課題って怠いよね。這い寄る劣等感です。
あんなもんがあるから世の学生達は気儘に生きられないんや……!
それはそうとどぞー。
上空4000mに突如として飛ばされた四人と猫一匹は重力に従うまま、落ちていく。
落下地点と思わしき場所には緩衝材のような薄い水膜が幾重にもあり、それが衝撃を吸収し彼らは湖に投げ出された。
ポチャンと着水。水膜で勢いが衰えていたため、四人は無傷だが、耀とともに落ちてきた三毛猫はそうもいかない。慌てて耀が抱きかかえ、水面に引っ張り上げる。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「…………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
二人の男女は互いに罵詈雑言を言った後に鼻をフンと鳴らし服の橋を絞る。
その後ろに続く形で耀が岸に上がり、同じように服を絞る。
「服が濡れてしまったな。乾かさないと……」
そんな中でも一人だけ引き摺り込まれたことにしても服が濡れたことにしても何も言わずにそそくさと服を脱ぎ出した。
彼の頭の中にあるのは風邪を引いてはいけないといいった気持ちだけだった。
「此処…………何処だろう?」
「さあな。まあ、世界の果てっぽいのが見えたし、何処ぞの大亀の背中じゃねえか?」
耀の呟きに十六夜が応える。何にせよ、彼らが知らない場所であるというのは事実だった。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。ーーーー私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」
「…………春日部耀。以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。そこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と容量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜くん。最後にそこの…………って、あ、貴方は何をしているのよ⁉︎」
飛鳥ぎ最後にリュカの自己紹介を訊こうとそちらを向いたら彼女の頬は朱に染まった。
何故なら彼は下着を残してほぼ全裸だったからだ。
今まで温室育ちなお嬢様である飛鳥にはとても強い刺激だった。
「……ん?あぁ、僕かい?僕の名前はリュカ・グランバニア。本当はもっと長いけど、気にせずにリュカって呼んでくれ」
「そ、そう。よ、よろしくね、リュカくん」
上半身は完全に剥き出しになっているリュカをチラチラ見ながら挨拶をする飛鳥。
一方、十六夜はリュカの身体を冷静に観察していた。
(……へぇ)
服を着ていてーーーー服と言ってもボロ布当然だったがーーーーわからなかったが、リュカの身体は細身ながらかなり筋肉質だ。
それも全体的に筋肉がついている。全身余さずに均等に筋トレをしたか、或いは実戦を何度もこなしたか。
外人風の名前から前者だと最初は考えるが、それにしては着ている服があまりにもボロい。故に十六夜は彼は後者の人物だと判断した。
(幸先がいいな。俺と同じく呼び出された奴の中に俺じゃ経験出来なかった戦いを何度もこなしている奴がいるなんてな。後で喧嘩ふっかけてみるか?)
と、傍迷惑なことを考えていた。
そんなことに気付かずにリュカは自分の身体に起きたことに不思議に感じていた。
確証はないが、確信はある。そんな感じが自分からする。
確信がその通りなら今の自分には使えるはずだ。
「……メラ!」
そう彼が言うと彼の掌から小さな火の玉が放たれる。それは地面に着弾し、そこにある草を燃やし小さな焚き火となる。
彼の中の確信が確証に変わる。何故かは知らないが今まで使えなかった呪文が使えるようになっている。だが彼が抱いたのはこれは便利だということだ。
現にこうして焚き火が出来るのだから服を乾かすにはもってこいだ。彼が使えるバギ系呪文ではそうはいかなかっただろう。
「凄いわね、リュカくん。手から火の玉を出せるなんて」
「え?クドーは出来ないのかい?」
「クドーってなんで苗字……そう言えば外国の人は名前が前に来ると聞いたことがあるわね。いい、リュカくん?私は貴方たち風に言うのならアスカ・クドウよ。あっちの猫を抱きかかえている女の子がヨウ・カスカベでそっちの凶暴そうなのがイザヨイ・サカマキね」
「そうなのか。君たちの国では苗字が前になるんだね。あっ、そうそう。皆も服を乾かしなよ。このままだと風邪を引くよ」
「そう。ならお言葉に甘えるわ」
飛鳥の言葉を皮切りに十六夜に耀も焚き火の近くに寄る。
そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。
(うわぁ…………一人を除いて問題児ばっかりですねえ…………)
召喚しておいてアレだが…………一人を除き彼らが協力する姿は客観的に想像もつかなかった。黒ウサギは陰鬱そうに重くため息を吐くのだった。
「で、呼び出されたはいいとしてなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「…………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
問題児三人が三者三様の罵詈雑言を浴びせている様を見て黒ウサギは怖気づきそうになるが、此処は我慢と思った瞬間声がかけられる。
「君は何をしているんだい?」
「フギャ!」
突然声をかけられて驚いた黒ウサギはその場で跳び上がる。まさか場所が気付かれているとは思わなかったのだ。
