ま、こうしたら分かる通り遅れた理由はこれも書いていたせい。
流石に白夜叉とのバトルよりかは見劣りがする、かも?
『ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
リュカ・グランバニア
・“ノーネーム”ゲームマスター ジン・ラッセル
・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス・ペルセウス
・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒
・敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏
プレイヤー側のゲームマスターの失格
プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合
・舞台詳細・ルール
*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない
*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印』
“契約書類”に承諾した直後、五人の視界は間を置かず光へと呑まれた。
次元の歪みは六人を門前へと追いやり、ギフトゲームへの入口へと誘う。
門前に立った十六夜達が不意に振り返る。白亜の宮殿の周辺は箱庭から切り離され、未知の空域を浮かぶ宮殿に変貌していた。此処は最早、箱庭であって箱庭でない場所なのだ。
「で、だ。面白い事用意してくれたんだろうな?リュカ」
「勿論。このゲームの内容に実に相応しい準備をしてきたよ」
十六夜がリュカにニヤリと笑いかけリュカもそれに応える。それを見た黒ウサギ達は何か悪巧みしてるんだろうなーと考えた。
リュカが十六夜に頼み事をして五日経った時に黒ウサギ達が話し合いをしていた際に二人が突撃してきた。十六夜が提示したのは“ペルセウス”への挑戦権を示すギフト。リュカが話したのはギフトゲームに役立つ何か。恐らくリュカがボカした役立つ何かを今この場で見せてくれるのだろう。
「本当は一気にやった方が魔力の消費が少なくて済むんだけど…………効果の程を見せる為にもまずは僕だけでやってみせよう。…………レムオル!」
リュカが呪文を唱えるとリュカの体が段々と透明になっていく。それを目の当たりにした十六夜を除く四人は目を見張る。十六夜は面白そうに眼を輝かせていた。そして完全に透明になり少なくとも視覚ではリュカを認識する事は出来なくなった。
「へぇ!こいつは凄えな。彼方さんの使っているギフトのレプリカと同じ効果か?」
「さあ?僕に分かっているのは透明になるっていう事実だけだから。ヨウならもう少し詳しく調べられるんじゃないかな?」
「…………熱源反応はほんの少ししかない。心臓の鼓動もあまり聞こえない。匂いもあまりしない。多分、色々と分かりにくくなっているんだと思う」
「ふむ?という事はこれはトヘロスと似たようなものか。友達になったもののギフトというか特性をそのまま自分のものにしているヨウが言うくらいだし。魔物の中にも眼が良いの、鼻が良いの、熱で探知するのと色々いるからねえ」
トヘロスという呪文がリュカ以外には一体何の事だかわからないが、前後の繋がりから考えて多分敵を寄せ付けないだとか敵と遭遇しなくなるタイプだとは推察できる。
黒ウサギはその呪文の効果の程を知りかなり動揺する。
(耀さんですら注意しないと聞こえないレベルの消音性能ですって?しかも蛇に備わっているピット器官でもほんの少ししか反応しないなんて…………!それじゃあ“ペルセウス”が所有しているハデスの兜のレプリカの上位互換じゃないですか!)
“ペルセウス”が所有しているギフトであるハデスの兜。そのレプリカの効果は姿を見せなくする事。要は透明になる事だ。だがあくまでレプリカである為、原典程の効果はない。原典ならば完全な消音、消臭などなど如何に強大な神仏が相手でもバレない性能をほこる。それでもタネさえ分かれば何処にいるのかを把握する方法はあるのだが。
それに対してリュカのレムオルとかいう呪文はどうだ。消音性能、消臭性能など全てにおいて完全にレプリカを上回る。これがギフトならまだ良い。だがこれは一個人が有する技術だ。ギフトではなく技術。
(リュカさんは万能すぎます!回復、蘇生だけでも凄いのにその上透明にさえなれるなんて…………!)
リュカが魔王の雛形とでも言うべき存在だからこのように凄いのだろうか。だとしても万能にすぎる。黒ウサギは運が良いとしか言えなかった。その反面運が悪いとも。
呼び出した存在の一人が一人で何でもこなせそうな人材で。だけど魔王の雛形で。
「黒ウサギ?」
「あ、ハ、ハイな⁉︎何でしょうか⁈」
「何をそんなに驚いて…………。取り敢えず黒ウサギはゲームに参加出来ないみたいだし、黒ウサギ以外にレムオルをかけようと思うんだけど」
「そうですね。今回のゲームは見られなければいいのですし、それでいいかと」
「了解。じゃあレムオル!」
リュカが再び呪文を唱える。今度は十六夜に飛鳥、耀にジンが透明になっていく。
「お?リュカの姿が見えるようになってんな。同じ境遇になったら見えるのか」
「黒ウサギの眼には皆さん方は見えてませんので成功していますよ」
「なら突撃といこうか。皆はルイオスの処へ向かってくれ。僕は少しだけ野暮用を済ませてくる」
「あら、一体何をすると言うの?」
「僕達を“ノーネーム”だからと嘲り侮辱している奴等にーーーー痛い目に遭わせてあげるんだよ」
「それは面白そうだな。こいつの効果はいつまで保つんだ?」
「大体30分ってとこかな。見たいのなら好きにすればいいけど…………アスカとヨウにジン君はあまり見ない方がいいと思うよ」
「「「?」」」
リュカの言葉に三人はそれぞれ疑問符を浮かべる。普通に考えたら分かりそうなものだが三人には少しばかり想像力が足りなかったようだ。リュカは多分分かっていないなと理解しつつも警告はしたから別にいいかと考えた。
「そんじゃ景気付けにド派手なのぶちかますか!」
そう言うと十六夜は轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破るのだった。
最初に異変に気付いたのは一人の騎士だった。“ノーネーム”のメンバーを探している最中に見つけた青い水滴のような形をした魔物。そう、スライムだ。ゲームを開始した際にたまたま本拠に紛れ込んでいたのだろうか。こういう風に紛れ込んでいるのは稀に良くある事だ。今回はそれに該当したのであろう。
