これも全て期末試験ってやつのせいなんだ……!
ーーーー境界壁・上空2000m地点。
遥か上空、境界壁の突起に四つの人影があった。
一人は露出が多く、布の少ない白装束を纏う女。白髪の二十代半ば程に見える女は二の腕程の長さのフルートを右手で弄びながら、舞台会場を見下ろす。
「プレイヤー側で相手になるのは…………“サラマンドラ”のお嬢ちゃんを含めて五人ってところかしらね、ヴェーザー?」
「いや、四人だな。あのカボチャは参加資格がねえ。特にヤバイのは吸血鬼と火龍のフロアマスター、あとはカボチャを抑えていたあの魔王名乗っていた小僧だな。ーーーーついでに偽りの“ラッテンフェンガー”も潰さねえと」
白装束の女に答えたのは、対照的に黒い軍服を着た、短髪黒髪のヴェーザーと呼ばれた男。
その手に握られていたのは自らの身長程もあろうかという大きな笛であった。
そして三人目は、外見が既に人ではない。
陶器のような材質で造られた滑らかなフォルムと、全身に空いた風穴。全身五十尺はあろうという巨兵のその姿を
安易に例えるならば、擬人化した笛というところだろう。顔面に空いた特に巨大な風穴は、絶えず不気味な鳴動を周囲に放っていた。
その三体に挟まれる形で佇む、白黒の斑模様のワンピースを着た少女。
斑模様の少女は三体の顔を一度ずつ見比べ、無機質な声で宣言する。
「ーーーーギフトゲームを始めるわ。貴方達は手筈通りお願い」
「おう、邪魔する奴は?」
「殺していいよ」
「イエス、マイマスター♪」
「これは大変な事になったものだね」
などと言いながら未だくつくつと笑うリュカ。その様子は子供が新しい玩具を見つけたかのようなものであった。
「…………このような事態であるというのに随分と落ち着いていますね」
「それは違うよ、ジャック。こんな事態だから落ち着かないといけないんだ。僕達は力を持つ者だ。今この状況をもしかしたらなんとか出来るのは僕達しかいない。だけどそんな僕達が慌てふためいらより混乱を煽るだけとなってしまう。そんな事になったら勝てるものも勝てなくなる」
「ほう?勝機があるとおっしゃるので?」
「相手を見ないことにはなんとも言えないけどね。ただうちには幼いながらも聡明なリーダーに、多大な知識を有効に活用できる頭脳を持ち、尚且つ武勇に優れる副官的立場の少年がいる。それにあらゆる種族と心を通わす事の出来る少女に、ギフトを操り、ともすれば人間ですら操る事が出来る少女もいる。これだけのメンバーが揃っていて出来ない事の方がそこまでないはずだと僕は考えているよ」
「魔物を意のままに従える事の出来る貴方は含まれていないので?」
「場合によっては頭数に入れてもいいかもだけどね。マトモに指示する事を放棄すればそれこそ数百体は魔物を呼び出せるとは思うし。まあ今回はああして逃げ回っている観客に魔物による先導をしても逆効果にしかならないけどね」
今は魔王と思しき者達の一味が襲ってきている最中。そんな状況で魔物達を呼び出せば更なる混乱が巻き起こる事は容易に想像できる。
と、そんな事をリュカが考えていたら十六夜達が舞台に降りてきた。元いた場所を見れば、黒い風が吹き荒れており、どうやら吹き飛ばされたらしい。
「よう、リュカ。道化を演じていたら本物が現れたがどうするよ?」
「僕なんかに訊かなくても既に頭の中で考えは纏まっているんじゃないのかい?ただ、そうだね…………。僕なら迎撃組と防衛組に分かれるかな。あの黒い風。恐らくだけど白夜叉と関係しているのだろう?“サラマンドラ”の方は観客席に飛ばされていたのは見えていたけど、白夜叉だけは姿を確認できていない。何らかの理由で白夜叉が動けなくなっている。ーーーー違うかい?」
「いいや、正解だよ。防衛する必要があるかはわかんねえが、まあ迎撃する奴は必要だよなあ」
ヤハハと何時もの如く笑う十六夜だが、その瞳には何時もの余裕が見られない。真剣な瞳のまま、黒ウサギに視線を向ける。
「白夜叉の“主催者権限”が破られた様子は無いんだな?」
「はい。黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、誤魔化しは利きません」
「なら連中はルールに則った上でゲーム盤に現れているわけだ。…………ハハ、流石は本物の魔王様。期待を裏切らねえぜ」
「取り敢えず黒ウサギは“サラマンドラ”の人達を捜しに行って。イザヨイとレティシアの二人で魔王勢に備えて、僕とジンくん、アスカにヨウは白夜叉のもとへ向かおう」
「承ったぞ、主殿」
「分かりました」
リュカが提案した行動案にレティシアとジンが頷く。対照的に飛鳥の顔が不満の色に染まる。
