今回遅れた理由
・寝落ち
・書き溜めのデータがしめやかに爆発四散×3
こんな感じ。
あれかな?平将門公を将門って呼び捨てにしたのがいけなかったのかな?
この場合お祓いって寺?神社?
取り敢えず確実に前話よりクオリティの低い今回のお話どぞー
白夜叉とのゲームを終え、噴水広場を越えて五人は半刻ほど歩いた後、“ノーネーム”の居住区画の門前に着いた。門を見上げると旗が掲げてあった名残のようなものが見える。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので…………」
「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
飛鳥は純粋な好奇心からその言葉を発した。箱庭における天災の魔王。白夜叉は元魔王らしいが、リュカに負けた。なら現役の魔王の実力がどの程度のものか知りたいと思うのも無理はない。
黒ウサギは躊躇いつつ門を開ける。すると門の向こうから乾ききった風が吹き抜けた。
砂塵から顔を庇うようにする四人。視界には一面の廃墟が広がっていた。
「っ、これは…………⁉︎」
街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜はスッと目を細める。リュカは何かを考えるそぶりをしていた。
十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸を手に取る。
少し握ると、木材は乾いた音を立てて崩れていった。
「…………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのはーーーー今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」
そう、彼ら“ノーネーム”のコミュニティはーーーーまるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。
美しく整備されていたはずの白地の街路は砂に埋もれ、木造の建築物は軒並み腐って倒れ落ちている。要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれて折れ曲がり、街路樹は石碑のように薄白く枯れて放置されていた。とてもではないが三年前まで人が住み賑わっていたとは思えない有様に三人は息を呑んで散策する。
「…………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
十六夜はあり得ないと結論付けながらも、目の前の廃墟に心地良い冷や汗を流している。
飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうな感想を述べた。
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「…………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
「…………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ…………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
「これならまだ問題ないな…………。思ったより早く済みそうだな…………」
「な、何がでございます?リュカさん」
「あれ?聞こえてたんだ。なら言うけど正直僕としてはこの傷跡ですらこの程度のものか、って感想なんだけど」
リュカの一言に四人は目を見開く。十六夜だけは種類が違うようだが、根幹にあるのは驚愕には間違いないだろう。
「こ、この程度…………ですか…………?」
「うん、この程度。確かに大地は痩せ細り、水は涸れ果てて、建物は風化しきっている。でも、僕が経験してきた事と僕の立場から言わせてもらえばこの程度なんだよ」
「経験してきた事と立場?聞かせてもらおうじゃねえか」
