ガンダムビルドダイバーズ ーBeast of vocationー 君が呼んでくれたから 作:鮭児
2度目の浮遊感、そして目を開ければ、広大なロビー。
俺は再びGBNにログインしている。ーー1人で。
いや、別にドタキャンされたとかそう言うのじゃなくて、週末までもう少し時間があるから、少しでも操作に慣れておきたい……というのは建前で、急遽後輩まで来ることになって、年長者で経験者としては?やっぱりかっこいいって言われたい訳で?はい、完全に下心丸出しですとも。華のJKと出かけてゲームとか舞い上がらない男はおるまいて。
「さて、ミッションはっと……」
ミッションカウンターで、手頃な物をと探してみるが、まずその多さに目が眩む。俺、たしか始めたばかりでまだ最低ランクだよね?それでこの量?このままランクが上がれば更に増えるのか。
一つ一つ読んでいくには、時間が惜しい。目を引くタイトルで選んで、手当り次第にやっていく。ーーが、
「味気無い……」
前回いきなり、鍍金とは言えのそれなりのランカーとやり合ったばかり、対人戦というオンラインの華を味わってしまった以上、最低ランクの今、チュートリアル色強めのNPC戦では、戦っている感じがしなくて少し味気ない。でもだからといってそこらのプレイヤーに片っ端からバトルふっかけるのも輩みたいで嫌だ。
「そこのおにーさん、ミッションを探してんのかい?」
振り返ると、スケバンがいた。
木刀を肩に担ぎ、上下合わせた特攻服と腰まで伸びた深紅の髪、大胆にはだけた隙間からは白い肌とギッチギチに巻かれながらも、主張を辞めない豊満な双丘が、呼吸に合わせて僅かに揺れる。
所謂、昔の漫画版The 女番長な見た目で、猛禽類を思わせる鋭い金色の瞳が真っ直ぐ俺を射抜いていた。……チビってもいいかな?
いや、いくらゲームでも、こう、いかにもーな人に絡まれるのはやっぱりパンピーとしては怖い訳で。あとこのアバター状態だと上から見下ろされてる訳で、迫力が倍増されてより恐怖。
「実はちょっと入り用でさ、急遽1人メンバーが要るんだけどね、ちょうどスリルに飢えてそうな奴がいたんでね」
そう言うと、舐めまわすように俺を見つめる女番長。絶対連れてかれる。絶対逃がさないって獲物見つけた目してるもん。
「いやいや、俺、初心者ですよ?ログインも2回目だし、ランクも最低で……」
気付かれないよう少しずつ後退りしていると、突然の浮遊感、そして身体に巻き付く柔らかい温かさ、そして迫る切れ長の金色の瞳。
……完全に抱き上げられてますやん。
「ランクなんて飾りさ。必ず約束するよ、絶対にアンタを退屈させないって」
力強くて真っ直ぐな瞳に見つめられて思う。やっぱり俺ってちょろい、でも男なんだから仕方ない。女性にそんなこと言われて、そんな目をされたら断れる訳が無いじゃないか。
「分かった。とことん付き合うよ」
「よし!言ったな?言質取ったからな!?」
そう言うと子どものようにニカッと笑い、鼻歌交じりにミッションを選び始める。小脇に抱き抱えらながら見えた横顔は、最初こそ獲物を見つけた獣に見えたが、この短い時間で少し変わって見えてきた。なんというか、天真爛漫な子ども?
「そうだ!まだ名前言ってなかったな!あーしはトウコ、特攻のトウコさ!」
「アッ、ハイ、俺はポメラニィヤンです。」
「じゃあポメだな!今日からあーしとポメはダチだ!絶対だかんな!絶対だぞ!?」
圧が、圧が凄い。
「えっと、そのミッションと言うのは……?」
「あーしが作ったミッション!名付けて"トップガン・ロードマッドマスター"」
「作っ……た……?」
「そう、あーしがゲームマスターでプレイヤー!」
少女はそう言うと、高らかに笑った。
GBNには様々なミッションがある。チュートリアルミッションや、プレイヤーランクを上げるNPCによるミッション、より高難度な連戦ミッションや、作品の劇中を再現、あるいはもしもそこに自分がいたらという夢設定を可能にするシチュエーションミッション、数え出すとキリがない。そんな中、GBNのプレイヤーもまた、ミッションを作る事ができる。それがクリエイトミッション。有名な所だと、あのトップクランアヴァロンが苦戦したロータス卿の"ロータスチャレンジ"がそれに当たる。勿論運営にクリア出来るものと認められる必要があるが、底意地が悪い、鬼畜、戦闘狂御用達、何れにせよ高難度で有名――、と掲示板で見たことがある。
その類をトウコと名乗る少女が作ったと言う。……彼女の見た目からして内容が既に見えてきたのだが。スリルってそっち系のスリルっすか……
◆
思った通りだったよチクショウ!
