ坊と同じく拒否組なのかぁ?」

「そういうわけじゃないけどさっ」

 

 相変わらずマリエールは照れくさくなると下ネタに逃げ込む。相手にされている直継も大変だな。

 アカツキはそんな直継にぼそっと何かを囁いた。

 〈三日月同盟〉のギルドメンバーの様子を見ると苦笑していた。日常的な光景らしい。

 まだ直継とマリエールが何か話しているが聞かなくてもいいだろう。内容は容易に想像できるし。

 

「無事に帰ってきたら、うちの脂肪なんかどうしたっていいからさ。……行ってらっしゃい、うちらのためにありがとう。気をつけてな」

 

 マリエールの言葉を受けて私たちは歩き出す。

 遥か北の地へと。

 

  ※

 

 出発してから、私たちは馬を使って崩れた高架道路――古代時代においては首都高と呼ばれた陸上橋のような道路を通って北へと進んでいた。

 この世界でも、馬はホイッスルを吹くとどこからともなくやってくる、という親切設計だった。こういうところはゲームっぽいんだけどなぁ。

 いくつものフィールドゾーンを経由して地道に進んでいく。馬術なんかは訓練なしで体が勝手にやってくれるからいいが、なにぶんお尻へのダメージがすごい。

 私たちは、昼過ぎになってから休憩を取ることにした。

 

「馬はいいんだけどさ、馬術とかは体が勝手にやってくれるから。でも、やっぱり尻は痛くなるよな」

「そうだね」

「私も同感」

 

 そんな私たちをアカツキは怪訝な表情でじっと見つめてくる。そりゃそうか。軽そうだもんねアカツキ。

 そのあとも、毎度恒例となった直継とアカツキのじゃれあいが始まった。

 私はシロエの斜め左後ろを歩きながら周りを見渡す。

 お、いいもの発見。

 

「シロくん。あれ、あの大きな岩。テーブルに使えそうじゃない?」

「本当だ。二人とも、あそこで休憩にしよう」

 

 シロエの提案にアカツキと直継は頷いた。

 岩の上にクロスをしき、食料と水筒、そして地図と筆記用具を広げる。

 

「これはどうしたんだ? 主君。ずいぶん立派な地図じゃないか」

 

 その地図は、アカツキの言う通り随分詳細だった。なんでだろうと考えて、シロエのサブ職業を思い出した。

 

「そっか。シロくん、〈筆写師〉だっけ」

「うん。アキバの文書館にある地図を写してきた」

「なるほど。主君、やるな」

「で、俺たちはどの辺なんだ?」

「この辺」

 

 私は水筒の水を飲みながら、アキバに近い一点を指す。

 「全然進んでないな」とか「午後は飛ばす」なんて会話をしながら湿気た煎餅味のターキーサンドを食べた。私は半分くらい食べたあたりでお腹がふくれた。やっぱり少食だよなぁ。

 

「ごちそうさま」

「もういいのかよ」

 

 私の目の前に残されたターキーサンドをみて直継は眉をしかめる。

 

「うん、もういいの。直継、あげるよ」

「いらねぇよっ」

「なんだ、残念」

 

 食べかけが嫌なのか、それとも湿気た煎餅味味はいらないってことか。

 三人がなんともいえない表情でターキーサンドを食べてるのを眺めながら、水を飲む。

 

「……このまま、ギスギスするのかな」

 

 ふとアカツキが小さく呟いた。その言葉の真意は私には分かりかねるけど、そうなるべきではないという確信はあった。

 

「そんなことはないよ」

「そんなのはつまんねー」

「ま、そうなるべきじゃないよね」

 

 シロエはまっすぐに、直継が言葉通りに、私は笑いながら。アカツキの言葉を否定する。

 

「身内が泣いてたら助けるっしょ。それ普通だから。『あいつら』が格好悪くたって、俺らまでそれに付き合う義理はねーよ」

「直継の言う通り。格好悪くなる義理なんてない。堕ちる理由もないし」

 

 そもそも、そんなことしてる場合じゃないと思う。私たちは、この世界で少数派なのだ。そんな世界で互いに堕ちる理由があってたまるかって話だ。

 

「ったくだぜ。無理矢理襲うなんてのは、風情がなくていけねぇよ。もっとさ! こー。なんてんだ。ちらっ、みたいな」

 