「そうだね。僕は王となる前に村に住んでいたんだけどその村がある理由で焼き討ちされたんだ。ご丁寧に毒まで撒かれていた。規模だけで見ればこのコミュニティの惨状よりは酷くはないようにみえるけど、実際は人が住むには適さない環境になっていたんだ。けどなんとか復興したよ。二十年という月日をかけて。そこから言わせてもらえばここは人が住めるだけまだいい環境だと言える。この分なら二十年とかけずに元通りになるんじゃないかな」
「経験はわかった。寧ろ凄えな。お前の世界の話を聞いてたらそこまで技術は高くないように思えるのにたった二十年で村一つとはいえ復興できるなんてな」
「村人達が頑張った結果だよ。次に立場から言わせてもらうと僕は王だけど、王一人だけじゃとても国とは言えないよね。なら国が国たり得る条件は何かわかるかな?」
「国民、領土、主権の三つだな。この場合主権は政府とも置き換えられるけどな」
「政府って元老院とかそういう感じの機関と考えていいのかな?まあ話を進めるけどこのコミュニティを国とするなら子供達、国民がいて領土がある。あと足りないのは主権或いは政府だけだ。この政府はつまりトップを含めた幹部連中になるんだろうけど…………子供達という人材もあり僕はともかくとしてイザヨイやアスカにヨウといった面々もいる。これも僕がこの程度だって言った理由。まあ要するに深い手傷を負っているように見えるけど、本当はそうでもないって感じだね」
リュカの言い分に彼らは納得する。成る程、確かに三年前に起こった魔王の襲撃で受けた傷はとても大きな存在が行ったとわかる。が、ゲームを行える仲間はともかくとして子供達は生きていて土地もある。これなら再起する分には簡単に済みそうだ。尤も、再起以上の事をするのなら話は変わってくるが。
「それにだ。本当に心が折れているのなら黒ウサギ達は僕達をここに呼ぶ必要は無かったはずだ。それでも呼んだのは気概があったからだろう?このコミュニティを取り戻すための」
時は進みリュカは書庫にいた。かつて栄えていた現在の“ノーネーム”が所蔵している蔵書の数々。それらを数冊程取り出しそれを読んでいた。
(この世界には様々な世界の修羅神仏などが集まっている。イザヨイ達の世界の事を訊ねてみたけど、少なくとも僕が知る限りアマテラスだとかスサノオだとかそんな神の名前は聞いた事がない。アスカやヨウも同じ神の名前を口にしていたから三人は同じ世界の出身なのだろう。だが僕は違う。魔物関連の知識なら兎も角として他の知識はイザヨイ達に遥かに劣っているのだから今の内に詰められるだけ詰めないとな。…………それにしても文字が普通に読めるな。僕がいた世界なら兎も角、他の世界まで言語が同じだと言う事はないだろう多分。箱庭には自動翻訳機能でも付いているのかな?)
リュカは書物を読み漁り、取り敢えずではあるが知識を詰め込む。彼の世界は一神教…………と言うよりはそもそも神と呼べる存在が一人…………一匹?しかいないから自然、崇拝されるのもその神だけとなるのだ。地域地域では精霊信仰もあるだろうが、それ自体も神の配下なのだから結局は神を祀っている事になるのだ。
ズドガァン!
突如、轟音が鳴り響く。それに衝撃も伴っていたのか、書架から幾つか書籍が飛び出してしまう。
「あらら…………本は大切に扱わないといけないのにな。イザヨイかな?多分、遊んでいるんだね」
リュカは落ちた本を拾いに向かう。拾った本を書架に戻しそれを幾度か繰り返し最後の一冊を拾う。だがリュカはその一冊を書架に戻す事をしなかった。何故か。本のタイトルが気になったからだ。
『呪文極みの書 著者 大魔導師ポッピン』
…………正直言えばタイトルよりも著者名の方が気になったと言えなくもない。ポッピンという自分の娘と似通った名前の人が書いたというのも戻さなかった要因かもしれない。
リュカは何気なくその本を読んでみた。
「これは…………凄いな。僕が知りうる限りの全ての呪文が載ってあるし、僕が聞いた事もない呪文も載ってある。しかも全て解説付き。これさえあれば適性がある人はある程度の呪文は覚えられるだろうな。ただ問題があるとすれば…………」
リュカはそこで言葉を区切る。そして誰も聞いてはいないが喋る。
