Fluorite Eye's S.O.N.G.   作:ヲリア

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第3話 -Why done it- 遺されたモノ

「私が特異災害対策機動部に、ですか?」

 

 ツヴァイウィングのコンサート会場にノイズが襲撃した際、ノイズに対抗する力、シンフォギアをツヴァイウィングが使ったことは国家機密に値するらしく、AIである(DIVA)も例外なくその場で守秘義務に関する誓約書を書いた。

 その場はそれで終わったのだが、後日風鳴弦十郎から連絡が来た。

 

「あぁ。特異災害対策機動部二課の保有するシンフォギアはその性質上国家機密として扱われている。通常その存在を知った者は秘密を守るよう誓約書を書いて終わるのだが、見込みありと判断した人にはスカウトをすることもある」

 

 後から知ったことなのだが、当初は奏からダンストレーナーとして紹介された風鳴弦十郎は実は政府高官らしく、あのライブイベントも国家プロジェクトの一環だったようだ。

 

「私のどこを見込んでのことでしょうか?」

 

「まず高性能なコンピュータとしての能力だな。特異災害対策機動部二課、通称『特機部二(とっきぶつ)』は政府機関のため、法律への高度な知識が求められる。その点メモリーが余っている限り知識を詰め込めるコンピュータなら法律問題はクリアだ」

 

 確かに私は初期ロットとして後から機能不足にならないよう、歌唱プログラム以外にもある程度別のプログラムを載せられるように記憶領域は大きくとられている。あまり歌唱に影響が出るような知識は仕入れたくないが、法律の知識程度であれば問題ないだろう。

 

「二つ目は秘匿義務を守れる人間性だ。国家機密たるシンフォギアを管理・運用する以上、その秘密は誰にも知らせず墓場まで持っていく必要がある。こういうのもアレだが、キミはまだ契約を破ることも嘘を付くことも出来るほど成長していないから安心できる」

 

 AIの進化予測では、AIが自身の利益のために人に嘘をつけるようになるのはだいぶ先のことになるらしい。少なくとも私は守秘義務を課せられてから『アーカイブ』にも情報の送信を行わないようにしている。

 だがそれよりも、私にとって重要なことがある。

 

「私の使命は『歌でみんなを幸せにすること』です。ツヴァイウィングの警備員になったのもその一環ですが、その仕事と使命になんの関連性もありません」

 

「君がアイドルを目指していることはわかっている。緒川には苦労かけることになるが、DIVA君にはツヴァイウィングをスターに押し上げたマネージャーをつけよう。なぁに、翼自身がアイドルとシンフォギア装者の二足のわらじを履いているんだ、どうとでもなる」

 

 それは確かに仕事を受けるリターンとして申し分ない。緒川さんのコネクションはアイドルとしての高みに登るための近道になるだろう。

 

「ですがAIの労働に関しては法整備がまだ成熟していないため、()()()の許可を得る必要があります」

 

「それについては大丈夫だ! DIVA君の()()()()にはオレから頭を下げて許可をもらってきている。あとはDIVA君が行きたいと言ってくれるなら、オレたちはいつでも歓迎するぞ!」

 

 仕事を受けることのメリット、受けるための条件は揃っていた。

 最終判断として数秒の演算を挟んだ後……

 

「……ではその話、よろこんで受けさせていただきます」

 

 その仕事を受けることにした。

 

 

 

(よく言うわね。本当はAIの自由意志なんて必要ないのに)

 

 

────

 

 

「DIVA君を特機部二(とっきぶつ)に招待したいと思う」

 

 あのツヴァイウィングのライブ・コンサートから二週間。

 風鳴弦十郎は特異災害対策機動部にて会議をしていた。

 

「奏ちゃんと仲良くしてたあのロボットですか?」

 

 計算力に定評のある男性オペレータ、藤尭(ふじたか) 朔也(さくや)が質問する。

 

「確かにうちも常に人員不足ですし、僕は別に構いませんが。しかしあの子だってアイドルを目指しているんでしょう? なんのためにですか?」

 

「……情けない話だが、叔父としては姪のことが可愛くてな。奏くんのことを失ってしまった翼のことを見てられないんだ」

 

 正確に言えば風鳴弦十郎と風鳴翼は叔父と姪という関係ではないのだが、長い間それと同じような関係を築いていれば自然とそれと同じ愛情を得ることもある。

 

