弓有香織は勇者をやめた   作:GGO好きの幸村

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「芙蓉友奈は語り部となる」第1話感想

リリ奈にとってひなたは悪魔かなんかか?w

今回は諏訪組との絡みが主軸です‼️


幕開け/麺類大戦争⁉️

「あ~う~ん…あ~」

 

 丸亀城の教室にて。勇者、弓有香織はうめき声を上げていた。

 

「…なぁ杏。香織はさっきからなにをあんなに悩んでるんだ?」

 

「あ、おはようタマっち先輩。それがなんでも、友達が誕生日らしくて…」

 

「あぁ、プレゼントで悩んでるのか‼️ならタマに任せタマえ‼️その子は男の子か⁉️それとも女の子か⁉️」

 

 その聞き方じゃあまるで香織さんが妊娠したみたいになってるよ、と杏がツッコミを入れていると。

 

 

「本当っ⁉️」

 

 と香織が顔を上げ、目を輝かせながらこちらを見てくる。

 自分は関係ないと言わんばかりにゲームをしていた千景も驚いたのかピクッと反応する。

 これは少し早まったかと思いながら、球子は話を聞く。

 

「お、おう。それで、なにか候補とかはあるのか?」

 

「うん。一応2択にはなってるんだけど…」

 

 そう言ってカバンの中から取り出されたのは2つの分厚い本。

 

「ことわざ辞典と、四字熟語大百科。どっちがいいと思う?」

 

 教室がシーンと静まり返る。

 球子の脳裏に蘇るのはかつての悲劇。母親から「マンガ買ってあげるよ~」と言われ喜んでいたら、いざ渡されたのは『マンガで分かる日本史』というセリフよりも遥かに地の文が多い退屈な教材を渡された、あの事件を思い出していた。

 

「…さすがにそれは相手が可愛そうじゃないかしら」

 

 かつて似たような経験があるのか、普段はあまり…特に香織とはほとんど話すことは無い千景も、これには思わず声をかける。

 

「そうかな?多分喜んでくれると思うけど」

 

「…いやいやいや‼️この世のどこにそれを渡されて喜ぶヤツがいるんだよ⁉️…もしかして相手は同年代じゃないのか?」

 

「うん、歳下」

 

「余計にアウトだ‼️タマたちより歳下の子に最悪の誕生日プレゼントを渡そうとするのはやめタマえ‼️」

 

「いや、前に漢字辞典渡した時は凄く喜んでくれてたし…」

 

「…もしかしてその相手って、ソフィアちゃんですか?」

 

「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ?」

 

 会話の中になにか違和感を感じたのか、杏は相手は前に船上で会った異国の少女、ソフィアなのではと言ったところ、認める。あまりにもけろりと言ったものだから怒る気にもなれない。

 

「…いや、前に会った時は服とかアクセサリーとか渡そうとしたんだけど、向こうから『日本語関係のものが欲しい‼️』って言われて…でも文字Tとかこの辺に売ってるとこないし…で、どっちが良いと思う⁉️」

 

「あ~じゃあ四字熟語にしときタマえ」

 

 ─なんか必殺技みたいでカッコイイし。臥薪嘗胆とか。

 

 香織の必死の弁明に、球子は適当に自分の独断と偏見で返す。

 そんな心の声は聞こえているのかいないのか、香織は「ありがとう!」と晴れ晴れとした表情を浮かべる。

 

「今戻ったぞ…ん?みんなどうかしたのか?」

 

「ただいま戻りました~…みなさん、なにかあったんですか?」

 

「たっだいまー‼️」

 

 と、ここで諏訪との通信を終えた若葉と城内の神官と話していたひなた、ランニングをしていた友奈が戻ってくる。

 

「いや?ちょっと相談に乗ってもらっただけで特に問題はないよ」

 

「そうか…なら丁度いいか。少し、皆に問いたいことがあるんだ。心して答えてくれ」

 

 若葉から放たれる神妙な雰囲気に、先程までの弛緩した空気が硬直していく。

 諏訪になにか大変なことが起こったのか、勇者システムが完成したのか、はたまた自分たちが遂に公の場に出る時が来たのか…様々な憶測が勇者達の頭によぎる。

 

「…最強の麺類はなにか、いっせーので答えてくれ」

 