「なんだ、リュカくんも気付いてたのね」
「と言うと、君達も?僕が最初に魔物にかけられる視線と同様なものを感じたからね」
「…………へえ?面白いなお前」
軽薄そうに笑う十六夜だがその目は笑っていなかった。リュカ以外の三人は冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。その視線に黒ウサギはやや怯んだ。
「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「いいよ」
「あっば、取りつくシマもないですね♪それと最後の方はありがとうございます」
バンザーイ、と降参のポーズをする黒ウサギ。
しかしその眼は冷静に四人を値踏みしていた。
(最後の方以外肝っ玉は及第点ですね。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。最後の方はよくわかりませんね。しかし、とても澄んだ眼をしていらっしゃいます。間違いなく、この三人より扱いやすいでしょう)
黒ウサギはおどけつつも、四人とどう接するべきかを冷静に考えを張り巡らせているーーーーと、春日部耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、
「えい」
「フギャ!」
力いっぱい引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか⁉︎」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。
「…………。じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待ーーーー!」
今度は飛鳥が左から。左右に力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。
「ーーーーあ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス。それにリュカさんはなんで助けてくれなかったのですか!」
「子供たちを見ている気分だったからね。ホンワカしたよ」
子供?と黒ウサギは疑問に思うが、今この時はこの世界についての説明をしなくてはならないと思い、語り出した。
「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』の参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです!既に気付いていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合うゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に作られたステージなのでございますよ!」
両手を広げてアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手をした。
「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」
「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者”が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」
「…………。“主催者”って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが、“主催者”が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな“恩恵”を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて“主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者は結構俗物ね…………チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間…………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然ーーーーご自身の才能が失われるのであしからず」
黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。
挑発ともとれるその笑顔に、同じく挑発的な声音で飛鳥がと問う。
「そう、なら最後にもう一つだけ質問させてもらってもいいかしら」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
「…………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
お?と驚く黒ウサギ。
「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰しますーーーーが、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている賞品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能と言うことですね」
「次は僕が質問していいかな?ーーーーこの世界からはどうやったら帰れるんだい?」
