もしベリルが割と普通だったら   作:クソ眼鏡3号

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お待たせしました。
前後編と言っておきながら、後半も思ったより長くなったので暫くした後にホントの最終話をエピローグとして投稿する予定です。
嘘つきな作者で本当に申し訳ない。


後編

俺はバーヴァン・シーに大した事はしてやれていない。

 

彼女はモルガンから「悪逆に生きる様に」と言われている。

その真意は単純にバーヴァン・シーが心配だからだ。

 

なんでも本来のバーヴァン・シーはとても純粋で優しく、それ故に周りの妖精達に利用され尽くしたとモルガンから聞いた。

胸糞悪い話だが、妖精達はそういう悪逆を()()()()やってのける。

妖精の本質は無邪気だ。

だからこそどんな悪逆も平気で実行出来る。

子供が虫の手足をもぎ取って遊ぶ様な事を、妖精達は一切成長する事なくやっているんだ。

奴らには思慮などない。策略なんて考えない。

悪だという事も自覚出来ない。

どいつもこいつも、その場のノリで物事を決めてしまう様な、ノリと勢いだけで生きる存在が妖精だ。

 

そんな妖精の中では彼女は異端だったのだろう。

異端な者は弾かれる。

それは人間であろうと動物であろうと変わらない絶対の真理だ。

だから純粋で優しかったバーヴァン・シーは弾かれたのだろう。

 

俺は別にその純粋だった頃のバーヴァン・シーを見た訳じゃない。

 

でもモルガンから彼女の事情を聞いて、彼女と接して、なんとなく予想はついた。

 

だから俺も出来るだけ彼女には俺の殺す作業を見せてあげる事にした。

 

あくまでも()()()()()だ。

実行はさせない。

悪逆を見ていれば、それを見ている自分が悪逆だと思い込んでしまう。

だから出来るだけ彼女の手を汚さない様に細心の注意を払っていた。

 

あくまでも彼女は()()()()()()()()

それだけに留めた。殺しは俺が出来るだけ実行するようにした。

バーヴァン・シーに同情した訳でもない。

可哀想と思った訳でもない。

ただ屑の俺に懐いてくれた彼女を、汚したくなかっただけだ。

彼女は充分に強い。俺よりも遥かに強い。

俺より強い彼女を守ろうと思うのはお門違いだ。

それは分かってる。

それでも俺は汚したくなかった。

俺と同じ屑にはしたくなかった。

 

バーヴァン・シーはウッドワスとは仲が悪く互いに嫌っていた。

 

俺はバーヴァン・シーがあまりにもウッドワスを嫌うので、ご機嫌取りの一環で、ウッドワスを暗殺する作戦を俺なりに考えて彼女に伝えた。

すると彼女は嬉しそうにその暗殺作戦をやりたいと言い出してしまったので、仕方なく俺はウッドワス暗殺作戦を実行した。

 

その作戦の内容はロンディニウムの進撃の際にカルデアがウッドワスを撃退した後に、瀕死のウッドワスを暗殺するという作戦だった。

 

この作戦は想像以上に上手くいった。

 

“母"から教わった呪術には東洋呪術がある。

肉体を元に別のモノへと組み替える東洋呪術を使えば、俺でも一時的とはいえ並のサーヴァント程度の能力は発揮出来る。

東洋呪術とバーヴァン・シーの助けがあったお陰で俺はウッドワスの心臓を抜き取り、致命傷を負わせる事に成功した。

 

バーヴァン・シーの為とはいえ、ウッドワスを犠牲にしたのは正直に言えば後悔してる。

ウッドワスはこの妖精國の妖精の中でもかなり良識のある妖精だった。

 

他の妖精と比べれば大分マシな類の妖精を俺はご機嫌取りの為に殺してしまった。

 

「……クソッ」

 

俺はやっぱり屑だ。

駄目だと分かっていても実行()()()()()()

殺す事しか出来ない屑。

そのご機嫌取りすらも“殺し"に関わる事でしか碌に出来ない。

そんな自分の無能さに嫌気が差す。

 

そんな苦労してやったご機嫌取りも、はっきり言って無駄だった。

 

バーヴァン・シーは別に俺と一緒にいて強くなった訳じゃない。

俺の殺す光景を見て悪逆に染まっているという勘違いをしているに過ぎない。

 

だからなのか、バーヴァン・シーはグロスターで()()()()()()()()

 

