もしベリルが割と普通だったら   作:クソ眼鏡3号

3 / 5
お待たせしました。
ちょっと仕事やらワクチン接種やらと色々あって投稿が遅れました。
今回でホントの最終回です。
この話がFGOで現在開催中のモルガンピックアップを引くキッカケになればと思います。
誤字報告をしてくれた方々や感想を書いて応援してくれた方々様。本当に、本当にありがとうございました。


エピローグ

結果はベリルとモルガンの敗北だった。

 

それは当然の結果だ。

ベリルは呪いで満身創痍、モルガンはツギハギの肉体で精神も疲弊しきっており魔術を行使するのがやっとの状態の彼等にチームワークなどある筈が無い。

マスターとしての経験が豊富なカルデアのマスターには勝てなかった。

最初から彼等には勝ち目なんて無かったのだ。

 

それでもベリルとモルガンは立ち上がり続けた。

 

ベリルは呪いの影響で手足が腐り落ち始めた。

それと同時にモルガンの肉体も崩れ始めた。

 

モルガンの左腕が落ちる。右脚が取れる。

 

ベリルの肩が腐り崩れる。腹が崩れて内臓がばら撒かれる。

呪いによって歪に再生するが、中途半端に再生した為にもはや人の原型を失いつつあった。

更にまた肉体が腐り始めてまた体が崩れる。

そんな事を繰り返しながら、ベリルは苦痛を味わい続ける。

 

 

それでもベリルは立ち上がろうとする。

何故か?

それは“娘"の為に頑張るのは“親"として“普通"の事だからだ。

 

屑だとしても、形だけだとしても、“親"となったからには“普通"でありたい。

 

側から見れば家族ごっこに本気になってるだけの男だ。

家族ごっこに本気になるなんて馬鹿げてる。下らないと人は笑うだろう。

それでもそんな下らない理由で彼は立ち上がっていた。

下らなくても知った事かと言わんばかりに、ちっぽけな意地がベリルを動かしていた。

ベリルは残りの魔力を全て足に回し全力で跳躍する。

 

「うおおおおおおおああああああアアアァァァァ!!」

 

咆哮と共にカルデアのマスターへ向けて突貫する。

 

「させません!」

 

その特攻をマシュは盾で防ぐ。

マシュの大きな盾と激突したベリルの肉体はその時の衝撃によりマシュの周囲に飛び散った。

 

手足だけでなく内臓から骨までベリルの肉体の隅々が飛び散った。

スプラッタな光景がマシュの周りに出来上がる。

これほどに肉体が粉砕すれば流石に死んだだろうとマシュ達は思う。

 

「やっぱ甘ちゃんだな」

 

だがその思考に誘導する事こそがベリルの狙いだった。

ベリルは生首の状態でありながら生きていた。

ベリルの肉体の痛覚はまだ正常に機能している。

肉体が辺りに飛び散っているのに肉体の感覚があるなんて変な事だが、現にベリルはそれを感じていた。

最早ベリルは殆どゾンビに近い状態だった。

500以上の呪いはベリルに簡単に死ぬ事など許さない。

それがベリルの命を繋いだ。

その不死に近い状態の代償に肉体は多少の衝撃で砕けてしまうほど脆くなっているし常に発狂してしまいそうな激痛が襲い続ける。

 

それすらも意地で捩じ伏せてベリルは飛び散った際の勢いを利用して本命であるカルデアのマスターに攻撃を仕掛ける。

その攻撃は鋭い牙による噛み付きだ。狙う場所は頸動脈。

生首状態で出来る唯一の攻撃手段でベリルはカルデアのマスターを噛み殺そうとする。

 

「ああああああああ!!」

 

それに気づいたカルデアのマスターはあろう事が噛み付こうとするベリルに向けて腕を差し出して防いでみせた。

これがカルデアのマスターの真の武器だ。

いざという時の判断力こそがこれまでの戦いで培ってきたカルデアのマスターの唯一の武器だった。

 

「ッ⁉︎」

 

「先輩ッ⁉︎」

 

ベリルはおろかマシュもその行動には驚いた。

そしてマシュはすぐに生首のベリルを盾で弾き飛ばす。

 

