ガンダムビルドダイバーズ ーBeast of vocationー 君が呼んでくれたから 作:鮭児
唐突な質問、人生とはなんだろうか?いや、これは抽象的過ぎる。内容を変えよう。
人生の勝ち組とはなんだろうか?
生涯を誓い合った相手がいること?
自身の遺伝子を受け継いだ子孫がいること?
安定した職、不自由のない生活?
夢を叶えること?
金、名誉、女、全ての欲しいものが簡単に手に入ること?
勝ち組と一言に言っても、俺が思いつく限りでこれだけある。結局の所、個人のそれぞれの解釈、勝ちだと思えば勝ち組だし、負けだと思えば負け組なんだと思う。
じゃあ、改めて……俺の人生はなんだろうか。
「って、こんな時間かよ!?」
黄昏ている内にスマホのアラームが仕事の時間を告げ、俺は急いで部屋を出る。
俺の名は、マモリダケンゴ。職業、フリーター。
◆
「今日に限ってツイてない!」
バイトの時間まであと30分。いつもの電車に乗れば余裕の時間、だが今日に限って架線トラブルで止まっているなんて聞いていない!今いる駅から普通に歩いたとしても所要時間は40分、遅刻確定だ。
「なんか近道は……!」
天下のGoogle先生でバイト先までの経路を検索する。するとギリギリ間に合いそうな近道が表示される。早朝の歓楽街を通るルートだが、背に腹はかえられない。行くしかない。
俺は駅から出ると、経路通りの道を走る。電柱の前で吐くおっさん、自販機の前で屯する金髪スーツとスジモン強面、道路端爆睡オヤジと、カオスな道のりを抜けるーー、その時だった。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
突然、脇の小道から少女が出てきた。スマホを見ながらだったこともあり、俺が突き飛ばすような形となり、少女はその場で尻餅を付いていた。
「すいません!あの、手貸しますよ」
「こちらこそすいません!ありがとうございます!」
少女に俺は手を差し伸べる。瞬間、捲れたスカートの隙間から水色と白色のストライプが視界の端に写ったような気もしたが、今は無視しよう。
「あの、怪我とかは?」
「いえ、大丈夫みたいです!それじゃ急いでいるので失礼します!」
そう言うと、一礼して足早に少女は、走って行ってしまった。今時の若い子は綺麗だなぁと思いつつ、俺もバイト先へ向かおうとした時、足元に見慣れないポーチが落ちていた。
何かのマスコットであろう可愛らしいキャラクターがあしらわれたピンク色のポーチ、明らかに女物のそれは、間違いなくさっきの子の物だろう。今から追いかけようと、来た道を振り返るが、少女は既に遥か遠く。今から追いかけた所で間に合わない。
「……で、持って来ちゃったんスか?」
「交番に届け損なったんだ。人聞き悪いこと言うんじゃない」
おかげで帰る前に休憩に来た後輩の大学生バイトに弄られることになった。いや、まあこんな人目についてもおかしくないところでまじまじ見てた俺のせいだけどさ。
「しっかし、女子にとことん興味のないケンゴ先輩が綺麗って感想持った制服女子。超気になるなぁ」
「俺は判断基準に悪意を感じるのが超気になるなぁ」
あしらいながらも、脳裏に焼き付いた姿がフラッシュバックする。あの幼い顔立ち、少しくせっ毛なショートヘア、澄んだ空色の瞳……ってこれじゃあまるでロリコンじゃないか。
「ねぇ、先輩。いっそ開けちゃいましょうよ、それ。」
それとは例のポーチの事だろう。
「アホか、犯罪だそれは」
と、正論をかましてみたものの……、確かに気になる。言われた通り開けてしまえという悪魔の囁きは無視だ、無視。
口車に乗らず、腹を括った俺の胸中を察したのか、後輩はそっと近付き耳打ちしてくる。
「もしかしたら落とし主に返すための連絡が出来るかもしれないッスよ?」
……そうか、それなら問題、ないか……?(※問題しかない)そうだな、これは決してやましい事じゃなく、(※やましい)今頃困っているであろう落とし主のあの子への人助け(※犯罪です)だ。そういう事にしよう。
「いいか、絶対にこのことは誰にも言うなよ?というかお前も同罪だからな!」
恐る恐るポーチのジッパーを開けていく。緊張で心臓が早くなっていく感じが、直に聞こえてくる。まるで爆弾処理をしてる気分だ。
「先輩がチキってるから俺が開けまーす!」
「あ、おい!?」
そんな無遠慮に開けるのか!?と言いたくなるくらいにあっさりと開けられた。
「なんスかこれ?ロボットの玩具?先輩中身挿げ替えました?」
明らかにガッカリした後輩を無視して、俺も中身を見る。
「んな訳あるか!これは、ガンプラってガンダムのプラモデルだ。玩具じゃない。これはフリーダム……の改造機だろうな」
