嫌じゃ嫌じゃー‼️ドンブラあと3年くらい見たいんじゃー‼️(ドンブラロス真っ只中)
時の流れは早いですね(遠い目)
Side香織
…なんとか間に合った…‼️
私は目の前のバーテックスに苦無を投げつけ、そんな事を考える。
声を聞いて、私は大社の建物から飛び出して来たが、それはなにも反射的な行動、という訳では無い。単純な話、
大社からこの海域までの距離は中々に遠く、車を手配してからでは間に合わない可能性が高い…が、それは道路やその混雑状況を考慮した場合だ。町に張り巡らされた電線や家の屋根、勇者システムの力を利用した直線距離はそう離れていない。考えた結果、直接足を使って向かった方が早いと思ったのだ。
しかし、大社からこの船に来るまでに越えなくてはならない一番の難所は海だ。
勇者システムの力とはいえ、さすがに1回のジャンプで遠くの船に飛び乗ったり、そのまま海の上を走るような馬鹿げた事は出来ない。
だが、それも〈鎧〉の力を上手く利用することで海上移動も可能になる。
前にも言った事があるが、この〈鎧〉には今までの装着者の記憶や武器が使える。その上で、武器とは直接的に相手を傷つけ、殺すためのモノだけでは無い。
例えば、銅鑼や法螺貝。これらは攻撃力は無いが、策を巡らせ、罠に嵌めた相手を確実に仕留めるために使用するならば、立派な武器と呼べる。
例えば、藁人形などの呪具。これらは武器として振るわれる事はおろか、戦場に持ち込まれる事もそう無いだろう。しかし、それで相手の調子を崩したり、殺す事が出来たのならば、これもまた立派な武器の1つだ。
そして…この水蜘蛛のような忍具。
これは忍者が相手の城の水堀を超えるために使われた物で、殺傷能力は全く無い。だが、相手の懐にこっそりと潜り込み、情報を盗むことを至上とする忍者からすれば、これは立派な武器と言えるだろう。
それゆえに、私は古の忍者が水上を移動するために使用した水蜘蛛を出せるし、それを簡単に扱うことも出来る。
しかし、水蜘蛛はあくまで補助具であり、これを使えるからと言ってイコールで自由に水上を走れる訳では無い。
そこで力を発揮するのが〈緑の姿〉だ。
これの感覚の強化を応用し、足裏と水面に集中する。そうすることで足から発生する波紋の細かい情報を察知し、足を置いてもバランスが崩れない場所を感知、そこに移動する。それを延々と、そして素早く繰り返す事で、自在に水上を移動出来るのだ。
長々と話したが、要は「緑の姿になれば水上を走れるから船に到着できた」という話だ。
船の中は、まさに地獄と呼ぶのに不足ない光景だった。窓ガラスは粉々になり、元々は白だっただろう床や天井は血で真っ赤に染め上がっている。
辺りを見回すと、人の四肢や内蔵がぶちまけられていた。
「うっ…えっ…」
その凄惨な光景を見て腹の奥からありったけの胃液を吐き出す。
広島でも何度か似たようなものは見たことがあるが、ここまでのものは見たことがない。
だが、今はそれを気にしては居られない。声の聞こえた場所に向かわなくちゃ…タタカワナクチャ
と、目の前に声の持ち主であろう金髪の少女─どことなく友奈ちゃんに似ている気がする─がバーテックスに襲われているのが見える。こうしちゃいられないと両手に苦無を生み出し、投げつける。2本とも突き刺さるが、大したダメージは与えられていない。その事に軽く愚痴りながら次の行動を考える。普段ならばここから近接戦に持ち込むところだが、緑の姿だとそういう訳にはいかない。
私が緑の姿を使わなかった大きな要因でもあるのだが、この姿は気配や微かな物音も鋭敏に察知して行動する事が出来る反面、痛覚も普段の何倍も強化されてしまっている。下手に攻撃を喰らえば、激痛でしばらくまともに動けなくなるだろう。そうなれば目の前の彼女諸共格好の餌だ。そうすると、被弾する可能性が高い近接戦を緑の姿で行う訳にはいかない。
かと言って他の姿に変える訳にもいかない。この姿を解くと感覚を司る脳を普段以上に使った代償とも言うべきか、とてつもない疲労感に襲われてしばらく動けなくなる。
故に、最弱とも言えるこの姿で戦い続けなくてはならない。私はそう覚悟しながら、また新たに苦無を生み出した。
SideOut
