ガンダムビルドダイバーズ ーBeast of vocationー 君が呼んでくれたから 作:鮭児
トウコのガンダムロードマスターが駆けた。その加速度は、旅客機が発着する瞬間のGよりも重くのしかかり、ゲームとは思えない物だった。
――殺人的な加速だ……!
これだけの速度を一瞬で出せる機動力、更にそれをものともしない耐久性、彼女がビルダーとしても、プレイヤーとしても高い位置にいるのは一瞬で思い知らされた。そしてそれは同時にトウコがこのガンプラにどれだけ想いを込めたか、大切にしているかの指数でもある。それに今、俺は応えなきゃいけない。
「くっ……!俺だって啖呵切った以上生半可でやる気はねぇ!」
操縦桿を強く握りしめ、尋常じゃない速度で駆け抜けていく視界を見る。
「ポメ!出だしは上場!そろそろ来るから迎撃任せた!」
瞬間、攻撃を知らせるアラートが鳴り響いた。
「……ガチ?」
ミサイルが挨拶代わりに飛んでくる。1つや2つじゃない、それはまるでガンダムSEEDのイージス艦からのミサイル発射バンクに匹敵する量、MS2機相手に向ける火力じゃないだろ!?
4基のヴェスバーからビームを放つ。背部の2基は収束を弱めた牽制兼迎撃、腰部の2基は直接叩くために収束を上げた本命。
「ミサイルにはビームだクソッタレ!」
同時に放たれたビームがミサイルを焼き、誘爆に次ぐ誘爆で空を黒煙で染めていく。本命のビームはすぐ後ろに着いていた1機を貫いたがそれだけだった。
流石無法地帯の住人、この程度は呼吸のような物、つまり躱せて当たり前って訳か。ちょっと舐めてた。
「ポメ!今の爆発を聞き付けた奴らもそろそろ来るぜ!ヴァルガ民は遠慮も自重もしない悪ノリが大好物な奴らだからな!」
「言う割には楽しそうじゃないか!」
ビームライフルを躱し、応戦。偏差が立てにくい。物凄く楽そうに見えていたけど、SFSに乗っての戦いって、リアルだとこんなにも難しいのか。劇中で可変機の開発が急かされる理由が今分かった。
「トウコ、1つ謝罪なんだけど」
「なんだ!」
「今更だけど俺のガンプラ、まだ未完成でさ……近接武器が無い!」
「はぁ!?」
背後の上空からスパイクパーツだらけのドムが、ヒートサーベルを振り下ろして迫ってきている。すぐ近くに無人の風雲再起がいるからきっとペアだろう。
ロードマスターが即座に左に逸れる。刹那、ドムのヒートサーベルが俺達がいた場所で空を切った。
「とりあえず、サヨナラ!」
一瞬の隙、俺はドムの頭に蹴りを入れた。バランスを崩したドムが地面を転がっていくと、中団の何人かを巻き込んで爆発した。
「こんな感じで、処す?」
「ポメのガンプラはGガンタイプとは違うだろ!そのうち関節が負荷に耐えられ無くなってお終いだ!そういう時はあーしのガンプラのハンドルを抜け!」
「分かった!」
握っていたロードマスターのハンドルのグリップを引き抜く。接続部から緑色の光刃が放たれ、剣の形へと収束していく。ガンダムXのビームソードだ。
飛んできたビームを切り伏せ、ヴェスバーを撃つ。攻撃の手は未だ止まず。しかも気付けば四方八方からビームやらミサイルやらが飛んでくる地獄絵図。気を抜けば死ぬ。
「ヒャッハー!」
「殺せぇ!」
「明らかに出る作品間違えてる奴らしかいねぇ!?」
すぐ近くで爆発が起き、トウコのロードマスターが激しく揺れる。俺のF91が反動を殺しきれずに宙に投げ出された。
「ポメ!?」
「いたぞ!例の
瞬間、アラートが響き渡り、攻撃が全て俺に集中する。眼下にはリアル等身化された呂布トールギスの赤兎馬に乗る漆黒のイフリート改を中心に様々なガンプラが集結していた。イフリート改がヒートソードを軍配のように奮うと、周りのガンプラが銃器を向けて発射体勢をとっていた。わざわざオープンチャットで喋っているイフリート改、アレがあの三下オールバックのガンプラか。
「ヒヨっ子相手にこの数とは、ヒヨリすぎじゃねえの!?」
体勢を立て直し、反撃しようとビームライフルを構えた――、瞬間、横からその銃身が撃ち抜かれた。
「おいおい、周りにはもっと気をつけな。ここはヴァルガだぜ?」
ゾワリと背筋に嫌な予感が走る。この直感は当たる――!
