色々あってなんとか時間が出来たので、漸くこの話を投稿出来ました。
今回の話はそういうリハビリも兼ねたモノですので、気軽にお読みください。
今回の話はバーヴァン・シーことトリ子が主役です。
トリ子のキャラに違和感あるかもしれませんが、この世界ではそういう彼女だという事でなんとかご理解を
妖精騎士トリスタンことバーヴァン・シーがカルデアに召喚されて暫くした後の事だ
事の始まりは、深夜のカルデアで起こった
その時のバーヴァン・シーはたまたま何かを食べたいと思ってカルデアの食堂に来ていた。
ヒールを作るのも良いが、たまには息抜きに美味しいものでもと思っての行動だった。
するとそこには珍しく誰もいなかった。
いつもは賑やかな食堂だが、この時はたまたまいつものメンバーが他の用事でいなかっただけだ。
バーヴァン・シーは少し残念に思いながらも、一度食べると思ったら何か食べないと気が済まない。
「仕方ないか…」
だから自分で作る事にした。
思い出すのは彼女の密かな思い出。
それはもう名前も思い出せない“お父様"との記憶だった。
“今"の彼女が経験した訳ではない。
“別"の彼女がした経験だ。
その男をバーヴァン・シーは知らない。
その男の名前をバーヴァン・シーは知らない。
けど、バーヴァン・シーが敬愛する“お母様"の“夫"だった男だった。
「……いやありえねぇー」
そんな事は信じられない。
未だに信じる事ができない。
全く実感がない。
それでも記録としてバーヴァン・シーの中に残っていた。
その記録を再生する。
それはたわいもない会話だった。
バーヴァン・シーが好むモノじゃない。
物騒なやり取りを全くしていない。
はっきり言ってつまらない。
それでも
その記憶はベリルがバーヴァン・シーと会話していた時の事だった。
汎人類史の話をバーヴァン・シーに話していたら、ベリルが腹が減ったのでちょっとした料理を作ろうとした。
「俺も一応は人間だからな。飯を食わないと死んじまうんだ。少し待っててくれ」
その時にはバーヴァン・シーも、ベリルがどんな料理を作るのか興味があってその様子を見ていた。
ベリルもバーヴァン・シーの様子に気がついたのか、出来るだけ彼女に見せる様に調理をする。
「ベリルって料理出来るの?」
バーヴァン・シーはふと気になった事を聞くと
「
「知ってるか?魔術師ってのは意外と料理出来る奴が多いんだぜ。大抵は料理なんて雑事を自分でやりたがらないめんどくさがり屋ばっかだけどな」
ベリルの作っていたのは、アイリッシュシチューだった。
なんでもベリルの“母"がよく作ってくれたらしい。
食材を刻み、刻んだ食材を鍋にぶち込み、調味料を加えた普通の料理だった。
バーヴァン・シーも食べてみたが、特別に美味いというわけでもなく、不味いという訳でもなく、至って“普通"というのが彼女の感想だった。
「普通でつまんない」
バーヴァン・シーとしてはもっと派手な料理かと思っていたのに、出てきたのは地味な料理だ。その結果に彼女は少しガッカリする。
彼女がそう言うとベリルは嬉しそうに笑っていた。
「ははははは!当然だ。俺は別に料理人って訳じゃないし、いつも食うのは1人だったからその反応も当たり前だわな」
「でも、その“普通"ってヤツは意外と馬鹿に出来ないんだなぁ。気づけばコレじゃないと満足出来なくなって来るんだ」
ベリルは自分の作った料理を口にしながら続けた。
「“普通"ってのは凄い事なんだ。この料理みたいに何十年、何百年も続いてきた普遍であり不変の“味"なんだ。人間みたいに朽ちたりしても、この“味"だけは変わらない」
「いつしかその不変の味が“普通"となり、どんな状況でも食べるヤツが存在する限り無くならない。常に誰かの“不変"で在り続ける味を持った料理なんて凄いだろ?」