緑縁の陣羽織を身にまとった香織は目的を早々に「バーテックスの殲滅」から「目の前の民間人の保護」に切り替えた。
理由としてはやはり負担の大きさがあるだろう。
1人の要救助者がいて自分自身も戦闘で下手を打てない現状、無駄な戦いを避けて応援が来るまで待つのが最適解だろう。移動中に神官に連絡を取り、他の勇者達がここに来る手筈になっている。
それまで体力を温存し、生き抜く事が今最も重要な事だ。
香織は友奈似の少女の手を取り、倉庫室へと逃げ込んだ。ここなら物資もあるし、今の所バーテックスの気配が最も少ないエリアだからだ。
友奈似の少女…『ソフィア・リリエンソール・ガルシア』は、不安から体を震えさせていた。それは自分の命の危機に対してだけでは無い。一先ずだが安全な場所に避難出来た事で、彼女の心配は他のクラスメートに向けられていた。
『ねぇ、他のみんなは無事なの?』
それは、ソフィアにとっては当然の問い。
共に帰ろうと誓った友達を案じる言葉。
だが、今の香織には最も酷な問いだった。
なぜなら緑の姿の力でもう気付いているからだ
…
しかし、それを教える事は香織には出来なかった。
それは目の前のソフィアをただ傷つける事にしかならないからだ。
だから香織は笑みを浮かべ、たどたどしい英語で
『大丈夫だよ』
と言うことしか出来なかった。
そして船が襲われてからおよそ1時間後、ソフィアの心労はピークを迎えていた。
香織は広島での戦いにおいてたった1人でいつバーテックスが来てもいいように常に警戒していたし、結界が貼られる前はこの何十倍、何百倍もの避難民に気を払っていたのだ、今更この程度の警護を負担には思わない。
だがソフィアは違う。
慣れない土地での生活によるストレス、そこから解放されると思った矢先のバーテックスの襲来。わけも分からないまま逃げ惑い、親友の安否も不明。自分は命の危機は脱したが、未だにバーテックスの群れの中で知らない人と2人きり。逃げる最中に見た血みどろの船内。
これにただの少女が正気を保っていられるはずが無かった。
『ねぇ、なにか聞こえない?』
そうソフィアは呟くと、見つからないようにと閉めていたドアを香織の静止を聞かぬまま勢いよく開けた。
音の聞こえた場所に誰か居て、助けを求めているのでは無いかと思ったからだ。
その考えはある意味正解で、ある致命的なところで間違えていた。
部屋の外に居たのは泣いて助けを求めるクラスメートでは無く、不快な笑い声を響かせながら逃げた獲物はどこだと
しかし疲れきったソフィアには級友に
…ひょっとしたら、ソフィアも外にはバーテックスしか居ない事に気が付いていたのかも知れない。だからこそ、幸せな夢を見ているうちに、苦しい
だが、目の前の
香織はソフィアとバーテックスの間に右腕を割り込ませ、その顎に噛まさせる。
「ぐっ…がぁあ、あっ…」
当然バーテックスは邪魔なそれを食いちぎろうとしてギチギチと音を立てながら歯を腕に食い込む。
言葉に言い表せないほどの痛みが香織の全身に流れ、叫びたい衝動に駆られるが、それをぐっと堪える。
『なん、で』
ソフィアの口からそんな言葉がポロッと零れる。その問いは目の前にいたのが
『こうっ、かいっ、したく、なあいっ、から、かな』
そう苦しげに答えると、バーテックスを壁に押し付け、左手に苦無を出現させる。そしてそれを力を振り絞りながら突き立てる。
ぐぎゅ、ぐちゃっと音を立てながら何度も何度も抜いては刺してを繰り返す。
音が十と少しを超える頃、とうとう耐えきれなくなったバーテックスが香織の腕から口を離しヨロヨロと地に落ちていく。香織はそれを待っていたと言わんばかりに右足を振り上げると、踵に棘を生み出し、全体重を載せたヒールでトドメを刺した。
脱力し、へたり込む香織にあわててソフィアが近づき、どうにかして流れ続ける血を止めようとするが、香織はそれを手で制すと目と目を合わせる。
『…ひとりぼっちは、嫌だよね。さみしいし、息苦しいし…なんで自分だけ、って思うこともたくさんあると思う』
…それは、かつて香織が経験してきたモノ。赤い炎から逃げ出した先で待っていたモノであり、ささいなことから
『ここから生きて戻れても、辛いことはたくさんあるだろうし、「あの時、みんなと一緒に死にたかった」なんて考える時も…たくさんあると思う』