直ぐにライフルを捨てると、AMBACで距離をとる。すると俺がいた場所をビームが四方から交錯して、接触スパークが瞬く。
「アレ殺ったらいいんだよな?」
「ケッ、ちっこくて当てにくいな」
妨害側に息のかかった奴らがいる。なるほど、そういうことですか。談合とはまた典型的な。
「トウコ、ごめん。ちょっとレースどころじゃないかも」
「ポメ!?アイツ!こんなセコい事までしやがって……何処まで愚弄すれば気が済むんだよ!」
最早スリル満点レースゲームは、俺とトウコという獲物を囲んで一方的に嬲るキツネ狩りゲームになりつつある。ボスは漆黒のイフリート改。
数はざっと30、何れもこのディメンションで生き残れる位の実力はあるベテラン。はっきり言って勝率は絶望的だ。理不尽なくらいに不利な状況に思わずため息が出た。
「……クフ」
「ポメ?」
……いいねぇ、そういうのは、
「大好物だ!」
向こうの事情なんて知ったこっちゃない。俺はF91のスラスターを全開にし、駆ける。まずは――、
「高みの見物決め込むお前ら!」
「コイツ!?うわぁぁぁ!?」
さっきコイツには近接武器が無いと言ったな。あれは嘘だ。
すれ違いざまにビームシールドを展開、そのまま一閃に薙ぎ払った。ビームシールドはそのまま攻撃にも転じる事ができる高出力サーベルと言っていい。完全に油断していた妨害役のガンプラは真っ二つになり爆散した。
そのまま機体を急停止、反転させる。まだ状況を理解される前に頭数はは減らしておきたい。ヴェスバーを展開、4基の砲門から一斉にビームが放たれ、4体のガンプラを貫いた。
「お前ら!殺っちまえ!」
敵が動き出した。予想より少し立て直すのが速い。やはりヴァルガ民、腕は確かな粒ぞろいだ。
スラスターを吹かして強制的に姿勢制御を試みるが、完全に勢いが殺しきれず、バランスが崩れる。その際に腰部のヴェスバーをビームが掠め、アラートが鳴る。やはりガンプラのクオリティーが、俺の操縦について行けてない。
「だが!」
損傷したヴェスバーをパージし、掴む。そのまま真下にいたスパイクパーツだらけの軍馬に突き刺した。
「ジェネレーターは臨界にしておいたぞ、爆弾1個へいお待ち!」
軍馬を蹴り飛ばす。転がった先で軍馬が爆発し、数体が巻き添えになる。
「すぐ追い付く!トウコは先に行っててくれ!大丈夫、すぐ追い付くから」
「ポメ!?あぁもう!ぜってー戻って来いよな!?」
要は俺かトウコのどちらかがゴールすれば勝ち、ただしお互いに生き残れ。そうじゃないか、よく考えればそこまで制約の強いルールじゃないんだ。だからこんなことも問題は無い。
「おらおら、ヒャッハーが足りないんじゃないか!?」
ガイアに飛び乗りビームシールドで刺突する。ついでにシールドとライフルを拝借する。次は外野の妨害役の∀ガンダム。この状況を見かねてか、核ミサイルを握っている。あれが現状1番ヤバい!