この瞬間に真の勝敗は決した。

 

マシュに弾かれたベリルは幸い粉砕はされなかった。

肉体が飛び散り、呪いの再生力すら追いつかない程の重傷ではベリルは激痛の生き地獄を味わい続けるだろう。

 

「チッ……クッ……ショウ………がッ!!」

 

生首状態で体の感覚が未だに切れず、痛覚だけを味わい続けるベリルだが、それでもベリルの闘志はまだ消えていない。

その意思を滾らせてまだ戦おうとする。

だがその意思に反して肉体は動かない。

その事実にベリルは苛つきながらなおも脆く様はシュールで滑稽だったが、その状態の彼を笑う者は誰一人としていない。

 

「もういい…」

 

そして彼女もまた彼を笑わない者の一人。

ベリルの妻のモルガンが生首のベリルを抱き寄せた。

抱き寄せられたベリルはモルガンの行動が信じられなかった。

いつもの彼女ならばベリルを抱き寄せたりしない。むしろ蹴りつけて喝を入れそうだとベリルは思っていた。

だからベリルは彼女の行動が意外だった。

 

「もういい…マスター。私達の負けだ」

 

いつもの毅然とした態度が鳴りを潜めて、弱々しい雰囲気をまとっていた。

その態度はまるで全てに疲れきった様な、諦めがついた様な、そんな気がした。

 

「良いわけねェだろ⁉︎アンタはここまで頑張ったんだ!その頑張った結果を此処で消しちまっていいのかよ⁉︎」

 

ベリルは納得出来なかった。

モルガンが此処で諦めるのは、今までの彼女の頑張りを無にしてしまうからだ。

例えどんな結果で、どんな世界が生まれても、それは彼女が努力した結果だ。

頑張り続けた彼女の結果をベリルは消したくなかった。

頑張ったヤツがいるなら、その頑張った分だけソイツは幸せになるべきだ。それは“普通"の事だ。

だからベリルはモルガンに手を貸した。

それに頑張ってるヤツを応援したいと思うのも“普通"の事だ。

 

そんな道理は現実には通らない事は分かってる。

それでもこの不条理だけはベリルは納得出来なかった。

 

キリシュタリアはベリルの事を「頑張っている」と言っていたが、ベリルからすればそれは違う。

 

()()()()()()()"だけだ。

 

頑張る事は出来てもそれが続かないだけだ。

頑張るきっかけが出来てもつい手を抜いてしまうだけだ。

現にベリルはバーヴァン・シーの死を回避出来なかった。

本気で頑張ってバーヴァン・シーと接していたら、もしかしたら回避出来たかもしれない。

だが、ベリルは途中で()()()()()()()

バーヴァン・シーとのコミニュケーションを必要以上には取らずに、自分の時間を作ってしまった。

“普通"ならばバーヴァン・シーの危うさを察して本気で向き合うべきなのに、自分可愛さに怠けてしまった。

しかもその作った時間でやったのは人間をモース化させる為の実験という下衆な事。

その時間があったからこそカルデアを追い詰める事が出来たと思うが、全ては無意味だった。

結局、ベリルは無駄な時間を過ごしていただけだ。

だからベリルはいつまで経ってもどうしようもなく情けない男なんだと自嘲する。

そんな中途半端な自分だからこそ頑張り続けたモルガンがとても美しいと思えた。

だがそれと同時に思ってしまう。

その美しい彼女を“汚してしまった"のも自分なんだと。

 

「全部俺の所為じゃねェか……!だからアンタが気に病む事なんてねェだろ…ッ!」

 

元はと言えば俺がこの地でサーヴァントなんて召喚しなければアンタが苦労する事もなかった。

何もかもが俺の所為だ。

この地で起きたあらゆる悲劇は全て俺の責任だ。

アンタを追い詰めたのは俺の所為でもあるんだ。

 

その屑が今頑張らないでいつ頑張るんだ。

 

「だからまだ俺は……ッ!」

 

そんな屑でもまだ譲れないモノはあるんだと、叫ぼうとする。

 

そんな事を口にしようとするベリルをモルガンは()()()()()