そこで話しているのはいつもどこか余裕げで、知的な笑みを浮かべる『勇者』としての香織でも、皆に親しまれ、いざと言う時について行けば安心だというカリスマ性のある『女神』と呼ばれる香織でも無かった。
そこに居るのは、孤独を恐れ、いつも、いつでもより多くの人との繋がりを求める、『先達者』の『ただの香織』だった。
『だけど、絶対に死んじゃだめなんだ。だって…だってそうしたら、なんであんなに辛い思いをしなきゃいけなかったのか、分からないじゃない』
香織はふとした瞬間に、両親が死んだ時の事やその後の誰もに嫌悪され、疫病神のように扱われた時期の事を思い出す。
そしてその度に誓うのだ「たとえ何を犠牲にしようとも、より多くの人からアイサレル自分であり続けよう」、と。
何度もそんな自分を最低だと思って死ぬ事を考えた事もあるが、死ぬことよりも自分が生き残ってしまった意味が分からない方が怖くて、それだけは出来なかった。
だから美佳に「戦うことが千景に対する贖罪」と言われた時に、それを受け入れたのだ。
それが自分でやってしまった事に対する償いとケジメだけでなく、その先に自分が生き残ってしまった意味を知る事にもなると、直感的にそう感じたからだ。
だが、あくまでそれは香織の話であって、ソフィアには何も関係ない話だ。今、香織がソフィアにかけられる言葉があるとするならば、それは…
『それに、今ここで貴女が死んだら、誰が
…死者を忘れずに、弔う人が居るべきだということだけだ。
『確かに、貴女のふるさとに帰れば、彼らのことをよく知る人達が沢山いると思う。だけど、それは「家族」としての彼らだけ…「友達」としてのみんなを覚えていられるのは、弔えるのは貴女だけなんだよ』
これも、香織の経験談だ。香織の実の両親のことは引き取ってくれた育ての両親もよく知っているが、それはあくまで「友達」としての両親だけだ。たとえ顔が思い出せなくても、たとえ思い出が風化していても、親子として繋いだ手の温もりを覚えていられるのは、子供として両親の墓に手を合わせられるのは、香織しかいない。
『だけど、それを決められるのはソフィアだけ』
…そう、ここまで香織は「生き残った事に対する意義」を語ってきたが、最終的に生きるも死ぬも、それを決める権利があるのはソフィアただ1人だ。
だが、それでも香織がソフィアを助けたのは
『ここでソフィアを見殺しにしたら、きっと私は後悔する…生きて行く理由が曲がる。…助けを求めている手を見て見ぬふりをするのは、もうこりごりだもん』
そういうと香織は近くの窓からカーテンを引きちぎり、左手と歯を器用に使って切り裂くと、即席の包帯にする。
フラフラと、それでいてどこかしっかりとした足取りで入口に向かうと、
『どんな選択をしても、私はソフィアの味方のつもりだよ』
と言い残すと、こちらにやって来るバーテックスの群れに、両手に苦無を構え、突撃した。
Side若葉
急げ、急げ、急げ…っ
私と土居さん、伊予島さんは、現在瀬戸内海をクルーザーで移動している。
きっかけは約2時間前の香織の行動と、その直後に行われた通信にある。それで海上にバーテックスが居ることを確認した大社は、まだ世間に存在を発表していない勇者を現場に向かわせるための情報操作、並びに交通規制を行った。本来なら勇者全員で向かうべき事態なのだが、タイミング悪く郡さんは天恐の母親のお見舞いに行っており、友奈は風邪気味ですぐには動けそうにないため、やむを得ず3人で出撃することになった。
30分前には出発する用意が出来ていたが、そこでバーテックスに襲われて逃げ出した船と、その乗客およそ30名が戻っていたことを把握。彼女たちとの情報のすり合わせや、保護の手配に手間取った結果、ここまで出立が遅れてしまった。
正確な数は分かっていないが、逃げてきた人々の話を聞く限り、香織1人でなんとかなる数では無さそうだ。
香織は防衛に関しては他の勇者の追随を許さないことを私はよく知っている。だからといって、彼女が必ず無事という保証は誰にも出来ない。私は中々目的地に到着しないことをじれったく思いながらも、神官達が香織との通信を繋げられないかと四苦八苦しているのを、ただじっと見ている事しか出来なかった。
