「…それで、団長が落ち込んだってことっすか?」
ロキファミリアとの合同遠征から数日…遠征前後のわちゃわちゃも落ち着いて来た頃だが、いまだに落ち込み気味なアキヨシさんのことが気になって遠征から帰って来たメンバーであるヒラノさんに、オレは事情を聞いて得心する。
「まぁ仕方がないさ。なにぶん非常事態だったんだしな」
落ち着いた様子でいつものことだと笑って続けていた。
「そんで…カツラギさんは…」
「ああ、アイツなら…件の弟子志願の少年を連れて訓練場に向かっていったよ」
「あぁ〜…合格できますかねぇアイツ…」
「さてな。それは当人次第だろうさ」
そう言うや、ヒラノさんは訓練場の方に目を向けていた。
相変わらず…この人の考えてることは、よー分からん。
………………………………
冒険者の街オラリオ、その一等地にあるGOファミリアの拠点であると同時にその象徴たるピラミッドのすぐ近く、ファミリア保有の訓練場にてGOファミリア所属のレベル6冒険者カツラギとヘスティアファミリア唯一の冒険者にして、彼の弟子志願の少年…レベル1のベル・クラネルが装備をつけた状態で対峙していた。
とは言え、雰囲気からして物々しさはなく、寧ろ微笑ましいモノとして周囲から見られていた。
「良いかベル。まず基本中の基本だが…改めて、自分の使う武器の利点、それと欠点を理解しておけ」
「はい!!」
事前に「ダンジョンに行く時の格好をしておけ」と告げられたベル・クラネルは目をキラキラと輝かせて素直に頷く。
「お前さんの武器はそのナイフだな」
カツラギは目ざとく腰の鞘をチラリと見遣る。
「はい!!神様がボクのために頑張ってくれたんです!!」
話題に出されたのが嬉しかったのか、ベルはそれを手にして本当に嬉しそうに目を細める。
「お前さんの考えるナイフの利点は何だと思う?」
「えっと、そうですね…」
ベルは顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「やっぱり、取りまわしのしやすさ…でしょうか?」
「まぁそれもあるな」
出て来た答えに満足そうに頷くカツラギ。
「そうだ。特に狭い空間で振るうのにはナイフってヤツは最適解だ。ダンジョンにはところどころ狭くなっていたり、入り組んでたりするからな。サッと抜けて切りつけることができるナイフは頼りになる。高いレベル冒険者もいざって時のためや普段使いにナイフを持ち歩いてんのも珍しくない」
なるほど、ベルはといつの間にか取り出したメモに書き込んでいく。
「じゃあ逆にデメリットは何か分かるか?」
ふと、書く手を止め考える素振りを見せるベル。
そしてしばらくの後、再び口を開く。
「やっぱりリーチの短さ…ですかね」
「そうだ。リーチが短いってことは、それだけ敵に近づく必要がある。だが、慣れてくれば切りつけるのと同時にインファイトに持ち込むことも十分に可能だ」
そう言うなり、カツラギはベルのものと同程度の長さのナイフを取り出し、丸太に近寄る。
「こんな風に…なっ!!」
シュンッ…と一瞬カツラギの姿が消えたように見え、気が付けば丸太には真新しい打撃と切りつけた傷跡がついていた。
「おぉ〜…かっこいい〜〜!!」
更に目を輝かせるベルに、カツラギは満更でもなさそうな表情をするも、すぐに真剣な表情をする。
「それと…ダンジョンに巣食うのは何もモンスターだけじゃねぇ。悪意ある他ファミリアの冒険者にダンジョンそのものが牙を剥くことだってあんだ。まずはそれを肝に銘じておけ」
「はい!!」
またもや元気のいい返事。
しかしカツラギは口を少し曲げる。
これだけ素直だと逆に心配にもなる。
巷ではサポーターを謳い、装備を盗む輩も居るそうだが…いや、そこまで心配するのは筋違いか。
そこまで思い至って首を軽く横に振る。
よそのファミリアの人間に入れ込みすぎるのも考えものだ。
尤も、それがカツラギの良いところではあるのだが…。
「そこで…試験の内容だが…」
そう言うなり、カツラギは身を低くして腰の鞘に手を当て、チャキッ…と刀をに手をかける。
「反射神経や動体視力、それに勝負勘…ナイフに限らず近接戦をする際はどの攻撃をかわすのか受けるのか…瞬時に常に最適解を引き続けなけりゃあならん。ダンジョンでは一瞬の隙が命取りってのはそういうことだ。同じファミリア同士でパーティを組めないのなら尚更な…」
「あ…あの…カツラギさん?何で武器を構えて…?」
突然のことにベルは後ずさる。
「加減はしてやる。まずはオレの攻撃を一時間ほどかわし続けて見せみろ。稽古をつけるのはそれが出来るようになってからだ」
その後、一月ほどにわたってベルの悲鳴が訓練場に響いたのは言うまでもない。