トレーナーが亡くなり遺されるウマ娘の短編集   作:ツレの人

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ダイワスカーレット

 今日も授業を終え、トレーナー室に向かう。天皇賞秋を経て、自分が目指す『1番のウマ娘』とは何なのかが理解でき、そういった意味でも気分が良かった。

 

 

「おう、おつかれスカーレット」

 

「えぇ、お疲れさま、トレーナー」

 

「早速今日もトレーニングでいいか?」

 

「えぇ、もちろんよ。今日もしっかり厳しく、お願いするわ」

 

 

 恒例となったやり取りを経て今日もトレーニングに向かう。

 

 人々の記憶に残り続ける1番のウマ娘になる。そのための努力を怠るわけにはいかない。1にトレーニング、2にトレーニング、3と4もトレーニングで5あたりに休養。正しい努力と才能の先に目的は達成できるのだ。

 

 

「あいよ。じゃあ今日は――」

 

 

 返事をしながら立ち上がったトレーナーが突然よろめき、ダイワスカーレットに向かって倒れこんだ。

 

 

「ちょっと!」

 

 

 スカーレットは驚きながらトレーナーを受け止めた。

 

 

「ったく、大丈夫? アタシのトレーナーなんだから体調管理くらいはしっかりと――トレーナー?」

 

 

 受け止めて、小言を言おうとしてトレーナーの顔を見てみて、事態に気が付いた。

 

 

「ちょっと、トレーナー、どうしたの!?」

 

 

 トレーナーの様子が尋常ではなかった。呼吸が荒く、脂汗を流し、気を失っている。

 

 救急車、保健室、いや、それよりもまず人を? 分からない。まずは保健室へ連れていき指示を貰うべきか。

 

 ダイワスカーレットは周りの視線も気にせずトレーナーを抱きかかえ、保健室へと走った。

 

 

◇◇◇

 

 

「……ここは」

 

「救急車です。ダイワスカーレットさんがトレーナー室で倒れたあなたを保健室に運んできてくださいました」

 

 

 トレーナーの問いに付き添いで乗った養護教諭が答える。トレーナーが目を覚ましたのは養護教諭が呼んだ救急車の中だった。養護教諭の隣にはダイワスカーレットも座っていた。

 

 

「俺は……そうか、倒れたのか……」

 

「そうですよ、トレーナー室で立ち上がった瞬間に。トレーナーさん、そんな素振り見せてなかったけど無理してたんじゃないですか?」

 

 

 ダイワスカーレットが気丈に振舞うの上手いんですね、とからかうように笑う。ひとまず無事であったことに安心したようだった。

 

 

「あぁ悪い、心配をかけた」

 

「いえ、トレーナーさんが無事で良かったですよ」

 

 

 ダイワスカーレットが柔らかな笑みをトレーナーに向ける。態度やその笑みこそ養護教諭の手前、猫を被ったものだったが、無事で良かったというのは真意だった。

 

 

◇◇◇

 

  

 救急車から病院に運び込まれ、トレーナーは診察を受けた。

 

 

「……こう言ってはなんですが、もっと早くにあなたはどこでもいいから病院にいらっしゃるべきだった、そう言わざるを得ません。余命はどの程度なのか、というところまであなたの身体は蝕まれています」

 

「そう……でしたか、そんなところまで……」

 

 

 トレーナーの様態はトレーナー自身が思っていたよりはるかに深刻だった。

 

 

「すぐにでも入院を。ご準備を手伝ってくれるご家族様はいらっしゃいますか?」

 

「いえ、家族は遠いのですぐに、とは……」

 

 

 トレーナーの家族は地方住みで行くにしろ来るにしろ飛行機か長時間の新幹線を用いないといけない。費用はこちらが持つから、などと言わずとも来てくれるだろうとは思うが、それでもすぐにとはいかないだろう。

 

 

「今回搬送の付き添いの方は親しい方ですか?」

 

「……親しいといえば、親しいですが」

 

「でしたらその方にご準備等手伝っていただくと良いでしょう」

 

 

◇◇◇

 

 