「見た限りだと何故か僕が使えそうはないと思う呪文が載っていない。少なくとも僕がいた世界で僕はメラ系統の呪文もヒャド系統の呪文も使えなかったはずだ。まあ、イザヨイ達と会った時にメラは使ったけどね」
そう、問題があるとすれば今のリュカに使えそうにない呪文が載っていないと言う事。これは明らかにおかしな事である。
少なくとも彼がいた世界においては呪文には向き不向きがあり、その時のリュカは攻撃系の呪文だとバギ系統の呪文しか使えなかったはずだ。
だがこの箱庭に来てから何故かメラ系統の呪文が使えるようになったし、この本を見る限り載っている呪文は全て使えそうなのだ。
「…………まあ、おいおい考えるとするか。…………あれ?この本、最後の方何枚か白紙だな。落丁本なのかな?…………今は明日のガルド戦だけ考えておくか」
リュカは明日に控えているガルド戦に向けて取り敢えず明日のゲームに使えそうな幾つかの呪文をそれはもうアッサリと覚えて眠りにつくのだった。
「あ、皆さん!見えてきました…………けど、」
黒ウサギは一瞬、目を疑った。他のメンバーも同様。それというのも、居住区が森のように豹変していたからだ。ツタの絡む門をさすり、鬱蒼と生い茂る木々を見上げて耀は呟く。
「…………。ジャングル?」
「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ」
「いや、おかしいです。“フォレス・ガロ”のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはず…………それにこの木々はまさか」
ジンはそっと木々に手を伸ばす。その樹枝はまるで生き物のように脈を打ち、肌を通して胎動のようなものを感じさせた。
「やっぱりーーーー“鬼化”してる?いや、まさか」
「ジン君をここに“契約書類”が貼ってあるわよ」
飛鳥が声を上げる。門柱に貼られていた羊皮紙には今回のゲームの内容が記されていた。
『ギフトゲーム名 “ハンティング”
・プレイヤー一覧 久遠 飛鳥
春日部 耀
リュカ・グランバニア
ジン・ラッセル
・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド・ガスパーの討伐
・クリア方法 ホスト側が指定した武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約”によってガルド・ガスパーを傷つけることは不可能
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合
・指定武具 ゲームテリトリーにて配置
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下“ノーネーム”はギフトゲームに参加します
“フォレス・ガロ”印』
「この条件だと僕達ではガルドを傷つけられない事になるね」
「そ、そうです!ガルドは自分の命を“契約”に組み込む事で皆さんの力を克服したのです!」
「観客的には面白くていいけどな。命張って五分にまで…………ああ、いや、リュカがいるからどう足掻いても一分もねえな相手の勝率」
「お褒めの言葉ありがとうイザヨイ。けどそれは過剰評価過ぎるよ。ま、ここでクヨクヨしててもしょうがないから早いとこ入ろうよ」
そう言ってリュカは臆する事なく門を開け、リュカを先頭に四人は中に入って行った。
「さて、ガルドだが本拠にいるだろう」
「どうしてそう言い切れるのかしら?」
「経験則。だけじゃあ納得出来ないだろうから言っていくよ。ガルドは明らかに僕達より実力が下なんだ。ならば守りに入るのが当然。ここで攻勢に出る事はまずないだろう。したところで少々手傷を与えられるだろうけど動かなくさせる事は出来るからね」
「だけど他の場所に隠れている可能性だってあるじゃない。そこのところはどうなのよ?」
「確かにそれもあるだろう。けど、それなら門の入口近くに潜んでおいてゲーム開始の瞬間にこちらを奇襲すれば少なからず被害を被るんだ。だがそれをしてこない以上、一番可能性が高いのは本拠だ」
「こっちでも確認した。ガルドは本拠にいる」