そりゃそうだ。

俺とバーヴァン・シーは一緒に行動こそしていたが一緒に戦った経験なんて皆無だった。

それに向こうはマスターとして経験豊富な熟練者だ。

ほぼチームワークなんて無い俺達には勝ち目なんてなかったんだ。

 

そして負けたバーヴァン・シーは部屋に引きこもってしまった。

一応慰めにいったが、大して効果は無かった。

それにバーヴァン・シーは何を思ったのか『失意の庭』という礼装を使って、更に塞ぎ込んでしまい、俺の声など届かなくなっていた。

 

家族ごっことはいえ“娘"を追い詰めたカルデアに殺意が沸く。

 

八つ当たりなのは分かってる。全部俺が不甲斐ない所為だ。

バーヴァン・シーを追い詰めたのは俺の責任だ。

だからこそ“殺し"しか出来ない俺に出来るのは、カルデアと予言の子を殺す事だけだ。

 

 

 

色々とあったが、今カルデアのマスターとマシュ・キリエライトが予言の子とペペロンチーノと共に俺の居城であるニューダーリントンに来ていた。

 

その地下で、俺が人間をモース化させた奴等を集めていた。

人間といっても、俺がモース化させたのは反乱した奴でもない。

上流階級の妖精に仕えていた人間の兵士だ。

奴らは上流階級の妖精に仕えている事を鼻にかけて威張っていた。

威張って位の低い人間を虐める奴なんて苦しんでも文句は言えないだろう。

 

それでも人間をモース化させる過程で沢山の人を殺した。

我ながら屑だと思うが、罪悪感なんてちょっとくらいしか感じない。

この世界の人間は汎人類史における犬や猫の様な動物の類になっている。

この世界の人間を殺した所で大した罪にはならない。

人を殺す事には抵抗は無い。それでもなんだかんだで多少の罪悪感は感じてしまう。

だが、罪悪感は感じても殺す事を止めない理由にはならない。

殺す事しか俺には出来ない。

殺す度に俺は屑だと自覚する。

屑だと自覚すればまだ俺は行動出来る。そうでも認識しないと生きていけないから。

 

俺はこのモース人間達を使ってカルデアを葬るつもりだった。

 

予言の子とカルデアのマスターとマシュとついでに一緒にいたペペロンチーノを嵌めてモース化させた人間達を襲わせた。

 

これで奴等は終わる。

 

お人好しのアイツらにはモース化させた人間を殺す事は出来ない。

そう思って、兼ねてから人間をモース化させる方法をわざわざ研究したんだ。

多少の効果がなければ割りに合わない。

 

そう思っていたのに

 

「何だよ…その涼しい顔⁉︎テメェらそれでも人理修復を成し遂げたマスターかよ⁉︎」

 

奴らはなんて事のない様に突破して、俺のいる城の地下出口に辿り着いていた。

一瞬だけ失望してしまった。

カルデアのマスターは、どんな状況でも『普通』を貫くヤツだと思っていたから、モース人間達を殺しても何とも思っていない様子が意外だった。

俺の質問に奴等は訳が分からない様だった。

すると横から血まみれのペペロンチーノが現れた。

 

「気にするだけ無駄よ……」

 

何故かは分からないが、とりあえず敵が目の前に現れた事は確かだ。

 

「しょうがない…直接やるか…」

 

俺は得物のナイフを取り出す。

それに反応したマシュが大きな盾で俺を攻撃してくる。

俺はそれを()()()()()()()()

 

「⁉︎」

 

マシュとカルデアのマスターは驚いていた。

まあ、あくまでも人間の俺がサーヴァントの力を持ってるマシュの攻撃を受け止めるなんて不可能な事だ。

 

「覚えときな後輩」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

俺は一度死んで生き返っている。

一度死んで復活を果たした俺は、普通の人間ではなくこの異聞帯の環境に適応した人間へと生まれ変わっている。

妖精の生きる環境に適応したならば、肉体を造り変える東洋の呪術を応用すれば、自分の肉体を人間ではなく()()()()()()()()()サーヴァントに匹敵する戦闘力くらいは発揮出来る。

妖精という生命体のポテンシャルは人間とは比べものにならない。

音速で移動する事も超人的な怪力を発揮する事だって可能だ。

それでも並のサーヴァント止まりでモルガンやバーヴァン・シーには及ばないが、それなりの戦闘は行える。

 

「キリシュタリアでも経験しただろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マシュの盾を足場にして、カルデアのマスターに突貫する。

その前に『予言の子』の少女が前に立ち塞がるが、杖が振り下ろされる前に、杖を掴む。

杖を掴まれた事で一瞬だけ予言の子の意識が杖に向いた隙にナイフを持っていた手を離して、予言の子の足を掴み持ち上げる。

 