「トレーナーさん、どうだったんですか?」

 

 

 相変わらず猫を被ったダイワスカーレットが様態を尋ねてくる。

 

 

「……俺の容態だが――」

 

 

 トレーナーは今しがた医者から語られたことをそのままダイワスカーレットと養護教諭に話した。ダイワスカーレットと養護教諭の顔がみるみるうちに驚愕の色に染まったことは言うまでもない。

 

 

「……個人的に聞きたいことはありますが、私は今回の件やトレーナーさんの容態を学園に報告するためにトレセン学園に戻ります。ダイワスカーレットさんも、門限までには学園に戻ってくださいね」

 

「……はい」

 

 

 そう言って養護教諭は病室を出ていった。トレーナーは内心でダイワスカーレットと二人きりにしてくれる心遣いに感謝しておく。

 

 

「ということで俺の家の鍵を渡す。メッセージアプリで住所とリストを送るからリストにあるものを持ってきてもらえるとありがたい」

 

「……分かったわ」

 

 

 ダイワスカーレットもそう言って背を向けた。

 

 

「……ありがとう、よろしく頼む」

 

 

 ダイワスカーレットが何も言わなかったのが不思議だったが、トレーナーは病室を出るダイワスカーレットを止めなかった。

 

 自分にもスカーレットにも事態を受け止めるための時間が必要なはずだ。

 

 

 ダイワスカーレットは病室を出てすぐ、頭を抱え、しゃがみこんだ。

 

 余命、という言葉がダイワスカーレットの頭の中を反響する。言葉の意味は知っている。しかしそれが身近な人物――ともすれば今現在両親より身近かもしれない自分のトレーナーという人物に関わりがあるものとなるとは。

 

 1番のウマ娘を導く1番のトレーナーになるという言葉。

 

 まだ、夢を叶えてきっていないのに。まだ、夢を叶えきってあげられていないのに。  

 

 思考がまとまらなかった。しかし、今はトレーナーからの頼みがある。スマートフォンに住所を打ち込み家の場所を確認する。

 

 そう遠くなかった。荷物のない行きは走って行って問題ないだろう。

 

 ダイワスカーレットは病院を出て、何かを振り払うかのようにがむしゃらに走り出した。

 

 

◇◇◇

 

 

 トレーナーの家は何の変哲もないマンションの一室だった。生活感が薄い。寝に帰る家なのだろう。自分というウマ娘に相応しいようにという努力を怠っていなかった様子が窺い知れる家を見て、ダイワスカーレットは改めて気分が沈む。

 

 なぜ自分のトレーナーが不幸にならなくてはならないのだろう。

 

 口にはあまり出せないが、ダイワスカーレットは自分のトレーナーのことを非常に優秀で、人格的にも非の無い人物だと思っている。

 

 いや、少し抜けたようなところがあったり、物事を背負い込みがちで、もっと自分にもトレーナーを大事にさせてほしいとか、そういった想いはあるが、マイナスと言える要素ではない。

 

 って、そんなことはいいのだ。優秀で人格的にも非の無い自分のトレーナーが、なぜ。

 

 走っている間も、これからどうなるのだろうといった未来の心配などは考えられず、ずっとなぜ自分のトレーナーが、という疑問ばかりを考えていた。なぜを考えても詮の無いことだと分かってはいるが、今も物を取る手を止めるとなぜばかりが頭をよぎる。

 

 かぶりを振る。今はトレーナーのために動かなくては。

 

 ダイワスカーレットは手早くリストに書かれたものをナップザックとスーツケースに詰め、マンションを出た。

 

 病院に向かうバスの中ではどうにかして別のことを考えようなどと思いながら。

 

 

◇◇◇

 

 

 有馬記念とは暮れの中山で行われるグランプリレースである。出走ウマ娘はファン投票から選ばれ、クラシック三冠とトリプルティアラを走り終えたクラシック級ウマ娘と、シニア級の最大目標である天皇賞秋を終えたウマ娘たちがぶつかる掛け値なしの日本一決定戦。

 