 

「ッ⁉︎」

 

驚くベリルを見て、モルガンは悪戯を成功させた子供の様に微笑む。

 

「それ以上言うな。お前は十分に頑張ってくれた。だからもう休め」

 

それアンタが言うのかよ

とベリルは思う。

 

「だから私も休ませろ。お前が休まないと私も休めないんだ」

 

「私も()()()()()()()()()()()

 

「これ以上、お前のそんな姿を見たくない」

 

そのベリルの思考を読んだのかモルガンはベリルを諭していく。

モルガンが諦めたのはとても単純な事だ。

ブリテンを治める事に疲れた事、バーヴァン・シーの悲惨な最期を見てしまった事、そしてベリルが酷い姿に成り果てようとも戦おうする姿がもうこれ以上見たくないからだ。

 

とても単純で利己的だ。ただの我儘だ。

 

でもその我儘は、長い間をブリテンという国に縛られ、頑張り続けた彼女の我儘だった。

その我儘は奇跡の様なモノだった。

 

長い時を生きた彼女は、何度も何度も誰かを愛し愛され、既に愛など飽きていた。

そんな彼女が初めて自身の感情のままに我儘を言った。

モルガン自身もその感情が何なのか分からない。でもあらゆる願いすらも踏み躙っても言わなければならなかった。

モルガン自身も未だに自分の行動や言葉すらも信じられない。

こんなにも自分を揺さぶる()()なんて知らなかった。

正体不明の感情に動かされるままにモルガンはベリルを止めにかかった。

 

「分かったよ……」

 

そんな彼女の我儘をベリルは聞かない訳にはいかない。

これで真の勝敗は決した。

 

カルデアの勝利という結果で勝負は決した。

“敵討ち"はなされなかった。

 

結局、この戦いには意味は無かった。

この最後の戦いには意味は無い。

それでも一つだけ確かな事はある。

 

それはベリル・ガットという男が、心の奥底でも彼女の幸せを願ってしまった。

改めて心から彼女に惚れてしまった。

負けを認めたベリルは考える。

俺が彼女に何ができるのか?

疲れ切ってしまった彼女を元気づけるにはどうすればいい?

一体、どうすれば彼女を幸せにできる?

とベリルは思考する。そして一つの事を思いついた。

 

後になって考えると、その発想はとても“(ベリル)"らしかった

 

「俺の肉体…戻せるか?」

 

「…今の私では無理だ。令呪の様な補助が有れば話は別だが…」

 

生首状態のベリルは、肉体が飛散した状態でもまだ肉体の感覚は呪いによって残っている。

よって問題は無い。

 

「三つの全ての令呪を持って命ずる…俺を元に治してくれ」

 

ベリルの令呪の補助を受けてモルガンの魔術でベリルの肉体は再生された。

モルガンの天才的な魔術の技量があれば、ベリルの肉体の再生など簡単だ。

単純に飛び散ったモノを全て元の形に戻せば良いだけなのだから。

筋肉や骨、果ては衣服まで再現してベリルの体は再生する。

そして数十秒の間にはベリルの肉体は完全に元に戻っていた。

流石にベリルがペペロンチーノから受け継いだ呪いはそのままだが、ベリルは仕方ないと割り切った。

ベリルとって重要なのはこの()だ。

体に刻まれた()()を確認したベリルは改めてカルデアに向き直る。

 

「俺らの負けだ。カルデア…」

 

元に戻ったベリルはカルデアのマスターとマシュに向き直った。

最初に口を開いたのはマシュだった。

 

「令呪を放棄したという事は、投降するという事ですか?」

 

ベリルは先程の再生の為に令呪の全てを使用した。

三つの令呪を使用したという事は、マスター権を放棄したという事だ。

マスター権を放棄すればサーヴァントは存在出来ないが、今回は特例だ。

サーヴァントであるモルガンは既に肉体は持っている。

故にモルガンが消滅する事は無い。

ベリルが投降してカルデアに降れば、カルデアもしばらくは様子を見るだろうが、ベリルをマスターとしては欲しい筈だ。

カルデアにはマスターが1人しかいない。

だからマスターの予備がいればそれだけで大分精神的余裕に繋がるだろう。

だがそれでもベリルには令呪がまだ残っている。

それも()()()()()()()()がだ

 