スライムを見つけ立ち止まっている騎士のもとに続々と他の騎士達も集まってくる。とはいっても全体の五分の一にも満たないが。そのうち一人の騎士がこう申し出た。
「おい、このスライムで肩慣らししておこうぜ」と。
彼等は五桁の外門に本拠を構える“ペルセウス”の騎士達だ。当然、エリート意識を持っている。が、それでもやはり人間、サボりたいという気持ちがあった。所詮は名無し、取るに足らない相手だという考えが彼等の根底には根付いているのだ。この場合の肩慣らしというのもスライムを使ったボール遊びのようなものだ。弱者を甚振るのは強者の権利とでも言うかの如く騎士がスライムを蹴ろうとした瞬間、
ドスッ。
鈍い音が彼等の耳に響いた。何が起こったのかわからずに蹴ろうとしていた騎士を見るとその騎士は白眼を剥いてその場に倒れた。
広がる動揺。まさかスライムが騎士を倒したのか?いやバカなそんな事はあり得ない。じゃあ一体どうしてーーーー?そのようなざわめきが騎士達に立ち始めたところで声を発した者がいた。
「おめーら弱すぎ。こんな体たらくで騎士名乗ってんのかよ。こんなんじゃグランバニアの国軍のがマシだな。特にピピンは強い」
誰だ?今誰が喋った?低い所から聞こえたぞ?何?と言うことはーーーー。
騎士達が下を見る。そこには肩慣らしに使おうとしていたスライムがいた。そのスライムが口を開く。
「よう、“ペルセウス”の騎士さん達よ。オイラはスライムのスラりんってんだ。よろしくな」
「何だとっ⁉︎魔物が喋った⁉︎そんなバカな!」
誰かの口火を皮切りに更なる動揺が彼等に広がる。それもそのはず、魔物とはこの箱庭においての一般常識だと知能を持たない上、喋る事などまずあり得ないのである。
「そういやよ。オイラ達の世界にゃこんな言葉があるんだぜ」
「…………?」
「アームライオンは一角ウサギを狩るのにも全力を尽くすってな。この場合、どっちがアームライオンでどっちが一角ウサギなんだろうなぁ…………?」
この時点である程度は察する事が出来た。いや、出来ない方が良かったのかもしれない。まさか目の前のスライムが、魔物の中でも最弱とされるスライムが、自分達より強いということなど。
だがそこはエリート、立ち直るのも早かった。
「あのスライムを囲んで袋叩きにしろ!そうでないと我等はやられる!」
「ありゃりゃ、流石にこの数は対処しきれないなー…………とでも言うと思ったか?オイラの後ろを見てみな。何が見えるよ?」
そう言われて騎士達はスラりんと名乗ったスライムの後ろを見た。そこには砂煙が立ち込めていた。何があるのか確認しようとしたら烈風が吹き荒ぶ。騎士達はまともに砂煙を浴び視界が一時的に潰された。
視界が元に戻り改めて確認したらそこにあったのは認めたくない現実であった。
スライムの後ろにいたのはブラウニーの群れ。ただの群れならまだいい、どうにでもなる。だが、目の前にいる群れは大群と呼ぶに相応しい数である。目算で百はくだらない。それだけの数がいるだけでも認め難いのにその上ブラウニーの大群は全て異常だった。
普通ならばその手に持っているのは自らの背丈を超える大きな木槌。だが今のブラウニー達が持っているのは背丈を超えるという点では同じだが木槌ではなくボウガンであった。
「撃ち方用意!…………撃ぇ!」
虚空から響いた号令に四列に並んでいたブラウニーの一番前の列が反応しボウガンの矢を射出する。放たれた矢は騎士達の肩、腕、腹、膝、膝、膝、膝と刺さっていく。哀れ、膝に矢を受けた騎士は衛兵にジョブチェンジをするしかにい。
「す、進めぇ!とにかく前に進むんだ!」
一人の騎士の号令。成る程、相手がボウガンであるならばその有利性ーーーー遠距離からの一方的な攻撃をどうにかすべく犠牲をもってしてでも近付くのが最善であろう。そう、普通ならば。
「前列、矢を受け取りに後退!二列目、前進!撃ち方用意!…………撃ぇ!」
再び虚空から号令。その号令に従い矢を撃った前列が後退し、その後ろにいた二列目が前進する。そしてボウガンを構え矢を射出する。それが幾度となく繰り返され、前に進もうと思っても間隙無く吹き荒ぶ矢吹雪に騎士達は完全に戦意を喪失し、動く事すらままならなくなった。
「うぅ…………」
「あぁ…………」
などの様々な小さな呻き声が織り成すコーラスを透明になっているリュカ達が睥睨している。尤もジンに飛鳥に耀は複雑そうな表情を浮かべていたが。
「だから見ない方がいいって言ったのに」
「いえ、結局見てしまった私達が悪いのよ。…………でもやり過ぎではないかしら?」
飛鳥は動く事すらできない騎士達を見つめ言う。確かにこの状態はまさしく生かさず殺さずの状態と言えるだろう。全ての騎士達は膝を撃ち抜かれていたりしているのでまともに動けずその上で死なない程度に痛めつけられたのだ。はっきり言ってサクッと殺してくれた方がマシだと思う位には。
「何言っているんだい?いわばこれは戦争だよ?しかも内容は向こうが自国の奴隷が其方に逃げ出したのでそれを捕えに来ました。けど逃げ出した先の国は自分達より国力とか色々弱いし別に打診しないでいいよねというか打診なんかしたら此方が舐められるしそんなもんする気ありませんって感じで此方の領地に不法に侵入した挙句、此方の国の人間を侮辱したんだよ?国のトップが屑だとしても末端までは屑じゃないなんて良くある事だけどここは末端もある程度は屑だったんだ。侮辱さえしなかったら膝を撃ち抜くだけで済ましたんだけどね」
「そういや最初の方は肩とか腕とか中ってたのに中盤以降ほぼ膝しか中ってねぇな」
「そこはブラウニーの大きさ的に考えて膝が尤もいい感じのポジションにくるからねー。しょうがないでしょ」
そう言うとリュカはイオラを空中に向けて唱えた。何もないところで爆発が起き勿論爆発の際に生じた音が響く。それこそ宮殿内に響く位に。
「成る程な。釣り餌ってわけか」
「向こうは此方を見つけるだけの簡単なお仕事状態だからね。音とかそういうのに敏感にならざるをえないだろうし、何より爆発ってのが釣れるだろうね」
「それはどうして?」
「ここが相手の本拠だからさ。このゲームの勝敗がどうであれ本拠がボロボロになるというのは捨て置けないからね。こうして爆発音響かせておけば相手から寄ってくるって寸法さ。…………ほら、話をしているうちに団体様のお出ましだ」
リュカの指が示す先、上に続く階段から騎士達が降りて来た。普通ならばドカドカという靴の音でも聞こえそうなものだがそのような音は聞こえなかった。理由は簡単、その音を鳴らすべき靴に翼が生えていたからだ。成る程、空を飛んで来たのなら風切り音こそすれど地を踏み鳴らす音はしないだろう。