「くらえ、予言の子スマッシュ!」

 

少しでも余裕がある事を装う為に、上辺だけでもふざけながら戦う。

そのまま予言の子を体そのものを武器としてカルデアのマスターに振るう。

 

「先輩!」

 

マシュが盾をマスターを守る為に構える。

 

「グェッ⁉︎」

 

手に持つ予言の子からカエルの様な声が聞こえてくる。

マシュの盾に頭から激突して、非常に可哀想だが思ったより丈夫な体をしていそうなので放っておこう。

 

「余裕そうね、ベリル」

 

すると横からペペロンチーノの鋭い手刀が飛んできた。

その手刀を急いでナイフで逸らす。

 

「な訳ねぇだろッ⁉︎こっちも一杯一杯なんだよ。テメェらと違ってそこまで優れた魔術師って訳でもねぇんだ!」

 

「頼むから少しは手加減してくれよ?」

 

俺がそう愚痴るとペペロンチーノは見透かす様に質問してくる。

 

「ならどうしてキリシュタリアを裏切ったの?」

 

その質問にギクリと来る。

その隙を狙っていたのかペペロンチーノの蹴りが俺を吹き飛ばした。

 

「貴方がキリシュタリアを刺さなければ、私がケジメの為にこの異聞帯に来る事もなかった。貴方は私の性分を少しは理解していた筈でしょ?」

 

「そのリスクを知りながらどうして貴方はキリシュタリアを裏切ったのかしら?」

 

「“普通"になりたかった貴方が、どうして裏切ったの?」

 

確かにその通りだ。

ペペロンチーノは本人が思うよりずっと義理堅く人情家だ。

裏切りなんて許す筈がない。

だが、それでも俺はキリシュタリアを裏切ったのには理由がある。

 

「お前さん達もこの異聞帯を見ただろう?妖精っていう超常存在が霊長類の世界だ。()()()()と思わなかったか?」

 

妖精は本来なら人間の世界でも強力な存在だ。

それが霊長類としてそこらじゅうに跋扈(ばっこ)しているなんて恐ろし過ぎる。

 

「俺はキリシュタリアの目的を知って心底恐怖したよ。当然だろ?人類が全員神様になるんだ。つまりこの異聞帯みたいに超常存在達が跋扈する世界に変わってた訳だ」

 

神様と妖精、どれも人間には理解出来ない恐ろしい存在だ。

キリシュタリアの作ろうとした世界が、俺にはこの異聞帯そのものみたいに感じた。

だってそうだろう?

妖精の中にはその気になれば『魔法』を使う事だって可能な奴等がわんさかいる。

そんな奴等が大人しく従う訳ない。

()()()()()()()()()()()()。例えそれが人間でも神でも変わらない。

 

「誰もが力を持った存在になるなんて混沌以外の何物でもないだろう。そんな世界を()()()()()()()?首相か?王か?大統領か?」

 

誰もが超常の力を持って生まれる世界は地獄だけだ。

この異聞帯だって、モルガンという絶大な存在が有る事でなんとか纏める事が出来ているが、いつその支配が終わるかなんて気が気じゃない。

 

「まとまる筈がねェ。どいつもこいつも力を持っていたら秩序なんて容易く壊れる。そんな世界を生きろだって?真っ平御免だね!」

 

その混沌なんて体験すらしたくない。()()()()()()()()()()()()

“普通"ですらない俺には耐えられない。

“屑"の俺には耐えられない。

“弱い"俺には耐えられない。

 

「そんな世界で生きるくらいなら、俺は“屑"でいる事を選ぶ!神様なんてなりたくもねェ!『力』なんてこっちから願い下げだ!」

 

「何事も程々が丁度良いだろう?少しは妥協しろってんだ!だからキリシュタリアを刺したんだ!こればっかりは同意を得られると思うんだがなぁ?」

 

「ええェ⁉︎カルデアのマスターちゃんよ!」

 

俺の答えにカルデアのマスターとマシュは少し動揺している様だった。

だがペペロンチーノは少しも攻撃を緩めない。

 

()()

 

ペペロンチーノはバッサリと言い放つ。

 

「貴方がそんな理由で裏切る筈がないわ。一応理由の一つではあるんでしょうけど、理由としてはまだ弱いわ」

 

ペペロンチーノは俺の表向きの理由で覆い隠した嘘を見抜いた。

相変わらずペペロンチーノは察しが良い。

 

「他に理由つってもなぁ……」

 