「いいや、生憎と投降するつもりはねェよ。何処にも行く所が無い屑の行き先なんて決まってるだろう?」

 

ベリルはそう言って改めて自分のサーヴァントと向き合う。

モルガンもベリルの発言の意図が掴めずに一瞬考え込んだが、ベリルと顔を向き合って彼女は察した。察してしまった。

 

やめろ

 

モルガンはベリルに向けて告げる。その声色は少し震えていた。

彼女の表情はいつもの仏頂面だが、その内面にはそれだけはやめてほしいと懇願したい気持ちがベリルには伝わっていた。

 

「ソイツは聞けないな。これはケジメだ。敗者には相応の罰が必要だ」

 

「サーヴァントの責任はマスターの責任さ。たまにゃあ()()()事させてくれよ…」

 

“妻"の幸せを手伝うのも“夫"の役割だ

それだけ言うとベリルの肉体から光が溢れ出した。

その突然の光にはマシュとカルデアのマスターには覚えがあった。

 

大令呪(シリウスライト)だよ。俺にはこれがどんなモノなのかは詳しくは分からねェ。でもせっかくマリスビリーがくれたんだ」

 

「俺個人の為に有効活用くらいしてもいいだろう?」

 

大令呪(シリウスライト)

それはクリプターと呼ばれたAチームにマリスビリーから授かった詳細不明の令呪。

カルデアも詳しい事は分からないが、これだけは分かる。

 

大令呪を使用した者はその代償として使()()()()()()()()という事実だけはカルデアもベリルも分かっている。

 

ベリルは不敵な笑みを浮かべながら、モルガンへと告げる。

 

「我が大令呪(シリウスライト)を持って命ずる」

 

俺の事なんか忘れちまえ

 

ベリルのその発言と共にモルガンを抱きしめる。

「世界を覆す力」と呼ばれる大令呪の力はモルガンでも抗えない。

 

その光はモルガンを包みこんだ。

その光は忘却の光だった。

その光はモルガンの“夫"を奪いさる光だった。

 

「俺みたいな屑がアンタの“夫"なんて務まらねェよ。その役割はどっかの“誰か"に任せるさ」

 

それは紛れもないベリルの本心だ。

正直言って、モルガンの様な天才で優秀な美女の夫など、“屑"である自分とは釣り合わないと。

 

「アンタみたいな綺麗な人は、()()()()()()()

 

告白しよう。

一目見た時から惚れちまっていたんだ

あまりにも綺麗な人だったから

この美しい人を汚したくないと思ったのは初めてだったんだ

実は言うと()()()()()()()()()()()()()()()

だからこそ張り切って“夫"をやれたんだ

 

「俺みたいな“屑"の事は忘れて、どっかの“誰か"と幸せになってくれ」

 

そんな綺麗なアンタを俺で汚したくない

綺麗なアンタの経歴に俺みたいな屑はいちゃいけない

 

「出来るなら“普通"な奴にすれば良い。どんな状況でも“普通"を貫ける奴ならアンタを幸せにしてくれるだろうよ」

 

だから俺の事は忘れてくれ

アンタの事だ…どうせ俺の事を引きずってくれるんだろう?

なんらかの奇跡が働いて“誰か"のサーヴァントとして召喚されて、本当の自由を手に入れたとして

それで“誰か"を好きになったとして

そうなったら元“夫"の俺の存在は()()()()()()()

いつまで経っても彼女の足を引っ張る亡霊になるなんて御免だ

彼女は自由に恋をして、本当に幸せになるにはどうすれば良いかなんて、後はもう考えるまでもない

()()()()()()()()()()()()()()

俺の事なんか気にせずにアンタらしく在ってほしいから

 

「それじゃ…幸せにな」

 

アンタの幸せに俺は必要ない

アンタの幸せに俺は邪魔だ

惚れた女の幸せの為なら身を引く事が必要な時もある

今回はそのケースだっただけだ

 

「だから…今度は“あの娘"も幸せにしてくれる奴を夫にしてやってくれよ」

 