耀が鷹の眼を用いてガルドが本拠にいる事を確認する。飛鳥はリュカの推測が当たっていた事に感心する。そして同時に実感する。リュカは自分達がいた微温湯に浸かったような世界出身じゃない事を。
一同はリュカの推測と耀の確認に基づき、警戒しながら本拠の館へ向かい始めた。侵入を阻むように道を侵食している木々はまるで命じられたかのように絡み合っている。
「見て。館まで呑み込まれてるわよ」
“フォレス・ガロ”の本拠に着く。虎の紋様を施された扉は無残に取り払われ、窓ガラスは砕かれている。豪奢な外観も今では見る影も無い。
「ガルドは二階にいた。私と飛鳥が二階に行くから、リュカとジンは一階で武具のヒントがないか探してて」
「ん。適材適所だね。いい判断だ。ついでに退路を守る役目も担わせるとはね」
「待ってください!適材適所と言うのならお二人よりもリュカさんの方がいいのでは?黒ウサギから聞きましたよ。ハンデがあったにしろ白夜叉様に一撃を与えたと。そのような実力を持っているのなら不意の事態が起こっても対処出来るのでは?」
「確かにそうなんだけどね。言ってしまえば二人と僕の違いなんて経験の差だよ。で、今回はいい具合にほぼ死ぬ心配のない相手がきたんだ。こういう時にこそ経験を積ませないと。それに仮に死んでも蘇らせれるしね」
「ちょっと待ってください。リュカさんは死んだ仲間を蘇生する事が出来るのですか⁉︎」
「え、うん、出来るよ。まあ確率は五割だけど」
この事実にジンは驚愕する。魔物を従えるギフトですら魔王認定されてもおかしくないものなのにその上蘇生系のギフトまで持っていたとは。予期せずしてかなりの戦力を拾ったのかもしれない。
「あら、私達が死んだら蘇らせてくれるのかしら?」
「蘇らせるけどこんなとこで死んだら徹底的に扱くからそのつもりでいてね。あと不甲斐ない結果でも扱く」
飛鳥に耀はニコニコ笑いながらもその実眼が全く笑っていなかったリュカに僅かながら恐怖を覚えそそくさと二階に上がったのだった。
「リュカ君、怒らせると怖いタイプなのかしら」
「…………多分。でも、とても優秀。今は確実に私達よりも強い。その上で私達を行かせた」
「ええ、とても悔しいわね。彼ならそれこそ簡単に終わらせられるのでしょうけど」
「なら結果を出せばいい。私達二人でガルドを仕留める」
「ええ、じゃあ行くわよ。1、2…………3!」
飛鳥の号令と共に階段を上った先にあった最後の部屋の扉を勢い良く開けると、
「ギ…………」
「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
言葉を失い、理性も失った虎の怪物が、白銀の十字剣を背に守って立ち塞がった。
目にも留まらぬ突進を仕掛ける虎を受け止めたのは、飛鳥を庇った耀だった。
辛うじてガルドの突進を避けた耀は、階段に突き飛ばした飛鳥に向かって叫ぶ。
「逃げて!」
互いに後の言葉は続かない。ガルドの姿は先日のワータイガーではなく、紅い瞳を光らせる虎の怪物そのものとなって三人を待ち構えていたのだ。階段を守っていたジンにリュカはガルドの姿を見るや否や、彼がどうなったかを察する。
「鬼!しかも吸血種!やっぱり彼女が」
「つべこべ言わずに逃げるわよ!」
飛鳥はジンの襟を掴んで階段から飛び降りる。
「ま、待ってください!まだ耀さんが上に!」
「それなら僕に任せて先に行け!」
「いいから逃げなさい!」
飛鳥の命令に、ジンの意識は津波に巻き込まれたように途切れた。
ジンは館から逃げ出す事だけ神経が集中していくのを感じた。ジンは飛鳥の手を握ると、
「一気に逃げます」
「え?」
飛鳥を腰から抱きかかえ、壁を蹴破って外に出た。
リュカはそれを見送るとすぐさま上に向かう。彼女は無事…………ではなかった。右腕に裂傷を負っている。傷の深さはともかくとしてあの流血だと命に危険がある。だがこの場での治療は無理だ。いや、正確には出来るが今やると問題がある。ので、
「失礼」
リュカは耀を軽く持ち上げそのまま走り去る。リュカの身体能力は決して耀に劣らない。寧ろ優っている。だがリュカは油断しない。だから、
「ピオリム」