俺はペペロンチーノの攻撃を躱しながら、俺はつい他の理由を考えてしまう。

それで真っ先に思いついたのがモルガンの事だった。

 

()()()()()()()()()()()()()だろう?他に理由なんてありゃしねェよ」

 

咄嗟に思いついた理由を言ってみたら、ペペロンチーノは攻撃しながらもその表情は驚いていた。

 

「……なるほど、貴方がねぇ……」

 

ペペロンチーノはすぐに納得した様子で、次の瞬間には俺への殺意を激らせていた。

 

「貴方の裏切った理由は理解出来たわ。でもだからといって貴方を許す理由にはならない」

 

「貴方を殺す理由なんて、『気に入らない』っていう理由で十分でしょう?」

 

スカンジナビア・ペペロンチーノは不敵な笑みを浮かべながら俺へ宣言した。攻撃の勢いが更に増していく。

 

「いいねェ…そっちの方が分かりやすい!俺も以前からアンタが苦手だったんだ!」

 

俺は改めてペペロンチーノを殺す為に意識を集中させる。

 

「マシュ、今だ!」

「ハイ、先輩!突貫します!」

 

すると横合いからカルデアのマスターが強化魔術をマシュに施して、勢いと威力が増したマシュの体当たり(シールドバッシュ)が俺を吹き飛ばした。

 

「さっきはよくもやってくれたなぁ!」

 

吹き飛ばされて無防備状態の俺を予言の子が杖を振りかぶって追い討ちをかけてきた。

魔術で強化された杖の一撃は俺の胴体を捉え、俺の骨と内臓を粉砕する。

 

「ガアアァァァァ!」

 

激痛にのたうち回る。

通常の状態で食らったら半身不随は確実のダメージだった。

 

「これで…終わりよ!」

 

ペペロンチーノの鋭い手刀が俺に襲いかかる。

俺はそれをナイフを持っていない左手で防ごうとするが、手の平を貫かれ、そのまま肘から肩まで貫かれる。

激痛が走る。だが無視する。

お陰で攻撃を逸らす事は出来た。

逆襲の牙は既に装填済みだ。

 

「ああ……終わりだよ。テメェがなァ!」

 

俺は自分の歯を最大限に強化して、至近距離にいるペペロンチーノの首筋を…()()()()()()()()()()

頸動脈は人体の急所だ。

人間離れしたペペロンチーノだが、肉体はちゃんとした人間だ。

これで奴は致命傷を負った…ペペロンチーノの死は確定だ。

治癒魔術が使える奴は今の所カルデアの陣営にはいないだろう。

 

「いいえ、()()()()。コレが最初から目的だったんだから…」

 

ペペロンチーノのその言葉を聞いた途端に俺は体内…というより魂が汚染された様な感覚に襲われた。

 

「ああああああああああああああアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!??」

 

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

肉体が内側から腐っていく。

 

「ウエッ……気持ち悪りィ!気持ち悪りィぞ!何だコリャ⁉︎」

 

先程の激痛が気に入らない程の気持ち悪さに吐きそうになる。

骨が腐る。肉が腐る。呪詛が聞こえる。

激痛も呪いの影響で更に増して発狂しそうになる。

 

「アンタがさっき私達に差し向けた“呪い"をアンタが()()()()()のよ……」

 

のたうち回る俺の頭にペペロンチーノの声が響く。

 

「貴方はさっき言ったわよね?“殺した相手に呪いが移る"って……」

 

「そうよ、私“死にかけ"だったの。誤魔化すのホントに辛かったわー!」

 

死にかけの状態でも余裕そうに振る舞うペペロンチーノの声が聞こえる。

つまり俺はまんまと自分の仕掛けた罠をそっくりそのまま返された訳だ。

チクショウ、悪態をつく余裕も無いぞ。

 

「仕方ねェ……ここは逃げさせてもらうぜ。この場はテメェらの勝ちだよ。敗者は潔く退散だァ!」

 

俺は脚を強化を施して、妖精としての能力をフルに活用して脱出を図る。

この状態でもまだ妖精の力は使える。なら逃げられる。

肉体と魂が腐食されていく感覚を意地で蓋をする。

周囲の壁を超音速で跳躍し、跳ねていく。

 

カルデアの連中は追う余裕が無かったのか、追撃はやってこない。

 

この時、俺はスカンジナビア・ペペロンチーノに完膚なきまでに負けたのだと改めて思う。

 