彼女の夫として

彼女に惚れてしまった1人の男として

彼女()の幸せを心から願う“家族"として

ベリル・ガットという男は、大令呪の光が収まった後、最期にそう告げてその生涯を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まり、そこにはもはや動かないベリル・ガットの遺体とモルガンが残されていた。

 

()()()

 

まだ私は覚えてる。

まだ私はベリル・ガットという“夫"がいた事を覚えてる。

 

大令呪という詳細は分からないが、恐らく本来の用途とは違うのだろう。

だから些か効力が効きにくい。

本来なら人類の敵に向けた攻撃の為の手段なのだろうが、今回は明確に用途が違う。

 

モルガンがまだベリルの事をまだ覚えているのは、単純に彼女自身の魔術の才能だろう。

咄嗟に魔術で抵抗し、効力を薄めたのだ。

だが、まだ効力が切れる事はない。

今はまだ覚えていても“次"の彼女が覚えているとは限らない。

どんどんベリルとの思い出が薄れていく。 

ベリルとの思い出ははっきり言って少ない。

それでもこの感情は、()()()()()()()()()()()()()()

だから譲れないし譲らない。

決して忘れさせない。

忘れてなるものか。絶対に許さない。

 

「させんぞ!絶対に許さん!」

 

この思い出は“私"のモノだ。“私"だけのモノだ。

仮に今死んで、どんな奇跡が働いてカルデアに召喚された“私"がいたとしても。

それは最早別人だ。

今の“私"じゃない。

ベリル・ガットという男の妻は“私"だ。

この“私"だ。

次の“私"が忘れていようと知った事か!

それだけは譲れない。誰であろうと“私"であろうとそれだけは譲れない!

 

「ッ!うああああああああッ!」

 

それは彼女の絶叫であり精一杯の抵抗だった。

 

モルガンはその感情のままに()()()()()を決行する。

 

カルデアの様な準備も設備も無い状態だが、魔術式は遥か過去に記憶を受け取った時に入手している。

ならば後は、それを思い出し、実行するだけだ。

 

魔術式がモルガンの周りに展開され、レイシフトが敢行される。

 

今のボロボロなモルガンでは完全なレイシフトは行えない。

そもそも魔術式すらも不完全な状態では、自分の記録を過去に送る事も出来ず、歪な形にしかならないだろう。

だがそれでも試して見る価値はある。

それで絶望的な今の状況が打開出来るならば速やかに実行するべきだ。

 

一縷の望みを賭けて、彼女はレイシフトを行った。

 

その様子を見ていたカルデアのマスターとマシュも驚いていたがモルガンは無視する。

速やかに魔術式を解析し組み合わせて、練り上げる。

そして遂に激しい光がモルガンを包み込んだ。

 

不完全だがモルガンのレイシフトは()()した。

 

かつての最初のモルガンがやった己の記憶を過去の己にレイシフトで移した様に、彼女もまた()()()()()()を過去の己に移したのだ。

モルガンのレイシフトによって過去は改変され、今の状況は変わる。

 

その筈だった

 

「…………あ…………れ………?」

 

光が収まった後、辺りを見渡しても()()()()()()()()()()()

ブリテン異聞帯は今も崩壊し、カルデアのマスターもマシュ・キリエライトも先程と全く変わらない位置にいた。

 

何も変わらなかった

 

モルガンのレイシフトによる過去改変は()()した。

その事実が完膚なきまでにモルガンの心を粉砕した。

何故なのか?

モルガンは思考を巡らせる。

何故だ?何故だ?何故だ?

なぜ?なぜ?なぜ?

そんな思いが頭を駆け巡る中で、不意に思い出した事があった。

 

それはベリル・ガットと二度目の対面の時の事

 

星の終わりまで付き合ってもらうぞ…マスター?

 

あの時の彼女は確かにそう言った。

そうだ、普段のモルガンであれば()()()()()()()()()()()()

まして、ほぼ初対面の男にそんな事を言うなどまず有り得ない。

 

全てに飽きていた彼女が打算こそ有っても“夫"にするくらいなら側近かもしくは何かしらの特別な地位に着かせる事くらいは出来た筈だった。

 

それなのにどうしてモルガンはベリルを“夫"にしたのか?