「ふん…………また面白い場面を外されたわ」
「そう言うなよお嬢様。“契約書類”には白夜叉がゲームマスターだと記述されてる。それがゲームにどんな影響を及ぼすのか確かめねえとーーーー」
「では私達も手伝いましょう。いいですね、アーシャ」
「う、うん。頑張る」
“ウィル・オ・ウィスプ”のジャックにアーシャが協力を申し出た。否定する理由がないうえに寧ろありがたいのでその申し出を受け入れた。
「では御二人は黒ウサギと一緒にサンドラ様を捜し、指示を仰ぎましょう」
一同は視線を交わして頷き合い、各々の役目に向かって走り出す。
逃げ惑う観客が悲鳴を上げたのは、その直後だった。
「見ろ!魔王が降りてくるぞ!」
上空に見える人影が落下してくる。
十六夜は見るや否や両拳を強く叩き、レティシアに向かって振り返って叫ぶ。
「んじゃいくか!黒い奴と白い奴は俺が、デカイのと小さいのは任せた!」
「了解した主殿」
レティシアが単調に返事をする。十六夜は嬉々として身体を伏せ、舞台会場を砕く勢いで境界壁に向かって跳躍した。
ーーーー大祭運営本陣営、バルコニー入り口扉前。
リュカ達はバルコニーに通じる通路の前で立ち往生していた。
吹き飛ばされた時と同じ黒い風が、彼等の侵入を阻んでいたからだ。
進むことも出来ずに歯噛みする飛鳥は、リュカに訊いた。
「この風をどうにかできないの⁉︎」
「一瞬ぐらいなら吹き散らせることは出来るかもしれないけど、通ろうとした瞬間に元に戻ると思うよ。そうしたらまた吹き飛ばされるなんてことにはならないと思う。良くて全身ズタズタ。悪くて四肢切断かな」
そんなセリフを何時も通りの口調、何時も通りの声音でリュカが言った。
それに飛鳥は少しばかりゾッとしながら、今度は扉の向こうにいる白夜叉に向かって叫ぶ。
「白夜叉!中の状況はどうなっているの⁉︎」
「分からん!だが行動を制限されているのは確かだ!連中の“契約書類”には何か書いておらんか⁉︎」
ハッとジンが拾った“契約書類”を取り出す。
ふると書面の文字が曲線と直線に分解され、新たな文面へと変化したのだ。
飛鳥は風で舞い上がる髪を押さえながらも、すかさず羊皮紙を手に取って読む。
『※ゲーム参戦事項※
・現在、プレイヤー側ゲームマスターの参戦条件がクリアされていません。ゲームマスターの参戦を望む場合、参戦条件をクリアしてください』
「ゲームマスターの参戦条件がクリアされてないですって…………?」
「参戦条件は⁉︎他に何が記述されておる⁉︎」
「そ、それ以上の事は何も記述されていないわ!」
白夜叉は大きく舌打ちした。彼女の知る限り、この様な形で星霊を封印出来る方法は一つしかない。白夜叉は続けて叫んだ。
「よいかおんしら!今から言う事を一字一句違えずに黒ウサギへ伝えるのだ!間違える事は許さん!おんしらの不手際は、そのまま参加者の死に繋がるものと心得よ!」
「いや、言わずとも問題ないよ。白夜叉。貴女を封印した方法は兎も角として、このゲームについてはそこそこ解った」
白夜叉が緊迫した声で何かを伝えようとするのを遮るリュカ。
リュカは解っていると言い、次の言葉を口に出した。
「恐らくだけど、このゲームは作成段階で故意に説明不備を行っている可能性がある。最悪、ゲームのクリア方法が存在しないゲームなのかもしれない。次に今回襲ってきた魔王のコミュニティは新興のコミュニティの可能性が高い。少数精鋭と言えば聞こえはいいけども、あの“フォレス・ガロ”も魔王のコミュニティの傘下コミュニティだったんだ。それらが参加していないとなると、そもそも傘下コミュニティ自体がまだ存在していない可能性がある。ただ単に邪魔だったからかもしれないけどね。これで合ってる?」
「…………その通りだ。では私を封印した方法だがーーーー」
「そこから先は話させないわよぉ〜?」
ハッと白夜叉はバルコニーに振り返る。
其処には白装束の女が三匹の火蜥蜴を連れ立っていた。
その三匹が“サラマンドラ”の同士だというのは一目瞭然だが、一体どうしてか、敵であるはずの女に付き従っている。操られているのであろうか。
「あら、本当に封じられているじゃない♪最強のフロアマスターもそうなっちゃ形無しねえ!」
「おのれ…………!“サラマンドラ”の連中に何をした⁉︎」
「そんなの秘密に決まってるじゃない。如何に封印が成功したとしても、貴女に情報を与えるほど驕っちゃいないわ。…………ところで、一体誰と話をしていたのかしら?」
女は扉に視線を向けて、手に持つフルートを指揮棒のように掲げる。すると、火蜥蜴達が一斉に襲い掛かった。