「ヘルメスの靴のレプリカだな。本物は風より速く動けるって話だからアレだと遅過ぎる。だが陸にいるブラウニー部隊のビッグボウガンで中てるのは骨が折れそうだぜ?」
「いや、空を飛んでいるのなら話は余程簡単になる。ーーーーバギクロス」
突如として前方に巨大な竜巻が出現する。いきなり現れた竜巻に騎士達はブレーキを掛ける事もままならずにそのまま竜巻に突っ込んで行ってしまう。するとズタズタに切り裂かれ色んな方向に飛ばされ壁にぶち当たってヘルメスの靴のレプリカを履いていた騎士達は全滅した。
「はいこの通り」
リュカにとってはたったの一動作でやってのけた事であるからあまり感慨はないようだが飛鳥や耀にとってら十二分に凄い事であった。
彼女等は殲滅能力に乏しい面がある。それを言うなら十六夜だって乏しそうなものだがアレはそもそもの地力が違いすぎるのでノーカンだ。そこそこ頑強な何かを投げるだけで投げた方向の敵全て消し飛んでもおかしくないレベルだ。
「じゃあ次呼ぼうかー」
再びイオラを使い爆発音を鳴り響かせるリュカ。気分は爆釣してホクホクな釣師だ。まあ爆釣が文字通りと言うか言葉通りの意味になっているのだが。
間も無くして音が聞こえてきた。もうヘルメスの靴のレプリカが無いのだろうか。リュカ達は待つが一向に姿を見せる気配がない。音は大きくなっているのに。
「ハデスの兜、そのレプリカだろうな。透明にするだけで音までは消せていないからな」
「これは参ったな…………。姿が見えているのなら狙いもつけやすいのにこれだと適当に撃つしかないぞ」
音が鳴る方に撃ったにしろ撃ち零しは出るだろう。それ以前に一応は一人も殺さずにやろうとしているのに姿が見えなかったらどこに急所があるかもわからないのでわざと外して撃つ事が出来ない。聴覚や嗅覚が鋭い魔物なら良かったが残念ながらブラウニーは視覚も含めどれも秀でてはいない。だがここで騎士達がミスを犯す。
「何だと⁉︎ブラウニーどもが本拠の中に⁉︎」
「くそ!紛れ込んでいやがったのか!それにしても数が多すぎる!」
「しかも見てみろ!奴等、木槌じゃなくてボウガンを装備してやがる!特異型か!」
彼等は何のレプリカも装備していなかった騎士達に比べるとよりエリート意識が強かった。職務を忠実にこなす事だけを考えていたのだ。だがそんな彼等でもこれはあまりにも予想外すぎたのだろう。本拠に魔物が潜入。それも十や二十じゃない膨大な数。いつの間にこんなにも侵入を許したのかと騎士達は臍を噛む。リュカが魔方陣を介しブラウニー達を呼び寄せただけで彼等の仕事には何の落ち度も無いのだがリュカ達が自分らと同じく透明になっている以上、そう考えるのも仕方がない。
「こっちも透明だってバレるのはマズイかな…………。…………いや、別にいいか。どうやって元に戻すかわからないだろうし。凍てつく波動を使ってくるような相手でもないしね。ブラウン!ブラウニー達を後退させて!」
自分の言の中で意見を翻しつつブラウニー達に撤退を支持するリュカ。ブラウニー達の先頭の真ん中にいたブラウニーが身振り手振りで撤退を促す。するとブラウニー達はテケテケという音がつきそうな感じで走って後退した。
「今人の声がしたぞ!」
「“ノーネーム”の連中も透明になってやがるのか!」
「いや、それより今魔物に命令して魔物どもが命令を素直に聞いたぞ?そんな事が出来るのは魔王しかいないはず…………」
「なっ、バカな!敵に魔王がいるっていうのか⁉︎冗談キツイぜオイ!」
敵方がざわめき始めた。それもそのはず、この箱庭での常識だと魔物は人間の言う事を素直に聞かない。聞くにしたって痛めつけて無理矢理言う事を聞かせているようなものだ。だが虚空から響いた声は声だけで魔物を動かしてみせた。ムチの音も無く、炎が燃え盛る音も無く。そんな芸当が出来るのはーーーー魔王のみ。
「なんかよく分からないけど混乱しているみたいだし出ておいで、ロビン!」
宮殿の床に魔方陣が現れる。騎士達はそれに注目した。そこから出てきたのは彼等にとって想定外なモノだった。
それは殺人機械と称され箱庭においても恐れられているキラーマシン。スライムならばギフトを持たない子供一人でも倒せるがキラーマシンとなるとギフト持ちが数人、下手すれば数十人必要なレベルだ。勿論、そこら辺の木っ端ギフトならばだ。が、今騎士達が所有しているのはハデスの兜のレプリカ。木っ端とは言えないかもしれないがキラーマシンを倒すにはあまりにも意味がない代物。
「ロビン。透明になっている集団がいるはずだからサーチして殺さない程度で全滅だ」
「了解、マスターカラノ命令ヲ受諾。コレヨリオペレーション『ヒャッハー、汚物ハ消毒ダー!』ヲ開始シマス」
この機械は一体何処でこんなよく分からない言葉を覚えてくるのだろうか。コレを作ったドクターデロトとやらを小一時間問い詰めたい。
「熱源探知…………反応アリ。喰ラエー、目カラビーム」
合成された音声で随分とまあ気の抜ける事を言いつつ目からレーザービームを放つ。それは透明になった騎士達の足下を薙ぎ払い、そこからマグマのようなものが吹き出す。それは騎士達を焼き尽くした。
「見ロ!人ガゴミノヨウダ!」
「いや、ゴミのようだじゃないから。アレ、殺してないよね?」
「大丈夫Deathマスター。火力ハ抑エマシタ」
「『です』が何かおかしかった気が…………」
「気ノセイダト思ワレ…………アイタァッ⁉︎」
どう見ても漫才にしか見えない会話の遣り取りの最中にロビンが痛みを訴える。その際に金属に金属がぶつかる甲高い音がした。つまりまだ透明になっている敵が残っていたのだろう。しかしロビンの目をどうやって掻い潜ったのだろうか。
「ダメージ確認…………損傷軽微。熱源探知…………反応ナシ。音源確認…………反応ナシ。臭源確認…………反応ナシ。ウソーン、確認デキニャーイ」
「本物のハデスの兜か!アレは熱も音も匂いも勿論姿だって隠す代物だ!リュカ、別の手段を使え!」
「ロビン!イザヨイが言った条件に従ってもう一度確認だ!」
「了解シマシタ。赤外線センサー発動…………反応アリ!ウオリャ、イテマエ小僧ー!」
ロビンが赤外線センサーを発動し、本物のハデスの兜を使った騎士を見つける。ロビンはそれに対しボウガンから矢を放ちそれが当たってから斬り上げた。斬り上げた際に兜に引っかかりそれを弾き飛ばす。それにより騎士の姿が見えるようになった。それはルイオスの側に控えていた側近だった。
「命令ヲ遂行シマシタ。コレヨリ帰還シマス」
「ん、ご苦労。ブラウニー達も帰還せよ」
