仮面探偵事件録~赤き宝石~   作:クレナイ

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新暦73年 3月31日 ミッドチルダ 時空管理局

 

 

 魔導師としての道を歩もうと決めたのはもう八年も前のことだ。望んだわけでもなくロストロギア――「闇の書」というものの主になることを望まれ、そのために代償として足に不自由さを持つ羽目になった。

 何故自分は回りの子どもと同じように元気よく走り回ることができないのだろうか。幼いながら、まだ隣に両親がいたとき、漠然とながら彼女はそんな思いを胸に抱いていた。

 隣にいてくれた家族である両親が突如として交通事故でなくなった。

 本当は楽しい家族での外出になるはずだった。

 大きなデパートに行ってかわいい服を買って貰い、オモチャ売り場で欲しかった可愛いぬいぐるみを買ってもらい、そしてお昼はレストランでおいしいものを食べて帰る。そんな思い出の一つになる外出になるはずだった。

 原因はぶつかってきた自動車の居眠り運転だった。

 彼女たちが悪かったわけではない。ただ運が悪かった。ただそれだけだった。しかしただそれだけで彼女は家族を失った。

 そして一人ぼっちになった。

 そんな彼女に対して手を差し伸べてくれた男性がいた。彼は父の友人だと言った。外国人に友人がいただろうかと疑うこともできた。

 だが何故かそうすることはなかった。誰かに傍にいて欲しかったからだろうか、彼が未元引受人となると言ったとき、ただ頷くだけだった。

 両親を失い、その男性が未元引受人となってから数年が経った。

 定期的に高額のお金を通帳に入れてくれるのは嬉しいが、彼女にとっては一緒にいて欲しいという思いのほうが大きかった。

 最後に会ったのはいつだっただろうか。もうその記憶は彼方に行ってしまっていた。

 九歳の誕生日の時だった。深夜零時自身に対してハッピバースデーと呟いた時だった。まるでそれが引き金だったかのように、突然その部屋の本棚にあった分厚い書物が光に包まれたのだ。ただ唖然としてみているしかできなかった。その光の中から現れたのは四人の男女だった。彼女たちがその日から失われたとばかり思っていた家族となった。

 彼女たちは人間ではなく、「闇の書」の騎士プログラム、魔法生命体であることを明かした。人間ではない、しかし彼女にとっては家族になってくれるのなら、そんなことは関係なかった。彼女たちがそこらにいる人間となんら変わりなかったからだ。四人のうち一人だけ男性がいたが、彼だけが獣の耳や尻尾を持っているために違和感があったというくらいだ。

 色褪せ、寂しかった彼女の世界に一気に色付いた。

 一人ぼっちで寂しく、まるで凍えているかのように震えていたあの頃の彼女はいなかった。優しい四人と幸せに過ごすことが出来た。

 だがクリスマスが近くなると彼女に異変が起きた。

 幼い頃からあった持病が悪化したのだ。

 後から知ったが、「闇の書」がバグに犯されており、元の正常な機能ではないがためにそのような障害を持つことになっていたとのことだった。

 完全にバグによって暴走してしまった「闇の書」。そのバグは彼女の家族だけでなく、主である彼女すら呑み込んでしまい、世界を滅ぼしかねない大事件とまで発展してしまった。

 そんな事件を止めるために、彼女の家族を救うために手を差し伸べてくれた者たちがいた。それが今の彼女にとって大切な友人たちだ。

 闇の中で、ただ幸せな夢を見続けることが出来れば良いとそう管制人格者の彼女は思っていた。それが例え世界が滅ぶことに繋がってもと――確かにと思う。

 だが同時にそうでないと思う。

 幸せになりたい。家族に囲まれ、暖かな生活を送りたい。足の障害を克服し、憧れでもあった学校に行ってみたい。たくさんの友達に囲まれ、勉強も遊びも頑張りたい。大きくなり、ひとりの女として恋もしてみたい。