何処までも強く余裕そうに生きるアイツ(ペペロンチーノ)を見たのはコレが最後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グァァァァァああああああアアアアアアアアアァァァァァァ!!!?」

 

吐き気がする。

ゲロを吐こうにも顎が痙攣して上手く吐けもしない。

体が()()()()()()()()()

腕が取れる。脚が取れる。

だが再生してしまう。

それも呪いなのか妖精へと体を造り変えた影響なのかは分からない。

おそらくは再生の呪いだろう。

新しく生えた腕が再び腐っていく。

そしてまた取れて()()()()()()()

そうした苦しみを永遠に繰り返す悪趣味な呪いだ。

 

「ひぎぃィい……あああ……ああああアアア!……ッ!」

 

だから俺は痛みに耐えるしかない。

一度は発狂して目や首を抉ったが、死ぬ事は出来ずに無慈悲に再生してしまう。

舌を噛みちぎっても意味は無い。致死量の血液を流そうと意味は無い。

俺はこの永劫に繰り返す痛みと呪いに耐えるしかない。

発狂しても、精神が死ぬ事すら許されない。

ああ…駄目だ、また発狂しそうになる。

ただそんな時、ふと頭をよぎったのがモルガンの顔だった。

 

「……ッ!………グソがァァァァ!!!」

 

発狂しそう自分の心を根性を振り絞って耐える。

出来るだけその苦しみに慣れようにする。

苦しみが永劫続くならば()()()()()()()

臭い匂いに鼻が慣れる様に、その異常に順応するしかない。

 

「………はッ………はぁはぁ………はぁ」

 

そう思えば、何度も発狂してでも慣れてしまえばこっちの物だ。

十数回の発狂を繰り返して、俺は何とかこの苦しみに慣れる事が出来た。

 

「まだ……終わるわけにゃあ……いかねェよな……」

 

まだ俺にも出来る事はある筈だ。

カルデアを倒す事はしくじったが、これで奴等は俺が死んだと思った筈だ。

その隙を突いて強烈な一撃を喰らわせてやる。

 

だからこそまだ俺は死ぬわけにはいかない。

 

俺は呪い塗れの死体同然の身体を引きずって、モルガンのいるキャメロットに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死に体のベリルがキャメロットに着いた頃にはモルガンは敗北していた。

 

オーロラという風の氏族の長の介入によって敗北必至だったカルデアの状況をひっくり返した。

 

上流階級の妖精達がモルガンに反旗を翻し、モルガンをズタズタにしていく。

物をぶつけ、剣で刺し、抉っていく。

彼女が文字通りの肉片となるまで妖精達はモルガンの肉で遊ぶ様に弄んだ。

 

その醜悪な光景が終わり、モルガンのアキレス腱でもあったバーヴァン・シーもまた、妖精達にズタボロにされて『大穴』に捨てられた。

 

その光景を既に死に体のベリルは見ているしか出来なかった。

抵抗しようにも脚も手も碌に動かない。

 

それでも気力を振り絞り身体を無理矢理動かす。

 

モルガンが倒された時、モルガンが妖精達に肉片となるまで嬲られる光景を呪いに苦しみながらもベリルは見ていた。

 

この悲惨な光景を見て、心を奮い立たせない“夫"がどこにいる。

 

自分でも理解不能な激情に流されるままベリルは行動を開始した。

 

ベリルは気配を消し、最早誰も興味がなくなっていたモルガンの肉片を素早く回収した。

 

バーヴァン・シーは残念ながら既に『大穴』に落とされていたので救助する事は出来なかったが、どうにかモルガンは救助できた。

 

ベリルは回収したモルガンの肉片を、“母"から教わった呪術を用いて、蘇生を試みた。

 

幾らバラバラにされたとはいえ、モルガンは魔術師だ。

幾つもの分身を生み出す程の実力を持つ彼女ならば肉体さえ元通りにしてしまえば蘇生は可能だ。

モルガンの精神力は十分に化け物クラスだ。

何千・何百年もブリテン異聞帯を治めていたんだ。

バラバラになってもキッカケさえあれば復活する筈だ。

そう思ってベリルはモルガンの蘇生に取り掛かり、モルガンの肉体を何とか元の形に戻した直後、モルガンからの一言は

 

「下手くそめ……」

 

だった。

ベリルは普通に凹んだが、主に殺しを専門としている彼にとっては蘇生なんて滅多にやらない事だ。

油断をすればすぐに崩れそうになるモルガンの肉体は風前の灯火だった。

少なくともかつての様な力は出せないだろう。

かなり荒い蘇生の所為でモルガンは大分弱体化していた。

 

