「……それじゃ、これからの命令をするぞ」
ようやく頭の整理が終わり、気を取り直して腰に片手を置き全員の方を向く。
「まず、霞はこの場で艦装を解除。それを他の誰かに持っていって貰ってくれ。それ以外の奴らは補給に、そのあとは各自の好きなようにしろ。ドロップ艦については霞を連れていったあとに俺が持って行くが……いやでも、霞運ぶしどうするか……」
「……ちょっと待ちなさい」
「ん?どうした」
穴だらけの計画だなと自分に引いていると、霞に思考を引き止められる。
「なんであんたが私を運ぶことになってんのよ」
「俺じゃ嫌か?なら……」
「そういうことじゃない……別に自分で歩けるって言いたいのよ」
「いや、お前明らかに足痛めてんだろ」
その言葉で霞は無理をしているであろう足を一瞥する。
……足を怪我してる艦娘か。ちっと昔を思い出しちまうな。まあ霞が怪我してんのは足だけじゃないけどな。
「……いける」
「やめとけ」
「いけるってば」
「やめろ」
「「………」」
暫しの沈黙がこの場を包む。
その後改めて足を見て霞はつま先を地面にトントンと数回叩き、顔を少し歪ませると諦めたようにこっちを向いた。
「分かったわよ……もう」
「……任せろ。あとはドロップ艦だが」
「なら、私が運ばれてる間に持てばいいわ。それでいい?」
「あぁ……流石、ナイスアイデアだな」
霞は別にそんな褒められるようなことじゃないとため息をつく。
「じゃ、とっとと行くか。おんぶでいいよな?」
「その言い方だと他の持ち方もあるっぽい?」
「あー……お姫様だっこ?とか」
夕立から俺の言い方が悪いのが原因の質問を投げかけられ、予想外ということもあり先程のデジャブに関連したふざけ気味の発言をする。
「そんなことしたらあんたを消すから」
「じょ、ジョークってやつだ……」
真顔の霞に肝が冷凍されたような、心臓が握りつぶされたような気分になりアホなこと言わなければと数秒前の自分を恨む。……あいつもそう思ってたのかねえ……いやでも、あれは俺悪くねえし……多分。
「じゃあ僕をお姫様だっ―――」
「そんなことより!時雨は霞の艦装を一緒に運ぶっぽい!」
「わ、わはっはから、ゆうだひそれやめて……」
この中の誰に話しても知らない昔話など頭に閉まっていると、頬を引っ張られ終わった時雨は「提督にこんな顔見せたらなんて思われるか分かんないよ」なんてことをやれやれと溢していた。
安心してくれ。今更お前のどんな姿を見ようが受け入れる自信があっから。まあこれは口には出さねえが。出したら最後、折角夕立が止めた話が長引きそうだし。
「そんじゃ、行ってくる」
霞が乗りやすいように出来るだけ低くしていた体勢を上げ、軽いなこいつなんて凡庸な感想を抱きながら鎮守府の方に歩いて行くのだった。
「ねえ」
「ん?どうした」
靴を履き変えて、なんか歩くのだるいし床が自動で運んでくれねえかな、とか考えながら廊下を歩いていると、思い立ったように霞が話しかけてきた。
「あんた……なんで軍服じゃないの?」
「……そりゃあ、、イメチェン?ってやつだ」
「それ勤務時間にスーツ脱ぎ捨ててるみたいなもんって理解してる?」
「ぴえんだな」
「は?」
まあ今はこの話は良いわと『今は』という言葉を強調して、この話は切り上げられた。
てか耳元で言われてるせいか、いつもより数倍圧を感じたな……
「それとあんた、そろそろ監査の時期だけど大丈夫?」
「……あぁ。あったなそんなの」
「あんたねえ……」
声色から眉を八の字に呆れているのが顔を見ずとも想像できてしまう。
……俺にとって興味が薄いものは自動で記憶から消えちまうんだよ。
「まあ問題なしだろ。そもそも引っかかることがないザル監査って言ってたんお前じゃねえか」
「それもそうだけど……一応あれ引っかかる奴は引っかかんのよ?」
「例えば?」
「不正してて役立たずかつ後ろ楯がないやつ。そういうやつらは少しでもやる気あるやつか、上から色々言われた監査官が来たらお先真っ暗ってわけよ」
「なるほど……でもそんなスリーアウトみたいな鎮守府あんのか?」
「あるわ。私の前の鎮守府とかもろよ」
「……わりい」
「変なとこで気を使わなくていいわ」
……やらかしたと口をつぐんでいると、逆にフォローされてしまった。情けないことこの上ねえな。
「……てか、それなら大丈夫か聞かなくてよくねえか?」
「うち後ろ楯はないが別に不正もしてねえし遠征メインだから役立たず以前の問題だし」と不思議に感じながら付け加える。
「そうね。でも私が心配してるのはそこじゃないもの」
「あ?どういうことだ?」
訳の分からないことを言う霞に答えを出してくれとじれったくなる。