ブラウニー達とロビンの足下に魔方陣が光り、その場から消え去る。残されたのはその場に倒れ伏す騎士のみ。
「“ノーネーム”だと見誤っていたのは私もだったか…………。まさか、魔王を仲間にしているとはな…………」
「その魔王に貴方達の長は屑と認められているんだ。先に無礼を働いたのは其方だ。僕は仲間を侮辱する者を絶対に許さない。それ相応の罰は受けてもらう」
「我等のコミュニティから名を…………旗を奪うのか?」
「誇りを奪うような真似はしない。ただ暫くの間活動出来なくなるだけだ。“ペルセウス”の騎士は全滅。全治どれくらいかかるかはわからないが少なくとも二週間はマトモに動けないだろう。その間貴方達は運試しだとかそういったゲームはともかく体を動かすこういったゲームには参加出来ない。よしんば参加したところで万全ではないから負ける事となる。ただ、それだけだ」
リュカは側近の騎士にそう告げる。そして十六夜達の方に振り返り、
「それじゃ、ルイオスの処へ行こうか。此処まで僕の我儘に付き合ってもらったしイザヨイもフラストレーションが溜まっているだろうしね」
ニッコリと微笑みそう言った。
ルイオスがいる場所に向かう途中十六夜がリュカに訊ねる。
「あの側近の奴が魔王とか言ってたがお前はそれに気付いてたのか?」
「うん、まあね。どうもこの箱庭では魔物を意のままに従える存在は魔王しかいないみたいなんだ。まあだからといって僕と魔物達の絆が変わるわけでもなし、それなら精々その悪名を利用してやろうかなって」
「ジン・ラッセル率いる“ノーネーム”は魔王を、それも現役の魔王を従えているって?いや、自由に“主催者権限”を行使出来ない点じゃ元魔王か?確かにそりゃいい感じに目立つし、お前が実例だと勘違いされるかもな。そういやお前の世界にはお前みたく魔物をどうこうする奴はいなかったのか?」
「モンスター爺さんっていう僕が仲間にした魔物を預かってくれている人はいるけど…………従えさせてるわけじゃなかったしなぁ。モンスター闘技場も調教した結果だろうし」
つまりいないという事である。寧ろリュカのような存在が何人もいる方が困る。魔物を三桁をも一度に従える人間なんて一人だけで十分と言うかそもそもいない方が心も安まる。
「どうやら此処にルイオスがいるみたいだ。じゃあ開けるよ」
リュカが扉に手をかけ開け放つ。そこにはコロッセウムのような空間が広がっており、やはりルイオスがいた。ついでに黒ウサギも。
「ふん…………役立たずどもめ。これで誰がこのコミュニティを支えているか解ったようだな」
「それはギャグで言っているとしたらとても面白いよ。君こそ漫才師にでもなった方がいいんじゃないかな?ああいや、道化師の方かな?」
「ハッ、言ってろ名無しの雑魚風情が。まあいいか、何はともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。…………あれ、この台詞を言うのって初めてかも」
そう言いながら彼は“ゴーゴンの首”の紋が入ったギフトカードを取り出し、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。
そのギフトを見て黒ウサギの顔色が変わる。
「…………炎の弓?ペルセウスのギフトで戦うつもりはない、という事でしょうか?」
「当然。空が飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ。そしてメインで戦うのは僕じゃない。僕の敗北はそのまま“ペルセウス”の敗北。そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろ?」
黒ウサギは慢心しないルイオスに対して焦り始めていた。もしも彼女の想像通りならば、ルイオスの持つギフトはギリシャ神話の神々に匹敵するほど凶悪なギフトだろう。
ルイオスの掲げたカードが光り始める。星の光のようにも見間違う光の波は、強弱を付けながら一つ一つ封印を解いていく。
十六夜は咄嗟にジンを背後に庇い構えた。いつでも戦えるように臨戦態勢をとって。リュカも同様に飛鳥と耀を背後に庇い樫の杖を前方に押し出すように構えた。
光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で叫んだ。
「目覚めろーーーー“アルゴールの魔王”‼︎」
光は褐色に染まり六人の視界を染め上げる。
白亜の宮殿に共鳴するかのような甲高い女の声が響き渡った。
「ra…………Ra、GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!」
それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。
冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。
現れた女は体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせて叫び続ける。女は両腕を拘束するベルトを引き千切り、半身を反らせて更なる絶叫を上げた。黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。
「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」
「な、なんて絶叫を」
「避けろ、黒ウサギ‼︎」
えっ、と硬直する黒ウサギ。十六夜は黒ウサギとジンを抱き抱えるように飛び退いた。リュカは飛鳥を抱き抱えて飛び退き、耀は事前に察知できて上手く飛び退いた。
直後、空から巨大な岩塊が山のように落下してきたのだ。二度三度、と続く落石を避けるリュカ達を見てルイオスは高らかに嘲った。
「いやあ、飛べないなんて不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから」
「く、雲ですって…………⁉︎」
ハッと外に眼をやる。雲が落下しているのはこの闘技場の上だけではない。
“アルゴールの魔王”と呼ばれた女の力は、このギフトゲームに用意された世界全てに対して石化の光を放ったのだ。
瞬時に世界を満たすほどの光を放出した女の名を黒ウサギは戦慄とともに口にする。
「星霊・アルゴール…………!白夜叉様と同じく、星霊の悪魔…………‼︎」
ーーーー“アルゴル”とはアラビア語でラス・アル・グルを語源とする、“悪魔の頭”という意味を持つ星の事だ。同時にペルセウス座で“ゴーゴンの首”に位置する恒星でもある。