ミッション受諾後、景色は変わり、荒野が一面に広がる。だが、ただの荒野じゃない。さっきから空で、地上で、核の光や、極太レーザーが、ちょっとコンビニ行ってくる位の軽さで明滅している。それは最早、ディストピア。
「あの、ここって、まさか……」
「ディメンションヴァルガだ!」
まさかこの身で来ることになろうとは。
ディメンションヴァルガ、そこは運営が用意した公式無法地帯。ガンダムゲー界隈はチンパンジーの集まり、なんてのは昔から揶揄されていたが、やはりGBNにもそう言った輩はいた。みんなで遊んで楽しもうという所に、土足でやって来て身勝手に振る舞う輩がいれば誰だって萎えてしまう。だからと言って運営が徹底的に規制した所で彼らもプレイヤー、客であり金を落としてくれるから無下には出来ない。じゃあこうしよう、バケモンにはバケモンをぶつけりゃいんだよな理論で生まれたこのディメンション、ここでは全域が申請無しのフリーバトル、バトルロワイヤルステージ、健全に遊ぶプレイヤーは生涯お世話になることは無い。
そんな所に、俺はいます。
「いやいやいや!?刺激的だけど!刺激的だけど!」
「な?退屈しないだろ?」
「主に心臓が退屈してないんですけど!?」
もう付き合ってられるか、俺は帰る!と逃走を試みるも、直ぐに捕まり小脇に抱えられてしまった。これがお米様抱っこか。
「今からするのはずばりレースだ!」
"トップガン・マッドロードマスター"の概要はこうだ。ステージはここ、ディメンションヴァルガ。そのマップから指定のコースを、可変機構を持つ乗り物役ロードマスター、それに乗る運転手役トップガンの2人1組のチームで1着を狙うレースミッション。一見ただのレースゲーム、しかし、ここからが違う。
まず、参加者はレースの妨害が許可されている。つまり互いに攻撃が許可されている。そしてもう1つ、外部からの飛び入りの妨害は無制限。つまり野良の不特定多数のヴァルガプレイヤーがレース参加者を終始攻撃することが許可されている。よって俺はレースの参加者と野次馬からの攻撃に四六時中晒されながらゴールを目指すことになる。……これなんてクソゲー?
「ちなみにあーしはロードマスターだから。よろしくなトップガン?」
謀ったな!トウコ!?
イタズラな笑みを浮かべるトウコに精一杯のジト目を送る。効果は無い。
「おいおい、トウコ。初心者なんか連れてミッションとは舐めプも良いところ、いや、相手がいないから騙して連れてくるしか無かったんだか?」
三下感満載のセリフが聞こえたと思って見てみれば、ギザギザノースリーブの革ジャンを羽織ったオールバックの大男がモヒカンを引き連れて笑っていた。
「違う!確かに誘いはしたけどポメは自分で選んで……」
威勢は何処へやら、否定できない部分もあるからトウコの声は徐々に小さくなっていく。まぁ半ば騙されたのは間違い無いけど……
「ほらな。まぁ勝負は勝負だ。精々無様な姿晒して引退なんてダセェことはすんなよ」
どんな因縁があるのかは知らないが……、知ったこっちゃないと言えばそうなのだが、傍観者気取るのはなんか、違うよな……
「そっちこそ、そんだけイキッたんだから醜態晒すなよ三下オールバック」
気付いたら挑発していた。
「……ポメ!?」
「ハッ!クソ初心者のくせに言いやがるじゃねえか。決めた、完膚無きまで叩き潰してやる!」
「ポメ、ホントにいいのか?」
三下オールバックがいなくなり、2人だけ残されるとトウコは尋ねてきた。不安と申し訳なさそうにしているのが見て取れる。これが強気な女の子が見せるしおらしさ、なるほどギャップ萌えと言うヤツか。
「いいも何も最終的に着いてくって言ったのは俺だし」
「でも――、」
「それに俺はダチ――、なんだろ?ダチが困っている時は助ける……って映画とかではよく言ってたから……」
「ポメ!!」
「ん?……うぶぅ!?」
ガシッと抱きしめられた。柔らかい、じゃなくて苦しい。でも……柔らかい……ヤバい、何がと言わんが、アレがアレしてアレしてしまう。
「あーし、やるよ!ポメとあーしが最強だってアイツらに見せつけてやる!」
「うん、とりあえず……離して……」
◆
ガンプラのコックピットで息をつく。レース開始までもうすぐだ。見下ろせばトウコのガンプラが見える。
"ガンダムロードマスター"それがトウコのガンプラだ。ベース機はガンダムXに登場するガンダムエアマスター、その最大の特徴である翼はオミットされ、バックパックには巨大な2輪、ハンドルにはガンダムXディバイダーのビームソードが取り付けられ、腕はZガンダムに換装されている。
それに乗る俺のガンプラ、"ガンダムF91改"。F91をニコイチして両腕にビームシールドを取り付け、腰部にヴェスバーを増設したお手軽改修機だ。今まで使ってきたガンプラとは違うけど、コイツで何処までやれるか。何故だろう、最初はおっかないと思ってたのに今はワクワクが止まらない。
「トウコ」
「どうしたポメ?」
「アイツらとどんな因縁があるかは俺は知らない。聞いたとしても全部を理解することは出来ないと思う。だからこそ俺は遠慮も加減もしない。ぶっちぎるから着いてこいよ」
「初心者のくせに生意気言ってくれんじゃん。そっちこそ、あーしに振り落とされんなよ!」
「上等!」
カウントダウンが始まった。そしてそれがゼロになった瞬間――、俺たちは駆けた。