西暦2015年7月30日。その日世界に絶望が降り注いだーー
西暦2018年、7月30日ーー
湊友希那は香川県丸亀城の本丸石垣の上に立ち、瀬戸内海を見つめていた。その手に持つのは一振りの日本刀。その刀を手にしてから3年の月日が経っている。
真夏の日差しが頭上から降り注ぎ、肌に汗が滲んでいる。周囲では蝉の鳴き声がけたたましく響いていた。
友希那「………………。」
友希那は目を閉じて思い出すーー
今でも鮮明に思い出せる、"あの日"の"絶望"と"怒り"をーー
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西暦2015年、7月30日ーー
当時小学5年生だった友希那は、島根県にあるとある神社の神楽殿に避難していた。修学旅行で島根へ来ていたが、そこで強い地震に見舞われたのだ。
地震はその後も断続的に起こり、教師達が非常事態と判断して、地震の避難場所であるこよ神社へ生徒達を避難させたのだ。
神社に避難した人達の数は、近隣の住人を合わせてもかなり多い。今年は授業日数の関係で夏休みに修学旅行が行われたのだが、まさかそんな日に限ってこの様な災害に巻き込まれるとは誰も予想していなかった。
友希那「全員いるかしら?」
学級委員長だった友希那はクラスの点呼を取り、全員が揃っている事を担任に伝える。担任が言うには、地震は島根だけではなく、全国各地で起こっているようだ。被害も大小様々で、津波や地割れも起きているらしい。
しかし、心配する教師達とは裏腹に、クラスメイト達は寧ろこの事態をイベントの様に楽しんでいた。友達同士でスマホのニュースサイトを見ながら話している姿が見受けられる。
クラスメイトA「明日もここに行けないのかな?」
クラスメイトB「折角の修学旅行なのにね。」
クラスメイトC「誰かトランプとか持ってない?」
友希那はそんなクラスメイト達を横目に見ながら考える。
友希那(注意した方が良いかしら……いえ、そこまでする必要も無いわね。寧ろその方が不安は和らぐだろうし。)
そんな事を思っていると。
クラスメイトA「………あ、湊さんがこっち睨んでるよ?」
クラスメイトB「ちょっと騒ぎ過ぎた?」
クラスメイトC「怒られるから静かにしてよ。」
さっきまで話していたクラスメイト達は、すっかり静かになってしまう。
友希那(別に起こるつもりは無かったのだけれど……。)
?「ゆーきな!」
誰かに声をかけられ振り返ると、カメラのフラッシュが光った。クラスメイトであり幼馴染でもある今井リサがスマホを持って構えていたのだ。
リサ「物憂げな友希那も絵になるよ。」
友希那「リサ……消して頂戴。」
リサ「絶対イヤ!これはアタシの生き甲斐なんだからさ。そんな眉間に皺寄せた顔してると、クラスメイトに怖がられちゃうよ?」
友希那「み……見てたのね…。」
リサ「友希那は真面目過ぎるんだよ。だからそんなイメージなんて壊しちゃえば良いの!」
そう言うとリサは友希那の手を掴み、さっきのクラスメイト達の所へ歩き出した。
友希那「ちょ……リサ!?」
リサ「どうもー。」
戸惑う友希那を無視し、リサは彼女達に声をかける。
リサ「ごめんね。実は友希那がみんなに混ざってお喋りしたいんだって。」
友希那「リ、リサ!?」
リサ「何恥ずかしがってるの?さっきもね、みんなを注意しようとしてたんじゃなくて、どうやって話しかけようかって考えてただけなんだよ。」
クラスメイトC「へ?そうなの?」
友希那「そ、そんなこーー」
友希那が否定しようとすと、リサはその口を塞いでしまった。
友希那「んーーー!」
クラスメイトの3人は少しキョトンとし、やがて吹き出す様に笑ってしまうのだった。
クラスメイトA「へー、なんか湊さんのイメージ変わったよ。」
クラスメイトB「いつも真面目だし、優等生だし。」
クラスメイトC「そうそう、もっと厳しくて怖い人かと思ってた!」
リサ「そう、そうなんだよ!後友希那は無愛想だから損してると思うんだよね!」
妙な成り行きになってしまったが、友希那とリサはクラスメイトの3人に混ざってお喋りをしていた。リサに至っては、まるでずっと前からの親友の様に親しげに話している。誰とでもすぐ仲良くなれるリサの気さくさは、友希那には無いものだった。友希那はその真面目過ぎる性格のせいで、クラスの中では少し浮いている。