ゴーゴンの魔力である石化を備えているのはそういう経緯があるのだろう。
一つの星の名を背負う大悪魔。箱庭最強の一角、“星霊”がペルセウスの切り札だった。
「本来なら此処に来る奴は一人もいないと思ってたんだけど…………まあこれも彼奴らが無能すぎただけか。これもいい体罰だろう」
ルイオスの口振りからしてどうやら騎士達は全員石化しているらしい。それに対しリュカは何も思わなかった。正確にはルイオスに対しては何も思わず、騎士達に対しては哀れだと感じた。
「…………済まない、イザヨイ。貸しを二つにしておいてくれないか」
「それはどうしてだ?俺を納得させるに足る理由があるんだろうな?」
「アルゴール…………彼女が泣いている。いや、彼女の悲嘆の念が僕に伝わってくると言うのが正しいのか。そして何故かはわからないがあの悲しみを癒してあげられるのは僕だけだと確信している」
「なんだ、お前読心能力者だったのか…………って冗談は置いといてしょうがねえな、貸し二つだぞ。覚悟しとけよオイ」
「ありがとう。恩に着るよ」
リュカは十六夜に礼を言い改めてアルゴールと対面する。その髪は乱れに乱れ、拘束具も今にもはち切れそうだ。だがその瞳には悲嘆の念が見受けられた。彼女の気持ちがリュカに伝わる。
こんな奴にいいように使われたくない。このまま縛られるのは嫌だ。いっその事殺してほしい。
そんな思いがリュカに伝わる。ならば、リュカが取るべき行動は一つ。
「アルゴール。君の負の感情、全て僕が受け止めよう!」
リュカはアルゴールに向かい走り、アルゴールもまたリュカに向かい襲い掛かる。
「向こうは向こうで始まったみたいだな。じゃ、こっちも始めようぜ。ペルセウスの名を背負う期待外れの三下さんよお」
「僕が負ける事はあり得ないが…………その侮辱、貴様の血をもって贖え!」
此方でも十六夜とルイオスがぶつかる。ここにこのギフトゲームにおける勝敗がかかっている一戦が始まる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
リュカが樫の杖で殴りかかる。勢い付いたそれはしかしアルゴールの硬い皮膚に弾かれる。やはり樫の杖では決定的な一打はおろか手傷を与える事すら難しいだろう。
「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」
アルゴールはリュカを潰そうと大きく手を振り上げ振り下ろした。風切り音が唸るその一撃をリュカは余裕をもって躱す。対象を見失った一撃は地面に当たり地面を砕く。リュカに当たれば頭は柘榴のように弾けるだろう。
「やはり強い…………!バイキルト!ピオリム!スカラ、スカラ、スカラ!」
攻撃力倍加呪文、加速呪文、守備力増強呪文を重ね掛けする。ここまでしてもリュカには相手が危険な存在にしか思えなかった。それは杞憂なのかそれともその通りになるのか。今の段階では誰にもわからなかった。
再び駆けるリュカ。走っている最中に魔力を練り上げ火球の形状にし掌から放つ。
「メラミ!」
顔面に向かって放たれたそれはしかし手によって阻まれる。だがリュカはそれこそが狙いだった。そもメラミ程度の火球でダメージを与えられるなど一片たりとも思っていない。せめてメラゾーマならまだマシなのだが流石に上級呪文はまだ覚え切れなかった。
ではメラミの意図は何にあるのか?答えは目潰しだ。顔面に向けて放った。それをアルゴールは手を顔に翳す事で自らの視界を自ら潰したのだ。その間にリュカは速くなった脚でアルゴールの死角に入る。彼女からすれば目の前にいた相手が急にいなくなったと感じるだろう。少なくとも今の状態では。
「ハァァァァァァァ!」
リュカは今度は樫の杖を地面と平行に構え突いた。先程は杖で叩いた。今度は突き。一般的に面積が小さい方がかかる圧力は大きくなる。要は与えるダメージは叩くよりも突く方が大きくなるのだ。
「gi…………」
事実、アルゴールは叩かれた時は発しなかった声を発した。が、どうも蚊に噛まれた程度でしかないようだった。それならばと再び突こうとするが、少し欲張りすぎた。樫の杖をアルゴールにガシッと握られたのだ。引き抜こうとするが力が強く引き抜けない。引き抜こうと動けないリュカに拳を振り下ろす。リュカは仕方がなく杖を手放し横に転がる事で事無きを得た。
彼女はそれを見てから樫の杖をいとも容易く折った。蚊に噛まれたらウザいと感じるような感情が彼女にもあるのだろうか。
「クソッ、樫の杖が折られた。旅をするにはあの杖かなり良い物だったのに」
変な事を毒吐きながらアルゴールを観察する。彼女の皮膚はとても硬く樫の杖程度だとダメージすら与えられないらしい。ならば硬い皮膚をも切り裂く何か…………と考えて剣が頭に思い浮かんだ。更に少しばかり悪どい事も。
リュカは腰に提げてある袋から一振りの剣を取り出す。それには銘が無い。いや、リュカが銘を知らないだけで本当はあるのかもしれないが、今は便宜上『パパスの剣』と呼んでいる。
リュカの父親であるパパスが扱っていた剣。今や父親の形見の一つとなった一振りだ。その刀身は剣と言うよりは刀に近い形状をしている。つまり片方だけにしか刃がないのだ。それが理由か、或いは良質な鋼を使っているからか、それともその両方か。どれかは判らないがこの剣は鋼の剣よりも強いという事実があった。
その剣を構えアルゴールを睥睨する。アルゴールもまたリュカを睥睨する。駆ける両者。煌めく白刃。鈍く唸る腕。
ボトッ。
音がしてそこに落ちていたのはーーーーーーーーアルゴールの拘束具の一つだった。
ルイオスは焦っていた。
確かに目の前の不敵に笑う少年は此処まで来れたからある程度の実力を兼ね備えているとはわかっていた。だがそれでも自分を倒すには至らないどころか自分に傷一つ付けられないと。だが結果は全くもって違った。悔しいし認めたくはないがアルゴールがいてようやく勝てるレベル。そう考えを改めていた。
だが本当に焦っているのはそこではなくアルゴールと戦っている青年が起こした事。
彼は手に持つ剣を用いてアルゴールの拘束具を…………星霊をも縛り付ける拘束具を斬り落としたのだ。あの剣はそれほどまでのギフトなのか?それともあの青年のギフト?疑問は尽きる事はない。が、現実に起こりうる問題として最も危ない事が起ころうとしている。
それは星霊の暴走。ルイオスはまだ未熟である。だからこそ星霊を拘束具なんかで縛り付けているのだ。そうしないと制御出来ないから。このままだと自分含め無差別に攻撃するだろう。いや、下手すればこの本拠を飛び出して箱庭にいる無辜の民をも襲うだろう。そうすれば“ペルセウス”の信用は地に堕ちる。それだけで済めばいいが最悪、箱庭追放だ。それだけはなんとしてでも避けなければならない。
「アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!目の前のそいつを殺せ!」
「RaAAaaa!!LaAAAA!!」
謳うような不協和音が世界に響く。途端に白亜の宮殿は黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。宮殿全域にまで広がった黒い染みから、蛇の形を模した石柱が数多にリュカに襲い掛かる。
その全てを蛇蝎の如く変幻させた宮殿がリュカに襲い掛かーーーー
「不愉快だ…………!高々一騎士風情が王と王の決闘に茶々を入れるな!蛇よ!大人しくその場に待機しろ!」
リュカが自分に襲い掛かってきた千の蛇に命令を下す。普通であるならば創造主たるアルゴールの命令しか聞かない。そう、普通であるならば。
ボトボトボトッ。
蛇が空中から飛びかかった姿勢のまま地面に落ちたのだ。つまりリュカの命令が効いたという事である。創造主たるアルゴールよりも上位の存在としてリュカが上書きされたという事である。
「なっーーーー!」
その結果にルイオスは驚愕する。あの時の会談で見た彼はちょっとアレな青年としか思ってなかった。支配のギフトは自分を一瞬だけ縛ったあの少女が使っていたがこの男も使えるとは。しかも少女より遥かに強度が高いモノを。
「ヤハハハハ!やっぱ彼奴面白えな!貸し使っていつか戦ってみてえもんだ」
十六夜が哄笑しながらリュカを見る。装備こそ貧相だがその身に纏う気迫は王者そのもの。千の蛇も絶対の支配者としてリュカを見ているかのようだった。
その間にもう一本拘束具を斬り落とすリュカ。いよいよ本格的にマズい事態となる。
「もういい、アルゴール。終わらせろ」
獰猛な笑みを浮かべてアルゴールに命令をする。アルゴールはその瞳から褐色の光線を放ちそれがリュカに真っ直ぐ突き進む。
それは石化の光線。先程見たのと同じものだ。先程はルイオスにその気がなく石にはならなかったが今回はそうではない。ルイオスは此方を完全に石にする気で放っている。光線がリュカに当たる。
「リュカさん!」
黒ウサギの悲痛な叫びが響き渡る。また目の前で仲間が石になるのを見なければならないのか。こんな時審判である自分が恨めしくなる。誰もがリュカは石になった。そう思った時、
「勝手に人を殺さないでくれるかな?僕はこの通りピンピンしてるんだけど」
普通にその場に立って返事をした。どこにも石化の跡は見受けられず、全くもって石になってないという事になるのだろう。
(ギフトを無効化した?魔物を従えているギフトは“魔を統べる王”だとすると無効化したギフトは“龍神の加護”ということですか?確かにマスタードラゴン様ならそれも可能な気はしますが…………)
リュカは装備していた物を除いて二つギフトを所持している。“魔を統べる王”と“龍神の加護”だ。この内黒ウサギは“龍神の加護”が石化を無効化したのだと判断するが何か引っ掛かる。そう、喉に小骨が刺さったかのようなそんな感じだ。
「さあ、アルゴール。これで最後だ」
リュカは周りの事は気に留めず残った拘束具を斬り落とす。これでアルゴールを縛る物はなくなった。アルゴールは解放されたのだ。最早、ルイオスにはアルゴールをどうする事も出来ない。
突如としてアルゴールの身体を銀の光が包み込む。その光に相対していたリュカを除く全員が目を細めた。徐々に光が弱まり全員の眼が見開いた。
そこにはあの醜かったアルゴールの姿はなく、代わりに長い銀髪の美しい女性が立っていた。
「それが貴女の本当の姿なのか?」
「ええ。礼を言わせてもらうわ、新たな魔王よ。だけど“ペルセウス”に最後の義理くらいは果たさせてちょうだいな。今こそ、全身全霊をもって戦いましょう?」
「異論は無い。行くぞ!」
拘束具を外させる事。それはアルゴールを解放し、ルイオスがどうしようもできない状況を作る事と同義ではあった。だが同様に自分にもどうにもできないようになるかもしれないという事でもあった。
「がはっ…………!」
拘束具に縛られていた時にはあった鋭い爪が今は無いのにそれでも風切り音を出し胸を殴打される。リュカは思い切り吹き飛び壁に叩きつけられる。
そう、拘束具は文字通り拘束する道具だ。それがなくなれば自然元の力を振るえるだろう。少なくとも攻撃を受けた限りだと力と速さは縛られてた時より遥かに強かった。
「あら、ミンチにするつもりで叩いたのに頑丈なのね。ま、魔王だから当然でしょうけど」
「どう…………も…………!頑丈なだけが…………取り柄でね…………!」
血を吐きながら自身の状態を分析する。血を吐いている事からして内臓に傷が付いている。恐らくは肺。肋骨が折れて刺さっているのだろう。少し頭がふらつくが叩きつけられた時の衝撃で一時的に平衡感覚がおかしくなっているだけだと判断。結論、余裕で運動可能。足の骨が折れていたのならベホイミなりベホマなりかけたがそっちは大丈夫なようだ。
リュカは口に溜まった血を吐き捨て剣を構える。そのまま肺に肋骨が刺さっているのに気に留めず駆け抜けアルゴールを斬りつける。浅くはあったが確かに手傷は与えられた。
この時リュカは勘違いを二つ程していた。
一つ目はアルゴールが斬られた事に関して。確実に速くなったはずのアルゴールが何故斬られるのを許したのかその理由を自身がかけている補助呪文のお陰だと思っていた。確かにそれも理由の一つではあるが最大の要因はアルゴールに与えられた傷である。
アルゴールはリュカに樫の杖で叩かれて突かれた。リュカの主観からすればダメージが通ってないように見えていたがその実しっかりとダメージは通っていたのだ。そのため挙動をする際に鈍痛が走り回避行動が僅かに遅れてしまった。故に浅いながらも斬られてしまったのだ。
そして二つ目は自身の傷が僅かながら治った事。これを自身が遂に魔王らしくなってきたとそう考えた。確かに彼が知る魔王ならば自己治癒を備えてはいたがそうではない。まだ彼に自己治癒能力など存在せず、よって傷が癒えたのも別の要因があるという事だ。では何か。答えはリュカが使う剣にある。
さて、ここで唐突だがグランバニア建国の際の話をしよう。
グランバニアを建国する際に…………と言うよりは全ての国にしても建国する際には様々な問題が付き纏う。水源の確保、脅威の排除、作物が育つ土壌かどうかetc、etc…………。