 

モルガンは思い出す。

あの時、あの瞬間に“何か"があった。

あの時、ベリルに会った時に湧いてきた()()()()()()()

あの時、彼を“夫"にしようと瞬時にそう思った理由。

 

あの時、初めてベリルと対面した瞬間に「この男を逃しては駄目だ」と思った理由

 

「………ああ……そういう事か……」

 

モルガンは漸く理解した。

結論から言えば先程のモルガンのレイシフトは成功していた。

 

今回のレイシフトではモルガンの『記憶』ではなく『()()』をレイシフトしていたのだ。

 

ボロボロな事もあって、理論も不完全な状態での決行で上手くいかなかったのだろう

 

当時のモルガンは未来の出来事など知る由もなく、ベリルと会って湧き出た感情を()()()()()その思いを告げる事は無かった。

全てを諦め、飽きていたモルガンにとって感情を押し殺す事など当然の事だった。

だからこそ、もしモルガンがその場で()()()()()()()()()()()()()、もしかしたら結末が変わっていたかもしれない。

 

 

『ベリルへの恋心』という感情を過去の自分にレイシフトさせても結末は変わらなかった。

 

「……はは……」

 

改めてモルガンは自覚した。漸く『感情』の正体が分かった。

自分はベリルに『()』をしていたんだと。

未来の自分…即ち今の自分が、かつての自分に『(ベリル)への恋心』を送っていたんだと。

だからその時にベリルを“夫"にしたんだと。

だから一緒にいたいと思ったんだと。

 

ボロボロな状態で無理矢理レイシフトを行い、そのレイシフトが不完全な形で成功した事で、レイシフト開始の際にモルガンの中で渦巻いていた最も激しい感情を『ベリルへの恋心』を過去の自分に移していたんだ。

それがモルガンがベリルに惹かれた真の理由だった。

 

「……はは…ははははははははははははははははははははははは!!」

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

モルガンは笑った。

なんて無様な結末だ。

まさか自分の最後の抵抗が過去の自分の手で押し潰されていては驚きを通り越して滑稽だ。

もはやモルガンは限界だった。

最後の力を振り絞って出した策も失敗に終わり、後はもう本当にこのブリテン異聞帯の終わりを待つだけ。

あまりにも無様だ。

あまりにも滑稽だ。

 

そんな自分が滑稽でしょうがなかった

 

もう…どうでもいいや

 

そして、一通り笑ったモルガンはベリルの遺体を抱えて、カルデアのマスターとマシュに顔を向けた。

 

「すまなかった…お前達には迷惑をかけた」

 

敵討ち(八つ当たり)"に付き合わせて申し訳ないと。

マシュと旅を出来て楽しかったと。

私の作った妖精國に貴方達が来てくれて良かったと。

 

その言葉には複雑な感情が込められていた。

 

モルガンはそれだけを告げて、ノーチラス号の甲板からベリルの遺体と共に飛び降りた。

 

「トネリコさんッ⁉︎」

 

マシュの悲鳴と共にモルガンとベリルは落下する。

 

モルガンはこの妖精國の女王だ。

ならばそれと運命を共にするのが筋だろう。

 

モルガンは落下する。

 

モルガンの落下先は既に崩壊しているブリテン異聞帯。

 

このブリテン異聞帯と運命を共にする。

それが彼女なりのケジメなのだろう。

故にマシュには邪魔できない。助けられない。

 

モルガンが落下の際に僅かに見えたのはマシュの涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

落下する

落下する

落下する

 

怖くないと言えば嘘になる。

痛い事が嫌なんじゃない。

 

ただ…孤独(ひとり)なのが怖くて嫌なだけだ

それでも

 

───ありがとう───

 

抱きしめるとそこには“夫"がいた。もう名前も思い出せないけど。

その“夫"の存在がモルガンの中の恐怖と嫌悪感を打ち消した。

 

───ありがとう───

 

私の為に仲間すらも裏切ってくれて

私の為に世界すらも敵に回してくれて

私の為に頑張ってくれて

“娘"の世話を焼いてくれて

 

