202X年4月1日(金) 18:00より、期間限定イベント「童話のためのお伽の国 メルヘン創世記」の開催が決定!
詳細は続報をお待ちください。
※本ページの文章はすべて開発中のものです。実際の本編とは異なる場合があります。
プロローグ
召喚に応じて以来、溜まっていた不満がある。否、彼が不満に思わない事など何一つ無かった。
だから、この騒動は起こるべくして起きたこと。切っ掛けなどありはしない。日々降り積もるゲージが臨界値を迎えただけ。何も特別な事でもない。
巻き込まれる者達以外、つまりオベロンただ一人だけ、そう思っていた。
みっともないまでに生へ縋り付く、人理を振りかざす侵略者。それがおぞましさからつい刃を振り上げた、とか。
高尚な理由で世界ごとの殺戮を繰り返すエゴイスト。残された身として同じくエゴで斬りかかる、とか。
お題目は何でもいいから、とにかくぶち壊しにしたかった。
だってカルデアが気持ち悪いから。理由はそれくらいしかないし、それでいい。
では、どうやって壊すのか。自分で権謀術数を巡らせるのは嫌いだが苦手じゃない。しかし、今度は敵地のど真ん中でそれをやらなきゃいけない。あまり手の込んだ事をやろうとすると
いや、彼らはきっと、今この一瞬でさえもオベロンに対しての警戒を緩めてはいないだろう。
そうであれば、小細工よりもインパクトと速度を重視。とにかく力ずく、速攻で畳み掛ける。
しかしそんな手段があるだろうか? バーテンダーの真似事をしながら無駄に酔ったフリをする犯罪の第一人者へそれとなく聞くと、実に単純な答えが返ってきた。
「──そんなの、聖杯を使えばお手軽サ」
聖杯。願いを叶える夢の釜。ご都合主義の権化。魔術仕掛けの舞台装置。
たしかに、難しく考える必要は無かった。幸いな事にこのカルデアでは聖杯はろくに使われていない。懇切丁寧にきちんと誤魔化せば数が合わないのをすぐに察知されることはないだろう。
しかし万能の願望器をお手軽と言わしめる環境は、畏れを知ってても知らない振りをする汎人類史に対してか、それを圧し潰そうと必死な外部へ嘲笑してやるべきだろうか。
お前達が中途半端をやっているものだから、魔術王の亡骸が配したアートグラフも、泡沫の末に生まれる高純度のリソースも、全部カルデアの資源の一つとして使われてるじゃないか。
◆
魔術王の凝視によって焼き尽くされる地表において、それは何の熱量も発せず、霊子すら残さない。
空虚となった人類史において、泡沫を残した事自体が奇跡に近い。
童話という痕跡。読み手がいなければ存在できない最新の幻想はただ消える事を恨み、しかし怨恨の対象など分かるはずもない。
その泡沫は特異点ですらなかった。その怨嗟は何を成す事もなく空となった人類史の空白を漂う。
ともすると泡にもなれない粒子たち。オベロンが目を付けたのは、そういう存在だった。
盗み出された聖杯が器となって、物語たちの微細な亡骸を集めていく。
同じ様な泡たちはぶつかり、繋がり、大きな一つとなる。
人類を燃やした際に生まれた熱量とは程遠い、微かな存在。それが積み重なり、やがて小さな世界として形を宿すようになった。
小さな世界は本で埋め尽くされた世界。人類史を漂うことにすら耐えられない程度のものだが、聖杯という器が殻の役割を果たした。
潰れたくない。まだ物語として存在したい。読まれない。
物語の屍から生まれた物語たちは、物語で埋め尽くされた世界では当然のように願いを持ち、器となった聖杯はそのために英霊を呼び込んだ。
後にカルデアによって書架英霊と定義された彼らは、我が子であり雇い主である物語たちの為に筆を執る。
世界の圧が物語を犯し潰していくなら、それを上回る速度で作品を作り上げればいい。
版図を増やし。総体を増やし。いつか彼らを取って読んでくれるものを待ちながら、彼らは延々と書き続けた。
オベロンは吐き気を堪えながらもその様子を見守り、そして落胆した。
なんだこれ。燃やされた恨みを持つ物語たちを救えば、きっと復讐してくれるだろうと思ったのに、あろうことか作家系サーヴァントの巣になろうとするとは。
思った以上に不愉快極まりない。特にあの劇作家が作者面しているのが気に入らない。何が「『
そう。この本の世界は作家にとって都合が良すぎる。どんな尻切れトンボの話でも、どれだけ性癖をこじらせた作品でも、どれほど下劣畜生の書いた散文であっても、依頼人である本たちは満足してしまう。
彼らにとって作品の出来など二の次。いや、そもそも考慮していない。自分たちが優れた作品であるという意識がないから、どんな出来のものであっても受け入れられるし認められる。
そして、〆切はあれど何を書いてもいい、どういう終わりにしてもいいという依頼を受けた作家たちは、その怠惰さとは裏腹に世界の維持に十分な量を執筆し続けていた。
この世界はこれで完結してしまう。それでは作り上げた甲斐がない。
なんとか介入して攻勢的なものにしなければ、いずれカルデアに観測されて聖杯を回収されてしまう。
焦ったオベロンは、しかし妖精王という意味の無い肩書を思い出してひらめく。
国を作ろう。
童話の、物語による、お伽噺の為の、創作物で出来たおとぎの国。物語の登場人物こそが主役の世界。
そういう風に作り変えて、そこで王様になってしまえば、勝手に増えていくこいつらを手駒に出来る。
ついでに作家系サーヴァントをしもべに出来れば気分が良い。
さて、国を興すとなれば何が要るか。
まずは作家系サーヴァントに対して特効の人材が必要だ。武力で、ではなく、知的に彼らの扱いを知っているようなものであるば良い。
そして、建国するための為政者――ではなく、そこまでの土壌を作り上げられる者も要る。
ここは物語の国になる。物語の中にあった国を再現するんじゃあない。物語で構成された国になる。
そうなると、まともな世界観では無理が出る。寝物語に出るような突拍子もない世界がいい。
なんでも内包出来て、そして絶対的な権力者がいる世界。
そして召喚されたのは、二騎のサーヴァント。
一騎は、物語たちを編纂する宝具を持ったアルターエゴ。本来であれば二人組のはずが、無辜の怪物とオベロンの思い込みによって一人に統合された特殊霊基。
そしてもう一騎は、風が吹けば消えてしまいそうなキャスター。召喚に応じたことが信じられないほど痩せ衰えた老人だが、その頭蓋に秘められた宝具はオベロンが求めていた世界そのものだった。
どうせ正義の味方たちはじきにやってくる。
だからそれまでは、都合の良い夢を見させてもらおう。
物語たちを扇動するための適当なお題目を思い描きながら、妖精王は頬を釣り上げていた。
イベントでこういう微小特異点があったと思いねえ。