自身に敏捷向上呪文を掛ける。これは昨日覚えた呪文の一つで少なくとも自分がいた世界には無かった呪文だ。効果の程はざっと体感からして一回掛けただけでも本来の素早さの1.5倍近くはありそうだ。下手すると2倍かもしれない。
そうして耀を抱えたリュカは一目散にジン達を追っていた。
二人の傍の茂みが揺れる。
「誰?」
飛鳥は最悪の事態を想定して一応ではあるが問いただしてみた。
「僕だよ。ヨウを連れてきた」
そこにはリュカの姿があった。一安心したのも束の間、リュカの腕に抱えられている耀の右腕が血塗れなのを見て悲鳴のような声を上げた。
「か、春日部さん!大丈夫なの⁉︎」
「大丈夫じゃ…………ない。凄く痛い。ちょっと、本気で泣きそうかも」
「ま、まずい!傷そのものよりも出血が!このままだと…………!」
「慌てるな!治療なら僕が出来る」
「え?」
リュカが耀を丁寧にその腕から地面に下ろすと耀が傷を負った右腕に自らの右手を翳した。
「ベホイミ」
リュカの右手から淡い緑色の光が出る。その光にさらされた傷は見る見るうちに塞がっていき、遂には完全に塞がった。先程まで泣きそうと言っていた耀も痛みが引いたのか、リュカの治癒に鎮痛作用でもあったのかケロリとしていた。
「凄い。ここまで高度な回復は僕達のコミュニティにある治療用のギフトを黒ウサギが使う事でしか出来ないのに」
ジンは更に驚愕する。蘇生もできて回復も出来る。これは途轍もない事だ。極端な話、リュカさえいれば他のメンバーはいらないのではないかと思ったくらいだ。
「…………どうして?」
「ん?何がだい?」
「治療出来るのなら、どうしてあの場でしなかったの?そんなに、私が信用できなかった?」
耀は淡々とリュカに訊く。それに対しリュカは、
「ああ、信用できなかった」
と、バッサリ返す。
「ちょっと幾ら何でもそんな言い方は…………」
「じゃあ、ヨウ。逆に訊くけど、血を流した後或いは流している最中に身体を動かした経験、ある?」
飛鳥がリュカを窘めようとした時にリュカが耀に訊き返す。それに対し耀は、
「…………ない」
僅かな沈黙の後に無いと答える。
「それが答えだ。僕が信用できなかったのは君の人柄とかそういうのではなく、君自身の経験だ。僕のように怪我を負いながらも戦ったとか、死にかけでも尚戦った経験があるのならその場で回復しただろう。だが君は違う。少なくともアスカみたいな貴族の出ということはないだろうが、それでも戦闘どころか喧嘩すら経験した事がなさそうな子だ。そして、君は聡い子でもある。血を流した後に動いたらどうなるかは、わかるよね?」
「…………脳貧血が起こる。脳に回る酸素が少なくなって立ちくらみや下手すれば失神もあり得る」
「そうだ。僕のさっきの呪文は傷を塞ぐだけ…………少しは鎮痛作用とかあるのかもしれないけど、別に血を作ってくれるわけではないし、失った体力が戻るわけでもない。あの場で回復をすれば君は死の危険すらあったんだ。いくら蘇生出来るとはいえ、仲間が目の前で死ぬのは見ていられない。…………少し長くなってしまったが、話は終わりだ。不甲斐ない結果なら扱くと言ったが、今回はガルドの変化を見抜けなかった僕にも落ち度がある。だから、OHANASHIはしない。でも、ヨウはもう少し仲間に頼る事を覚えた方がいい。アスカは確かにあの場では君より弱く、頼りなく写ったのかもしれないけど、仲間に頼る事は決して恥じゃない。…………ヨウ、君はリタイアだ。残り少ないゲームの時間でも横になっていた方がいい。僕とアスカでガルドを討伐しに行く。ジン君、ヨウの事は任せたよ」
「え?あ、ハイ!」
リュカは耀をジンに任して飛鳥と共に本拠の館まで戻った。
「さて、アスカ。あんな目にあったが、僕は君に三つの選択肢を与える。それのどれを選んでもらっても構わない。君の好きなようにするといい」
「三つの選択肢?聞かせてもらってもいいかしら」
「一つ目、僕が討伐する。最もリスクが少ない方法だ。耀がこの剣を持ってきてくれたんだ。幸い僕は剣の扱いに慣れていてね。十分に活かす事が出来る。
二つ目、アスカをメインに据えて僕がサブで行動する。僕がアスカの身体能力を底上げするから一つ目に比べると若干リスクが増すがまだ安全だ。