────大嫌い─────

 

自分を何処までも卑下する癖が大嫌いだ

自分自身を“屑"呼ばわりしながらも頑張って生きようとする矛盾した所が気に食わなかった

私より料理が出来て、“娘"に振る舞って喜ばせている所が気に食わなかった

私よりも“私"の幸せを考えているのが気に食わなかった

 

─────大好き─────

 

けどそんな貴方が好きだった

そんな貴方に恋をした

そんな貴方の事を好きになれた

不器用な生き方しか出来ない貴方が愛おしかった

 

夫への有りったけの気持ちを伝えて、モルガンは落ちていく

 

 

 

 

 

 

すると小さな奇跡が起きた

 

 

──────お母様──────

 

 

「ッ⁉︎」

 

モルガンの元に赤い魂の残滓が寄ってきた。

それは残留思念

それは呪いの残り香

ケルヌンノスの核から僅かに零れ落ちた“娘"の欠片だった。

 

それは母を求める“(バーヴァン・シー)"の意思

自我を無くして尚も保っていたその意思が母の元にやってきた

 

だがそれがなんだというのか。

ただの妖精の残滓がモルガンの元にやってきただけでは状況は好転しない。現実は何も変えられない。

 

───おかえりなさい───

 

それでも彼女は自分の元に帰ってきてくれた“娘"に感謝する。

長い間出かけていた娘を迎える母の様に“娘"を抱擁する。

 

───これでまた『家族』が揃った───

 

やや歪な形だが“夫"と“妻"と“娘"がこの場に揃った。また“家族"が揃った

彼女達の関係は形だけだ。

血も繋がりも無い。

似ている所なんてどこにも無い。

 

その形だけの関係を人は“家族ごっこ"と呼ぶ

 

なんとも滑稽だ

笑える関係だ

偽物の関係だ

形だけの関係に本気になって躍起なる姿を見れば、誰もが笑うだろう

 

だがその当事者全員が本気で家族と思えばそれは本物すら凌駕する偽物となる

 

“夫"も “妻"も “娘"も皆それぞれが本気で家族と思って過ごしていた。

 

形だけと分かっていても、形さえあれば後は中身も自然と満たされる

 

一度は離れてもこうしてまた集まってお互いを慈しみ合えば、それは本当の家族と呼べるだろう

 

モルガンは孤独(ひとり)ではなかった

この場には“夫"と“娘"がいる

その形を“家族"と呼ぶ

これを“幸せ"と呼ばずになんという?

 

ああ───でも────

 

幸せに包まれたモルガンに襲いかかるのはこれからの現実だ。

これより彼女達はブリテン異聞帯と共に消滅する。

そして消滅した“先"は彼女達にはあってもベリルには無い。

彼女は二度とベリルと再会する事は叶わないどころか、ベリルという夫がいた事すら忘れてしまう。

バーヴァン・シーはどうだろうか?

覚えているかどうかは分からないが、ベリルは彼女に対して大きな影響は及ぼしていない。よって良くて朧げか、あるいは普通に忘れているだろう。それにケルヌンノスに纏わりついていた呪いは今後の彼女も蝕んでいくだろう。

その呪いの影響で記憶すら不安定になっていくだろう。

いずれバーヴァン・シーもモルガンと同様にベリルという男を忘れていくだろう。

 

────忘れたくない────

 

それが彼女の唯一の心残りだった。

そんな思いが駆け巡るが現実は残酷に迫って来る

 

───叶うなら───

 

彼女は最期に一つの願い事を言う

 

────もう一度だけ────

 

その願いが叶う事は無いと分かっている

それでも言わずにはいられない

願わずにはいられない

 

────『家族』をやりたいな────

 

また“夫"と“娘"と家族の時間を過ごしたい

今度は妻らしく、母らしく在りたい

手料理でもして驚かしてやりたい

一緒に遊んでやりたい

今度こそ一緒に“なにか"をやりたい

 

そんな有りもしない家族との時間を夢想しながら、モルガンという妖精國の女王はブリテン異聞帯と共に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはブリテン異聞帯を攻略して暫くしたカルデアで起こった出来事だった