 それを聞いて友奈はほっ、と胸を撫で下ろす。あまりにも真剣な表情だから、なにか深刻な問題があるかと思っていたが、そういう訳では無さそうだし、なによりこの質問ならば全員の思いは1つだ。揉め事になることは無いだろう。

 

 しかし、若葉は未だに眉間に深く皺を寄せる。

 

「では行くぞ…せーのっ」

 

「「「「「うどん(‼️)」」」」」

「ラーメン」

 

 シーンと空気が凍るのを感じる。

 

「皆の意見は分かった。そうだよな、やはりうどんこそ最強だよな…ところで香織、最近ひなたに耳かきしてもらってないからかよく聞こえなかったのだが、最強の麺類はもちろんうどんだよな?」

 

「ラーメンと言ったんだよ。ら・あ・め・ん」

 

 若葉と香織の間でバチバチと火花が飛ぶ。

 これをある程度予想できていた千景はやっぱりかとため息を漏らす。

 

「ちょ、ちょっと待って!若葉ちゃん。急になんでそんな事聞いてきたの?」

 

 嫌悪な雰囲気の中、それを和らげようと真っ先に行動したのはやはりと言うべきか友奈だ。

 

 若葉は「…そんな事、だと」と少し眉を動かすと、はあっと息を吐いて事情を話し出す。

 

「実はさっきの諏訪との通信でだな…」

 

 

 それは、遡ること40分前。

 

「蕎麦こそが至高です!」

 

「いいや、うどんこそが最強だ!」

 

 諏訪の勇者、白鳥(しらとり)歌野(うたの)との通信の最後に行われる、恒例の『うどんと蕎麦、どちらが優れているか議論』は、今日も平行線を辿り、中々決着はつかない。

 そこで歌野はある秘策を切る事にした。

 

「時に乃木さん…そちらの勇者は本当に全員がうどん派でしょうか?」

 

「…なんだと?」

 

 その秘策とは、四国勇者の中に蕎麦派がいるのではと揺さぶりをかけ、その隙に乗じて押し切るという策だ。事実、徳島には祖谷そばという郷土蕎麦もあるし、愛媛にはミシュランで星を獲得するほどの蕎麦の名店もある。だが‼️

 

「ふっ、浅はかだな」

 

「…なんですって?」

 

 若葉はそれを一笑に付す。

 

「確かに、四国の勇者の中に蕎麦が居る可能性はゼロでは無い…だが、それでも依然としてうどんが優れている事実に変わりは無い‼️如何なる奸計を用いようともうどん派を背負って立つ者として、この乃木若葉は揺るがない‼️」

 

 カッ、と目を見開き、若葉はそう断言する。

 

 それに対して歌野はふっ、と笑う。

 

「悪かったわね乃木さん。いくら蕎麦派の勝利のためとはいえ、こんな姑息な手を使ってしまって」

 

「気にするな。もとよりここは戦場。これで私が揺らいだら、私のうどんに対する愛はその程度だった、と言うだけの話さ」

 

 2人は通信機ごしにニヤリ、と口角を上げる。

 

 そして今日も、この争いに終止符は打たれることは無かった。

 

 しかし、若葉の頭には「本当に皆うどん派なのだろうか?」という疑念が生まれた。

 確かに、皆うどんが好物だと言うのはこれまで一緒にいて確信していることではある。だが、「うどんは好きだが、最も好きなのは蕎麦である」というのは両立する。

 そのモヤモヤを抱えたまま突然バーテックスとの戦いに突入して怪我を負った、などが起こっては洒落にならないという判断から、今回聞くに至ったのだ。

 

「…ということがあってな。まぁ念の為の軽い意識調査みたいなものだ。香織がうどん派では無いからと言って、特にどうこうするつもりは無い…だが、まさかラーメン派も居たとはな…」

 

 若葉にとって麺といえばうどん。それは空が青く、太陽が燃えているのと同じくらい当然の摂理だった。しかし歌野との交流を経て、蕎麦の魅力にもある程度の理解を得た。

 

 故に、今回の回答はうどんか蕎麦の2択だと思っていたのだ。そこに現れたのがまさかのラーメン派(第3勢力)。これは青天の霹靂であり、さすがの若葉も困惑を隠せずに居た。

 