「なにせどっかの歴史ある魔術師より遥かに歴史があるモノなんだ。そう思えば、このシチューも美味しく感じるだろ?」
「俺達が食べてる“普通の味"は歴史そのものなんだ。美味くない筈がない」
ベリルの言葉を聞いたバーヴァン・シーは再びシチューを口にする。
なんだが、最初に食べた時より美味く感じた。
「うん。やっぱ美味しいわ」
彼女のその言葉に、ベリルは少し笑みを浮かべていた。
バーヴァン・シーはその時の記憶を覚えてる。
勿論、ケルヌンノスの呪いの影響で魂を汚染されたバーヴァン・シーにベリル・ガットの事は顔も名前も記憶には無い。
それでもその体験だけは覚えていた
その時の料理の味を覚えてる。
だから、せっかくだから再現してみようと思った。
最初は手間取った。料理なんてした事なかったから。
でもやる事自体は覚えてる。
レシピは全く覚えていないが、なんとなく感覚に任せて気ままにやっていこうとする。
その時の男の様子を思い出しながら、料理をしていく。
結果、割と簡単だったのでうまくはいった。
出来たシチューを口にして味の感想を言う。
「やっぱ普通だなコレ」
ハッキリ言って、特別美味い訳でも不味い訳でもない。
でもちゃんと再現出来た様だ。
男の好きな“普通"の味を再現出来た。
それが妙に嬉しかった。
「中々良い味ですね」
自分の作った料理を食べていると、いつのまにか、
「おわぁぁぁぁ⁉︎お、お母様っ⁉︎」
バーヴァン・シーはややオーバーなリアクションをしながらモルガンの方に顔を向けた。
てっきり1人で作業してるモノだと思っていたので、完全に気を抜いていた。
「美味しかったよ」
「マスターまでいんのかよ⁉︎」
そのモルガンの隣にはカルデアのマスターもいた。
「私がマスターの部屋を訪ねたら、あの蛇女が暴れたので、現在に至るという訳です」
「………あー……そういう事……」
バーヴァン・シーは納得する。
モルガンがカルデアに来てから偶にあるイベントだ。
カルデアのマスターの事を伴侶と扱う彼女はマスターに対して少し距離感が近い。
その為、カルデアのマスターに重い感情を向けているサーヴァントからすればモルガンは目の上のタンコブの様な存在だろう。
故に清姫達とモルガンは仲が悪い。
「はぁぁー……」
そんな愉快な事をしているモルガンにバーヴァン・シーは違和感しか感じない。
「料理出来たんだね」
カルデアのマスターが意外そうにバーヴァン・シーに聞いてきた。
カルデアではバーヴァン・シーは割と大人しい方だ。
たまに暴言が飛ぶが、それくらいならカルデアでは可愛いモノだ。
だが基本的に彼女は自分で雑事をやりたがらない。そんなモノは他人に任せる立場だったし、そういう性質だとマスターは思っていた。
だからこそ料理出来るのが意外だった。
「
だからこそ、今回の事件はただの事故だ
誰かの言葉を借りれば、コレはただ間が悪かった為に起きた事故だったのだ。
モルガンは何を思ったのか自分も料理出来るとマスターにアピールしている
モルガンには負けず嫌いな一面もある
だからバーヴァン・シーに出来て自分には出来ないと思われるのが嫌だったのだろう
突然の料理出来ますアピールにマスターは狼狽つつも曖昧な返事をする
その光景を見てると
モルガンの些細な言葉を聞いてバーヴァン・シーは猛烈な頭痛に襲われた。
その頭痛と共に記憶が蘇る。
「あ──────ああ─────ああ───」
思い出す
男に料理をご馳走された事を
普通の味を教えてもらった事を
その男の名はベリル・ガットというカルデアの裏切り者であった事を
思い出す
彼と過ごした時間を
他愛の無い話をした時間を
彼から聞いた現代の話に胸を弾ませていた事を
思い出す
ヤメロ ヤメロ
思い出したくない
あの呪いの化け物に取り込まれた事を
思い出す
ヤメロ ヤメロ ヤメロ
思い出したくない
その化け物を通して見えた