 すでにファン投票の結果は出ており、天皇賞秋を勝利したダイワスカーレットはファン投票1位に選ばれている。

 

 名実ともに1番のウマ娘と言われるには避けて通れないレースだ。しかし今朝までの自分ならともかく、今の自分にはとてもではないが、そんな大レースを、ファンの期待を背負って走り切れる気がしなかった。

 

 バスの中で『なぜ』を考えないようにしようと思い、何か生産的なことを、と思い次の有馬記念について考えようとしたが、結局考えて分かったことは心にぽっかりと穴が開いたような自分がいることだけだった。

 

 

 

「ありがとう、スカーレット。助かった」

 

「……このくらいならお安い御用よ。体調は少し落ち着いた?」

 

「あぁ、だいぶな。……余命がどうのこうのとか、言われるとは思えないくらいだ」

 

 

 そう語るトレーナーの表情はいつもの無表情に見えつつも真面目なことが伝わってくる表情で、嘘をついていないことはすぐに分かった。

 

 

「アンタ、身体の不調とかはなかったの?」

 

「なかったと言えば嘘になる。君を担当し始めた頃から少しずつ。最近酷い時は起き上がることにすら苦労することもあったが、恥ずかしながら、君に心配をかけたくなかった。誰よりも頑張る君の足を、引っ張りたくなかった」

 

「……アンタねぇ!」

 

 

 声を荒げたダイワスカーレットだったが、その先の言葉が出てこなかった。言いたいことは山ほどあったのだ。それでアンタが死んだら世話の無い話だ、とか、もっとアタシにもアンタを大事にさせろ、だとか、他にも。

 

 しかし、自分が落ち込んだ時も、辛かった時も変わらず寄り添ってくれて、今、ほぼ3年間連れ添ったダイワスカーレットでなければ分からないであろう、かすかに落ち込んだ表情を浮かべるトレーナーに一般論をぶつけることは、ダイワスカーレットには出来なかった。

 

 

「あぁ。その結果がこうだ。本当にすまない」

 

 

 加えて謝られてはもう何も言えない。

 

 

「……とにかく! なんかあったらアタシにしっかり言うこと! アタシってそんなに頼りないかしら!?」

 

「いや。キミよりしっかりしているウマ娘などそういないさ」

 

 

 こういうことを恥じらいもなく言ってしまうのがトレーナーの良いところでもあり、悪いところでもある。

 

 

「……あぁ、もう、これからはちゃんとアタシのこと頼りなさい! わかった!?」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

「ならいいわ。――門限があるからアタシはもう行こうと思うけど、何かあったら連絡ちょうだい。フジ先輩に言って外出許可もらうから」

 

「そこまではしなくてもいいと思うが」

 

「そこまでしなくていいを慢性的に言ってたせいで今こうなってるんでしょうが!」

 

 

 トレーナーの少し抜けたような言動にダイワスカーレットがツッコミを入れる。それがいつもどおりのやり取りのようで、今日、すべてが変わってしまったような感覚を抱くダイワスカーレットに、変わらないものがあるという安らぎをもたらした。

 

 

 トレーナーと別れたダイワスカーレットは病院から寮まで走り、問題なく門限までに寮に辿りついたところで、同室相手のウオッカに廊下で話しかけられた。

 

 

「よう、スカーレット! 今日大変だったんだって?」

 

「……ウオッカ。えぇ、大変だったわよ」

 

 

 大変だった。そんな一言で片づけてしまっていいものだろうか。正直言って現実味がなかった。今日1日のことを思い返してみる。普段通りに授業を受け、普段通りにトレーナー室に向かい……トレーナーが倒れた。救急搬送され、それから入院することになり、入院の手伝いをし、今、こうして寮に帰ってきた。

 

 どっと疲れが溢れてくるのを感じる。やはりどうやら無理をしていたようだった。

 

 

「何があったんだ? いっつもやべえトレーニングしてるスカーレットがいねえってことでちょっと噂になってたぞ?」

 

「……聞きたいなら明日話すわ。今日はちょっと休ませて」

 

 