モルガンが目を覚ましたのはカルデアが既に呪いの大厄災であるケルヌンノスを倒した後だった。

 

 

 

 

 

 

妖精國は新たな王が誕生する戴冠式にて次の王である王の氏族達は全て毒殺された。

 

その後にすぐにまるで終わりを告げるかの様に大厄災が始まった

 

妖精達は戸惑い、混乱し、厄災に蹂躙された。

 

他の厄災達も、それぞれで動いていた。

獣の厄災は妖精という存在そのものに絶望して

炎の厄災は愛故に絶望と哀しみに呑まれ

呪いの厄災は自我さえ失って

 

その絶大な力を振るい、妖精國を滅ぼしていく。

 

だがそんな状況でも諦めない者は存在した。

 

それがカルデアだった。

 

彼らはこの絶望的状況でも突破口を見つけ、それぞれの厄災を討伐していった。

 

三つの厄災を討伐し、カルデアはブリテン異聞帯に眠る真の厄災が目を覚ました。

 

それが【奈落の虫(オベロン・ヴォーティガーン)

 

ケルヌンノスという蓋が消えた事で、真の厄災はブリテンそのものを喰らい始めた。

 

勿論、それを黙って見ているカルデアではない。

どんな絶望にも抗うカルデアと【奈落の虫】が激突した。

 

カルデアの連中は全て奈落に落ちた。

 

その奈落でもカルデアは変わらず戦い続けた。

 

聖剣の概念そのものとなったキャスターを呼び出し、【奈落の虫】との戦いに臨む。

 

それを見ていた者達がいた。

 

「凄いな……アイツら……」

 

「ああ……そうだな……」

 

それを見ていたのはベリルとモルガンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ蟲め……ヤツの存在が分かっていたなら真っ先に始末していたのに……!」

 

モルガンは自分が守って来たブリテンの終焉を見せつけられて呆然としながらも憤慨していた。

【奈落の虫】であるオベロンの正体に気づけなかった己を恥じたのか、それとも己の無力さに怒っているのか。

どちらにせよ、ボロボロの彼女では【奈落の虫】には勝てない。

それだけは確実だった。

だがそれでも彼女は【奈落の虫】を葬らんと特攻を仕掛けようとするが、それをベリルが止めた。

 

「しばらく…様子を見ようぜ」

 

「なんだと?」

 

ベリルの提案にモルガンは怪訝な表情を浮かべるが、ベリルは続ける。

 

「カルデアはいつだってどんな困難も超えてきたんだ。今回みたいな危機なんて一度や二度じゃない筈だ」

 

カルデアは人理修復の時も、他の異聞帯の時でも、いつだって突破口を見つけて生き残ってきた。

 

「アイツらはまだ足掻いてる」

 

いつだって諦めずに前へ進んできた。

 

「アイツらはまだ諦めてない」

 

いつだって奇跡を起こしてきた。

記録でしか知らないが、カルデアの軌跡はベリルも知っている。

『屑』の自分には到底真似出来ない奴等だから。

どんな状況でも『普通』で在り続ける奴等だから。

『普通』に憧れるベリルだからこそ

カルデアという可能性にベリルは賭けてみたくなった。

 

「アイツらの起こす『奇跡』に…少し賭けてみねェか?」

 

ベリルの言葉にモルガンは少し考えてから

 

「いいだろう。だが負けたら貴様を魂まで呪うぞ」

 

その答えにベリルは大袈裟に笑ってみせる。

 

「いいねェ!俺はとっくに隅から隅まで呪い塗れだ。どうせなら魂までも呪われた方が清々しいぜ!」

 

そのベリルの返事が不快だったのか、モルガンは不機嫌な表情に戻る。

 

「よし、決めた。貴様がこの『賭け』に勝ったら私を抱いても良いぞ?」

 

「え、なにそれ“罰ゲーム"じゃん」

 

実はベリル・ガットは()()()()()()()()()()()()()()

そういった行為は他人がやっているのを見た事がある程度で、知識としてはあるが、自分がやるのは真っ平御免という考えを持っていた。

魔女の“母"を見て育ったが為に、家族を増やす行為は良い事ばかりではない、寧ろ悪い事の方が多いと結論していた。

だから他人がやるのはともかくとして魔女の血が混じっている自分には無縁だと思うしやりたくないとも思っていた。

 

ベリルの返事が予想外だったのかモルガンは益々不機嫌になりベリルを魔術で攻撃した。

 

「うぉおおッ⁉︎悪かった!今のは俺が悪かった!失言でした、ホントすんません!」

 