ガイアから奪ったシールドを投擲、そこにライフルを乱射する。シールドがビームを弾き、跳弾したビームが∀の死角から飛んでいく。その数5。シンみたいな曲射は出来ないけど、当たればラッキー、当たらずとも怯ませるには十分だ。
「おい、コイツ初心者じゃないのかよ!?」
体勢が崩れた∀に向けてライフルで追撃。核ミサイルを持っていた右腕を肩から撃ち抜き、ミサイルが手から零れ落ちた。それを確認すると右脚を撃ち抜く。右半身の支えを失ったまま転落、爆散した。
まだ敵の数は多い。おまけに事情を知らないノリのいいヴァルガ民が現在進行形で増えていく始末。さすがにジリ貧だ。
「ボス!さすがにこっちも余裕は無くなってきますよ!?」
「黙れ!お前らが弱いのが悪いんだろ!」
気づけばかなりの時間戦っていたらしい。少しずつではあるが、俺以外の参加者も攻撃されることが多くなってきたことに気付いた。息のかかったヴァルガ民より純粋な一般ヒャッハー民が増えてきたのか。
「そうだ、そうだよ、敵の敵は味方じゃないか」
今の俺はきっとポメラニアンが絶対しない悪どい顔をしているに違いない。なんせ思いついてしまった。この状況を更に混沌化させる方法を。
「こんな楽しい催しを、俺たちだけで独占するのは良くないもんな!」
機体を180度急旋回し、加速する。レースとしては完全な逆走だが、目的はそこにある。
「さぁさぁ、親愛なるヴァルガの皆様!素敵なバトルロワイヤルにご招待!目印は……ここだ!」
救難信号を出し、目標へ向けてビームを放つ。
「野郎!?やりやがった!?」
イフリート改が目に見えて狼狽している。これは気付かれたかな?でももう遅い!
放たれたビームが着弾する。貫いたのは小さなミサイル、そう、∀が放とうとした核弾頭、それである。
眩い光が炸裂し、赤茶色の地を、空を照らす。俺たちよりも後ろで狙撃に徹していたガンプラたちを飲み込んで消滅させていく。その範囲は瞬く間に広がっていく。
「うぉおおおおおお!?」
一番爆心地に近かった俺はその影響をモロに受けていた。少しでも機体を軽くするため、ヴェスバーは全て切り離した。奪ったガイアのライフルも捨てた。それでもジワジワと爆風が距離を詰めてくる。
「脚が……!?」
ついに両脚が爆風により融解していく。このままではそのまま吸い込まれて撃墜だ。ビームシールドを展開し、膝から下を自ら切り落とし加速させる。もうちょっと作りこんでおくべきだった。これ以上は速く進めない。
「あれを使うしかないのか?でも再現できるクオリティじゃ……」
逃げる術が無いわけじゃない。奥の手はある。だけど、それはガンプラの作り込みによる判定が大きい代物だ。不発に終われば冗談抜きで詰む。
あー、これはダメだわ。ごめんトウコ、俺戻れそうにないや。
「ポメ!」
「トウコ!?」
諦めかけたその時、見知った声が聞こえた。
「おま、ゴールは!?」
「あんましあーしのことナメんじゃねえぞ、勝ちたい気持ちはあってもな、ダチ見捨ててまで勝つくらいならそんなのそこらの奴にくれてやる!」
かなりの距離を稼いだはずなのに、それを全て捨ててまで逆走してくる奴があるかよ。俺の苦労はなんだったんだって話なんだが……
でも――、
「そうだな、一緒にゴールしてこそだよな」
「そうだぜ!」
俺はトウコのロードマスターのハンドルを握る。
「ごめんトウコ、今俺のガンプラ両脚無いからバランスが――」
「じゃあこれで問題ないな!」
ロードマスターの腕が展開され、F91改の腿を掴む。機体が目に見えて安定した。
「あと、アレを使いたいんだけど何処までやれるか分からない。いざとなったらトウコに任せきりになると――」
「っし!任せろ。アレって、アレのことなんだろう?」
「多分正解。じゃあいくぞ!」
「おう!」
「MEPE起動!」
