ガンダムビルドダイバーズ ーBeast of vocationー 君が呼んでくれたから 作:鮭児
視点が変わり、矢継ぎ早にロックオンの警告が鳴る。ヒカリちゃんはまだ状況が飲み込めていない。
「ヒカリちゃん!後ろに跳んで!速く!」
「え!?う、うん!」
急いでその場から飛び退く。ほぼ同時に3本の火線が、俺たちが居た場所に着弾し、花畑を焼き払った。
「なんで、なんで撃ってくるの!?」
「多分あのフレンド申請、フレンドじゃなくてフリーバトルの同意だったんだ。わざわざ他の国の言葉に設定してまでやるとか、タチが悪い」
要するに連中は、初心者を騙った初心者狩り。オンラインゲームには一定数必ずいて、チーターに並ぶ害悪プレイヤーの双璧と言われる存在だ。
「それって詐欺と一緒じゃん!じゃあ、今から辞めたら……?」
「俺たちが同意してるから合法だったって言われたら運営も手が出せない。むしろ運営からこっちが負けた腹いせによる迷惑行為ってアカウント毎消されかねない」
つまりは、戦うしかない。
「そんな!?私まだ戦ったことなんて……!」
「大丈夫!……とは言いきれないけどサポートはする!まずは武器を向けて、カーソルが赤くなったら撃って」
「うぅ……分かった!」
ヒカリちゃんがトリガー引くとビームカービンから、ピシュンと言う発砲音に続き、緑色の火線が3機に向けて放たれる。
ーーが、案の定それは誰にも掠めることなく空を切る。
「全然当たらないよ!?」
「そりゃそうさ!相手は夜店の射的の的とは違ってMSに乗った人、オートエイムなんてあって無いような物だよ!当てようなんて思わなくていい、動きを見て、次に相手が行きそうな所に向かって先に撃つんだ!」
言われた通りにしようとするヒカリちゃんだが、戦闘チュートリアルすら受けてない彼女の攻撃はあまりに無駄が多い。グミ撃ちされたビームがただ流れていく。がーー、
「おい!どこに目付けてんだこら!?」
「お前こそ目つぶってんのか!?」
「お前らザコかよwロック切れたじゃねーかw」
運良く、ばらけたビームが進路を塞ぎ、かいくぐった先でカオスとズサがぶつかり、後方から着いてきていたフォビドゥンの射線を塞ぐ。同時にフォビドゥンのレールガンがカオスに命中し、衝撃で仰け反る。カオスのVPS装甲のおかげで無傷のようだが苛立ちを隠せないようだ。
仲間割れ結構だが、かといってそれで状況が好転した訳では無い。あくまで偶然生まれた隙、でも今の時間ならーー、
「ヒカリちゃん、少し我儘言ってもいい?」
「え?」
「ヒカリちゃんのフリーダム、少しの間だけ俺に預けてくれない?」
「それってどういう……」
「この状況、俺なら切り抜けられる」
我ながら何言ってんだという気になるが、どうしてだろうか。根拠はないけど、揺るぎない自信がそうしろと俺の背中を押す。
「無理だよ!?だって3対1だし、私たち初心者だよ!?」
「うん、確かにGBNでは"初心者"だよ。でも俺はこの空気を前から知ってる」
ヒカリちゃんの返答を待たず、前に割り込み、操縦桿を握る。
「カッコつけとかじゃなくて、ただこの危機的状況、歴代ガンダム主人公の初戦闘と似たようなシチュエーションにどうしようもなくワクワクしてる自分がいる」
そして何よりもーー、
「こんなところで主人を守れず不甲斐なく負けるのは嫌だ、ってフリーダムが言ってるような気がしたんだ」
だからやらせてくれないか?、と改めて聞こうとするとーー、
「……ふふっ……なんか今の台詞ニュータイプみたい。」
クスリと笑うと、ヒカリちゃんは俺の手を握り、清々しいくらいの笑顔を向けて言った。
「1つだけお願いしてもいい?私に構わず全力でやって」
「……了解!」
コントロールが移った事を確認し、スラスターを上げる。
流れていく視界を改めて見て感じる。なるほど、フリーダムのデチューンかと思っていたけど、違う。これはフリーダムの最大の長所であり欠陥でもある機動力を最大限に引き出し、それありきの攻撃に転じるための構成だ。コンセプトがハッキリしているからこそ、単純明快で猪突猛進、俺がよくやるスタイルだ。
「さて、慣らしはここまで。生憎ご主人様じゃないが付き合って貰うぞ……えーと、名前は……」
「スカーレットフリーダム、……変かな?」
「いいや、十分いい名前だよ!行くぞスカーレットフリーダム!」
浮遊大陸の1つを蹴り方向転換、追いかけてきた3機に肉薄する。
「とりあえずまずは1発!」
シールドを突き立て、突撃。狙うは後続のフォビドゥン。機体を知ってるからこそ1番厄介なヤツから攻める!