 さっきまで格好いい雰囲気だったのに台無しだ。そして、直継の意見に私は反対だ。

 

「直継、見えたら終わりだよ。見えるか見えないかのギリギリのラインが一番人間の想像力が発揮されるのに」

「いや、見るまでが勝負だろっ」

「違うねっ」

 

 私と直継のだんだん白熱していく下ネタ会話に、今回は珍しい人物が乱入してきた。

 

「えー。直継とクロとしては、じゃあ、どういうのが好みなのさ」

 

 シロエだった。

 

「そんなの色々あるよ。メイドさんとかナースさんとか」

「でも、やっぱり、後輩がスタンダードじゃない? 私としては2歳以上年下がいいな」

「おっ、さすがリンセっ! わかってんじゃねーか。そういう基本が大事なんだよっ」

「基本は大事だよな。戦闘連携だって基本の積み重ねだもんねっ!」

 

 私と直継の会話に乱入してきたシロエはなかばやけくそのように叫んだ。分からないなら乱入してこなければよかったのに。

 そんな私たちを、アカツキが白けた目線で見ていた。

 

  ※

 

 食事兼休憩も終わり、そろそろ出発しようと片付けをする。召喚笛を出そうとマジックバックを漁り出すが、なかなかお目当てのものが見つからない。

 

「んー……」

「おい、リンセ。まさか持ってないだなんてことはないよな?」

「……わからない」

 

 とりあえず、マジックバックを逆さにしてみた。どさどさっと中身がばらまかれる。それらをマジックバックに仕舞いつつ、目的のものを探す。そして、それはあった。

 

「お、あったあった」

「見つかったか」

「クロ、見つかった?」

「うん」

 

 不思議そうなアカツキの視線を受けつつ、三人で召喚笛を吹く。その音に導かれてそれらはやってきた。

 

「グリフォンではないかっ」

 そう。それは〈鷲獅子(グリフォン)〉だ。

 昔、〈放蕩者の茶会〉でくぐり抜けた死霊が原(ハデスズブレス)大規模戦闘(レイド)で〈翼持つ者たちの王(シームルグ)〉にもらったんだっけ。あれはいい思い出だな。

 そんなことを思いながらグリフォンに餌の生肉を与えて鞍を装着した。

 

「なんでそんなもの持ってるんだ」

 

 やっぱり普通の人にとってみたら希少アイテムだからか、アカツキはそんなことを聞いてきた。

 

「びっくり隠し芸のとき便利だろう?」

「びっくり隠し芸って……」

 

 直継の言葉に呆れ顔になる。ま、わからなくもないけど。

 グリフォンの背にのって準備完了。シロエとアカツキの準備完了を待っていると、その二人が面白いやり取りをしていた。シロエの「お腹の肉は掴まないでっ!」発言に思わず爆笑。直継と二人で笑っていたら、シロエとアカツキから非難を受けたけど、それもそれで面白いもんだからますます笑っちゃう。

 

「あははっ! さてと行きますか」

「お先に失礼っ!」

 

 直継と一緒に空へ向かう。風に乗ってひとつ縛りの髪が揺れた。

 

「あー、気持ちいいー」

「リンセ、年寄りみたいだぞー」

「うっさい」

 

 空にいることが思いの外気持ちよくて天を仰ぐ。その青はどこまでも澄みわたっていた。

 

  ※

 

 アキバの街を出発してからはや3日。ここまでは概ね順調、シナリオ通りって感じだ。

 そして、今まで通り「ティアストーン山脈」には〈鋼尾翼竜(ワイヴァーン)〉が生息していた。空中で複数のワイヴァーンと戦闘になると厄介どころの話じゃないので、私たちは〈パルムの深き場所〉を抜けて北に行くことにした。

 

 コンクリートで作られたライトグレーの広い地下通路を進んでいく。基本的に高レベルプレイヤーに対しては低レベルのモンスターは襲ってこないので、私たちはほとんど戦闘をせずにここまでやって来ていた。

 

「この部屋は、そこそこ安全っぽいな。――どうする、シロ」

「えっと……。そだね。休憩にしよう。直継はドアの近くへ。クロは周辺を警戒して。僕はマリ姐に定時連絡をする。アカツキは……」

「偵察してくる」

 