マスターとマシュと大敵である予言の子と共に自分を睨む光景を
思い出す
ヤメロ ヤメロ ヤメロ ヤメロ
思い出したくない
朧げの意識の中で自分を倒した後に起きた真の厄災が妖精國を蹂躙する光景を
思い出す
ヤメロ ヤメロ ヤメロ ヤメロ ヤメロ
思い出したくない
ベリルとモルガンがカルデアのマスターに挑み、負けた事を
そしてその時にベリルが死んだ事を
思い 出した
「…ッッ────────────⁉︎」
声を上げようにも喉に力が入らない
何故か窒息しそうになる感覚を味わう
猛烈な頭痛にバーヴァン・シーはフラついてしまう
だがなんとか踏み止まる
「─────それじゃ、私行くから」
最後に残っていた理性を総動員させてその場を立ち去る
キョトンとする2人を置いて、バーヴァン・シーは自分の自室に戻っていった
部屋に戻ってベッドにダイブする
そして急いで眠りにつく
頭痛がする
次に睡魔が襲ってきた
サーヴァントは本来なら睡眠など必要ない
サーヴァントは夢など見ない
もし夢を見るならば、それはなんらかの要因があるという事だ
「──
バーヴァン・シーは頭痛に苛まれながらも察した
この頭痛と睡魔の正体も察しがついた
その正体に気づいたバーヴァン・シーは
「上等じゃない」
まるで売られた喧嘩を買った不良の様な笑みを浮かべながら眠りについた
そこは暗闇だった
カルデアのマスターがバーヴァン・シーの夜食を食べた後、部屋に戻って眠りについたらそこは暗闇だった
「ここは…」
カルデアのマスターは最初は不思議に思うが、気持ちは落ち着いていた。
こういう状況には慣れている。
頻繁に“夢"という形でサーヴァントと繋がり、何処かへとレイシフトしてしまう事がカルデアではよくあった。
単純な経験則だ。だからこそカルデアのマスターは暗闇を移動し周囲を探索する。
辺りを見渡せぬ場所で動き回るのは危険だが、それでも動かない事には状況は何も
変わらない。
カルデアのマスターがしばらく暗闇を歩いていると音が聞こえた。
その音は激しい音だった。
カルデアのマスターにとっては聴き慣れた音だった。
その音は戦闘の音だった
「クソッ!いい加減にしつこいっての!」
戦っていたのはバーヴァン・シーだった。
彼女が戦っていた敵は、第六異聞帯で嫌というほど見た『モース』だった。
バーヴァン・シーのフェイルノートを使ってモース達を撃退していく。
だが敵のモースの数は膨大だった。
ざっと見ると100体はいる。
「バーヴァン・シー!」
カルデアのマスターはバーヴァン・シーに駆け寄った。
「マスター⁉︎なんでこんなトコにいんだよ⁉︎」
バーヴァン・シーは近づいてきたマスターに驚きながらもモースを撃退していく。
「いや…眠ってたらなんか来てた…」
「言ってる場合かよ!」
気まずく答えるマスターにバーヴァン・シーは怒鳴りながらも冷静に襲いかかるモースからマスターを守る。
「まあいいや、とにかくマスター!手伝って!」
「う、うん」
そしてカルデアのマスターの補助を受けて、バーヴァン・シーはモース達へと向かっていった。
粗方のモースを片付けた後、バーヴァン・シーはマスターと共に休んでいた。
「大変だったね」
「メッッッチャ疲れた……」
疲れ切った様子のバーヴァン・シーをマスターは労う。
「そういえば此処は何処?」
マスターはバーヴァン・シーに尋ねる。
バーヴァン・シーはバツが悪そうな顔をしながら答えた。
「ここは私の心の中というより“夢"かな。マスターと私の夢が繋がって、マスターも此処に来たって訳」
「まあ、そのせいで面倒な事に巻き込んじゃったけど…」
サーヴァントの見る夢と繋がる事カルデアのマスターにとっては割とよくある話だ。
「あのモース達は一体…」
マスターはバーヴァン・シーに尋ねる。
何故モースがバーヴァン・シーの夢にいるのか?
