ガンダムビルドダイバーズ ーBeast of vocationー 君が呼んでくれたから 作:鮭児
言うが早いか、単に俺が押しに弱いのか、きっと後者だろう。
言われるがまま、されるがまま、流れるようにGBNの筐体に押し込まれ、無機質な壁を見つめる俺に、ダイバーシティの店員は、遊び方を丁寧にレクチャーしてくれる。
「その、俺ガンプラ持ってないんですけど……」
「そこは大丈夫!ウチはガンプラのレンタルもしてるから!でもガンプラが無くてもGBNを楽しむ人もいるのよ」
流石、全世界プレイ人口7500万のマンモスコンテンツ、遊び方も楽しみ方も思い通りということか。素直に感心しつつ、言われた通りに、GBN専用アカウント端末ーー、ダイバーギアをはめ込み、ゴーグルをかける。
「うぅ……!やっと君と飛べるこの日がきたーー!」
隣ではまるで入学式を迎えた我が子を見つめるような目で、フリーダムをスキャンするヒカリちゃんがいる。
「じゃあケンゴさん!後々会いましょう!」
「了解」
「それじゃあ2人とも、行ってらっしゃーい!」
刹那、ゴーグル越しの視界が切り替わり、意識が海に沈んでいくような感覚に、俺は身を委ねた。
◆
キャラメイクを済ませ、閉じていた目を開く。
「……へぇ」
眼前に広がる光景に、無意識に感嘆の声が漏れる。ふと目線を下げると、自分の手が、足下がある。動かしてみれば指のモゾモゾとした感覚と床を踏みしめる度、冷たさが伝わってくる。一界のゲームとは思えない再現度だ。
「さて、待ち合わせをしたものの……」
姿形が自由に弄れるこの世界でどうやって待ち人を探せばいいのかという問題に、俺は今直面している。周りは普通の人から、劇中キャラに扮したロールプレイヤー、果ては獣に土偶。俺も人のこと言えないキャラメイクをしたけど、ここからどうやって探せばいいんだ?
「あ、いたいた!おーい!」
振り向くと、手を振ってこっちに近付いてくる少女がいた。
「なんで分かった?って顔してるね。何故かというと、ログイン前にこっそりID聞いて、メモしてたから、です!!」
ドン!と某海賊漫画の幻聴が聞こえてきそうな程のドヤ顔で胸を張る少女、もといヒカリちゃん。それでいいのか店セキュリティー、と頭の中で悪戯な笑みを浮かべて手を振る店員に半ば苦笑する。
「あの……ケンゴさん本当にアバターそれでいいんですか?」
「まあ、好きなキャラクターになりたいって気持ちもあるけど、いい歳したオッサンがキャッキャウフフしてる姿は……キツい」
だからこれで行く、と、俺はヒカリちゃんにサムズアップをする。鉄血のオルフェンズに登場するビスケット風のジャケットと帽子を被った二足歩行の黒ポメラニアン、それが俺の姿である。
「ヒカリちゃんは、随分大胆な姿にしたな……」
「えへへ……ちょっと張り切っちゃいました」
何処かの学校にありそうな学生服、しかし、そのスカート丈は、ガンダムSEEDDESTINYに登場したルナマリア・ホークの軍服並、少し屈めばその中が見えるんじゃないかと、見ているこっちが心配になるくらい短い。事実、アバターの身長差からガッツリ中が俺には見えているがそこは全年齢の健全ゲーム、ホットパンツで対策されていた。
……ちょっと残念だと思ったのは内緒である。
スタイルは00ヒロイン基準のナイスバディ、ブレザーは身体にフィットする構造で、盛られた胸部装甲が若干強調され、項まで伸びた鈍色のポニーテールが揺れている。
ドヤ顔も相まってか、まるでR18同人でくっ殺からの快楽即堕ち2コマ系の女騎士が学生服を着たような見た目に見えた。もちろん本人はそんな気でやってる訳では無いし、純粋にセクハラなので口には出せない。
「憧れてたんだぁ……ちょっと大人な女性。ちなみに身体をモデルは00外伝のシャル・アクスティカだよ!Fの方の!服はPの方のシャル!」
お、おう……確かに幸薄系の美女ではあったけど、確かその時代の彼女は30代くらいだったはず……背伸びしたいお年頃ってやつか?