「おい、あそこ!どっちかが香織が居る船じゃないか⁉️」
甲板から辺りを見回していた土居さんの声に、慌てて反応して彼女が指さす方を見てみると、そこには赤い煙をあげている船と、全体に穴が開き、まるで廃船の風貌の2隻の船があった。目的の場所にたどり着いたのは良いが、これではどちらの船に香織が居るのか分からない。どうするべきかと頭を抱えるが、伊予島さんがどこか自信なさげに手を挙げる。
「多分、香織さんが居るのは煙が上がっている方の船だと思います」
「分かるのか⁉️」
「は、はい…あの煙、事故やエンジンの爆発とかで起こるにしては色がおかしいかなって…」
「そうか!発煙筒か!」
と、ここまで聞いていた土居さんが何か納得がいったのか、拳を手のひらにポンっと打つ。伊予島さんも肯定するように頷くが、聞き慣れない単語に私は首を傾げる。
「発煙筒は遭難した時に救助されやすいように目立つ色の煙を上げるんだ。タマは山登りの時はいつも持って行ってるぞ」
それに気付いたあんずには5タマポイントやろう。と、土居さんが笑いながら解説してくれる。成程言われてみれば、船から立ち上っているのは不自然なまでに目立つ真っ赤な煙だ。おそらく推理に間違いは無いだろうと、私達は煙が上がっている方の船に乗り込んだ。
船に乗り込んで思ったのは「赤い」だった。天井、床、壁まで全てが赤いのだ。
最初は中にも煙が充満しているのかと思ったが、違う。
血だ。バーテックスに襲われた人々が流したおびただしい量のそれが、船内を真っ赤に染め上げているのだ。それに気付いた私は眉間に皺を寄せ、土居さんは呆然とし、伊予島さんはふらついた。
これでは生存者が居るのは絶望的だろう。しかし、香織はそう簡単に死ぬような人物では無い事は私がよく知っている。
土居さん曰く、発煙筒は基本的に手に持って使用するとの事で、襲いかかるバーテックス達を蹴散らしながら煙の根元である甲板に向かう。
甲板に出ると煙くてよく見えないが、筒を持った手を上に上げている人影が見えた。
「香織!無事だった、か…」
「香織!お前が大社から飛び出したって聞いてタマはすごくおっタマげたんだ、ぞ…?」
「香織さん!大丈夫ですか、ってこれは…」
しかしそこに居たのは香織では無かった。見知らぬ少女が、泣きながら必死に腕を伸ばしていたのだ。
『●▲■★!●▲■★◆▼‼️』
少女はよく分からない言語─英語だろうか─と身振り手振りでなにかを伝えようと試みているのだろうが、さっぱり分からない。
「土居さん、彼女が何を言っているか分かるか?」
「うんにゃダメだ。タマには摩訶不思議な暗号にしか聞こえないぞ」
「…私もだ。伊予島さんはなにか…伊予島さん?」
横をむくと、伊予島さんは顔を真っ青にしていた。
「…タマっち」
「どうしたあんず?」
「救急セットって持って来てる?」
「おう、しっかり持って来てるぞ。船に何人くらい居るのか分からなかったからな。褒めてくれタマえ…ま、この状況じゃ意味はなかったみたいだけど「ううん、良かったよ。無かったら本当に危なかった」…あんず?」
「…伊予島さん。彼女は、なんと言っているんだ?」
「…それが…『おねえさんをたすけて!このままだとしんじゃう』って…」
私達は少女に案内を頼んでその『おねえさん』の元へと向かう。『おねえさん』が香織だという確証は無いが、だとしても死にかけの人を捨ておくことなんて出来ない。
船内の一室で私達が見たのは足元に転がるバーテックスの骸の山と、血塗れの壁に寄り添っている香織だった。全身に数多の生傷が見え、ドクドクと血が滲み出続けていた。
「香織!」
「香織さん!タマっち、救急セット!」
「分かってる!香織、染みるかもしれないけどしったり気を保ちタマえよ!」
土居さんは救急箱から包帯と消毒液を取り出すと、手早く手当をしていく。
「っ…わかばに、あんちゃんにたまちゃん?」
「あぁ!私達だ!船内のバーテックスももう居ない!」
「あの、こは?ソフィア、は?」
ソフィア?聞き覚えのない人名に戸惑っていると、私の隣りから少女が香織に駆け寄る。
『おねえさん…私は、私は平気だよ!』
『あぁ…なら、よかった』
と、ここで体力の限界を迎えたのか、香織の全身から力が抜ける。