そもそもモースは第六異聞帯でのみでしか発生しない筈だ
「あーアレね。メンドいなぁ…」
バーヴァン・シーは説明するのが面倒なのか、やる気の無い声でマスターに説明した
「あのモースはね、
かつてのバーヴァン・シーは善良な妖精だった。
だかその善良さ故に他の狡賢い妖精達に食い物にされた過去があった。
その悲劇の記憶がなんらかと理由によってモースという呪いの形となって今のバーヴァン・シーを飲み込もうとしている。
分かりやすく言うとそういう事だ。
「まあ理由も大体予想がつくんだけどね…」
「ほら、私ってアンタ達が言うにはケルヌンノスっていう怪物に取り込まれたそうじゃない?」
「アレって私の
説明したバーヴァン・シーは心底うんざりした様子だった
彼女としては思い出したくない過去の様だ
「あのモース達に取り込まれると、どうなるの?」
カルデアのマスターは尋ねた。
事前に最悪の事態は聞いておきたかった。
もしかしたら暴走し、バーヴァン・シーが自我を保てなくなるのかもしれない。
そうなったら彼女を大事に思っているモルガンが悲しむだろう。
「私が強くなるわ。所謂“霊基再臨"ってヤツね」
返ってきたのは意外な答えだった。
モースに取り込まれる事が強化に繋がるならばカルデアとしてはむしろ取り込まれた方が良いのだろう。だが、バーヴァン・シー自身はそれを嫌がっている。
「私がモースに取り込まれるって事はさ、私の記憶が
つまり、今の彼女が持つ思い出が過去に彼女を食い物にした妖精達に上書きされるという事だ。
カルデアのマスターは知る由もないが、バーヴァン・シーにとってベリルとの思い出が汚されるのは我慢出来ない事だった。
別に大した事もしていないしされてもいない。
そこまで印象的な思い出があった訳でもない。
それでも彼との思い出は“楽しかった"
楽しかった思い出を汚いヤツらに汚されるのは我慢出来ない…
たったそれだけの為に抵抗していた
「別に良い思い出って訳でもないけどさ…」
ケルヌンノスの中から自分を睨むマスター達
負けて虫の災厄がブリテンを蝕む様
そして“お母様"とベリルが共に戦う光景
「それでも私は忘れたくないよ」
なんとも言い難い表情を浮かべならがバーヴァン・シーは確かに告げた。
それを聞いたマスターは笑みを浮かべて、彼女に近づき、手を差し伸べた
「なら、手伝うよ」
確かにバーヴァン・シーが更に強くなるならカルデアとしては有益かもしれない。だが、それを本人が嫌がっているなら話は別だ。
嫌がっている彼女を無理矢理強化した所で協力なんて出来る筈がない。
だからこそカルデアのマスターはバーヴァン・シーに手を貸す事を決めた。
「そっか…ありがとう。マスター」
力を貸してくれる事を嬉しく思う。
またもバーヴァン・シーとマスターの周りにモース達が現れる。
今度は先程よりは少ないが、それでも十数体もいる。
自分だけでは、やはりどうも心許ない。
だからこそマスターの助けをもらえる事実がバーヴァン・シーには心強い。
「そんじゃ、援護頼むよマスター!」
「そんで覚悟しろよ…クソ虫どもぉ!」
バーヴァン・シーはマスターの援護を受けながらモース達へと向かっていった。
「………疲れた」
「………………うん」
モース達は撃退した。
だがモース達の撃退には多大な労力を要した。
一体一体は、それほど大した強さはなかったが、それでもいかんせん数が多く手間取った。
マスターが補助をし、バーヴァン・シーがモース達を倒していく。それを繰り返し繰り返し行なっていたので、両者とも非常に疲れていた。
