いざ、開戦ノ刻
Side香織
「これ、は…」
ついこの間立派なビルになった大社本部の一室にて、突然鳴り響く警報と樹海化に私は戸惑う。それもそのはず、この機能の事は何度も説明されたし、「徹夜で張り込ま無くてもいいなんて便利だな~」なんて呑気なことを考えてはいたが、それが行われるのはもっと先の事だと思っていたのだ。そう、結果的に囮になってくれている諏訪の人々を救出した後の事だと─
「まさ、か」
嫌だ、嘘だと頭を振るが、そんな事をしても敵が攻め入ってる状況は変わらない。ならば、敵を倒してから心配事を解消した方がいい。そう考えた私は、戦闘前のスイッチ切り替えとして前々から考えていた、所謂『変身ポーズ』をとる。
左手でスマホの勇者システムを立ち上げるとそれを胸の少し上に持って行き、軽く上に放る。宙に浮いたスマホを右手で手早くキャッチし、ピンと肘を伸ばして顔の横へ。空いた左腕は右腕の下に潜り込ませこれまた伸ばす。
決めゼリフとしては無難な変身や着装、植物要素がみんなどこかしらにはある勇者的には開花や満開などが候補にあったが、在り来りなものではつまらないし、私のモチーフの植物は残念ながら花ではなくて四葉のクローバー、葉っぱだ。葉っぱモチーフなのに花に関するワードもイマイチ締まらないだろう。そんなこんなで最終的に決めたのが
「
この、『群装』。同じ種類の植物が群がって生える『群生』と、『武装』から1文字ずつ取り、さらに『軍曹』とのダブルミーニングにもなっている我ながら中々にカッコイイと思う造語だ。
兎も角、そう言い放ちながら画面をタップすると、全身が淡い紺色の光に包まれる。そして腕を解くと光が弾け、空色の鎧直垂に身を包む。トントン、とつま先で地面を叩くと地面からぶわっと青色の四つ葉のクローバーが舞い散り、その1部が脚部に集まってヒールと脚甲に変わる。ボディラインに沿うように下から順に脛、肩、二の腕と装甲が付いていき、両手をぐっと握ると、ハンドグローブが現れる。両手を胸の前でクロスさせると、胸の中心に青色の四つ葉型の結晶が現れ、そこを起点に鎧が出てくる。そのままギュッと体を縮めこませると、四つ葉がまるでバックハグをするかのように背中から覆い、青い四つ葉の模様が仕立てられた陣羽織を身に纏う。体勢を解き、まるで殻を突き破って飛翔するような格好になると、(要はきら●ジャンプ)ツインテールの根元に四つ葉を模した髪留めが現れる。最後に左腕を横に突き出すと、残った四つ葉たちが集まり、ジャラジャラと音を立てながら腕に巻き付くような形で得物の分銅鎖が現れる。
これで勇者システムを用いた『青の姿』への変化は完了だ。
私はアプリで敵の攻め入った箇所を確認しながら、そこに向けて駆けた。
SideOut
樹海化は、神樹による人類の防衛手段にして、諸刃の剣だ。樹海によって勇者達は一般人の保護や避難などを考えずに済むがその反面、樹海が損傷してしまったり、または長時間続くと原因不明の災害として現実世界にフィードバックされてしまう。のだが…
(これ、大丈夫かなぁ…)
香織はその樹々に鎖を巻き付け、さながら某親愛なる隣人のような3次元的な動きでバーテックスが攻め入った場所へ向かう。仮にこれで樹海の樹がミシッと音を立てて傷がついてしまったら戦わずして一般人に危害を加えてしまった大戦犯になるのだが、これが一番早く着く方法なのだから仕方がない。などと考えていると目的地が見えてくる。その場に居たのは若葉に友奈、そして千景。どうやらびりっけつは避けられたようだと、一先ず安心して彼女達の前に降り立つ。
「…ぃよいしょぉっと!」
「来たか、香織」
若葉は樹海化の直前まで話していて…通信が取れなくなった歌野のことをどう言うべきかと、少し険しい声で話しかける。
「うん。タマちゃんとアンちゃんはまだ来てない感じ?」
「うん、香織ちゃんが4番目だよ。それにしてもさっきのやつ凄かった!こう、ビューンって!」
なんだか面白そう!と目をキラキラさせる友奈に、
「いやいや、あれ結構危ないよ?少なくとも人を乗せてアトラクション出来るほどの腕前と自信は私には無いかな」
と手首を振る。実際先程の移動方法は、鎖を樹に巻き付け、振り子の原理で最も自分の位置が高くなったタイミングで鎖を解き、また次の樹に巻き付けると言う方法で、一歩間違えると高所から真っ逆さま、命綱無しのバンジーという危険極まりないものだ。これは香織が勇者という高いフィジカルと、〈鎧〉から生成される鎖の扱いに慣れているから出来る芸当であり、普通の人なら入院間違いなしの手段だが、その分