 一方の香織も、こればかりは引けない理由があった。

 火事で家族を失い、見知らぬ親戚にたらい回しにされながら自分の存在そのものを否定され続ける毎日。そんな日々で、香織にとって唯一心が安らいだのは、食事の時だけなのだ。そのため、彼女の食に対する思い入れは物凄く強い。特段めんどくさい拘りや自分ルールがあったりはしないが、普段なら周りの意見に合わせに行く所も、食事だけは己を貫き、むしろ周りを説得して自分側につけに行く。

 

 その中でも特別なのがラーメンだ。香織がまだ●●香織だった時の残っている数少ない思い出の内の一つが家族揃ってラーメンを食べに行ったことだ。

 彼女にとってラーメンは、数少ない『パパとママ』との繋がりを感じるものであり、あらゆる食べ物の中で絶対的な頂点に君臨するものなのである。

 

 故に、香織にとって「最強の麺類」はもちろんラーメンだし、そのことをかつて聞いていた千景は、こうなることを予想できていた、という訳である。

 

 その後、若葉と香織の睨み合いは2、3時間程続いたが、友奈と杏による懸命な仲介と、いい加減に怒ったひなたが2人を正座させてこんこんと説教したことでその場は一先ず収まった。

 

 

 

 だが、それから数日後。

 放送室で諏訪との通信をしている最中の出来事だった。

 

「では、始めましょう」

 

「あぁ、始めよう…うどん‼️」

 

「蕎麦‼️」

 

「「どちらがより優れているのか「ちょーっと待ったぁー‼️」…ッ⁉️」」

 

 バン!と音を立てて扉が開き、人影が中に入ってくる。

 

「誰だ⁉️」

 

「ホワイ⁉️そっちでなにが起こってるの⁉️」

 

 突然の出来事に若葉は警戒し、歌野は思わず素が漏れる。しかしそれを意に介さず、人影は通信機へと近づいていく。

 

「うどん派蕎麦派が跋扈する、この地獄変…ラーメン派もここに居る…!」

 

 ─弓有香織、爆現ッ!

 

 人影の正体は香織だった。香織は自身の持つ人脈をフルに活用し、諏訪との通信に参加できる権利をもぎ取ったのだ。その理由はただ1つ…

 

「こんにちは若葉、そしてはじめまして白鳥さん。私は四国の勇者の一人、弓有香織と言います。今日は2人に宣戦布告に来ました」

 

「…宣戦布告だと?」

 

 若葉は怪訝そうな顔をする。

 香織はそれにコクリと頷くと、

 

「うん、最も優れている麺類はうどんでも、ましても蕎麦でも無い…我々ラーメン派だと言うことを…‼️」

 

 そう穏やかに、かつ揺るぎない信念を込めて言い放った。

 

「なるほど、ニューチャレンジャーというわけですか‼️いいでしょう、貴方も蕎麦派にしてあげます‼️」

 

 と歌野は笑い、

 

「…そういう事か、良いだろう。確かにラーメン派が居ると知っておきながら、勝手に最良の麺類をうどんか蕎麦に決定するのも些か傲慢だしな」

 

 と若葉は毒気の抜かれた表情で言う。そしてこの日から通信の終わりには、香織も交えた『うどん、蕎麦、ラーメンのどれが最も優れた麺類か議論』が繰り広げられるようになった。

 

「…と、このようにラーメンのスープはしょうゆ、とんこつ、みそ。そのいずれにも無数の種類があり、なおかつ今も新種のスープが誕生している。進化を止めないラーメンこそが、最高最善の麺類なのは疑いようのない事実‼️」

 

「いいや違うな、うどんの汁は『進化していない』のでは無い、『完成しているが故に変わらない』のだ。ラーメンの進化は、一定の変化をし続けなければ人が離れていくと宣言しているのに他ならない‼️」

 

「さらに言うならば、ラーメンのスープはとてもハイカロリー。飲み干すのを忌避してしまう人も居るでしょう。その点、そば湯は健康によく、ラーメンのスープとは対照的に脂肪を燃焼させる効果もあります。即ち、スープや汁に関しては蕎麦こそが最高‼️」

 

「「それは違う‼️」」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 城内にチャイムが鳴り響く。

 

「…今日はここまでか。命拾いしたな白鳥さん、香織」

 

「それはこちらの台詞です。次こそ決着をつけましょう」

 

「そうだね。次こそうどんと蕎麦の首は柱に吊るされるのがお似合いだと証明してみせる、と言いたいんだけど…次の通信の日、大社本部に行く用事があるから、そのつもりでお願い」