リサ「でも、中身は凄く可愛いんだよ。」
友希那「可愛い!?な、何言ってるの…!」
友希那がリサを睨んでも、リサはまぁまぁと友希那を宥め、悪びれる様子もない。
クラスメイトB「あはは、面白い!大丈夫だよ。私達、もう湊さんとは友達だし。」
彼女達はそう言って笑っていた。
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暫くお喋りした後、友希那は神楽殿の外に出た。夜と言ってもまだ7月。暑さはまだ相当であり、風に当たりたかったのだ。
神社の鳥居とは、古来より外界との境界といった意味を持っている。まだ人々が信仰を忘れてなかった頃、神社は異界とされていたのだ。そんな事を友希那は知る良しも無いが、この場の神聖な空気というものを感じる事は出来ていた。
リサ「こんな所にいたんだ、友希那。寝ないの?」
友希那「寝てる間に何か起こるかもしれないわ。だから起きてようと思うの。」
リサ「先生が起きてるのに?」
友希那「私は学級委員長だから。」
リサ「はぁ………友希那は本当に真面目と言うか何と言うか…。」
少し呆れた様にため息を吐きながら、リサは友希那の隣に立つ。
リサ「だったらアタシも起きてるよ。」
友希那「……付き合う必要は無いわ。」
リサ「アタシは友希那の幼馴染だからね。………ずっと一緒にいるよ。」
そう言われると友希那はこれ以上強くは言えなかった。
友希那「……………リサ。」
リサ「何?」
友希那「さっきはありがとう。リサがいてくれなかったら、さっきもクラスメイトと距離を置かれるところだったわ。」
リサ「そんな事か。アタシは友希那が誤解されてるのが嫌だっただけだよ。」
友希那「"何事にも報いを"………それが湊家の生き様よ。」
その言葉は友希那の祖母がよく口にする戒めの一つ。祖母を慕っている友希那は、その言葉をとても大事にしていた。
友希那「だから私は、リサの友情に報いたい。して欲しい事があったら、何でも言って頂戴。」
リサ「そこまで言うなら………。」
その時友希那の背筋に悪寒が走る。真夏にも関わらずに。
リサ「………まぁ、それは後でゆっくり考えるよ。兎に角、友希那はもっと気楽にクラスメイト達に声掛ければ良いんだよ。そうすれば、みんなも友希那の事を分かってくれるし、もっと仲良くなれる筈だから。1人で出来ないならアタシも手伝うし。」
その言葉が友希那の中にゆっくりと染み渡っていく。
友希那(もっと仲良く出来る………そうね。)
友希那はクラスでは浮いていた。だが、友希那自身も無意識に他のクラスメイト達と距離を置いてしまったのかもしれない。事実、話してみたらすんなりと仲良くなれたのだから。
リサ「だけど……そうして友希那がクラスの人気者になっちゃったら、もうアタシに構ってくれなくなっちゃうかもなー。」
友希那「な、何言ってるの!?そんな訳無いじゃない。リサは何があっても私の一番の友達よ。」
リサ「冗談だよ。友希那ってばーー」
突如、地面が激しく揺れだすーー
友希那(これは……今までの地震とは比べ物にならないくらい大きい……!)
立っているのが困難な程の強い揺れ。友希那は中腰になり倒れないよう踏ん張るが、リサは小さな悲鳴をあげて尻餅をついてしまう。
揺れは数十秒程続き、やがて収まった。
友希那「凄い揺れだったわね……リサ、大丈夫?」
友希那は手を差し出すが、リサはその手を掴む事は無かった。
友希那「リサ?」
リサ「怖い…………。」
友希那「え?」
そう呟くリサの顔は真っ青で、体も小刻みに震えていた。
リサ「ゆ、友希那………な…なんだか、凄く………怖い事が……。」
そう言ってリサは空を見上げた。それに釣られ友希那も顔を上へと向ける。空には星空が輝いていた。
否、それは星では無かったのだ。
友希那「…………っ!?」
無数の星々がまるで水面を漂う様に蠢いていたのである。最初は鳥か何かと思っていた。しかし、"それ"は動きが不規則な上に、そもそも夜にあれ程多くの鳥が空を飛んでいるのはどう考えてもおかしいのだ。
次第にその星々の幾つかが大きくなっていきーー
絶望が、空から降ってきたーー