入っていたのフリーダムをベースにしたガンプラ。微かにベース機の面影が残っている事から推察できるが、特徴的なウイングバインダーはなく、リボーンズガンダムのブースターポッドに換装、フリーダム最大火力とされるバラエーナプラズマ集束砲はその下部に剥き出しでスタビライザーを兼ねている。腰部のクスフィアスレール砲は完全にオミットされ、ビームサーベルのみのシンプルなサイドアーマー。Gガンダム系のガントレットが取り付けられたりと、ほぼ全身に手が入れられていて、ベースとはまた異なるヒロイックさを出したガンプラだ。パーツも切り出していたり、合うように調整されていたり、工作も行き届いたこのガンプラをあの少女が作り上げたと言うのか。
「ガチのガンプラ女子か……」
SNSでたまに見かけるハッシュタグだけの眉唾とは違う、本物だ。昔の大会でも女子はいたが、そのほとんどは大体出場者の彼女、ろくにガンプラはおろかガンダムも知らない子ばかり。彼氏はどうやって射止めたのか聴きたくなるばかりだった。しかしあんな高校生位の女の子が……ーーと、さっきまでの調子は何処へやら、ガンプラをジーッと見つめ、一言も喋らない後輩が目に入る。
「……」
「どうした?想像と違ったからって露骨に落ち込むなよ……」
「違うッスよ。俺、よく動画とかスマホで見るんスけど、これ、なんかどっかの動画で見た気があるなーって」
いつかは思い出せないッスけどーー、と言う後輩を尻目に、俺は帰り支度をする。
別にガンプラ動画なんて昔からある。それこそ今流行りのGBN、今や下火となったGPD、さらにそれすらなく、まだガンプラが玩具と言われていた昔から始まり、今やごまんとある。それだけ数が多ければきしくも似た物も出てくる、きっと見間違いだろう。
「でもまあ、ちょっと見てみはするよ。お疲れ」
「おつかれーっス」
後輩と別れ、繁華街へ向けて歩を進める。時刻は18時を少し過ぎた頃、春先の一面茜色に染まった空を、遠くから紫色がゆっくりと侵していく。帰宅に、仕事終わりの1杯、集まる理由は十人十色とそれぞれ違うのに、集まる場所は同じ。人混みの隙間から漏れ出す香ばしい料理の匂いが鼻腔を擽り、空きっ腹が腹を蹴飛ばすのに耐え、気付くと俺は朝少女とぶつかった場所に来ていた。
「まあ、来たからいるって程虫は良くないか」
手渡しなんて、今更考えたら俺相当痛いヤツじゃないだろうか?どう見ても女子高生と仲良くなりたいおっさんじゃないか。考えただけで自分の今までの言動が恥ずかしくなってきた。
辞めだ、辞め、辞め。素直に交番に届けよう。来た道を引き返し、最寄りの交番に向かおうとした時ーー、
「あ、あのーー!」
不意に呼び止められる。居酒屋の客引きか?
「いや、特に飲みたいとか、そういう気分じゃな……」
振り返って息を呑む。パチリと開いた澄んだ空色の瞳、肩にかからない栗色のショートヘア、どこか幼さを感じさせる顔立ち。それを学生服がさらに引き立たせている。それはまるで高校生に扮した国民的アイドルが目の前に現れたよう。
「あ、朝はどうも……」
「い、いえ、私こそちゃんと前見てなかったので……」
何度も言えない気まずさが流れる。お互いほぼ初対面、仕方ないといえば仕方ないんだろうが、次にかける言葉が見つからない。
こういう時、後輩なら持ち前のチャラさで連絡先聞いたり、何とでもできるんだろうな、と年甲斐もなく緊張と浮かれている心を制して、自分のリュックに手をしのばせる。
「その、これ……」
「あ……」
慣れない手つきでポーチを差し出す。ポーチを見た少女は、一瞬驚きに目を見開き、そして顔を綻ばせ、安堵の表情を見せる。それはまるで生き別れた家族と再開したかのようだ。自分で手間暇かけて作ったガンプラだもんな、大切に決まってる。
「その、交番に届けようと思ったんだけど、時間無くて……追うにもすぐ見失っちゃって……」
「いえ、こうしてちゃんと手元に戻って来たので……」
また会話が途切れる。しかし、今度は少女の方が気まずそうにチラチラと俺を見ている。
「その……もしかしてですけど……中、見ました?」
嫌な汗が全身から噴き出した。ヤバい、見ましたと言ったら社会的に……死ぬ……!
「いや、その……」
「……見たんですね?」
気付くと、少女の顔が目と鼻の先に、というかほぼ身体が接触するほど近くにあった。フローラルな香りがふわりと擽り、心臓が高鳴る。極度の緊張を前に、ポーカーフェイスを気取るなんてことができる訳もなく……、
「……最高の趣味だと思います……」
俺はすんなりと自白した。
「じゃあ……!」
瞬間、ぐいーー、と手を引かれる。俺は何が何だか分からず、ただ少女のなすがままに、身長差故の中腰で繁華街を後にした。
本作に登場するオリ機体は実際のガンプラで可能な限り再現していきたいと思います(できるとは言ってない)