それをなんとか回避してベリルはモルガンに謝罪する。

ベリルの先程の発言は完全にベリルが悪い。

モルガンも絶世の美女と呼べる容姿の女性と交わる事を罰ゲームと評するなどモルガンとしても初めてだったのだろう。

モルガンとしてはてっきり喜び狂うと思っていたのにまさかの“罰ゲーム"呼ばわりは彼女の女性としてのプライドをズタズタにされたのだ。

 

「いいや、許さん」

 

だからこそ、モルガンは必要以上にベリルを追いかけ回し始めた。

 

「おいおい、カルデアは見なくていいのかよ⁉︎」

 

「構わん。どちらが勝とうと、勝った方を私が倒すだけだ」

 

この女最初から漁夫の利を狙ってたな……

という感想を口にする前にモルガンの魔術がベリルを襲った。

 

カルデアと【奈落の虫】が戦う最中で、もう一組のマスターとサーヴァントは呑気に鬼ごっこをしていた。

 

モルガンは魔術を放ち、ベリルは逃げる。

 

ベリルは呪いに侵されながらもモルガンとの鬼ごっこに興じた。

モルガンは気を抜くと肉体がまたバラバラになりそうなのに魔術を放ちベリルを追いかける。

 

「大体、貴様は何故そうもデリカシーがないのだ⁉︎ウッドワスの方が遥かに紳士的だったぞ!しかもバーヴァン・シーがウッドワスの事を嫌っているのに何故諌めなかった⁉︎」

 

「無茶言うなよ⁉︎どいつもこいつも馬鹿みたいにクソ強い癖に感情的で短絡的な奴ばっかで俺がどんだけ恐ろしい想いをしたと思ってんだ⁉︎気を使って奴等をやり過ごすのに必死で諌める余裕なんかあるわけねェだろ⁉︎」

 

まるで一緒にいるのが楽しくて仕方ないかの様に、二人は喧嘩をする。

 

「貴様ッ……バーヴァン・シーとウッドワスの事をそんな風に思っていたのか⁉︎見損なったぞ!」

 

「ソイツらはまだ例外だよ!問題は他の妖精がその気なればトンデモ魔術やら怪力やらで俺程度なんていつでも殺せんだ!警戒して当然だろ⁉︎」

 

マスターとサーヴァントは、この喧嘩に互いの本音をぶつけ合った。

 

「それを防ぐ為に私は貴様を“夫"にしたんだ!」

 

「それでも信用なんねェだろ⁉︎妖精だぞ⁉︎」

 

己の心の内に秘めていた思いを互い晒した。

ベリルは妖精達が怖かった。

モルガンはもっとバーヴァン・シーやウッドワスにも幸せになってほしかった。

 

「臆病者め!」

 

「アンタこそ少しは正直になったらどうだ⁉︎」

 

モルガンはベリルがずっと怖がっている事を知った。

ベリルはモルガンがずっと本音を抑えていた事を知った。

この喧嘩で二人はお互いの本音を知った。

 

「は……はははははははは!」

「フ……ハハハハハハハハハ!」

 

いつの間にか鬼ごっこはやめて2人は笑っていた。

お互いにやっと相手の本質を理解出来た様な気がして。

やっと理解出来て、今まで気づかなかったのが可笑しくて仕方なかった。

相手と自分の愚かさを笑う。

その愚かさを笑って受け入れる。

 

相手の心が分かるから。心から共感出来るから。

 

モルガンだって妖精が怖かった。

ベリルだって、バーヴァン・シーには幸せになってほしかった。

 

すれ違っていても、お互いに似たモノ同士だった。

 

ベリルは殺す事しか出来ない様に、モルガンはブリテンを支配する事しか出来ないし他の生き方なんて出来なかった。

 

なんてお笑い草だ。

規模も才能も状況も何もかもが違う癖に在り方だけは良く似ていた。

 

「アンタが召喚されるわけだ…」

 

ベリルはひっそりと納得した。

おそらくだが汎人類史のモルガンも、似たようなモノだったのだろう。

ブリテンを支配する為に、あるいは壊す為に、彼女は生きていた。

それ以外の生き方なんて出来なかったのだ。

それをするしか生きる事が出来なかったんだ。

汚れ仕事をするしかない性分なんて、どんな偶然だろうか。

 

ベリルにとってモルガンは、出会うべくして出会えたんだと思えた。

 

ベリルは初めて『運命』を感じた

 

初めてヒトを愛おしいと思えた。

 