その点においてはグランバニアは非常に良い土地だった。北を除く三方を非常に険しい山に囲まれ北には水源となる河が流れている。森もこれでもかというほど繁っていた。水源の確保、作物が育つ土壌かどうかに関しては問題なくクリアー。脅威の排除にしても天然の要塞とでも言うべき有様なので外敵からの脅威はほぼ排除されたと言ってもいい。
なら残るのは内敵…………魔物だ。それに関しては自分達の手で排除せねばならず何十人何百人と死傷者を出してようやく建国出来たのだ。
その魔物討伐の際に尽力した者がいた。それが後の初代グランバニア国王であり建国王と称された男であった。
その男にはもう一つ別の呼称があった。それは建国王が国を建てた偉大なる王者として讃えた呼び名であるのならそれと対を成すように畏怖をもって恐れられた呼び名である。
その名を不死王。その名の通り不死であるという事だ。建国する前に行った大規模な魔物討伐において男は最前線に立ち魔物達を屠りまくった。その際に幾度となく傷を負ったはずなのだが終わった際には傷なんて欠片も見えずただ魔物の返り血で紅く染まっているだけだった。勿論、回復呪文を扱える者は何人も同行した。だがその誰もが彼には呪文を一切かけてないと言う。ならば何故怪我が無いのか?その疑問に一人の討伐参加者がこう言った。曰く「魔物の血を吸い自らの傷を癒している」のだと。その根も葉もない噂は瞬く間に広まり建国王に逆らおうという気を起こす人物は存命の際にはいなかった。
さて、ここまで長々と話をさせてもらったが何が言いたかったのか。それは建国王が持っていた剣の事である。別に彼が血を吸って傷を癒したわけではなく剣の効果により傷を癒していたのだ。
その剣は片方にしか刃がない剣だった。それは特殊な鋼で鍛えられ、相手に与えた傷の半分自分の傷を癒すという効果を持っていた。数値化するならば相手に100のダメージを与えたらその半分の50自分が回復するといった感じだ。そういう意味では魔物の血を吸って自分の傷を癒すというのも強ち間違いとは言い切れない。
その剣の銘はーーーー“王家の剣”。何を隠そうリュカが現在使っているパパスの剣そのものである。
だがリュカが王家の剣…………パパスの剣を手に入れ用いた際には回復効果なぞ無かった。故にそこに勘違いの原因があったのだ。
この剣をこの剣として扱うには条件がある。それは建国王の血統というのも条件ではあるがそれ以外にもある。それは王としての覚悟。民を守り抜くとその心に誓った者のみ剣の力を引き出す事が出来るのだ。
建国王は自分が傷付いても仲間は傷付けさせない覚悟から。パパスは妻一人救えず民を救う事は出来ないといった覚悟から剣の力を引き出していた。だがリュカがこれを手にしたのはまだ王となっていない時。王となってからも父親よろしく嫁を攫われて八年間石像となり二年間妻を探してその後魔王退治…………ハッキリ言って王としての覚悟を出す機会が一切なかった。だが魔王を退けてからようやく余裕が持てて王としての統治をなしていくうちに民を守る覚悟ができたのだ。これでようやくリュカは名実共に王となったのだ。王家の紋章が名を得る為の試練なら王家の剣の認められる事こそ実を得る為の試練。今のリュカは真の王者だ。
「星霊だから硬いかと思ってたけど…………そうでもないみたいだね」
「硬いわよ私は。けど全く攻撃を受け付けないわけじゃないわよ。一定以上の力があれば私に手傷を負わせるのは可能よ。あとはルイオスが持っている星霊殺しの鎌・ハルパーとかでしか傷付かないわ。魔王と魔王が戦うならばより地力が強い方が勝つ。自然の道理でしょ?それに私はお姉様達と違って普通に死ぬしね」
「貴女の姉妹は不死なのか。戦いたくない相手だ」
「あら、不死ですら追い付かない程の一撃を与えればいいだけよ。私には無理だけどね」
お互いに軽口を叩き合いながら間合いを詰める。リーチはリュカが剣を持っているお陰でリュカのが上。パワーとスピードは拘束具から解放されたアルゴールのが上だ。
先に動いたのはアルゴール。拳を握り締め持ち前のスピードでリュカに迫る。対するリュカはその場に留まる。補助呪文をかけた上でスピードが敵わないのなら最初から動かなければいい。そう考えての行動だ。それをアルゴールは鼻で笑う。自分相手に立ち止まるのは愚の骨頂。動き回るのならまだマシになっていたのかもしれないのに。少しの失望とともに殴り飛ばーーーー
「え…………?」
殴り飛ばしたと思っていたら自分の脇腹が斬られていた。一体何が起こったのか彼女にはわからなかった。
リュカは剣を振り抜いた状態で自分の後ろに立っていた。つまりこれは、
「「カウンター」」
リュカとアルゴールが同時に声を発する。彼女は納得すると同時にしかし自分の眼ですら追えないのは何故か考えた。単純に考えれば速さが急に増した、という事だろう。ギフト?或いは緩急強弱をつけた?恐らくは後者。だがそのタネがわからない。
「さっき僕が貴女にやられた事をそのままやり返しただけだ。貴女の枷を外した後貴女は僕が知覚できない、いや、スピードの違いで僕に近付き殴り飛ばした。だけど一回受けたら頭じゃなくて身体が相手のスピードとかパワーとか覚えるからね。だから立ち止まっていた時にピオリム…………素早さを上げる呪文をもう一回重ね掛けさせてもらった」
「それで急にいなくなったとか勝手に勘違いしたのね…………。今まで慣れていたスピードじゃなくなったから。でもいいのかしら?タネを割っても」
「僕が一回攻撃を受けたら貴女のスピードに順応したように貴女も僕の攻撃を受けて順応するだろうからね。もう使えない手を晒したところで全く痛くない」
「まあ確かにその通りか。なら行くわよ!」
彼女は再びリュカに駆ける。リュカもまた彼女に向かい駆ける。リュカの剣がアルゴールを斬ろうとするがそれを左の拳でいなし右の拳で殴ろうとするとリュカは上体を捻る事で躱しとそんな事を繰り返していた。
その際にリュカは斬り、アルゴールは殴りを成功させているので互いに血が飛び交い確実に体力は消耗しているはずなのだがそれを彼等は気力で補っている。何よりリュカは傷を剣の効果で癒し、アルゴールは不死とは言えずともあまりにも高い回復力で傷を治している。正直なところ千日手になりかけていた。
(このままじゃ埒があかないな…………。こうなったら使いたくはなかったがあの技を使うか)
リュカは腰を低くして剣を地面と平行にして構える。アルゴールは何か自分にとって良からぬ結果を齎す何かをしてくると直感で判断しそれを起こさせまいとリュカに駆け寄る。
(足に魔方陣を展開…………使用呪文、バギクロス…………収束、収束、収束…………今だ!)