 そうとだけ言ってダイワスカーレットは自室へと戻った。

 

 

「……マジで何があったんだ?」

 

 

 誰よりも早く起きて誰よりも遅く寝るを信条としているスカーレットが、こんな早くから休むなんて。 

 

 小声で呟くとウオッカもダイワスカーレットに続き部屋へと入っていった。

 

 

◇◇◇

 

 

「マジかよ……余命ってそんな……」

 

 

 ことの顛末を聞いたウオッカが悲痛の表情を浮かべながらつぶやいた。 

 

 

「マジよ。しかも見て、これ」

 

 

 そう言ってスマートフォンの画面をウオッカに見せる。

 

 

『おはよう、スカーレット。昨日の今日だが、もし朝のトレーニングをするならこのメニューをこなしてくれ。昨日の件で疲れてしまっている場合は当然やらなくても構わない』

 

 

 そんな文言と一緒にトレーニングメニューが列挙されていた。

 

 

「マジかよお前のトレーナー……。やっぱお前のトレーナーだけあるな」

 

「どういう意味よそれ。っていうかさっきからマジかよしか言ってないわよアンタ」

 

「……で、お前それやんのか?」

 

「え? もちろんやるわよ」

 

「おま、マジかよ」

 

「……。マジよ。せっかくトレーナーがメニュー作ってくれたんだもの。無駄に出来ないわ。っていうか、アンタ海外行く準備は進んでるの?」

 

「あぁ!? やってますぅー! 言われるまでもねえよお前は俺の母ちゃんか!」

 

「前みたいにギリギリになって手伝わされるのがごめんだから言ってるのよ!」

 

 

 トレーナーが普段通りにトレーニングメニューを考えたのも、ダイワスカーレットがそのトレーニングメニューをこなすのも、互いに現実逃避染みた思いがあったかもしれない。普段通りの日常を送っていれば差し当たってはトレーナーの余命という向き合いたくないことに向き合わずに済む。ゆえにどちらも、口には出さなかったが、今まで通りの日常を送ろうと、そんな合意に似た思いがあったのは事実だろう。

 

 しかし、転がり始めた玉が簡単には止まらないのもまた事実である。トレーナーの体調は、昨日を皮切りに、玉が坂を転がり落ちるように悪くなっていった。

 

 

『すまない、今日は体調が悪くてトレーニングメニューを作れなかった。コース研究をしておいてくれ』

 

『わかったわ』

 

 

 またある日は。

 

 

『今日はあまり足を使わない自主トレをしておいてくれ。最近本当にすまないな』

 

『大丈夫よ、ゆっくり養生して』

 

 

 日に日に自主トレの頻度は増えていった。

 

 そして有馬記念も近づいてきたある日、見舞いに行ったダイワスカーレットに、トレーナーがぽつりと呟くように語りかけてきた。

 

 

「なぁスカーレット。そろそろ、だと思う」

 

「そ、そろそろって何よ。……そうよ、トレーナー。有馬記念、もうすぐよ! アタシそろそろアンタの組んだメニューをこなしたいんだけど、どうにか――」

 

「スカーレット」

 

「やめて! いやよ、聞きたくない! アタシを支えてくれるような変なやつはアンタしかいないの! 死ぬだなんて言わないで! ずっと一緒にいて、一緒に1番に……一緒に……」

 

 

 気付けば子供のように喚いていた。恥だとか外聞だとか、そんなものは知ったことではない、嫌なものは嫌。ダイワスカーレットは、優等生のフリが上手いだけで、大人ではなかった。

 

 

「……スカーレット。俺はもう君の隣にいてあげることは出来ない。それでも、君が1番になることは出来る」

 

「嫌! 1番のウマ娘の隣には1番のトレーナーが、アンタが!」

 

「――Eclipse first, the rest nowhere」

 

「……え?」

 

「トレセン学園の校訓だ。君ならその意味も覚えているだろう」

 

「……唯一抜きん出て……並ぶものなし……」

 

「そうだ、1番のウマ娘は孤独にだって耐えられる強いウマ娘でなくてはならない。唯一抜きん出て1番にならんとするウマ娘に、並び立てるものはないんだ」

 