「きゃあ!」
「あら、人間?てっきり“サラマンドラ”の頭首だと思っていたのに…………ま、いっか」
女は興味なさそうな視線を向け、再度フルートを振るう。
火蜥蜴は血走った瞳を向けて飛鳥達に跳びかかった。
「ヨウ!アスカにジンくんを連れて今すぐ逃げろ!」
リュカは耀に飛鳥とジンを連れて逃げ出すように言い、自らは火蜥蜴を食い止めるために前に出る。
耀はリュカの言葉に素直に従い、飛鳥とジンの手を掴んで旋風を巻き起こす。
女は鷲獅子のギフトを行使した耀に少しだけ驚く。
「あら、グリフォンの力かなにかかしら?随分と変わり種の人間ねえ。よく見てみると顔も端正で中々可愛らしいし…………よし、気に入った!貴女は私の駒にしましょう!」
嬉々とした声を上げる女を耀は無視して、二人を抱えて廊下に飛び去る。
女はその後ろを追わず、艶美な笑みを唇に浮かべ、フルートに息を吹き込む。
宮殿内に高く、低くーーーー妙なる魔笛が響く。
その音色は甘く誘うような響きで中枢器官を刺激する。
とりわけ優れた五感を有する耀には絶大な効果があり、歯噛みしながら耐えていたが遂には落ちてしまう。
「くっ…………!逃げきれなかったか…………!」
「私の魔笛からはだーれも逃げられないわよ…………って言いたかったんだけどねー。あの金髪の小僧には何故か効かなかったのよね。貴方はどうなのかしらね?魔物を従えることのできる自称魔王さん?」
「残念だが、僕にはその魔笛は効かないと断言できるよ。四対一…………中々絶望的な状況だ」
「よく言うわよ。火蜥蜴を殺さないように手加減しつつ全て抑えている貴方が今更私なんかが増えたところでどうにかできるわけないでしょ?」
リュカは今後の“ノーネーム”と“サラマンドラ”の関係を考えて火蜥蜴を殺さないでいた。
実際そんなことをする義理はリュカにはないが、“ノーネーム”にはあるのではないかと判断したためだ。
「まあ、話し合いによる時間稼ぎはこの程度でいいだろう。ジンくんにヨウは逃げ切れたわけだし」
「は?」
女が間の抜けた声を出す。
見れば、確かに耀にジンはこの場から立ち去っているようだ。
「うっそ、みすみす逃しちゃった…………。けど、うん。貴女も中々良いわね。本当、いい人材が大量だわ!」
「あら、随分と余裕じゃない。四対二ではあるけども、実質二対一よ?」
「貴女のギフトからすればそうなるわよねー…………。そこの自称魔王さんもかなり強いわけだし。だから私はマトモに戦わない」
女は魔笛を吹き鳴らす。すると、女の背後から何千何万ものネズミの大群が現れる。
それらはリュカ達に四方八方から一斉に跳びかかる。
「バギクロス!」
リュカは自分を起点にバギクロスを使う。
巨大な竜巻がリュカから発せられ、跳びかかっていたネズミ達は吹き飛ぶか切り刻まれた。
「大丈夫か、アス…………カ…………?」
リュカが飛鳥がいたはずの隣を振り向くとそこに彼女はいなかった。
どうやらネズミによって視界を塞がれた一瞬で連れ去られたらしい。
その事に気付いたリュカは顔を手で覆う。
「ああ…………またか。また、僕の手は届かないのか…………」
手は届かない。これはリュカが今まで体験してしまった事だ。
最初は敬愛する父を手助けしようと遺跡に向かった時だ。
あの時のリュカは自分には父を手助けするだけの力があると自惚れていた。結果は寧ろ自身を人質に取られ父をメラゾーマによって細胞の一片も残さずに焼き殺されてしまった。
二度目は行方が知れなかった母を助けようとした時だ。
父の仇に重賞を負わされ、仇を倒したはいいがそこを魔王に殺された。
そして、今だ。
二度あることは三度あるとは言うが、こんな三度あるはいらない。リュカはそんなことを思いながら顔を手で覆った。
「力が…………力が足りない…………。僕の大切な仲間に危害が及ばない程の圧倒的な力が…………!」
リュカは自身のギフトがどういったものか薄々感づいていた。感づいてはいたがそれでも尚力が足りない。そう感じてしまう。
そんな事を考えていた時に雷鳴が響き渡る。
それは黒ウサギが帝釈天から授かったギフトーーーー“疑似神格・金剛杵”を用いて起こしたものらしい。
「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返しますーーーー」
闇堕ちフラグみたいなのが進行中っぽい?
まあ、気にせんといてくださいな。計画通りですから。
そういやドラクエヒーローズでしたっけ?ドラクエ無双的な。面白そうですね。機体持ってないから意味ないけども。
次回はゲーム再開する……はず!