 そんな色んな願望は夢の中では決して叶えられないのだ。夢の中でのそれらは所詮夢。実際に彼女が現実で叶えたことではないのだ。目が覚めればそれは全て幻想と化してしまう。

 そんなのは嫌だった。

 どんなに辛いことがあっても、その中で確かに幸せを感じたいと思ったから。

 だから助けを求めた。

 そして彼女たちは快く手を差し伸べてくれた。

 嬉しかった。

 家族との再会、一人の家族との別れ。幸せと悲しさを味わったクリスマスだった。

 それからすぐにではないが、じっくりとリハビリを乗り越えて、晴れて彼女は魔導師としての道を歩むことを選択し、そのために時空管理局へ入局した。

 家族である彼女たちは無理に魔導師として入局する必要はないと言った。だが彼女は首を横に振った。それは彼女が失ってしまった家族の一人との約束を守るためであり、家族の罪というのは家族みんなで償うものだと思っていたからだった。

 しかし「闇の書」もとい「夜天の書」の持ち主であるというだけで周りからは白い目で見られ続けた。

 過去の持ち主たちの罪というのを全て、その小さな少女の背中で背負わなければいけなかったのだ。いくら家族でとはいえ、その罪はあまりにも重過ぎた。

 折れそうになるときもあった。

 だがそんなときに傍にいてくれたのはやはり家族であり、友人だった。

 友人たちとは同じ役職ではないためにそう頻繁に会うことはできなかった。彼女自身も忙しいことや友人たちもまたそれぞれの仕事で忙しいためであった。それでもメールや電話、彼女が引っ越してきたこの魔法文化が発達している世界は科学も元の世界に比べてもはるかに発達しているためにテレビ電話のようなことも容易にできた。だから決して寂しいと思うことはなかった。

 それに帰る場所もあった。

 本格的に管理局で働くことにしたと同時に、家族全員でこの世界に引っ越すことにしたのだ。

決して名残惜しくないわけじゃなかった。寂しい、辛い思い出が多かった家であったが、それ以上に幸せもあった。

 家に帰ればいつでも家族が待っていてくれて、「お帰り」と言ってくれる。

 ああ、自分はここにいても良いのだ――その言葉を聞くだけで、幸せをかみ締めることができた。

 彼女――八神はやてには夢があった。それは自分の部隊と持つというものだった。

 だが若干17歳という若さであるはやてに部隊と持てる確率というのははるかに零に近く、奇跡でしかなかった。

 それでも可能性がないわけではなかった。

 はやてが管理局と平行して所属している聖王教会という組織のトップであり、友人でもある者から相談を持ちかけられていたのだ。

 

 

『新暦75年に時空管理局が崩壊する』

 

 

 問題としては、あまりにも大きすぎるものだった。しかし食いつかないわけはなかった。

それに彼女自身も後ろ盾になってくれるとのことだったので、心強く思っていた。

彼女以外にも決して無視できない問題であるために協力してくれる者たちも多くいるだろうと思っていたし、確信もしていた。

だが問題があった。

 はやての階級である三等陸佐というのは決して低いわけではなく、むしろ若干十七歳にしてみれば高すぎるものだった。しかし実際に大きな功績を立てた経験はなく、小さな部隊すら数度持った程度だった。大きな部隊に補佐として参加したことだって数え切れるくらいであるために、圧倒的にベテランと呼ばれる部隊を率いている者たちと比べて経験がなさ過ぎたのだ。さらに優遇されていたところもあるために、大きな失敗という経験もなく、不安要素の方が大きかった。

 それに優遇されていることや、低年齢での高い階級であるのには彼女自身の実力だけではなく、そこにはやはり「夜天の書」というロストロギアによるものが関わっていた。そのために部隊を置くとして適している地上との連携をうまく取れるのか、その辺りも不安しかなかった。

