ウス!
オレはアイズを探していつもの修行場所。つまりは、と言われても分からんだろうが、北西の市壁の上を目指して歩く。
人付き合いが苦手なアイツが喧騒を避けて集中したい時、決まってそこで剣を振っていたのを何度か見かけたから、なんとなくいる気がしただけだが。
そう思いながら歩いていると、目的の人物がいつものように剣を振っているのが見えた。
「おーい、アイズー!!」
そう呼ぶとアイツは剣を鞘に納めて少し駆け足でこちらに来た。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
そう言うアイズは上機嫌で何やら子犬のようだ。
犬人のような耳と尻尾があればパタパタと忙しなく動かしていたに違いない。
つーかコイツが不機嫌なことなんて、ガキの頃に訳あってしばらく構ってやれなかった時くらいしか知らん。
……他の連中はよく分からんらしいが、コレばっかりは慣れるしか無い。
「おう。カツラギさんにこないだの少年を紹介したろ?」
言うと、アイズは首を傾け疑問符を浮かべる。
「…わたしはただ、ベルに修行をつけてもらうなら師匠の方が向いてるって言っただけだよ?」
…なるほど。純粋なアドバイスのつもりだったらしい。
オレはハァと一息吐くと
「アイズ。そう言う時は普通紹介状なり何なり書くもんだぞ?」
と、割と真っ当なことを言う。
「え、そうなの?」
「そうなの」
キョトンとした表情のアイズに若干呆れる。
コイツ、教わる側としてはこの上なく優秀らしいんだがなぁ。
そもそも、カツラギさんの弟子になれるかどうかさえ普通は賭けだ。
レベル云々の話では無い。
もっと根本的なところが欠けていたらその時点で篩い落とされる。らしい。
らしいってのは、オレが師事したのはアキヨシさんだからだ。
今回はついさっき確認できたアイズのお墨付きと、カツラギさん自身が彼(ベルだったか)を気に入ったからよかったものを。
どうにもフワフワしてんなぁコイツなぁ。
「それとアイツベルって言うんだな」
うっかり聞きそびれてた。
「うん。自己紹介してなかったの?」
「おう。こないだアイズとメシ行ったときあったろ?あん時にはじめて会ってなぁ」
まぁ、アイズに付き纏ってたことは言わないほうがいいか。
良い気分にはならんだろうし。
「む〜」
「お?なんだよ」
「わたしじゃなくてベルと先に話したの?」
「いやまぁ、あれは鉢合わせたみたいなモンっていうか、事故みたいなモンって言うか…」
ススッと距離を詰めて来る。
それに合わせてオレも距離を空ける。
別に後ろめたいことなんて何も無いんだが。
どうにも武道をやってるせいか、こう威圧されながら近寄られると反射的に距離を取ってしまう。
「お兄ちゃん、これから暇?」
「あ〜、いやダンジョン攻略準備の手伝いがあるから…」
「そう、じゃあいっしょにご飯食べてくれたら許してあげる」
「え〜、この時間どの店も混んでんじゃんよ〜」
何せ昼だ。もう大体の店は表に行列ができてる頃だろう。
そう言い切る前に、オレは襟首を掴まれ引きずられる。
「いいから、来る」
スゲェな大の男一人引きずって息を切らしてもねぇ。
まぁ、冒険者だから当たり前なんだけど。
だからこそ、オレはアイズに冒険者になって欲しく無かったんだがなぁ…。
結局、オレはそのまま引きずられしばらくそれをネタにいじられたのだった。