バーヴァン・シーとマスターは互いに仰向けになって休んでいた。
「ありがとう。マスター」
「“今回"は助かったよ」
バーヴァン・シーはマスターに滅多に言わない礼を言う。
いつもなら素直に感謝の言葉を口に出来ないが、今は何故か素直に口に出せた。
「今回……って?」
マスターはふと気になった。
“今回"という言葉に含みがあった気がしたから。
バーヴァン・シーの顔を見るとそこには小悪魔の様な妖艶な貌がぎこちない笑みを浮かべていた。
「“今回"はなんとか乗り切れたけど、“次"はどうなるか分かんないや」
そう、先程まで戦っていたモース達の正体は彼女の苦い記憶だ。
モース達はその記憶が具現化した存在だ。
故に倒したとしてもその苦い記憶がある限り何度でも復活する。
つまり例え今回は乗り切れたとしても次回はもっと多くのモース達が押し寄せて来るかもしれない。
「私がまた眠るとまたあのクソモース共と戦う事になる」
バーヴァン・シーが眠る度に彼女の過去が呪いとなって彼女を蝕む。
ケルヌンノスの呪いの影響はバーヴァン・シーという霊基そのものにまで響いていた。
彼女にとって苦々しい過去が存在する限り、あの呪いのモース達が途絶える事はない。
「それでも私は抗い続ける」
彼女には絶対に忘れたくない記憶がある。
ベリル・ガットという男と過ごした時間を手放したくない。
“お母様"の迎えた結末を忘れたくない。
最後の最後で“家族"として一緒にいられた事を忘れたくない。
お母様は忘れてしまっている。それは悲しい事だけど、それがベリルの望みだった。
なら割り切れる。
でも、思い出だけは渡したくない。
「あの人の事を覚えてるのは“私"だけなんだから…」
ただの“普通"の思い出だ。
彼の話に耳を傾けて、それを楽しんでいただけだ。
彼の料理を食べて、そして教えてもらっただけだ。
彼の語る“普通"を教えてもらっただけだ。
「この“思い出"だけは汚させない」
その“普通"の思い出を、過去にバーヴァン・シーという妖精を食い物にした醜悪な妖精達に汚させない。
クソみたいな記憶に塗り潰されるのは我慢ならない。
「だから今回はありがとうね。マスター」
「一緒に戦ってくれてありがとう」
これで今回は、まだあの“思い出"は綺麗なままでいる
「なんとかならないの?」
マスターは提案する。
どうにもならない事なら周りに相談すれば良い。
思い出を守りたいならもっと周囲の人に打ち明けて相談するべきだ。
それにカルデアには多くのサーヴァントが居る。
皆に相談すればなんとか解決の糸口が見える筈だ。
だからマスターは、今回の話を皆に言うつもりだったが、
「
それをバーヴァン・シーは首を横に振って拒否した。
「これは私の意地の問題。他人に関わらせるつもりはないよ」
だから誰かに助けてもらうつもりはないと、助けてもらえるとしても拒否し続けると、マスターの提案をバーヴァン・シーは拒否した。
「でも…それだとモルガンが悲しむよ…」
マスターのその言葉にバーヴァン・シーは分かりやすいくらいに動揺する。
体を震わせながら彼女は告げた。
「それでも良いよ。それが
震えながら告げた答えは、残酷な事でもある。
それはモルガンの近くにベリルという男がいた事実を永遠に忘却させるという事だ。
それは彼女にとっても辛い事の筈だ。
「あの人って…ベリル・ガットの事?」
カルデアのマスターは他に話す事が見つからず、つい当たり前の事を聞き返してしまう。
その問いにバーヴァン・シーは少し嬉しそうに頷く。
その様子にマスターは思う。
彼女が慕うベリル・ガットという男は、一体どんな人だったのだろう?