「ハァッ!?」
まさか自分がとは思って無かったのか、慌てて防御体勢に移ろうとするが、もう遅い。バインダーとバックパックを接続するアームを、二股に別れたシールドが穿ち、引きちぎる。SEEDのガンダムタイプはもれなく物理耐性に強いと言えど、関節まで覆う機能はとある2機を除いて存在しない。そして手足の関節よりも細く、簡略構造になってる細いアームなら、小枝を折るようなものだ。
2基の内の片方のバインダーが欠損した事で、姿勢制御が上手くいかなくなったフォビドゥンを踏みつける。
「ザコの癖に俺を踏み台にしやがった!?」
「ガンダムファンなら1度は言いたい台詞が言えたんだ、感謝しながら落ちていき、な!」
そのまま踏み落とし、勢いのまま宙返り。勢いを殺さず、最小限の姿勢制御で、カオスとズサの上をとる。と同時にバラエーナプラズマ収束砲を撃つ。
直ぐに気づいたカオスはシールドで受け止め、ズサも覚束無い足取りで回避する。
「当たらなくても問題はない!」
一目でわかるSEEDビームと言われるアグニやバラエーナと言った赤い火線は、非常に高火力、それは当たらなくても近くを通過すれば、手足の1つを簡単に消し炭にできるほどに。つまりーー、
「なっ!?俺のガンプラがぁ!?」
ズサの肩部近くを通過したバラエーナの熱で、ミサイルポッドが誘爆する。全身にミサイルを仕込んでいるズサにとって誘爆は致命傷だ。背部ユニットのパージが間に合わず、誘爆が胸部、腕部、脚部へと広がっていき、最後は少し早めの花火と化し、後には何も残らない。
ーーまずは一機。
「なんだコイツ!?さっきと動きが違い過ぎる!?」
「本当に初心者かよ!?」
オープン通信で慌てふためく様子が終始伝わってくる。
「ブーメランって知ってるか?」
通信に割って入る。
「その声、まさか一緒にいた犬野郎か!?」
「その動き、テメー初心者じゃねえだろ!いい歳した大人が詐欺ってんじゃねえよ!恥ずかしくないのか!?」
「そっくりそのままお返しする、よッ!」
ビームカービンを構え、トリガーを引くが、ビームは出ない。最初のグミ撃ちで使い切ったか。
「私が撃ちすぎたせいで……!」
「大丈夫。ライフルって万能武器でさ、弾が無いならーー!」
ビームカービンをカオスに向けて投げる。
「本体が弾になる」
「……ふざけんなぁ!」
怒り心頭のカオスのダイバーが、シールドのバルカンを発砲し、ビームカービンを破壊する。この場合における最も悪手を自ら踏んだ。
俺は右腕のガントレットを展開、バックパック、両脚部に隠されたバーニア、スラスター全てを噴かし、突撃する。そしてビームカービンの爆風を振り払い、顔を出したカオスの、唯一VPS装甲がないメインカメラにガントレットを突き立てた。
血飛沫のように砕けたメインカメラのカバーガラス片を撒き散らし、カオスの頭部がちぎれていく音が響く。
このまま追撃に繋げようとするが、向こうも素人では無い。ガンポッドがすぐさま射出され背後から、ミサイルが放たれる。
自分自身を巻き込みかねない状況でそう来るか。残念ながらヒカリちゃんの今の技術ではPS装甲の再現は反映されていないため、俺はその場から飛び退く。
ミサイルがカオスに命中するが爆煙を払って、サーベルを抜いたまま迫ってくる。向こうのVPSは健在、初心者狩りの為だけにする努力の方向性に、呆れ過ぎて逆に笑えてしまう。
「なぁ、なんでこんなみみっちい事してんだ?」
「そんなの決まってんだろ?楽にポイント稼いで楽に強くなるんだったらそれを選ぶだけだろうが」
「楽したい気持ちには同意だね。だがーー、」
サーベルを引き抜き、迫る光刃を受け止め、鍔迫り合うスパークが互いを照らす。
「ガンダムにおいてそれは三下だって自己宣言だぜ!」
サーベルを少しズラす。坂道を転がるビー玉のようにカオスのサーベルの拮抗が崩れ、刃が滑り、機体のバランスが崩れる。そのガラ空きになった脇腹を蹴り飛ばし距離をとる。
割って入るように弧を描いたプラズマビームが通過し、下からフォビドゥンが肉薄する。