 力を貸してくれる者たちを中心に頼ることも考えられた。だがそれではいけないという思いも同時にあった。

 悶々とした思いを抱きながら通常の仕事をこなしていたはやてのところに突然連絡が入った。

 はやての上司であるアウル・バーキン少将からのものだった。

 

『八神三等陸佐、至急執務室に来るように』

 

 あまりにも簡潔だったために、はやては「はぁ……了解しました」というしかできなかった。通信を切り――どないしたんやろ? ――さらに疑問を抱きつつ、上司の待つ執務室へと向かい、そこで言い渡されたのは――。

 

「貴様に地球に向かってもらいたい」

「地球に……ですか?」

 

 手を組み執務室にある大きな机に両肘を立てているアウルが言う。

 突然の帰省にはやては驚きを隠し切れない。

 だがアウルはそんな彼女の驚いていることなど関係ないという様に、さらに話を続ける。

 

「分かっているだろうが、これは仕事であり、任務だ。決して休暇などではないぞ?」

 

 伏せられていた瞳が開けられ、真っ直ぐにはやてのことを射抜くように見てくる。

 階級も年齢も向こうの方が上。

 しかし決定的に違うのは、アウルには魔導師としての資質がないということだ。しかしはやては目の前にいる彼が大きく見えた。

その人が纏うオーラというものに圧倒的な差があったのだ。

 「……分かっています」関西弁ではなく、真面目なときにしか使わない普通の話し方で返答する。どちらで返答したとて、アウルは気にしないだろうというのは分かっていたが、ここはそうするべきではないと思った。

 

「それで一体どういった要件で地球に派遣ですか?」

 

 まさか嘗て地球、はやての生まれ故郷である海鳴市にて起きたジュエルシード事件や闇の書事件といった危険度の高いロストロギアが関わっているのではないかと勘繰ってしまった。

 何かと危険度の高いロストロギアが関わっている場所であるため、どうしても気になってしまったのだ。

 それにそこには大切な友人やその家族もいる。巻き込みたくないという思いがある。

 はやての質問に対して、アウルは。

 

「第97管理外世界地球で巨大な魔力反応が観測された。それが一体何によるものなのかが分からないために、一度に大人数を派遣することができない。そのためその世界に慣れている局員に捜査をして貰おうと思ったわけだ」

「そこで私……ですか」

 

 何を理由に自分に白羽の矢が立ったのかは分からない。

 厄介を押し付けるためかもしれない。

 どんな理由であれ、断る理由がないために、はやては素直にそれを承諾する。

 

「まあそんなところだ。必要な資料データはすでに送ってある、後でよく目を通しておくように。以上だ」

 

 通達が終わり、はやては敬礼を済ませ、失礼しますと執務室を出た。

 ――まさか任務で戻ることになるなんて思わんかったな……。

 苦笑いを浮かべながら仕事場へと戻る。

 他の局員が仕事をしているのを尻目に、はやてはパソコンを操作し、送られているだろう資料データを取り出す。

 モニターに映し出される。そこにははやてがこれからは向かうことになる地球のとある市のことや、そこで観測された魔力量など様々なデータがまとめられていた。

 

「えっ……?」

 

 思わず声を漏らしてしまう。小さかったために周りには聞こえなかったようだ。

食い入るようにして視線をモニターに向ける。

そこにあった魔力の波長が近年回収の任務が増え、彼女が部隊を持つ関係で関わるだろうとあるロストロギアのそれと酷似していたのだ。

 “レリック”――。

 候補として上がっているロスロギアの名前がそこにあった。

 部隊を持つことになれば決して関わりを絶つことはできないだろう“レリック”。それが今回の派遣任務に関わっているかもしれない可能性が出てきた。

 今回の派遣任務……そうすんなりといかんかもなぁ……。

 はやては背もたれのある椅子に身体を預け、どうしようかと思考の海へと意識を投げた。

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