 

「む、分かった。次に参加する時は()()()()2()()で相手になろう」

 

「そうですね。次は()()()2()()で語り合うことにしましょう」

 

「あはは、なに言ってるのかな?()()()()()3()()で楽しく談笑するに決まってるじゃん」

 

 その時たまたま放送室の前を通った神官は今は夏なのに、空気がまるで真冬のような肌寒さを感じたと言い、後に『丸亀城七不思議』の一つとして数えられることになる。

 

「…白鳥さんの武運を祈っている」

 

「うん、諏訪のみなさんの健康を祈ってるよ」

 

「えぇ、こちらも四国の無事と健闘を祈ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プツン、と音が鳴る。これが通信終了の合図だ。

 

 通信機の前に座っていた歌野は椅子から立ち上がろうとするが…ぐらり、と足元が消えるような感覚に襲われ、その場に崩れ落ちる。

 

「うたのん!」

 

 それを諏訪の巫女、藤森(ふじもり)水都(みと)が支える。

 

「…ぁ、ソーリーみーちゃん。()()()()()()()()()()1()()()()()()()からか、蕎麦の魅力を伝えようとしてちょっとハッスルしすぎちゃったみたい」

 

「『ちょっとハッスルしすぎちゃったみたい』じゃないよ‼️()()()()()()だったんだよ⁉️こんなにボロボロになった後なんだから…少しくらい、休んでよ…っ」

 

 そう言う水都の両手は、歌野の血で真っ赤に染まっていた。こんな姿になってまで自分たちを、諏訪を守ろうとしてくれる歌野に、先程の神託を伝える事なんて…絶望を伝える事なんて、出来なかった。

 しかし

 

「ねぇ、みーちゃん。神託、来てるんでしょ」

 

「え…」

 

「分かるわよ。ずっと一緒に戦ってきたんだから」

 

 そして水都は神託を告げる─間もなくバーテックスによる総攻撃が行われる。それによって、諏訪は滅ぶだろう─と。

 

「食べてもらいたかったなぁ…」

 

 歌野はそれを聞いて、たった一言、そう呟いた。

 

「うたのん…?」

 

「私は、勇者になれて良かったって思ってるの。諏訪のみんなや、乃木さんに弓有さん。それに…みーちゃんと出会えたから」

 

 そう言って歌野ははにかむ。

 

「だけど、だけどもし一つだけ我儘が叶うなら…乃木さんや、弓有さん達に、私の作った野菜や蕎麦を食べて欲しかった。それで、『おいしい』って言ってくれたら、私は胸を張ってこう答えるの。『オフコース!なんてったって未来の農業王の作った野菜たちですから‼️』って。だから…食べてもらいたかった、なぁ…」

 

 そう語る歌野の表情を、水都は瞳に溜まる涙のせいで上手く見れなかった。

 

「さ、早く畑に行きましょ?タイムイズマネー、くよくよしてても作物やバーテックスは待ってくれないもの‼️」

 

「…うん、先に作業してる人たちに麦茶差し入れしてくるね」

 

「サンキューみーちゃん!さすがマイ・ベストフレンド!」

 

 水都は歌野より先に参集殿から外へ出ていく。

 

「…本当、ありがとうね、みーちゃん」

 

 歌野はそう呟くと、自分の右手を見る。そこには、農業で自然と出来たタコと、戦いで出来た大量の擦り傷。

 

「…3年か…結構、持ったわよね…」

 

 外を見ると、そこには手を伸ばせば触れられそうな距離まで縮小した『御柱結界』があった。

 

 

 

 数日後。香織は大社にて用事を済ませている最中、謎の悪寒に苛まれた。少し気になりはしたが、その時は特に気にしなかった。「そういえば、今頃諏訪との通信の時間だな」なんて思いながら。

 

 

 

 

 

「…乃木さん、後はよろしくお願いします」

 

 ─プツン

 

「…白鳥さん?そちらで何があった⁉️諏訪は無事なのか⁉️聞こえているか白鳥さん。応答してくれ‼️白鳥さん、白鳥さん…白鳥さん‼️」

 

 この日を境に、諏訪との通信は途絶えた。そして香織にとっての長い長い苦難…その最初の戦いが、始まったのだ。






かくして嵐の前の静けさは消え、歴史を変える大嵐が訪れる。
次回より「のわゆ」編、開幕。
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