呪いと血で塗れた2人は笑う。

 

この時、初めて2人はごっこ遊びではない本物の夫婦になれた気がした。

 

 

 

 

 

そんな事を繰り広げている内にいつの間にか【奈落の虫】とカルデアとの戦いが終わっていた。

 

戦いを制したのはカルデアだった。

 

「やっぱ勝ったか……出来の良い後輩だなぁ全く……」

 

「ああ……マスターとは大違いだ」

 

ベリルとモルガンはその結果を見て微笑みを浮かべる。

ベリルはダメダメだった自分の有り様とどん底から這い上がった後輩を比べて自分が情け無く思いながらも称賛の言葉を紡ぐ。

モルガンの皮肉も事実として受け止める。

モルガンはいつまでもだらしないベリルに呆れて溜め息をつく。

 

「行くぞ」

 

「ああ…」

 

そしてモルガンはベリルを手を掴み、共に奈落から脱出したノーチラス号の甲板へと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は人理修復を成し遂げたマスターだ。出来の良い後輩を持って先輩は肩身が狭いよ」

 

【奈落の虫】を討伐し、奈落から脱出したカルデアのマスターは、ノーチラス号の甲板に出た。

そこにいたのは敵対している元クリプターでありモルガンのマスターであったベリル・ガットとその傍らには死んだ筈のモルガンがいた。

 

「ブリテンの災厄を祓ってくれた事を、妖精國の女王として誠に感謝する」

 

「だが最早ブリテンの妖精國は滅んだ。だがまだ終わっていない。かつての私がやった様に()()()()()()()()()()()()カルデアの技術全てを理解する必要がある」

 

「よってカルデアの者達よ。()()()()()()()()()()()。断るならば無理矢理奪うまでだ」

 

死んだ筈のモルガンが生きていた事だけでも衝撃的なのに、更なる衝撃はモルガンは未だに自分の國の事を諦めていない事だった。

 

「どうしてですか?どうしてそこまで拘るのですか、トネリコさん⁉︎」

 

マシュは納得出来なかった。

トネリコであった彼女と共に旅をしたマシュは今の彼女が痛々しくて仕方なかった。

何処までいってもブリテンに拘る彼女が不思議で仕方なかった。

何度も迫害され、果てには狂いながらも統治してみせたにも関わらず、尚も崩壊するブリテンを救おうとする彼女を見て、マシュは泣きたくなりそうだった。

 

「………まだ戦うつもりなんですか?」

 

との問いにモルガンは頷く。

その間にベリルが割って入る。

 

「まあ、俺は成り行きでな」

 

改めて考えるとこの戦いには意味は無い。

 

モルガンが統治していた妖精國は既に滅んでいる。

ベリルが戦う理由も薄い。

 

本来なら彼らはカルデアと戦う必要性は無い。

モルガンもベリルも既に肉体がボロボロで、魔術を使うのがやっとの状態だ。

 

「まあ、色々と理由をつけているが要は“八つ当たり"だよ」

 

ベリルは付け加えた。

モルガンも今回の崩壊で流石に半ば諦めかけている。

妖精達の醜悪さと厄災の恐ろしさは才能溢れる彼女でもどうにもならない。

口ではレイシフトで解決しようと言っているが、それでもどうにかなる問題ではない事は彼女でも分かっている。

 

だが、それでもベリルとモルガンはカルデアに挑んだ。

 

「形だけとはいえ“娘"を殺されたんだ。“敵討ち"くらいしてやんねェと“親"の面子が立たないだろ?」

 

ベリルの言葉でカルデアのマスターとマシュはハッとする。

ケルヌンノスを倒す際に狙い撃ち抜いた『核』。その核の正体を。

妖精達によって『大穴』に放り込まれ、ケルヌンノスに取り込まれ『核』となったバーヴァン・シーの最期が彼等を突き動かしていた。

 

「アンタらが撃ち抜いた核はウチらの“娘"だよ。生意気だけど可愛い女の子を、お前らは撃ち抜いたんだ」

 

形だけの夫婦で

形だけの親子関係で

親らしい事なんて何一つ出来なかったけど

なにもしてやれなかったけど

 

「「敵討ち(これ)くらいはさせてくれ」」

 

この戦いを、純粋で可愛い娘に捧げる為にマスター(ベリル)サーヴァント(モルガン)は戦う。

 

「マシュ!」

 

「了解です。マシュ・キリエライト…戦闘を開始します!」

 

 

ノーチラス号の甲板で、真の最終決戦が始まった。

 

 




次回で本当に最終回です。
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