そんなことを話している内に球子と杏も合流し、6人勇者揃い踏みとなる。
「全員、揃ったな。…我々の手で、あのバーテックスどもを打ち倒すぞ!」
若葉の喝に、千景が疑問を呈する。
「それはいいけど…伊予島さん、貴女は今…戦えるのかしら?」
杏は小刻みに身体を震わせ、お世辞にも顔色がいいとは言えなかった。
「土居さんたちの到着が遅れたのは、伊予島さんが萎縮してしまったからでは…?この状況で、戦えない人と肩を並べられる程の余裕は私たちには無いと思うのだけれど…」
確かに、と若葉は一考する。『真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である』という言葉があるが、今の杏のコンディションを見るに、安心して背中を任せられる状態では無いだろう。だが、今は贅沢を言っている場合では無い。無理強いしてでも戦ってもらう他無いだろう。
「伊予島。怖いのは分かるが、私たちが戦わなければ人類は滅びるんだ。顔を上げろ」
「ご、ごめんなさい…」
ここ1年で杏と球子を苗字で呼ぶようになった若葉は杏をなんとか戦わせようとするが、返答は瞳に潤む涙が如実に語る。
杏とて、このままでは人類の存続に関わるのは分かっているのだ。しかし、戦おうとする度に脳裏に思い浮かぶのはあの船の惨劇。赤く染まった壁、床一面に散らばっている肉片…そして倒れ伏す香織の姿。勇者達の中で最も身体的に劣っているのは間違いなく杏だ。最硬の勇者である香織でさえあれだけの血を流したのだ、もしも自分が負けたら…そう考えると震えが止まらなくなるのだ。
「若葉、もういいだろ」
杏を守るように球子は若葉との間に立つ。
「…ま、1人戦えなくてもこっちの人数は5人。それだけいても厳しいです、なんて言ったら
と言うのは香織だ。確かに人数や完成した勇者システムによる装備の質は四国の方が圧倒的に上だと言えるだろう。
だが、そう楽観視できない要素が1つある。
「兵の士気高揚や撤退の判断をするのは指揮官の役目…乃木さん、貴方にはリーダーの資質が足りていないのではないかしら…」
その発言に対して若葉は言葉が詰まり、勇者達の周りの空気は鬱々とした雰囲気に包まれる。
「みんな、仲良しなのはいいけど、話し合いは後にしようよ!」
そんな空気を吹っ飛ばしたのは、やはりと言うべきか友奈だ。友奈と杏を除く全員が「仲良し?」と首を傾げる。
「え、ケンカするほど仲がいいって言うよね?」
「「「「いや、それは違う(わ)(でしょ)」」」」
「あの、友奈さん…私も違うと思います」
「全否定⁉️」
総ツッコミされた友奈はガビーンと擬音がつきそうな顔になるも、気を取り直して言う。
「─でも、ケンカの原因を作ったバーテックスがそこまで来てる。怒るにしろ、ケンカするにしろ、相手はあいつらだよ」
その言葉に、全員がハッとする。
「ま、確かにその通りだな」
「高嶋さんの言う通り…ね」
「…すまん伊予島。すこし焦りすぎていたようだ」
「い、いえ、元を正せば私が怖がってるのが悪いので…」
「んじゃ、この怒りは遠慮なくアイツらにぶつけることにしようか」
「うん!みんなで仲良く勇者になーる!」
その言葉を合図にしたかのように、各々の勇者システムを起動させる。
友奈のものは、山桜のような桃色に。
千景のものは、彼岸花のような紅に。
球子のものは、姫百合のような橙に─
しかし、杏の姿は変わることは無かった。
「…ご、ごめんなさい…私…」
「気にすんなって‼️タマ達だけで全部倒して来るから‼️」
「そそ、むしろ全く恐怖心が無い方がヤバいから」
泣きそうな顔をする杏を、球子と香織が元気づける。
アプリを確認すると、侵入してきたバーテックスは50と少し。決して少ないとは言えないが、絶望的とまでもならない数だ。
ならば、恐れる理由などどこにも無い。ならば
「勇者たちよ‼️私に続け‼️」
その号令を受け、勇者達は動き出した。これから訪れる、大きな時代の流れと共に…
Side球子
目の前に見えるバーテックスの群れに向けて、タマは左腕に着けている旋刃盤を投げつける。旋刃盤は見事命中し、バーテックスは砂になって消える。
…正直言って、戦うのが全く嫌じゃないと言ったら、嘘になる。女の子っぽいモノがイマイチ性にあわないタマにしてみればテレビの中のヒーローみたいでカッコイイとも思うけど、それでもやっぱり、死ぬのは怖い。『勇者』としての力とか役目とか、全部大人の誰かがやってくれないかな、なんて考えた事も1度や2度じゃない。…だけど