「ベリル・ガットってどんな人だったの?」
ふと気になったので、カルデアのマスターはバーヴァン・シーにベリルの事について聞いてみた。
「え⁉︎まあ、少し長くなるけど…」
そこから彼女はベリル・ガットという男について知る限りの事をマスターに話した。
まずは彼との出会いを話した。
初めて会った時は、あまりにもただの人間が彼女が慕う“お母様"の夫になる事に憤慨し、見下していた。
だが、それでもベリルは彼女と笑いながら接し続けた。
最初こそ「ウザい」と思ったが、彼が話す妖精國以外の世界の話がとても興味深かった。
いつの間にか彼の話に耳を傾けていた。
いつの間にか一緒にいるのが楽しく思えた。
いつの間にか一緒にいるのが当たり前に感じる様になっていた
そういう存在を何と言うのかはバーヴァン・シーには分からない
けれど、ベリルという男はバーヴァン・シーにとっての“お母様"に次ぐ存在になっていた。
「あの人は“普通"が好きだった」
バーヴァン・シーには理解し辛い概念だった。
地味で目立たず、どこにでもいる当たり前の事を彼は尊んでいた。
バーヴァン・シーには彼の考えがよく分からない。
でも
それでも
「あの人といた時間は楽しかった」
今では彼との思い出は彼女にとっての宝物だ。
ただ少しだけ物足りないと思う。
我ながら我儘だと思う。
でも思わずにはいられない。
もし願いが叶うなら…万能の聖杯に願うとしたら
「お母様とも一緒になって過ごしたい」
ベリルとモルガンが一緒にいた時間は少ない。
3人で一緒に楽しい時間を過ごした記憶なんて一切無い。
モルガンとはどこか冷めた様な関係の様な、事務的な会話しかした事がない。
ベリルとの会話するのは楽しいが、たまにベリルが何処かに行って“何か"をしていた。
一人でいる時間が異様に苦痛だったのを覚えてる
誰もいない寂しさは、どんな痛みより辛かったのを覚えてる。
そして一人になると卑屈になっていつも考える
“みんな…私の事を忘れてくれないかなぁ…"
ふとそんな事を考えて、そのifを想像した。
薄汚い妖精達から忘れられて自由に生きる自分を思い描く
そして、ベリルとモルガンがバーヴァン・シーの近くにいるというあまりにも都合の良い妄想だった。
そこまで考えてふと思ってしまう。
彼女の願った“みんな"の中には、ベリルとモルガンも含まれているのではないか?と…
そこまで考えて、最悪の想像をしてしまう。
ベリルとモルガンが自分の事を全く考えずに過ごす様子を想像して、一気に気分が悪くなって吐いた記憶がある。
「忘れられるって…辛いよね…」
バーヴァン・シーは、モルガンから忘れ去られたベリルを思う。
大切な人から忘れられる“もしも"なんて考えたくもない。
何を思ってベリルがモルガンから“ベリル"を忘れさせたのかは見当もつかない。
だからこそバーヴァン・シーはベリルを忘れない
「いつか…とっちめてやるまで忘れてやんない…」
それが彼女がベリルとの記憶を守る本当の理由だ。
忘れられる側も辛いだろうが、
忘れた事が大事な人であれば、想像を絶する喪失感が襲うだろう。
その喪失感を気付く事も出来ない辛さを、それを見てる側の辛さも、全く考えていない。
何が「自分の事は忘れて幸せになれ」だ。忘れさせられる側の事なんて全く考えてない。
こんなんじゃ笑えないよ…
だから私は忘れない。今度こそ幸せになる為に。今度こそ楽しむ為に。
この辛さを押し付けた父に反抗してやる。
そんな“
だから私は抗い続ける
バーヴァン・シーの話を聞いていたマスターは思う。
(バーヴァン・シーはベリルを慕っていたんだ)
妖精國での最後の戦いで、これでもかと見せつけた彼等の生き様を思い出す。
彼等はマスターとサーヴァントの関係ではなく、正に夫婦だったのだ。
彼等は「形だけ」と言っていたが、その絆は確かな家族愛を形成していた。
その愛は二人ともバーヴァン・シーにも向けられてもいた。
あの最後の戦いは娘を殺された仇を取るべく動いた“親"の戦いでもあったのだ。
カルデアのマスターに彼等の詳しい関係は分からない。
