ガンダムビルドダイバーズ ーBeast of vocationー 君が呼んでくれたから 作:鮭児
少女に手を引かれ、気付いた時にはファミレスの席に座らされていた。その対面には、まるで友達と来たように、何食わぬ顔で店員にオーダーする少女の姿があった。
何が起こったか分かんないだろう?俺も分かんない。
「あ、なんか飲みます?」
「え、じゃあコーラで……」
「すいません、じゃあドリンクバー2つで」
店員が注文に向かうと、笑顔で少女はこちらを向く。美少女に笑顔を向けられるなんて、滅多にないシチュエーション。男なら泣いて喜ぶ所なのに、今はその笑顔が俺にはギラリと光る抜き身のナイフの鋒にしか見えない。
「まず、自己紹介しましょうか?私、ヒカリ!ナリタヒカリっていいます!」
キラキラとした笑顔が眩しい。眩し過ぎる。
「さ、次は貴方の番!」
さぁさぁと、期待のこもった眼差しが向けられる。辞めて、俺そんなに胸張れる人じゃないの。
「えっと……マモリダ、ケンゴです……」
「じゃあケンゴさん!私のガンプラどう思います!?」
ダンッ!と置かれた女物のポーチから改造されたフリーダムが姿を現す。
改めてまじまじと見てみると、合わせ目が少し残っていたり、マーカーで塗ったであろうムラがあったりと、所々荒さはあるが、フリーダムの機動性を活かした中~近接戦闘に特化したバトルスタイル、バラエーナで遠距離にも対応したオールラウンダータイプのよく出来たガンプラだ。何よりこの子ーー、ヒカリちゃんの労力がよく見える。
「うん、とってもよく出来てると思う。何よりフリーダムの元のスペックをほとんど壊さずにアレンジが効いてて、自分に合った最適なバトルスタイルを両立できるよう落とし込んである」
「ほんとですか!?いやぁ、同じ趣味持ってる子、周りにいなくて……この達成感!誰かに伝えたかったんです!」
「あぁ、それ分かる。世界はGBNで盛り上がってるのに、自分の周辺にいる人って意外とガンプラやってなかったりしてさ」
「すっごく分かります!ほんとはもっとガンプラとかガンダムの話したいけど、興味無いって言われるのがオチだから、関係ない話題ばっか合わせたりとか……」
「オタクに寛容な社会にはなってきたけどまだまだ肩身が狭いってね。所でやっぱりこのフリーダムの改造は1人で?」
「はい!お父さんがたまたまDVDで見てたのを見た時にかっこいい!って……あれ?急にうずくまってますけど、大丈夫ですか!?」
「いや、なんでもないんだ。ただ歳とったなって……」
そうか……SEEDってもう20年近く前なんだから、リアタイは無理だよな……。というか、その世代ってもう年齢的に結婚してて、子どもがいてもおかしくないんだよな……。残酷過ぎる現実が目の前にいて、突きつけられて、胸がキュッとなっただけだ。
「ガンプラの改造って今回が初めてで、せっかく完成したんだから動かしたくて……、GBNで今日はいっぱい動かすぞー!ってなったんですけど……」
俺とぶつかった拍子に落としてしまった訳か。不意に腕時計を見れば、時刻は18時に差し掛かった所。今から出ても電車でダイバーシティまでだと遠い。仕方ないことと言えば仕方ないことだが、このままだと俺が物凄い悪いことしたみたいで、心が晴れない。
「よし、じゃあ今から行こう。ダイバーシティ」
「えぇ!?今からですか!?」
「タクシー拾えばそこまで時間は掛からないから。乗車賃は俺の奢りで。ぶつかった慰謝料代わりだと思って」
「でもさすがに悪いですよぉ!?」
俺は直ぐにヒカリちゃんの手を引いてファミレスを出る。ヤバい、自分でも分かるくらい、今心の底からはしゃいでる。ガンダムの話を誰かとするのって何年ぶりだろう。
半ば家出で上京して、自分の生活で精一杯で久しく忘れていたこの感覚。燻っていた気持ちが今、音を立てて、頑強に押し込めた感情の扉を蹴破ってくるこの感じ。
「タクシー!ダイバーシティまで急ぎで!」
後に、この一連の行動がどこからどう見ても未成年誘拐でしかないことに、我に返ってから悶絶したのはまた別の話である。
◆
時刻は18時30分。春先とは言え、まだ日の落ちは早く、ライトアップされたユニコーン立像のサイコフレームの発光が辺りを照らす中、俺はヒカリちゃんと一緒にダイバーシティにいた。
「ふぁああああ……本当に来れた……!」
運賃3000円、後からじわじわ来そうなブローを生活費という懐に受けたが、目をキラキラさせているヒカリちゃんの笑顔、プライスレスーー、隣で見れたということで水に流そう。
「最後に来たのはテスト前……、久しぶりだー!」
「あぁ、学生だからか……」
若いっていいなぁ……
「じゃあ俺はこれで」
果たすべき約束も果たした。あまりいい歳こいたおっさんがいつまでも女子高生にぺったりというのも良くない。共通の話題があっても、適切な距離感は必要、今がその時だろう。
少し名残惜しさを感じながらも、ヒカリちゃんに背を向け、去ろうとした瞬間ーー、
「……あの、今から一緒にやりましょう!GBN!」
引きはがそうにもしっかりと服を掴まれて離れない。まだまだ話し足りないと訴える目がまっすぐ俺を捉えている。
「あ、はい……お願いします……」
押しに弱い男にそれはずるいと思うんだ。