そして三つ目、アスカだけで討伐する。これが最もリスクが高い。僕は身体能力を向上させる事もしない。まあ、ほんの少しだけなら手伝ってもいいけどね。さあ、どれを選ぶ?」
「そんなの、当然三つ目よ。貴方は春日部さんに仲間を頼れと言った。けどその上でそんな選択肢を与えるということは私だけでも勝てる見込みはあるってことでしょう?そして、その方法を思いついたからほんの少しだけ手伝ってもらうわね」
「了解、お姫様。貴方の期待に僅かながら応えてみせましょう」
ガルド・ガスパーは屋敷の二階で蹲っていた。
先程の戦いで男に連れ出された少女に左足を斬りつけられ、流血が一向に止まらないのだ。
原因は銀の剣で斬られた事だろう。銀には破魔の力が宿っており、悪魔に魂を売り払ったお陰で今この結果があるというわけだ。
彼が獣として生きていた時には怯えという感情は一切無かった。だが今ではどうだ。力を、金を、権力を手に入れ感じたのは上には上がいるという事実。今では“ノーネーム”となっているコミュニティに“箱庭の貴族”がいるという事に対する嫉妬。
いずれも獣だった時には存在すらなかったものだ。たが今は獣としての野生を取り戻しつつあった。
屋敷に異変が起きたのもその直後であったが。
(………………………⁉︎)
鼻を刺激する異臭。遥か昔、森で嗅いだ事のある臭い。しかしそれが何時だったか、どういう状況だったかが思い出せない。ただ胸騒ぎだけが本能をくすぐっている。
侵入者がいない限り部屋からは出ないという決意が揺らぐほどの不安が押し寄せる。堪らず飛び出たガルドは一階の惨状に唖然となった。
(屋敷が…………燃えている…………⁉︎)
怒りより先に湧き上がるは恐怖。火を恐れる獣としての習性。それは彼が虎児だった時に焼き付いた恐怖の記憶。
「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
一目散に屋敷を飛び出し、蘇った森を駆ける本能だけが今の彼を突き動かしていた。
「…………待っていたわ。思っていたよりも早かったのね。それにしても、リュカ君のベギラマって言うの、凄いわね。一階部分を全部包む程の炎なんて」
虎はそこで足を止める。警戒心からではなく、標的の持っていた瓦礫に灯した炎と、白銀の十字剣に対しての恐怖だった。
「あら、今更尻込み?“フォレス・ガロ”のリーダーとして積み上げた物はもう何も残っていないはずでしょう?ならせめて、森の王者として勇ましく襲い掛かってくるべきじゃないかしら?」
そんな挑発も今や虎の身である彼にはわからない。
そもそも理性が残っていたのなら、森の異変に気付いたはずだ。侵入者を阻むように伸びていたこの木々が、まるで導くように左右に分かれて一本道になっていた事を。
「…………。言葉を通じないのかしら?それもそうよね。今の貴方は完全に虎だもの」
「アスカ。獣にも理性はあるよ。本能の方が基本上回るだけで」
飛鳥の言葉をリュカが窘める。飛鳥は言葉に小さくごめんなさいと言う。リュカはそれに気にしなくていいから君が考えた方法を見せてごらんと言った。
「ホント、リュカ君ったら私の事子供扱いしているわね。まあ、実際の年齢が十歳ほど離れていたら当然か。さあ、ガルド。一対一です。来なさい」
「ーーーーGEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
ガルドは一本道を駆ける。理性があったのなら気付けただろうが、道を限定されるということは動きを限定されると言うこと。
「はっ…………!」
正面から飛び込んだガルドに、同じく真正面から飛び込む飛鳥。だが飛鳥の細腕でガルドを斬る事は出来ない。リュカにバイキルトでも掛けてもらったら別なのだが、今回はそれはない。白銀の十字剣が輝きを放ち始めたのはその時だった。
飛鳥のギフトはほぼ手付かずの原石の才能だった。
高い素養と飛鳥の強い意志が力と成り、無意識に様々な動植物や現象に力を与えていたのだと、昨夜の本拠で黒ウサギは論じた。