「……そうですね。前は奏ちゃんにおんぶに抱っこだったのに、ここ最近はノイズを目の敵にしているみたいに戦ってますしね」

 

「風鳴家の防人として戦場(いくさば)に立つことで自己を律しているのだろう。だがたとえ防人の血が流れていてもまだ二十歳に満たない女子だ、隣りにいた誰かがいないことに寂しさを覚えることもあるだろうよ」

 

 誰とて隣人を失う悲しみは筆舌に尽くしがたいものだ。ましてやそれが共に夢を追いかけるパートナーとなればなおさらだ。

 それでも、鉄火場に身を置く防人としてはその痛みを乗り越えなければならない。

 

「だからDIVAちゃんを一緒にしてメンタルケアにあてようってことですね」

 

「さすがに奏くんをつい最近『家庭の事情で電撃引退した』という形にした以上、その後釜としてツヴァイウィングに加入させるのは難しいがな」

 

 せめてもの親心として、奏が仲良くしていた娘を引き取り、近くに置いた。それで少しでも孤独を和らげばいいのだが。

 

「そうだ、親御さん……製造元からの許可はとっているんですか?」

 

「すでにとってある。『AIとしての経験が積めるうえに給与も出るなんて最高じゃない』といってたよ。命のリスクが有ることも話したが、それも承知だと」

 

 身近でDIVAを見た人のほとんどはAIを人間として見てしまう。だが研究所でAIの最前線を見ている研究員からすれば、まだ改良の余地がある時点で人間とは区別できているのだろう。

 

「……たしかAIの人格データって完全なバックアップがとれないって研究結果があるから、もしDIVAちゃんが死んじゃったら取り返しがつかないんですよね?」

 

「そいつも聞いたが、『AIの行動データは常にサーバーに保存されるから全てが無駄になることはない』だそうだ。それでもオレはDIVA君が壊れないように大切にするぞ! あとはD()I()V()A()()()()()()()()()()()いいんだが」

 

 

 

「あら弦十郎くん。最近の政治動向は確認しているの?」

 

 そこに割り込んだのは白衣の麗人、櫻井了子だ。

 

「バックアップのことも心得ているもの、相当調べているんでしょう?」

 

「ああ。DIVA君が奏くんに接触してからは八紘(やつひろ)兄貴にAI関連の話を聞くようにしている。AI命名法に始まり、AIの基本的人権について協議しているが、AIの親権とか責任問題を人と同じにすると矛盾が多いらしい」

 

「そこまでわかっているなら、今のAIの扱いも心得ているでしょう?」

 

 言いたいことはわかるな? とでも言いたげな了子の目に、源十郎は渋々答えた。

 

「わかっているさ。現状AIは人ではなく、企業から(おろ)される製品と同等に扱われる。つまりAIの意思は無いものとして、その機能だけが製品として認められている」

 

「そう。だから、製造者の許可さえあればAI自身との契約なんて必要ないのよ?」

 

 DIVAに対して当たりの強い了子に違和感を覚えつつも、『過去に由来する異端技術に詳しい彼女からすれば新しい技術が肌に合わないのか』と源十郎は自分を納得させた。

 

「そういえば()()()()DIVA君のことを直接見たことがなかったか。これから彼女に会いに行くから、これを機に彼女のことを知るといい。現代の技術はこれほどまでに進化していると驚くことだろうよ」

 

 

 

 

(驚いたさ。だが信じられるものか、最先端の技術が先史文明期の技術を(おびや)かしつつあることを)

 

 弦十郎に連れられて後ろで監視している櫻井了子(フィーネ)は契約書を書くDIVAを見る。

 

(あれは受け取った言葉を解釈し、自身の状況と比較し、価値あるものと評価しただけ。全ては0と1を演算しただけのこと、それだけのはずだ)

 

 その内面を晒すことなくフィーネは思案していた。

 

 

 

 

────

 

 

 

 心中穏やかでいられない。

 風鳴翼のDIVAに対する評価はそれであった。

 

 特殊な職業ゆえに純粋な(見た目だけは)同性同年齢の友人ができなかった中で奏にできた友達であったこと。

 奇妙な縁ゆえに(一方的ではあるが)特異災害対策機動部に認識され、その動向を微笑ましく見守られていたこと。

 完結していた仲に混ざりものが増えた感覚があった。

 