「それより、せっかく合流したんだから何かミッション受けない?」
「じゃあ初めてだし、チュートリアルミッションでもーー、」
「ねえ、もしかして君初心者?」
ミッションカウンターに向かおうとしたところで、誰かに声を掛けられる。見れば3人組の男が立っていた。
「俺らも初心者でさ、どうせなら初心者皆でわいわいやりたいなって思って誘ってみたんだ」
「そうなんですか!?是非お願いします!」
当たり障りのないフレンドリーな口調、いかにもオシャレな大学生っぽい風貌のアバター、見た目に怪しさが無いのが逆に怪しいのが気になるが、誘われてるであろうヒカリちゃんがやりたいというのなら……何も言うまい。
「じゃあ、俺も一緒してもいいかな?今日は付き添いだけど、いずれは始める予定だから」
「あぁ、いっすよ」
微妙に怪訝な顔をされたが、一応はいいらしい。さて、これでようやっとGBNの世界に本格的に入れる訳だが……、
「……ヒカリちゃん、俺同乗していい?」
一刻も早く自分のガンプラを用意しないとな……ーー、そう胸に刻んだ。
◆
「凄い!私飛んでる!飛んでるよぉ!」
ウキャー!と黄色い声を上げるヒカリちゃんの傍で俺は、半ば揺れる視界にグロッキー状態になっていた。
流石、ベース機のフリーダムの機動力というべきか、TPSで見る世界と違うFPS視点は新鮮であると同時に、流れていく視界にまだ慣れてないチグハグさに、うなされる。
「ごめん、もうちょいゆったり飛んでもらえると……」
と、懇願してみるも力ない俺の言葉はかき消されるわけで……
島が所々浮遊しているファンタジーな世界を駆けていくヒカリちゃんのフリーダムは飛んでいく。
「それ改造したオリジナル?いいねぇ!」
併走する赤色のフォビドゥン、紫のカオス、緑のズサから通信が入る。あの3人組、中々マニアックな趣味じゃないか。
「初めて挑戦してみたんです!」
なんだか4人でワイワイしてる姿に疎外感を感じる。でもまぁ、オンラインゲームのあるべき姿なんだなと思うと何処か微笑ましくもある。
「もうすぐ目的地だよ」
「もう?でも乗れただけでも楽しかったなー」
俺たちが受けたのは、手に入れると願いが叶うと言われる白い花の採集、所謂お使いミッションという名の基本移動操作に慣れるチュートリアルだ。同じ景色でも車窓と運転席で見え方が違って見えるように、MSのコックピット視点や、実際の操作を瞬時にこなせるようなガンダム主人公は現実にはいないし、親が実機の開発者なんて家庭環境でも無ければ有り得ない。内容自体は少し退屈だが、MSに、しかも自分達が手塩にかけて作り上げた機体に乗っている充実感がそれを感じさせない。実際ヒカリちゃんもミッション完了を名残惜しそうにしているのが証拠だ。
「皆さんのおかげですぐ見つかりました!ありがとうございます!」
目的の花を持って、一礼するヒカリちゃん。事実3人組の連携は異常に上手く、ミッション受注後にヒントとして渡されるアイテムの写真を1度確認した以降、使うことは無かった。本当に最初からここにある事を知っていたかのような連携だ。
「色んな人とこうして遊んでるから、覚えちゃって……」
「へぇー、そうなんですね!いいなぁ、そういうフレンドって憧れます!」
「じゃあ、登録しない?ほら、ここ押してごらん」
そう言うとリーダー格であろうカオスのダイバーが、ヒカリちゃんにウィンドウを見せる。
あまりに手慣れた流れるような動作。本当に初心者なのか、気が回るタイプなのか、俺には逆に怪しく見えてしまう。
「はい!」
疑うことなくヒカリちゃんはOKの選択肢を押した。その時ーー、3人の内の1人が、歪に笑っていた。
ーー嫌な予感がする。
「待った、何か怪しーー、」
瞬間ーー、警報が鳴り響き、視界が平原に咲き誇る花畑からMSのコックピットに視点が変わる。悪い予感が当たったーー、と、直ぐに目の前にいた3人組を向けば、見慣れたアバターではなく彼らのMSがライフルを俺たちに向けていた。