「当たれよ!クソが!?」
「それはCPUに頼むんだな!」
振り払われた大型の鎌ーー、ニーズヘグを躱し、背後からバラエーナを撃つ。しかし、フォビドゥンのバインダーーー、ゲシュマイディッヒパンツァーが動き、放たれたビームは明後日の方向に屈折させられる。やはりビームサーベル以外決定打が無いのは痛い。
さて劇中最強の防御をどうやって抜くか。初撃の不意打ちで防御は実質半分になった。だが、まだ健在の接続アームの長さから考えて機体全面を覆えるくらいには対応はできるし、してくる。
「とりあえず厄介な矛だけ折っとくか」
下から潜り込み、フォビドゥンを正面から上昇してやり過ごす。その対面する瞬間に抜いていたサーベルで突き出していたレールガンーー、エクツァーンを一門切り落とす。
「逃げんな!クソが!なんでビームが曲がらない!?」
フォビドゥンのダイバーの苛立つ声が聞こえる。そりゃそうだ、あの二門のエクツァーンに搭載されていた誘導装置こそが、あの曲がるプラズマビームーー、フレズベルグを屈折させるカラクリ。封じておいて損はない。というかーー、
「自分の使うガンプラの特性くらい把握しとけよ」
まあ、俺も当時はこどもだったから「フリーダムがんばれー」の感覚で見てたし、設定はそこまで気にしてなかったけど。
「そんなの知るかよ!?コイツは元々レンタル、それを買っただけだ!一々設定なんか見てられっかよ!他の奴らもそうさ!どいつもこいつも中古の完成品や、制作代行、ゲームするために自分で作るなんざ面倒だろうが!」
言わんとすることは分からなくもない。確かにビルダーの中には飽き性の奴だっている。俺自身も、RGのHi-νのフィンファンネルのアンダーゲート処理地獄は中々に骨が折れた記憶がある。だがーー、
「……アンタ、悲しいな」
「はぁ!?」
ガンプラにとって確かな技術力は必要だ。だが、それ以上にーー、
「例えどんな相手であろうとも……ウチの子最強って胸張って言える度胸、即ち、愛!そんな事も分からないのは悲しいな」
加速し、下降。持ち前の機動力に乗せてサーベルを振り下ろす。
ゲシュマイディッヒパンツァーにより防がれる、がそれは予想の範囲内。寧ろこの瞬間を待っていた!
握っていたサーベルを手放し、宙返りでその場を離れ、再加速。空いた左手でバックパックに増設されたサーベルを抜き放ち、接続アームを焼き切った。
「なに!?」
自慢の盾はもうない。直ぐに背後にまわり、丸裸になったフォビドゥンのバックパック目掛け、両手にサーベルを握って振り下ろす。
身体をすっぽりと覆えるほどのバックパックはその大きさ故の最大の死角。ひっくり返った亀のように、為す術ないまま、背中に2本の軌跡が走り、爆散。推進力を失い墜ちていくフォビドゥンは、次第にその姿が小さくなり、ズシンと言う衝撃音の後、小さな花を咲かせて散っていった。
「己のガンプラを信じる。それが本当の強さだよ」
まあ、人のガンプラ使ってる俺も人のこと言えた義理じゃないけど。
「ふざけんなよ……いい歳したおっさんが年下相手にイキってんじゃねえぞ!」
油断していると思ったのか、残されたカオスが突っ込んでくる。最早なりふり構ってられる程の余裕はなく、動きも短絡で、直線的。正直もう勝負はついている。
弾道の定まっていないビームを避けながら、接近。接触するタイミングで蹴り上げる。
「初心者虐めるような愛の無い奴には言われたくないね」
露になった胴体めがけ、両手にサーベルを握り、振り下ろす。一瞬の静寂の後、×印に切り裂かれたカオスが、力なく崩れ落ち、勝利のファンファーレがコックピットに流れた。
「……すごい」
「ヒカリちゃん、このフリーダム、最高」
「え……?えへへ……でしょ?」
振り向き笑う俺を見て、ヒカリちゃんは少しだけ現実に戸惑いながらも、ドヤ顔でサムズアップをして笑い返す。
それが互いにツボに入ったのか、ただ勝利の美酒に酔ったのか、やがて笑い声は共鳴し、響くだけだった。