「……1番のウマ娘はひとりぼっちってこと……?」

 

「あぁ。だから俺がいなくなるのは、これまで君が夢を叶えるために越えてきたものと同じ、壁の一つに過ぎない。君は、俺の死を些事だと笑って走っていかなくてはいけない」

 

「む、無理よそんな!」

 

「いいや、君は真面目で、優雅で、強いウマ娘だ。出来ないことなんてないさ」

 

 

 トレーナーがダイワスカーレットと視線を合わせ、微笑んだ。

 

 

「君が1番のウマ娘になることは、俺の夢でもあるんだ。重いかもしれないが、一緒に背負って走ってくれないか」

 

 

(……卑怯よ、そんなの)

 

 これまでずっと自分と同じ夢を見て、ずっと自分のことを想い、支えてくれたトレーナーからそんなことを言われて。

 

 

 走らないなんて、ウマ娘じゃない。

 

 

「……わかったわよ、トレーナー。アタシ、頑張るわよ。だから見てなさい。絶対、目を離さないで! 私が勝って、1番のウマ娘になったら、誰よりも喜んで! 私が負けたら悔しがって奮起して、次こそ1番を譲らないと心に刻み付けて! いいわね!」

 

 

 涙を拭いながらダイワスカーレットは叫んだ。

 

 

「当たり前だ。俺は、君のトレーナーなんだぞ」

 

 

 トレーナーの声は、ダイワスカーレットが知る、いつもの穏やかな声色だった。 

 

 

◇◇◇

 

 

 ダイワスカーレットに手を握られ、薄れはじめた意識の中でトレーナーは思考する。

 

(すまない、スカーレット。1番のウマ娘は孤独にだって耐えられなくてはいけない。それは嘘だ)

 

 だってそうだろう。担当ウマ娘が1番に強くても、その隣にはトレーナーがいる。孤独ではない。

 

 1番のウマ娘は、ひとりぼっちではない。

 

 だからこれは、ダイワスカーレットが夢を叶えるための呪い。自分の死でスカーレットが歩みを止めてしまわないように。先に進むための呪い。

 

(だが、きっと、きっとスカーレットなら大丈夫だ。この呪いを解いてくれる人が、スカーレットの隣に立ってくれる人が絶対にいる。現れる。あんなに真面目で良い娘なんだから)

 

 トレーナーは掛け値なしにそう思う。

 

(だとしても……当たり前だ。俺は、君のトレーナーなんだぞ、か。どの口が言えたか。俺は君のトレーナー失格だよ、スカーレット)

 

 

「すまないな……本当に」

 

 

 それがトレーナーの最後の言葉だった。

 

 

 

 

「勝ったのはダイワスカーレットォォォォ! 久しく成されなかったティアラ路線ウマ娘の有馬記念制覇! 夢の扉が今開かれた!」

 

 

 4コーナー早めに仕掛けた先行集団のウマ娘全員を捻り潰すかのように振り払い、最初から最後までハナを譲らなかったその有馬記念は、ダイワスカーレット史上最強の走りと言われ、ファンの心にいつまでも残るレースとなった。

 

 ウィナーズサークルでダイワスカーレットは一本指を掲げて宣言した。

 

 

「アタシが……1番!」

 

 

 ダイワスカーレットの夢。人々の記憶に残り続けるウマ娘になること。それはつまりトレーナーを1番のウマ娘の1番のトレーナーにすることでもあり、夢は確かに今ここで、叶った。

 

 

(でも本当に、本当にそうなの、トレーナー。1番のウマ娘には、1番のトレーナーが、隣にいるべきじゃ……ないの……? いちゃ……いけなかったの……?)

 

 ダイワスカーレットは泣き崩れる。果たしてそれは夢を叶えた嬉し泣きだっただろうか。

 

 夢を叶えたはずなのに。最も心の晴れる瞬間であるはずなのに、ダイワスカーレットの心のうちには染みのような何かがこびりついて離れなかった。

 

 

 

 

 

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