リュカ達は遂に決戦の日を迎えた。
この日に至るまでにあらゆるコミュニティのメンバーがペストに罹患し、隔離されてきたが、それでもかなりの人数がいた。
耀もその一人であったが、リュカのキアリーによって今はピンピンしている。
ピサロと戦った後に、ヤンガスの言葉を思い出し実行した結果だ。
呪いということだったので、シャナクの使用も考慮に入れていたのだが、ペストに罹るまでが呪いでそれ以降はただの病気だったらしい。
お陰で対象の体内から身体を蝕む毒を抜くキアリーで対処出来た。
「リュカ、私はどうすればいい?」
「ヨウは治したとは言え、病み上がりだ。ステンドグラスを壊すことに専念してほしい。勿論、敵が攻めてきたのなら迎撃していい。期待してるよ、ヨウ」
「ん、わかった」
耀は短く返事をして、ステンドグラス捜索隊に合流しに行った。
リュカの役割は特に定まっていない。
ステンドグラスを探すのでもなければ、魔王ペストと対峙するわけでもない。
だがやろうと思っていることはある。
ラッテンと名乗る女に攫われた飛鳥。
ラッテンを締め上げて彼女が何処に幽閉されているか訊く必要がある。
あの女が何処に現れてもいいように、魔物で偵察部隊を結成し、捜索させている。
暫く時が経つと、一匹のスライムが此方に近づいてくる。
「兄貴!こっから大体西の方角に兄貴が言ってた特徴の女がいたぜ!」
「ありがとうスラりん。さて、始めようか。僕達のゲームを」
「さあ、行きなさいシュトロム!」
ラッテンが陶器の巨兵に命令を下す。
シュトロムと呼ばれた巨兵は唸り声をあげ、ゲーム参加者に襲い掛かる。
その数は十を軽く超えていた。
レティシアが影で対抗する。
影で構成された牙がシュトロムを三体噛み砕く。
ラッテンはその攻撃を見て彼女が魔王ドラキュラであると確信する。
現在その霊格は劣っているようだが、だがらと言って油断出来ない相手だ。
そう思い距離を取るとーーーー、
「うりゃ!スラ・ストライク!」
「ーーーーッ⁉︎」
死角からのスライムによる不意打ち。
どうにか身体を捻り躱すが、かなり危なかった。
スライムは子供でも倒せるほど弱い魔物だ。
だが今のはどうだ?
パワー、スピード、存在感。
どれをとっても通常のスライムとは一線を画している。
いや、一線どころではない。
危険を感じたラッテンはシュトロムを一体スライムに向かわせる。
大きさで言えば圧倒的にシュトロムの方が上である。
体格差からくるリーチやパワーの差は如何ともしがたいものである。
普通ならば。
「ハッ!すっとろいなオイ!こんなんじゃ眼を瞑ってても躱せらぁ!」
シュトロムの剛腕は空を切るばかり。
スライムの攻撃はシュトロムに確実に傷を与えている。
寧ろスライムは遊んでいるようであった。
「シュトロム!嵐で吹き飛ばしなさい!」
シュトロムは命令に従い、嵐を巻き起こす。
だがーーーー、
「一羽でチュン!」
「二羽でチュンチュン!」
「三羽揃えば」
「「「バギクロス!!」」」
いつの間にやら空から近づいていた三匹のホークマンがそれぞれバギクロスを唱える。
三匹が同時に放ち、更に巨大な竜巻となったバギクロスはシュトロムの嵐を吹き散らし、逆にシュトロムを砕いてしまう。
「くっーーーー!」
ラッテンはその場から逃げ出す。
スライムやホークマン。
この魔物共をけしかけている相手がわかった。
わかったが故に逃げるのだ。
彼女では到底その相手には敵わない。
ラッテンからすれば今回のゲームの勝利条件の特性上戦う必要などないのだ。
ただ自分が愉しみたいから“サラマンドラ”の同志に襲わせたり、シュトロムを出したりしただけだ。
ならば今から全参加者から逃げる。そういう作戦に移行してもいいだろう。
だがそうは問屋が卸さない。
「ガァァァァァァ‼︎」
横合いからキラーパンサーが噛み千切ろうと飛び掛ってくる。
ラッテンは反射的にキラーパンサーがを蹴り飛ばした。
だがそこは地獄の殺し屋とまで呼ばれたキラーパンサー。
蹴飛ばされてもたいしてダメージを受けているようには見えない。
そもそもラッテンはヴェーザーほどの戦闘技能は有していない。
故にその攻撃力も高が知れているのだ。
そこからはスライム、ホークマン×3、キラーパンサーの猛攻が相次ぎ、ラッテンは何とか躱しながら逃げていた。
そこであることに気づく。
(これ、私誘導されている……⁉︎)
そう、明らかに一つの方向に移動させられているのだ。
それ以外の方向に行こうとすれば、魔物共が邪魔をしてその方向にしか行かせられないようにしている。