「だあああっ‼️」
…だけど、今後ろに居るのは、タマが命をかけてでも
タマの旋刃盤は、投げるとワイヤーで回収するまでの間に隙が出来るという弱点がある。そこを突くかのように、バーテックスが近づいてこようとする。しかーし!タマが分かってる弱点をほおっタマまにしておく訳が無い‼️
「うぉりゃあ‼️」
右手で左腕を掴み、思いっきりフルスイング!近づいてきてたバーテックスたちは旋刃盤に当たってなぎ払われる。これが、香織との特訓で身につけた新技‼️香織の使う分同鎖を使った戦法…バーテックスを先頭に巻き付け、それをぶつけるものをタマ風にアレンジし、投げ終えた後の旋刃盤をモーニングスターのように使うことが出来るのだ‼️
「楽勝っ‼️」
そう自分を鼓舞しながら、戦いを続ける。投げては戻し、投げては振り、投げては戻し…何回も繰り返す内に、目の前のバーテックスはみるみるうちに数を減らす。
「これでっ、どぉだぁっ!」
旋刃盤を横に振り、これで大体片付けた、そう思ったその時‼️
「そんな…」
…隠れていた1匹が姿を現した─
タマのこの新技にも、1つ弱点と呼べるものがある。それは、遠くに投げたものを無理やり引っ張る関係上、
…しばらく経っても、一向に痛みが襲ってこない。おそるおそる目を開けると、そこには矢が突き刺さったバーテックスの姿。続けざまにヒュン、ヒュンと音を立てて矢が飛んできて、バーテックスはハリネズミになった後に砂となって消えた。
矢の飛んできた方向を見ると、そこには
「…あんず?」
「変身…出来ちゃった。タマっち先輩が危ない、助けなきゃって思ったら…」
…あんずは、タマにとって守るべき人で、守って欲しい人じゃ無かった。なんなら、彼女を不安にさせて変身させてしまった事を恥ずかしく思う程の出来事のはずだ。
だけど、なんでだろう。
あんずがタマの事を心配して変身し、一緒に戦ってくれる。この状況が、どうしようも無い程に嬉しくてタマらないんだ。
「ありがとな!タマが前に立つから、援護を頼む!」
「うん!」
「よぅし、なら残りもちゃっちゃと…って、あれ?」
タマたちの前にまだ数体残っていたバーテックスは、影も形も無くなっていた。
「お、話は終わった?」
代わりに青色の陣羽織と鎖を持っている香織が居た。恐らく、タマたちが話してる間に残りをやっつけてくれたんだろう。
「倒してくれたのか、ありがとな‼️」
「礼ならいいよーこっちも好きでやった事だし。あ!でも強いて言うなら今度一生に骨付鳥食べに行きたいな」
…これは奢れということだろうか?まぁ高価なものでも無いし、タマも久々に食べたいし別にいいだろう。
「いいぞ!今度あんずも連れて3人で食、いに…ッ⁉️」
と、ここである衝撃の事実を思い出す。
それは先週のこと、長らく貯めたお小遣いで、店長のおっちゃんに無理言ってキープしてたテントをとうとう買ったのだ。防寒、防水性に優れて、持ち運びや組み立ても簡単な非常に良いものなんだがそのお値段…三万三千円。タマの財布の残高…27円。とてもじゃないが奢るどころか1人前も頼めない。さあっと顔から血の気が引いていく。
「…いや、普通に今度一緒にご飯食べに行こーねーってだけで奢らせようとかそういう気ないからね?」
「…うん、私も食べたいけどタマっち先輩に無理させて奢らせようとは思わないよ?」
「い、いや、こういうのは先輩が払うもんだからな、うん!」
「私の方が誕生日早いからね?5月27日生まれ。そんな意地を張らなくてもいいのにー」
「こーいうのは漢のプライドの問題なんだ‼️」
「タマっち先輩も立派な女の子だからね⁉️」
「ええいとにかく今度みんなで骨付鳥食べに行くぞ!もちろん『ひな』が美味しいところな‼️」
「香織さん、どうします?タマっち、無理にでも自分が奢る気ですよ」ヒソヒソ
「いや、普通に割り勘でしょ。友達に奢らせて大丈夫なほど私は図太くないよ」ヒソヒソ
「ですよね!」
「ん?なんか言ったか?」
「「なんでもないよー」」
そんなことがありながらも、順調にバーテックスを倒していく。他のみんなのところも見てみると、最初は戦っていなかった千景も友奈と一緒にバンバン倒してるし、若葉は相変わらず鬼みたいな形相で叩き切ってる。このまま押し切れる、そうみんなが思ってきた時に、異変が起きた。
残ったバーテックスが、1箇所に集まりだしたんだ。バーテックスはまるで角のように長く、まっすぐな姿へと変わる。
それを見て、香織が思わずという感じで呟く。
「あれが、進化体…」
SideOut
ちなみに香織は『ひな』派です