「香織!」
「香織さん!」
『おねえさん!』
「しっかりしろ!香織!死ぬな…死ぬな‼️」
そこから先の事は薄ぼんやりとしか覚えていない…が、「死ぬな」と声を枯らして叫んでいた事と、あの少女が香織の手を取ってなにやら祈っていた事は、はっきりと脳裏に焼き付いていた。
それから数日後。
私とひなたは香織のお見舞いに来ていた。幸い命に関わるような怪我は無かったが、右腕の骨にヒビが入り、3ヶ月の入院生活を余儀なくされたのだ。
「香織、入るぞ」「香織ちゃん、入りますね」
「ん、いらっしゃ~い」
病室に入ると、包帯に包まれ半ばミイラと化している香織がベットに横たわっていた。
「いやぁ、まいったね~これは。全身グルグル巻きでマトモにうごけないや」
そう言って香織は笑うが…その姿はこちらが間に合わなかったことを気に病まないよう無理をしているようにしか見えなくて、見ていて辛い。
「っ、そうだ、見舞いの品を持ってきたんだ。口に合うと良いのだが…」
そう言って袋から取り出したのは、『末木印の手打ちうどん』。かの有名な吉田麺蔵さんの一番弟子で、普通の麺より弾力が強い食感と、吉田さんのものほどでは無いが素晴らしいのどごしが有名で、購入に苦労する一品だ。
それを見ると香織は先程の笑顔とは異なり、心底おかしそうな笑みを浮かべ、笑う。
「む、どうかしたのか?」
「いや、だってねぇ」
そう笑いながらカゴの中を指さす。そこには大量の袋うどんが入っていた。
「ここまで息ぴったりだったら、もう笑うしかないでしょ」
そう言って笑い続ける香織につられて、私達も笑う。
そうして面会時間終了まで、和やかなムードで会話が続いた。
…その日の夕方、私とひなたは大社が手配してくれた帰りの車で話をしていた。
「…なぁひなた」
「…なんでしょう、若葉ちゃん」
「私は…
「そんなことは‼️」
「あるんだよ」
勇者の中で最も強いのは誰か、と聞いたら攻撃力の高さだったら私や友奈だろう。戦略面だったら伊予島さん、機動性だったら土居さん、連撃の速さだったら郡さんに軍杯が上がるだろう。
その中で香織は満遍なく能力が高い分、特定の分野では防御力以外誰かの中途半端な劣化になりがちだ。しかし、彼女に一対一で勝てる勇者は誰かと言われると、とたんに難しくなる。
彼女はとにかく戦いが巧いのだ。重い攻撃は必要最低限の動きで避け、策略はそれの効果を最低値まで落とし、速い動きと攻撃は持ち前の耐久で受けて堅実なカウンターで返される。
香織は勇者の中で、最も「生きる」ことに特化していると言える。
その香織があれだけの傷を負ったのだ。きっと私も含めた他の勇者だったら、高い確率で死んでいただろう。
「私は口ではあれだけ『勇者』の心構えや死んだ人々の無念を語っていても、どこかこれを他人事のように思っていて、この異常事態に日常や平穏を感じていたんだろう」
そんな訳は無かった。あの壁一つ隔てて外には死の恐怖や命を奪われた人々の無念の声が蔓延している事を、香織という友が死にかけたことでようやく思い出したのだ。
「勇者といえど人は簡単に死ぬんだ…仲間が傷つき、死の憂き目に会うのなら、死んだ人々の思いを晴らせないのなら…強くなる為に、私は喜んで復讐の鬼にこの身を堕とそう」
「若葉ちゃん…」
ひなたは一瞬何か言いたそうな顔をするが、すぐに悲痛な面立ちに変えて、目線を下ろした。
車窓の外を見ると、少し前まではポカポカと体と心を暖めていた太陽は沈み、どこか人の心を狂わせる月の光が、煌々と地上に降り注いでいた。
SideOut
─こうして勇者達は集い、様々な出来事や経験を経て
2018年の7月30日
300年の長きに渡る人間と神の
戦いが幕を開ける─
と、言うことでいかがでしたでしょうか
実はこの辺、当初は「精神的に少し余裕が出てきた若葉を原作初期の復讐心が強い状態にする」ことと「香織の能力の一部開示」しか決まってなかったんですよね
それが勇者史外伝の要素を加えようとした結果思ったよりも事件が大きくなったし、香織の内面が出てしまいました
やっぱアドリブで新情報入れても問題なく描き続けられる人って凄いですね(笑)
この小説が面白いと思ってくれたらお気に入り登録、評価・感想など頂けると幸いです