黒ウサギの笑顔がピシリと固まる。流石にこの事態を想像していなかったのだ。
あの手紙を受け取った以上、少なからず捨てる覚悟は出来ているものだと考えていた。が、どうやら彼は違うらしい。
「えーっと………帰る方法…………ですか。流石にそれは難しいですね。一度こちらに呼び出された以上、それ相応の実力だとかを示さないといけませんから」
「それはつまり帰る方法はあるけど帰らせる気はさらさらない、ってことかな?それ相応の実力だなんて、どんな方法で示すのか、どこで示すのか、いつ示すのか誰に示すのか、それら全てをぼかしている以上、そもそも知らないか帰らせたくないかのどちらかしかない。だけど僕はここに呼び出されたのなら帰る方法はあると思っている。その上で訊くね。ーーーー帰らせる気はないんだね?」
黒ウサギの顔が引き攣る。
マイペースな行動から彼が頭を働かせるということが想像できなかったのだ。故に今この場において黒ウサギは彼に対する返答を持ち合わせていない。
そんな黒ウサギに彼は容赦なく次の質問、と言うよりは確信に近い疑問をぶつける。
「じゃあ次に何故僕達が呼ばれたかだけど黒ウサギはオモシロオカシク生活できると言っていたから僕達にもそういう風に生活してもらいたいという善意から呼んだと考えていたけど多分違うよね。さっきのコミュニティだっけ?黒ウサギも属しているはずだよね。僕の予想で悪いけどかなり崖っぷちなんじゃないかな、そのコミュニティ。何らかの理由で衰退したコミュニティを再び復興させる為の戦力の増強要員として僕らを呼んだ。違う?」
今度こそ黒ウサギは悟った。
この青年は賢い。一の言葉から十の全容がわかる人物だ。
だから黒ウサギは諦めた。口ではおそらく敵わない。ならば素直に話す方が吉だろうと考えた。
「確かにその通りです…………が、どうしてバレました?そのような事一言も言っていない気がするのですが」
「必ずコミュニティに属する辺りかな。イザヨイが否定したのに対して君は過剰ともとれるほどの反応を見せていた。だからそうなんじゃないかなって考えたんだ」
「そうですか。たったそれだけの事で…………。いいでしょう。精々オモシロオカシク聞こえるように我がコミュニティの内情を話します」
そうして黒ウサギから語られたのは彼女の属しているコミュニティがいかに凄惨な状況になっているかだった。
名を取られ旗を取られ仲間も取られてもう何も残っていないを形容するに相応しい状況であった。
そしてそれを起こしたのがーーーーーーーー魔王。
その言葉を聞いた時にリュカの顔が強張った。
「…………魔王?その存在が黒ウサギのコミュニティをどうにかしたとそう言うんだね?」
「え、ええ。多分、リュカさんが思い描いている魔王とは差異があるかと思いますが」
「いや、そうかもしれないけど別にどうでもいいんだ、そこは。魔王、魔王かぁ。うん、わかった。僕はコミュニティの復興に協力するよ。だけど家族には誤魔化さないといけないよなぁ」
「えっ⁉︎本当でございますか⁉︎ありがとうございます!しかし、どうやって連絡を取るのです?」
「ああ、それだけどここに来た時に幾つか違和感を感じているからその内の一つを消化する形かな」
リュカの返答に黒ウサギはキョトンと首を傾げる。
対してリュカはまたもや確信めいた何かを感じ、それを実行に移す。
彼が手を横に翳すと、翳された地面には魔方陣が広がり、そこから見た目はドロドロとした赤い色をした何かが現れた。
「本当に出来るとは思わなかったけど上手くいったな。いいかい?ジェリー。僕にモシャスして面会者には君が上手く応対してくれ。あとはオジロン叔父さんとビアンカ、ティミーにポピー、それに親衛隊の中でもピピンにはこの事を伝えておいてくれ」
そう彼が不定形のドロドロの何かに言うと、それは頷いたように上下に動き、煙に包まれる。
煙が収まった時に立っていたのはリュカその人だった。ドロドロの何かが変身したリュカは再び魔方陣に乗りこの場から消えた。
「…………今のは何?」
リュカに耀が質問する。その瞳はキラキラと輝いていた。余程知りたくてたまらないのだろう。
「僕がいたとこに生息しているジェリーマンって魔物でね。モシャスっていう変化の呪文を使えるんだ。で、僕に変化させて送り返した」
「…………他にもまだいる?」
「魔物が、という意味ならまだまだいるよ。でも後でね」
とリュカと耀がほのぼのと会話をしていた時に黒ウサギは驚いていた。
(魔物を使役⁉︎まさか、あり得ないのですよ!魔物を使役することが出来るなんてそれこそ魔王じゃないですか!)
この事は大変な事実だ。どうせギフトを鑑定させに行くのだからあの人に知らせておいた方がいいのかもしれない。この事が知られたのなら冗談でなくリュカが討伐される可能性さえあるのだ。
「さて、話はまとまったことだし、俺からもいいか?ーーーーーーーーこの世界は面白いか?」
最後まで質問をしていなかった十六夜が質問する。
それは手紙に書いてあった内容に見合うだけの催しがここであるのかを問う質問だ。
リュカはともかくとして飛鳥と耀もそれは気になっていたのだ。
黒ウサギは頭の中に浮かんだ嫌な考えを押し殺し、言う。
「ーーーーYES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」
リュカさんが気付いたのが無理矢理すぎると感じる今日この頃。気にしない方向で進めて行きます。
今回の相違点はジェリーマンを仲間にしていること、そしてジェリーマンのモシャスは魔物にしか変われないはずなのに人間にも変われていることです。
まぁ、あれですよ。リュカさんが育てた魔物達はすべからく強力になってるんですよ!