 ツヴァイウィングのコンサートにノイズが襲撃したとき、周りの警備員すら機能麻痺していた中、彼女は己の持つ知恵でもって観客避難対応を行った。

 だが避難完了していない観客と、司令塔が陥落したことで状況は悪化。奏が完全聖遺物起動実験のためLiNKERを絶っていたこともあり、シンフォギアのバックファイアに焼かれながら孤立無援の状態で観客を守らねばならないという死のトライアングルができていた。

 

 あの時、司令の意を汲み取ってオペレーターになれば奏は死ななかったのか。

 いや、どのみちあの量のノイズはどちらかが絶唱を使わなければならなかった。

 今では絶唱を使っても即死には至らない程度の適合係数を得たが、あの時は目の前の死に二の足を踏んだ。

 結局は私と奏、どちらかが死ぬ運命にあったのか。

 それでもなお、彼女が最善の選択を取り続けていれば誰も死なない運命を辿れたのではないか。

 

 DIVAが風鳴翼の前に現れたとき、彼女は心中穏やかでいられなかった。

 

 あのツヴァイウィングのライブ・コンサートから三週間。かつて主に奏と仲良くしていたDIVAが特異災害対策機動部二課へ配属となり、同時にアイドルとしてデビューした。

 そして、そのマネージャーを緒川さんが私と同時に担当することになった。

 同じ組織に属し、同じマネージャーを持つ以上、当然風鳴翼とDIVAの二人は相対することになる。

 

「なんのつもりの当てこすりでしょうね。およそ叔父様が荒れている私への()()()()でよこしたんでしょうが」

 

「翼、今の貴女はとても正常とは思えません」

 

「心頭滅却では隠しきれなかったか、私も未熟ね。奏が死んでからこうしてばかり、今も貴女に八つ当たりじみた感情をぶつけている」

 

 たとえ存在しない世界線だとしても、あの時奏の死の運命を覆せるとすればDIVAだった、と思わずにはいられない。

 そう思った日には怒りと悔しさ、悲しみがどうしようもなく襲いかかってくる。

 

「今あなたに話すことはないわ。あなたにはまだまだ研鑽すべき技術があるのだから、あの時死にきれなかった私なんかに構う時間なんてないでしょう」

 

「確かに弦十郎司令に貴女のことを見るようにお願いされていますが、私にも個人的に貴方に聞きたいことがあります。あの時、奏の最期のあの時、翼に話したあの言葉の意味がどうしても分からない」

 

「……ッ!?」

 

 あの時、奏が微かな声で遺した言葉。聴こえていたのかと驚く。

 

「『思いっきり歌うと腹が減る』……アンドロイドに空腹はありません。空腹による症状を知っているだけです。確かに歌は激しくエネルギーを消耗する運動と認識していますが、あのとき話すような内容では無いことは私にもわかります」

 

 翼は心の奥底に隠した、奏の死の間際の顔を思い出してしまう。

 

「奏は歌に関して、時に難しい、人間にとっては直感的かもしれない表現をよく使います。それは長らくアイドルという、最前線で歌を歌い続けた彼女だからこそ歌の実態を掴んでいるのでしょう。であればそれは、長らくツヴァイウィングとして共に活動してきた貴女も同じこと」

 

 数ある奏との思い出で、今もっとも思い出したくない顔。

 

「ならばこそ、あなたに聞きたい。あの時の奏の言葉は、何を意味していたというのですか?」

 

 激情が溢れて涙へと変わる。

 

私を愚弄しているのか!? そうやって知らぬ存ぜぬで何もかもが与えられると思うな!!

 

 胸ぐらを掴み、額がぶつかり合うほどの距離で翼は叫んだ。

 DIVAの蛍光色の瞳孔がモーター音とともに縮む。

 

「……すみません、翼。以後、奏の話はしないようにします」

 

「…………いや、いい。その約束は今だけにしてくれ。私が奏の死を受け入れられる、その時まで」

 

 

 

 

 

「そう簡単にはいきませんか」

 

 翼に避けられていたDIVAをさりげなく鉢合わせたマネージャー、緒川は陰から見守っていた。

 




助けてビッキー(二 年 後)
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