どうにかしたいと思えど、操ることも無理なのではどうしようもできず、とうとうその時が来てしまった。
「やあ、僕の招待に応じてくれてありがとう。歓迎するよ、盛大にね」
「別に応じてないわよ、イヤミなのかしら?」
「とんでもない。僕は貴女に訊きたいことがあって招待したんだよ。さあ、素敵なパーティにしようじゃないか」
ラッテンには勝ち目がない。それは純然たる事実である。
自慢の魔笛もリュカには効かず、戦闘能力においては言うまでもないほどの差があった。
仮に、仮に勝てるとするならば、パーティと称されるこの遊戯にラッテンを味方する乱入者が現れてくれることである。
だがそれは望むべくもない。
ヴェーザーはあの時の少年と戦っていて、魔王様もフロアマスターと“箱庭の貴族”に足止めされている。
逃げようにも魔物共が周りを取り囲んで目くらましでもしないと逃げ出せそうにない。
それならばーーーー
「目覚めなさい、シュトロム!」
ラッテンの背後から陶器の巨兵が一体だけ現れる。
先程の戦闘で全部出したものと思われたがまだ隠し持っていたらしい。
「嵐を!」
シュトロムが嵐を巻き起こす。
リュカはもちろんそれに対抗するためにバギクロスを放とうとする。
リュカのバギクロスはリュカが持つギフトの効果でバギクロスを覚えている魔物の数だけ強化されている。
故に、バギクロスで充分にシュトロムの嵐を吹き散らし、且つ破壊することができるのだがリュカはそれを止めた。
「いや、こうだな。バギ……ムーチョ!」
リュカはイメージした。
バギクロス数本が一斉に襲い掛かり、一つに纏まって超巨大な竜巻として相手を切り刻み、巻き上げるのを。
そしてイメージしたものをそのままシュトロムに放つ。
結果、それは成功した。
バギムーチョ自体は普通に存在する呪文の一つである。
ただ、リュカの世界にはその呪文は存在しない。
ひとえにそれが使えたのはリュカのギフトの特異性故である。
仲間が増える度に強化されるリュカだからこそ、複数本の竜巻が襲い掛かり、一つに纏まり超巨大な竜巻となるイメージができたのだ。
使える世界の者が使えばただの超巨大な竜巻にしかならない。
普通それだけで充分なのだが。
シュトロムの嵐は虚しく掻き消され、シュトロム自体は粉微塵となる。
それにめげずにラッテンは次なる策を講じる。
再び魔笛を吹き鳴らし、今度は飛鳥を攫った時と同じようにネズミの大群が現れる。
これには魔物達も思わずその物量に面食らい、ラッテンを逃す隙を許してしまう。
だが魔物だけだ。
「ぐっ……⁉︎」
突如として自分の体が重くなったのを感じたラッテンは何事かと周囲を見る。
特に変化はないように見える。
それでは自分自身に何かが起きたのか?
否、そうでもない。
では、一体何がーーーー?
「僕が君の周りの大気を石化させた。あの時のゲームで雲を石化させていたからもしかしたらと思ってやってみたが、どうやら正解だったようだ」
「そっ、んなデタラメをーーーー!」
「何を言っている?知らない方が悪い。ただ、それだけのことだろう?」
その通りだ。
空を飛ぶことが必須とされるゲームで翼を持たない猿が喚いても、それは持たない方が悪いのだ。
それがこの箱庭の流儀。
人であれど、悪魔であれど、神であれど、否定することなぞ出来ない。
「さて、君には訊きたいことがある。僕の仲間、君が攫った女の子、アスカは何処にいる?」
「知らないわよそんなの。いつの間にか逃げられていたからね」
ラッテンは嘘を吐くことなく真実のみを言った。
「そうか。それならばしょうがない。君の存在はもう不要だ」
リュカは右の掌に魔力を溜める。
それは次第に青白く色付き、辺りにスパークを奔らせる。
それは聖なる雷。
限られた血統の者、或いは極少数の魔物にしか扱えぬ破邪の技。
「ギガーーーー」
「あら、それを放つのは早計じゃないかしら?リュカくん」
呪文を唱え切る直前に聞き慣れた声が耳に入る。
深紅のドレスを身に纏った少女が、紅い巨人の肩の上に立ち、こちらを見ていた。
「遅かったじゃないか」
「あら、ヒーローは遅れてくるものと相場は決まっているのよ?」
少女、久遠飛鳥はニヤリと微笑んだ。
耀は治すが活躍の場は与えない。というか話が思いつかない。明らかに作者の実力不足。
えー、今回使いましたバギムーチョですが簡単に言いますと
普通の 150〜250のダメージ
リュカの 80〜130のダメージ×バギクロスを覚えている魔物の数+150〜250です。
リュカのギフトはこういうことにも使える。いやー、チート万歳!
ラッテンがアッサリと退場してペストをペロペロ( ^ω^ )するのは次回ってことでサラダバー