黒ウサギ曰く、飛鳥のギフトは“支配する”という属性に傾いているらしい。だが飛鳥は人を支配する力が強くなる事を拒んだ。それも全ては逆廻十六夜や春日部耀、リュカ・グランバニアのように、支配する事なく戯れられる友人への想いからだ。…………一名ほど自分を子供扱いしているような人もいる気はするが、まあいいだろう。
今ある才能は捨てられず、一から育てるには余りにも時間がかかる。
だから疎ましく思っている支配の属性を彼女は受け入れた。
そしてもう一つの可能性ーーーー“ギフトを支配するギフト”として開花させ始める。
「今よ、拘束なさい!」
一喝、鬼種化した木々が一斉にガルドへと枝を伸ばした。一直線に道を絞ったのは、逃げ場をなくすため。如何に契約で身を守ろうとも、両脇から圧迫されれば動きは鈍る。身体能力で遥かに劣る飛鳥が、勝利の為に生み出した知恵だった。
「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」
鬼化した樹を振り払う様に絶叫を上げる虎の怪物。だがそれより速く、飛鳥の支配によって破魔の力を十全に発揮する白銀の十字剣が、正眼に構えられた飛鳥の手によって額を貫く。
「GeYa…………!」
十字剣の眩しい光と、歯切れの悪い悲鳴。それが虎の怪物の最期。
最期の抵抗で吹き飛ばされた飛鳥は木々に背中を打ち据えられる前にリュカがその身を受け止める。その後リュカに回復呪文をかけられながら飛鳥は苦笑を交えた皮肉げな顔で言葉を掛ける。
「今更言ってはアレだけど…………貴方、虎の姿の方が素敵だったわ」
「それで、リュカ君はどうするの?」
「僕はここで死体蹴りもといガルドを火葬するから先に行っておいてくれ。そろそろヨウもまともに動けるようにはなっただろうし」
「そ、そう。わかったわ。なら先に行っておくわね」
リュカの返答に口元を引き攣らせながら飛鳥はガルドの死体がある場所を立ち去る。リュカはそれを見送った後に考え込んだ。
「さて、と。何故僕が放ったベギラマがあれ程までの威力を発揮したのだろうか。あれではまるでベギラゴンじゃないか。魔力の過剰供給?これが一番あり得るか。でも僕の世界だと覚えたら覚えたって感じで頭に浮かぶものだし、それを何度使おうとも魔力の過剰供給なんて起きた覚えがないな…………」
考え込んだ後にガルドの死体を見る。リュカはそれに近づき、
「ガルド。君には個人的な恨みは無い。あるとすれば、君が行った下種な行為に対しておこがましくも親達の代表とか言ったあれだけだ。だから悪いとは思うが死体蹴りをさせてもらう。…………メラミ!」
リュカは中級火球呪文を放つ。本来であるならばダメージをそこそこの値与えこそすれ、自分の父親がモロに受けたメラゾーマみたいに完全に塵すら残らずに燃え尽きる事はない呪文だ。時間をかければ別として。
リュカの手の平から放たれたのは中くらいの火球どころかかなり大きな火球。リュカが知る限りメラゾーマと呼ばれる呪文そのものだった。
大きな火球はガルドを焼き焦がし、遂には塵一つ残らなくなる。そこでリュカは一つの仮説を立てる。
「僕が使う呪文はこの世界においては全て一段階上のものとなる。だが、今後はどうなるかわからないな。もしかしたらメラがメラゾーマになるかもしれない。この世界に来てから僕自身がわからないものとなりつつある。これがいい前兆ならいいのだが」
はい、おわりー。
つまり今回でわかったことといえばドラクエ世界の主人公パーティはマジキチ。血流れようと打撲しようと骨が折れようと死にかけだろうと戦う狂戦士。
頭に酸素回らなくなってぶっ倒れたこと普通にありそうなんだけどなぁ。
今回のお話書きながら考えた設定。
魔物の痛恨の一撃は防具を全て掻い潜って当たった魔物の一撃。一応防具はつけてっから多分こんな感じ。
スライムナイトとかそこらへんの痛恨とか痛いってレベルじゃねえよなぁ。
会心の一撃もまあ似たような感じだと思う。イラスト的に防具つけている魔物普通にいるし。こっちはより致命傷に近くなる箇所に当たった感じかな?
まさかガルド戦がこんなに長くなるとはこのリハクの眼をもってしても見抜けなんだ。
次回は お坊ちゃん登場回になるのかな?
一巻はあと2〜3話で終わりそうな予感。小ネタという名前の本編に関わるネタでも書こうかな合間合間に