それでもこれだけは言える。
「あのベリルとモルガンはバーヴァン・シーが大好きだったんだ」
マスターの言葉にバーヴァン・シーは顔を赤らめながら黙り込む。
「そうかな?」
やや自信なさげにマスターに問いかける姿は、おそらく本来の彼女が表に出てきたのだろう。
悪辣となる前の彼女を垣間見えたマスターは驚きながらも肯定する。
「うん。じゃないと仇討ちなんて出来る訳ない…」
その言葉を聞いたバーヴァン・シーは、顔を手で覆い隠して、顔を隠す。
どんな表情をしていたのかはマスターには分からない。
「だといいな…」
その目元に少しだけ涙が流れた気がした。
「そうだ。今回の出来事は忘れてもらうよ」
突然バーヴァン・シーがマスターの頭を掴んだ。
「後で色々言われても面倒だしさ。それに私に構うヒマがあったら、もっと他のヤツにも構ってやりなさい」
マスターが何か反応する前に、バーヴァン・シーの魔術がマスターの記憶を消した。
バーヴァン・シーも妖精だ。その気になれば基本的な魔術くらいは使える。
突然の出来事にマスターは、そのままこの悪夢での記憶を失った。
次に目を覚ました頃にはマスターも今回の出来事を忘れているだろう。
そしてバーヴァン・シーとマスターは“夢"から脱出出来た。
バーヴァン・シーがマスターの記憶を消したのは単純に彼女の意地だった。
ただの我儘なのは理解してる。
それでは状況が好転しないのも理解している。
それでもコレだけは譲れない。譲りたくない。
彼女に残っているちっぽけなプライドが他者の助けを拒んだ。
バーヴァン・シーとしても意地を張ってるだけではどうにもならない事もある。
だからこそ、そういう時にはマスターに頼る事に決めた。
自分がもし“破綻"しても大丈夫だと今回の出来事で確信出来たから
たった1人でも心強い味方がいる事が彼女には嬉しかった。
この身はサーヴァント。所詮は本来のバーヴァン・シーとは違う存在だ。
だからいつ消えても仕方がない存在なのだろう。
もし異星の神を倒して人理が修復したとしても、その後も自分が存在出来るとは限らない。
だから別に彼女が彼女でなくなっても、別に問題はないだろう。
だが
マスターという味方がいる事
自分が忘れたら、ベリルを知る存在がいなくなってしまう事
彼を知る存在はもはやバーヴァン・シー以外には存在しない
だから絶対に悪夢に負けるワケにはいかない。
たかが“夢"に勝てない様な情けないヤツにはなりたくない。
そんな情けないヤツがあの“
そして、カルデアのいつも通りの日常を過ごした後、再び眠りいつも通りの悪夢を見る。
そしてその“夢"で再び彼女の
それを切り裂きながらバーヴァン・シーは謳うように悪夢達に宣言する。
「私は妖精國の女王モルガンの娘、妖精騎士トリスタン!」
母から受け取った名を名乗る
本来の名前と違うのは分かってる
それでもこの名は“お母様"から貰った大切な名前だから
「テメェ等みてェな屑に…いやクソ虫共に負けるワケがねェんだよおおおぉぉォォォォ!」
誰よりも屑らしい“屑"の生き様を見たからこそ
目の前の妖精達は屑にも劣る虫だと分かる
そんなクソ虫共に負けたくない
そんなクソ虫共に負ける存在があの二人の娘なワケがない
“
自分こそがベリルとモルガンの『娘』だと、胸を張って言える為に
「死んでろぉぉォォォォ!」
ベリルの様に屑らしく
モルガンが望んだ様に悪辣に
彼女は今日も自分より遥かに弱いクソ虫達を蹂躙する
その姿は…心なしか誇り高い騎士の様だった
割とマジで書く余裕と時間が無くて、こんなに遅れてしまいました。
それに中々モチベが働かず結構サボってたりしてました。本当に申し訳ない…
本当はもっと早く投稿する予定でしたが、まあダイパリメイクとぐだイベが悪い
バーヴァン・シーの第三再臨はケルヌンノスの呪いの影響という事にしました。
原作ではベリルの教えた魂を腐らせる代償がある魔術が関係ありそうですが、この世界では彼女がケルヌンノスの核になった影響という事にしました。
この小説では“そう"という事で…なんとかご理解を…