F91改のマスクが縦に分かれ、人の顔を模したような構造が現れる。と、同時に機体の速度が上がり、残像を残して進んでいく。
詳しく説明すると長くなるが、これはれっきとしたガンダムF91の機能だ。
「ぐっ……!はええけどこの位……!」
トウコの苦悶に満ちた声が聞こえてくる。俺のF91改は対策できる機能があるが、ロードマスターにはそれは無い。ロードマスターのホイールから煙が上がり、異常を知らせ始める。
「ポメ!まだもつから気にすんな!行け!」
更に加速が強くなる。すると前方にイフリート改が見えてきた。
「よう、随分余裕なさそうじゃないか?」
「テメェ!」
「文句は連れてきた仲間にでも言うことだな。じゃ、あばよ!」
ロードマスターのグリップを引き抜く。ビームソードを、赤兎馬の前輪に突き刺した。
「なっ!?この!?」
慌ててイフリート改がヒートソードを抜こうとするが、その腕をビームシールドで切り落とす。
「勝負は俺たちの勝ちだな!」
ビームソードにより八つ裂きになった赤兎馬の前輪が砕け、イフリート改が投げ出される。残念ながら奴にこの状況を切り抜けられる術はない。
覚えてろと、いかにもな捨て台詞を吐きながらイフリート改が爆風に飲み込まれていくのを俺は見届ける。
「さぁ、さっさと切り抜けてゴールしようぜ!」
「あぁ!そうだな!」
遠ざかっていく核の光を眺めながら順位を確認する。現在俺たちは案の定1位。そして残っているペアは1組。はい、俺たち以外全員吹き飛びました。あの∀のダイバーどんだけ核弾頭作りこんでるんだよ。
「ポメ!上!」
安心も束の間、言われた通り上を向けば――、
「oh……」
金色に輝くリフレクターと2門の巨砲、大口径のバズーカ、2対1体のライフル……。右からダブルX、サイサリス、ウイングゼロ、どう見てもオーバーキルです、はい。
「まだこっちには質量を持った残像が……!?」
まるでフラグだとばかりに俺の機体がエラーを吐き出し、バックパックのバーニアから黒煙が上がった。
「トウコ……」
「まあなんだ!こういう時もあるさ!」
「「「ヒャッハー!」」」
最後に見たのは光に埋め尽くされた真っ白な光景だった。
ミッション:トップガンロードマスター
【結果】 優勝者:無し
◆
「いやぁー負けた負けた!」
「これで良かったのか?」
レースが終わり、中央ロビーで背を伸ばすトウコに俺は尋ねた。
「あぁ、別に、アイツにはムカついてたから一杯食わせてやれたからそれでいいんだ。あーしの作ったミッションで好き放題やってたのが気に食わなかっただけだし」
「えぇ……」
じゃあ何か、俺は憂さ晴らしに付き合わされたと?
「おい!」
「げっ……」
あれだけカッコつけて、呆気なくやられて、恥ずかしさで穴に潜りたい気分に駆られていると、不意に呼ばれる。見ればイフリート改に乗ってたオールバック。
「なんだ……その悪かったな。馬鹿にして」
「お?」
「だが、次は負けねぇ!今度は談合も無しのタイマンで勝負つけるからな!」
「お?」
あるぇ〜?話がなんかおかしいぞ〜?なんか改心したみたいな空気なんですけど?
「あーしが、あーしらはコザイクして負けるダセェのと違って無敵だって滅茶苦茶煽ってやった」
「何してくれんですかぁ!?トウコさぁん!?」
「舐められっぱなしは気に食わねえんだよ!今度こそ勝つ!覚えてろよ!?」
あぁもう滅茶苦茶だよ本当。
「なぁ、ポメ。今日楽しかったか?無理矢理巻き込んで怒ってないか?」
オールバックが居なくなった瞬間、トウコが少し申し訳なさそうに聞いてきた。
「まぁ……めっちゃ疲れた。でも楽しかったと言えば楽しかったかな。俺、友達少ないし」
「そっか!」
ぎゅむっと言う柔らかい音と感触が伝わり、視界が肌色に染まる。また、抱き締められてますね、くぉれはぁ……
「あーしも久しぶりに楽しかった!ポメ!お前は今日からあーしのマブだからな!」
「あ、はい、その、よろしく?」