 

 

いつもの様にカルデアのマスターは戦力増強の為にサーヴァント召喚を行った時だった。

激しい虹色の光と共に一体のサーヴァントが召喚された

 

「私を召喚したのですね……バーサーカー、モルガン。妖精國ブリテンの女王にして、汎人類史を呪い続けるもの。それで問題がないのなら、サーヴァントとして力を貸しましょう」

 

それは先程まで敵対していたモルガンだった

 

「私が女王である事は、もう変えようのない事実。おまえには、私の臣下としての働きを期待します」

 

驚くマスターとマシュを差し置いて、彼女は横柄な態度でマスターに告げる。

 

するとモルガンはふと思い出す。

 

なんだか私には大切な伴侶(ひと)がいた様な気がする

 

そんな気がした彼女はマスターに付け加えて伝える。

 

「それとも、夫として扱って欲しいですか?」

 

その伴侶(ひと)が一体“誰"なのかは、この“彼女"は知る由もない。

なぜなら今の彼女は“(ベリル)"の妻だった“彼女"とは別人だから。

 

同一の存在だとしても別人だ

 

だからなにも気にする事なく“彼女"は彼女らしく行動し続ける。

 

このカルデアで召喚された“彼女"が一体どの様な物語を紡ぐのか

 

 

 

 

 

 

 

それはまた別の“誰か"が語ってくれるだろう

 

 

 

 

 

 




補足
モルガンがベリルを夫にしたのは未来のモルガンが、『ベリルへの恋心』をレイシフトさせたからというのが理由でした。
原作では本当に形だけでしたが、本作ではモルガンなりの乙女心で夫婦になったという事になっていました。
ただ女王というのは多忙なのでベリルとの甘い展開は一切無かった模様。
また、モルガンがカルデアに召喚された後に、カルデアのマスターの事を伴侶扱いするのは、既にもういない伴侶を求めての行動というのが理由です。

原作でも何故モルガンが主人公を伴侶扱いするのかは詳しい理由はよく分かっていないので、私なりに考えて理由付けして、最後の展開に落ち着きました。

大令呪については六章配信直後の現在では未だに詳しい事が分かっていないので、本作の様な効果が発揮出来るとは限らないので、そこは二次創作という事でどうにか納得していただければ。
一応、令呪って書いてあるし、これくらいは可能かな?と思い終盤の展開を書きました。
これにて普通ベリルの物語は終了です。
もし読者の皆様方の中にFGOをやってて、モルガンやバーヴァン・シーを所持している方がいるならば、どうか彼女達を大切にしてあげてください。
そしてこの物語が、皆様の休息となれば幸いです。








オマケ

これから↓はあくまでも唐突に思いついた一発ネタです。本気にしないでください。あくまでもネタとしてお楽しみください。
私の寒いネタは嫌いという方はどうかこの時点でブラウザバックを推奨します。







嘘予告

これはモルガンが奇跡的に過去の自分に『ベリルへの恋心』と『その記録』を完璧に受け取ったIFの世界の出来事

「もう貴様はどこにも逃さん…!」

「俺アンタに何かしたぁ⁉︎」

その記録と恋心を受け取ったモルガンは、ベリルを徹底的に囲うべく、あらゆる策と権力を持ってベリルを追い詰める
それらを鍛えてきた殺しの技術と魔術で何とか乗りきり、妖精國を逃げ回る何も知らないベリル

「助けてくれぇェェェ!!」

時に捕まり、時に脱走し、逃げまわるベリルはブリテン異聞帯にやってきたカルデアに共闘を求める
戸惑うカルデアだが、ベリルを除いた秘密会議でダヴィンチちゃんが妙案を思いつく

「彼を女王に差し出せば、聖槍も提供してもらえるんじゃない?」

その提案に乗ったカルデアのマスターはベリルと共闘し、妖精國との戦いに挑む

「あれ、俺詰んだ?」

モルガンに捕まり人生の墓場へと直行するのか
はたまた、カルデアによって生贄として捧げされるのか
果たしてベリルの運命は如何に⁉︎


※続きません

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。