「あんたが監査官の前で携帯いじったり、軍服脱ぎ捨てたりしないかって心配してんのよ」
「……もしかして馬鹿にしてんのか?」
「安心なさい。平常運転よ」
「それはそれで問題なんだが?」
クスクスと楽しそうにする霞の声を聞き、前の鎮守府の話をしたせいで以前はこんな風に笑えなかったのかもな、なんて考えてキレる気も失せてしまう。
「よし、下ろすぞ」
「……ありがと。まあ、一応ね」
風呂に着いたのでゆっくり膝を曲げて霞を下ろして、ドロップ艦を渡されるとその直後にお礼を言われ、まさかされるとは思わず顔に少し驚きの色が滲む。
「そうだ、言い忘れちまうとこだった」
霞の『お礼』というものの関連付けで言いたかったことを思い出す。
「飯うまかったぞ。毎日御所望レベルだ」
「!!……っ、、そう……良かったわ」
霞は一瞬目を見開きぽかんと口を開けるが、俺が意味が分からずきょとんとすると、気を取り直したように首を横に振り、返事をしてきた。
「あと、ちゃんと服は特別洗濯機もとい資材入れたら艦娘の服がナオール君にいつも通り入れとけよ」
「……ネーミングセンスがくどいし、ださいし、そもそも言い換える理由がない。スリーアウトよ」
「…………」
それなりに気に入ってた名前をボロクソに言われ苦虫を噛み潰したような顔になる。
この名前いいじゃねえか……なんか分かりやすい説明口調の頂点みたいでさ……
「それにあんたじゃないんだから言われなくても分かってるわよ」
「いいのか?そろそろ泣くぞ?」
めちゃくちゃ畳み掛けてくんだが?なんか怒らせるようなことしてねえよな?俺。……あ、普段の行いがそうか。
「てかお前なんか顔赤くねえか?まさか……」
「……っなによ」
「帰ってくる途中で風邪でもひいたか?」
海上で艦装つけてりゃ体は強いはずだが、それでも服がボロボロかつ夜の海に出てたんだ。そうなってもおかしくはないな。
「はぁ……」
「……んだよ」
俺がシャーロックホームズもびっくらぽんの神推理を聞かせて、熱の確認のために覗きこむように霞の額に手を当てると、霞は疲れたように溜め息をつく。
「別に風邪じゃないわ。そんなことより、その子をいつまでも待たせるわけにはいかないでしょ?」
俺の持っているドロップ艦を指差しながら喋る霞の顔はどう見てもさっきより濃くなっていた。
「でもさっきより赤――」
「それとこのパーカー、あとで洗って返しておくわね」
「……了解了解。そんじゃ行ってくる」
これ以上聞いてもかわされるだけだし、引き留めるのも悪いと判断して、俺は後ろに手を振りながら工廠に向かった。
「20分か……」
ぱっと見コールドスリープの装置にしか見えない建造ドックにドロップ艦をセットすると、デジタル時計にしか見えない部分に時間が表示される。なんか時間によって造られる艦娘が違うらしいが……よく知らねえから気にする必要はねえな。
「あれ?提督が工廠にいるなんて珍ら……って!ドロップ艦が出たんですか!?」
暇だなと思いながら椅子に座り、スマホをいじること10数分。いつの間にか膝の上に乗っかっていたあかしに話しかけられる。
「あぁ。時雨が倒した奴から出たらしい。流石は呉の時雨、佐世保の雪風ってとこだな」
「幸運ってことを表せてどや顔なんでしょうけど逆です、逆」
前髪を上に押し上げ天井を見る……うまいこと言えたと思ったんだが……こんなつまんねえ言い間違いは中学校以来だ。
「ところで、提督はどんな子が来てほしいですか?」
気を改めて上を向くのをやめると、あかしは気になりますと、キラキラしながら問いかけてくる
「……やっぱ口のいいやつがいいな。霞みたいなのはごめんだね」
「なるほど……ああいう子は苦手なんですか?」
「そういうわけじゃないが……どっちかって言われれば……なあ?」
「なるほど自分に従順な子がタイプと」
「好みの話なんてしてねえしそんなこと言ってねえぞゴラ」
あかしをこついているうちに時間になったようで、建造ドックの扉が開かれる。
……いらねえことして霞に怒られないようにしねえとな。
出てきた彼女は制服を身に纏い、サイドテールをピンクの花と大きな鈴の髪留めをつけた中学生くらいの子だった。
仲良く出来るか、どんなやつなのか。そんなワクワクと緊張を混じらせた表情で彼女を見つめる。
「特型駆逐艦曙よ。こ、こっち見んな!このクソ提督っ!!」
その言葉は俺の心の折れる音を鳴らすのに充分だった。
軽いキャラ設定
提督・・・フラグを立ててすぐに回収した男。初対面で罵倒されるとメンタルが消失する。まあ行動はわりとクソなのであながち間違いではない。
霞・・・言葉の深読みをしかけたが、提督がそんな深いことを考えてるはずがないと後悔している。
曙・・・もはや脊髄反射のレベルでクソ提督と言ってしまった。