彼女の貫手がリュカの心臓を突こうとした瞬間、リュカの剣がアルゴールの右胸を貫きそのまま根元までズップリと入り込む。それだけでは飽き足らずリュカの足から放出されている小さな、それでいて強烈な竜巻がリュカの身体をアルゴールごと壁にまで一気に押しやる。そのまま剣は壁に突き刺さりアルゴールはその衝撃で口から勢いよく血を吐いた。
「かはっ…………!なに…………よ、決め技…………あるんじゃ…………ないの…………」
「ここぞという時に使ってこそ決め技だ。正直、あのままだとただの不毛な戦いにしかならなかったからね」
「それも…………そうね。ねえ、どうして私を殺さなかったのかしら?わざと右胸を狙ったでしょう?」
「僕は“ペルセウス”の騎士達…………と言っても一部だけだけどあとルイオスに対して怒りは抱いてもアルゴール、貴女に関しては何も抱いていない。いや、憐憫の感情なら持ってるかもしれない」
「憐憫…………か。私の心でも読んだのかしら?」
「貴女の感情が此方に伝わってきた。これ以上縛られたくないといった感情がね」
「そっか…………。伝わっちゃってたか」
「やはり…………最後の義理と言っていたのは死ぬつもりだったんだね?」
「ええ。今ここで隠しててもしょうがないしね。私は死ぬつもりだったわよ。私はペルセウス座のゴーゴンの首に当たるアルゴルの星霊・アルゴール。そのせいかメデューサの記憶とかギフトが私の物としても扱えているんだけど…………貴方には悪魔化も石化の魔眼も通用しなかったしね。それなら必然、私が負けるでしょう?魔王なんてギフトがあまりにも凶悪なだけってのが多いのよ?」
「…………まあ確かに僕は石化しなかったけども。それでも星霊としての力があるだろう?白夜叉さんとかかなり強かったけど」
「白夜叉って…………白夜王の事⁉︎ちょっと、私とあの人を一緒にしないでよね。あの人は星霊の中でも特に強いわよと言うか仏門に帰依してあの人弱体化しているからね?あの今の幼女然とした姿は弱体化した証よ」
「ああ、やっぱり弱くなっていたのか。それであんなに強いんだから凄いよね。…………あ、剣引き抜くよ」
まるでちょっとそこらのコンビニ行ってくるみたいな感じで無造作に剣を引き抜く。喋っている間に傷は剣が刺さっていた部分以外は治っていたが抜いた事で完全に治った。
「ありがと。…………そういや、なんで白夜王が弱体化してるって気付けたの?アレ、事情を知らなければわからないと思うんだけど?」
「僕のギフト“魔を統べる王”の条件…………みたいなものかな。まあ、憶測でしかないけどこのギフトは人間以外の別種族なら魔物だろうと星霊だろうと神霊だろうと僕の仲間にできるギフトだ。更にそこに強くなれる可能性もプラスされる。で、条件なんだけどこれも恐らくでしかないけど相手と本気で戦う事…………なんだよね」
「え、なに?いや待ってそのギフトおかしい。それって何?ゲームの勝敗とかそんなの関係無しに貴方に隷属させられるってこと?しかもより強くなれるかもしれないって…………。やっぱ貴方魔王だわ」
「いや、確かにゲームの勝敗は関係無いけどこの仲間にするのはお互いの同意が必要なんだよ。魔物とかなら実力主義だからかなり簡単に仲間になるけど星霊はまだ試した事がないというか試せる機会もないというか…………。まあ、単刀直入に言うと僕は貴女の力が欲しい。僕と一緒に戦ってくれないだろうか?」
「…………随分な口説き文句ね。くすっ、いいわ。私を貴方の配下に、いいえ、仲間にさせてくださいな?」
アルゴールが仲間になりたそうな目で此方を見ている!仲間にしますか?
→はい
いいえ
→はい ピッ
いいえ
アルゴールが仲間になった!これからは石化の魔眼や悪魔化を駆使して活躍してくれるに違いない!
「ヤハハハハ!彼奴マジで最高だろ!星霊を仲間にしやがった!…………さて、お前の切り札は彼奴に浮気したようだぜ?こっちもいい加減ケリをつけようか?」
ルイオスはその日悪夢を見た。圧倒的な力で蹂躙される、悪夢を。
ここは“ノーネーム”の本拠の敷地内。行われるは新たな仲間の歓迎と同時に祝勝パーティ。だがそこには今回の件をほぼ一人で片付けた男の姿がなかった。
「おいおい、リュカの奴はどうしたんだ?彼奴がいないと折角のパーティがシラけちまう」
ニヤニヤしながら黒ウサギに訊ねる十六夜。それに黒ウサギは呆れ返った顔で、
「十六夜さん知ってて訊いてますよね?リュカさんは全身筋肉痛でここまで来れません。今はアルゴールさんが看病してくれてます」
と答える。
「オチまでつけてくれるなんて最高だよな!あの脚から竜巻出して相手に突貫する技、全身の筋肉をいい感じに痛めつけるんだとさ!彼奴、今度この技を使う時はデメリットを無くすんだ…………とか言ってたぜ」
そう、リュカは全身筋肉痛に苛まれてパーティに出席できない状態にある。
本拠内のリュカにあてがわれた部屋からは
「あいたたたたたた!も、もうちょっと優しく!」
「何よマスター。湿布貼ってるだけじゃないのよ。ほーら、もう一枚」
「ギャァァァァァァァァァァァ!」
痛みを訴える叫び声が響き渡っていた。
なんや、また長いやんけ!
これ二万を超えているんだぜ?文字数。落差が激しすぎるんよー。
えー、まあ私は色んな影響を受けて作品に注ぎ込むバカでっせ。
知りたかったのはパパスの剣の材質なのに王家の剣とか出てきたら書いてしまいますよねー?
あとは、ブラウニー部隊の三段撃ちっぽいの。前列25体超え中列25体後列25体補給25体の内訳となっております。計100体。
次はリュカがこの世界に来てと言うよりは元の世界含めて初めて手に入れた特技。分かる人には分かると思うけど『聖剣の刀鍛冶』のセシリー・キャンベルが魔剣アリアを用いて使う自身の体を矢として突撃する技ですな。モチーフ元は。
ゲーム的に表すとどうなるんやろ?
敵一体に風の力をもって突撃する。これを使った3ターン後にその戦闘中は力、素早さ、防御の値が半分になる
多分こんなの。その分強力。いずれデメリットもなくなる模様。
誰かこの特技に相応しい名前をつけてくれませぬか⁉︎
私が考えたら『風突』になったんだけどどっかで聞いたことあんなと思ったら疾風突きじゃーんと気付いた模様。
カッコいい名前募集中!気に入った名前を送ってくれた人には感謝の念を捧げてやろう!
はっはっは、超絶上から目線じゃんこれー。
というかアルゴール口説いたねリュカさん。いつからギャルゲーになったんだろう。これじゃあペストちゃんも口説かなければ(使命感)になるやんけ!
えー、コホン。今後の展開としては二、三話ほど本編にもつながる小ネターーーー小ネタになるかはともかくとしてーーーーを投稿する予定。
考えているのだと作者の妄想を垂れ流せ!ドキドキ、ドラクエ講座!と天空城に訪問!なんとそこには驚きのあの人が!と元の世界に戻ってみよう!とか?
ま、また気長に待ってくれれば幸いです。そいじゃさいなら