 闇に溶けたアカツキを見送りつつ、私はシロエの近くで感覚を研ぎ澄ます。〈大災害〉が起こってからというものの、私の勘は少し鋭くなったように思う。なんというか、レーダーだ。私の分担はその勘を用いたものだった。シロエが「クロにはその勘を使って周辺を警戒してほしい」なんて言ってきたときはぶん殴ってやろうかと思ったけど、何だかんだで一番ベストな役割なんだよね。

 シロエが念話をしている間にアカツキが帰ってきた。

 

「おかえりなさい」

「ああ」

 

 シロエの念話がし終わるまで報告も何もできないので、アカツキはシロエの近くでじっとしている。その姿が何とも小動物っぽい。

 シロエの念話が終わり、アカツキがシロエに声をかける。

 

「主君、状況はそんな感じだ?」

「~っ!」

 

 シロエの驚きっぷりに思わず吹き出しそうになるが、ギリギリのところで耐えた。

 マリエールの話によると、状況は継続中らしい。まあ、セララちゃんのことはご隠居がいるから私たちがつくまで状況は維持されると思う。

 そのあと、アカツキの報告を聞いてシロエは地形を書き出す。

 相変わらず、うまいなぁ。さすが、専門なだけはある。

 

「こんな感じでいいかな?」

「うん、正確だと思う。……主君はこういうことが得意だな」

「CADみたいなものだよ。僕は〈筆写師〉だしね」

「CADとはなんだ?」

「パソコンでやる製図。大学でやるんだよ。工学部だしね」

「主君は大学生なのか?」

「もう卒業だけどね」

 

 シロエは頷いた。

 それにしても、大学かぁ。もう随分と遠い昔の話のようだなぁ。ひたすらゲームを作っていた頃が懐かしいや。

 そんなことを思っていると、アカツキが言った。

 

「そうか。ではわたしとほとんど同じ年なんだな」

 

 ………………。

 

「え?」

「まじかよっ!?」

「やっぱりか」

 

 反応は三者三様。話の流れからそんな感じはしたけど、これはまたなんというか。

 

「そんなに意外か?」

「冗談だろ、ちみっこ。だって、ちみっこ身長ないじゃぎゃふっ」

 

 身長のことはもう触れてやるなよ、直継。

 それにしてもちょっとだけ意外だ。まあ、私たちに対する言動からして年が近いかなとは薄々思っていたけど、本当に近かったのか。

 

「まさか主君もわたしが未成年だと思っていたのか?」

 

 その質問と鋭い視線にぼそぼそと話し始めたシロエ、という絵面が面白かったのは多分私だけだっただろう。

 

 

 長い長いトンネルを抜けた私たちを迎えてくれたのは、山々の稜線を彩る夜明けの最初の光だった。ずっと閉鎖的空間にいたせいか、とてつもない開放感だ。

 

「とうとう越えたね」

 

 白い髪が風に靡く。まとめられた後ろ髪が尻尾のように揺れた。

 

「綺麗だぞ」

「すっげぇーなぁ」

 

 仲間たちの短い感嘆の声を聞きながら、〈彼女〉の姿を思い出す。

 確かに、こんな景色が見れるなら絶望してる場合じゃないよね。

 突然現実になった無法の地。だけど、まだ諦めるには、絶望するには早い。アキバもススキノも。

 「この“初体験”こそが冒険だ」と〈彼女〉は言った。

 「わからないからこそ楽しいんだ」と〈あの子〉は言った。

 その二つは、私には手に入れることがとても難しいものだけど、やっぱりこの世界は捨てたもんじゃない。

 

「僕たちが初めてだよ」

 

 過去に思いを馳せていると、シロエが言った。私は彼に振り返る。

 

「僕たちがこの景色を見る、この異世界で最初の冒険者だ」

 

 シロエが初めて意識して、“異世界”と言った。そのことに私は少しだけ驚く。

 そう。ここは異世界で、私たちは冒険者なんだ。

 

「そうだな。俺たちが一番乗りだ。こんなすごい景色は〈エルダー・テイル〉でだって見たことはねぇ」

「わたしたちの、初めての戦利品」

「うん」

 

 これが、私たちの現実(リアル)で私たちの人生なんだ。

 

「さあ、行こう。ススキノへ」

 

 シロエのその言葉を合図に、グリフォンの召喚笛の音が空に響いた。


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