真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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リーダーの本質に悩む友希那をリサは敢えて突き放す。出口の無い迷路に迷い込む中、差し伸べられたのは、仲間の手だった。




当惑-とうわく-

 

目を開けると、視界に白い天井が広がっていた。

 

友希那「そういえば、ここは病院だったわね。」

 

リサ「おっ、おはよう、友希那。」

 

隣にはリサが座っていた。過去最大規模のバーテックス侵攻の後、勇者達は治療と検査の為に入院することとなった。勇者達含めて全員が負傷していたし、勇者の力も長時間使ったので影響を調べるための検査が必要だったからだ。

 

友希那の体には外傷はあったが、重いものは無かった。ただし、筋肉や関節の各所が炎症を起こし、一部に疲労骨折も起こっていたため、暫く運動は控えなければならないだろう。

 

リサ「何か食べる?」

 

そう言ってリサはお見舞いの品として貰っていた林檎を剥き、友希那に食べさせた。

 

二、三個食べた後、友希那はベッドから降りて病室の出口に歩き出す。

 

友希那「香澄の様子を見に行かないと。」

 

リサ「……そうだね。」

 

少し躊躇う様子を見せるも、途中ふらつきそうになる友希那の肩を支えて病室を出た。

 

 

 

 

 

二人は香澄がいる特別治療室の前までやって来る。そこにはあこと燐子もいた。あこは廊下に置かれた長椅子に腰掛け、項垂れている。燐子はそんなあこの隣に座り、どうすればいいか迷うように視線を彷徨わせていた。

 

友希那「香澄の様子は……どう?」

 

燐子「友希那さん……まだ意識が戻らないんです…。」

 

友希那「そう……。」

 

ガラス越しに、治療室のベッドで横たわる香澄の姿が見える。包帯とチューブに巻かれた姿が痛々しい。

 

リサ「心配無いよ……この病院には、最良の設備と医者が揃ってるんだから。検査でも、命に別状ないって言ってたし。」

 

そう言うリサの口調は何処か重い。そこへ点滴スタンドを押しながら紗夜がやって来る。

 

紗夜はそのまま友希那の横を通り過ぎ、ガラスの向こうの香澄の姿を見て悔しげに唇を噛み締めた。

 

紗夜「どうしてこんな事に………。」

 

紗夜は呟く。自分の無力さを嘆く様に。そして友希那へと視線を向けた。

 

紗夜「これが………あなたが引き起こした結果です…。」

 

友希那は無言で紗夜の責めを受け入れた。香澄がここまでの傷を負った責任を、友希那も自覚していた。

 

紗夜「何故こんな事になったのか……あなたは分かっているんですか…?」

 

友希那「……分かっているわ。私の突出と無策が全ての原因よ……。」

 

暴走とも言える単独行動。それがこの結果をもたらしたのだ。

 

 

 

 

 

 

紗夜「違います……!」

 

紗夜は絞り出すように叫ぶ。

 

紗夜「やはりあなたは分かっていません!一番の問題は………あなたの戦う理由です……!」

 

友希那「戦う……理由…?」

 

紗夜「そうです!あなたはいつも、バーテックスへの復讐のためだけに戦っている……!だから、怒りで我を忘れてしまうんです…!自分が周りの人間を危険に晒しても、気付きさえしない!!」

 

友希那「………!」

 

紗夜の言葉が病院の廊下に響き渡る。

 

紗夜「あなたに…私達のリーダーとしての資格なんてありません……!あなたが戦うことで、高嶋さんは傷付きました…きっとこれからも、同じ事が起きます!だったら………もうーー」

燐子「それは言い過ぎです……!」

 

紗夜の言葉を燐子が遮った。

 

燐子「友希那さんは…今までずっと先頭に立って戦ってきました……。例えそのやり方が強引だったとしても…全てを否定するのは間違っています……。」

 

紗夜「……………っ!」

 

紗夜は燐子の側へ歩いて行き、手を振り上げた。だが、その手が下されることは無かった。あこがそれを止めたのだ。

 

あこ「止めてください……りんりんに手を出すなら、あこが黙ってません。」

 

空気が凍りついた様に、廊下が静まり返る。

 

リサ「こんな風にみんなで喧嘩して……一番悲しむのは、誰なんだろうね…。」

 

沈黙の中で、リサがそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

それからは誰も口を開くことなく、それぞれの病室へと帰っていった。紗夜だけは特別治療室の前に残っていた。

 

紗夜「湊さん………あなたがこのまま変わらないのなら…もう私は、あなたと一緒に戦うことは出来ません………。」

 

 

 

 

 

就寝時間が過ぎても友希那は眠ることが出来ず、ずっと病室の天井を見つめていた。紗夜に言われた言葉が、何度も何度も頭の中に反芻されるのだ。

 

友希那(復讐の為に戦っている………。)

 

敵に報いを与える事、これこそが友希那の行動原理だった。殺され、苦しめられた人々の怒りと悲しみをバーテックスに返す。ただその一心で己を塗りつぶし、戦場に立っていた。それを仲間に否定された今、友希那はどうやって戦っていけばいいのだろうか。

 

友希那(分からない……。)

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

翌日、検査と治療が終わった友希那達は、退院することとなった。勇者としての訓練はまだ出来ないが、日常生活に支障はない。

 

しかし、香澄は未だに意識を取り戻していなかった。そして友希那は、自分の心の中にある迷いが払拭出来ないでいた。

 

あこ達も退院したが、学校に戻っても以前とは空気が違っていた。昼休みや食事時間も口数が減ったのだ。

 

もしこの場に香澄がいたら、みんなの仲を取り持ち、重い空気を消してくれただろう。だが、今ここに香澄はいない。本来ならリーダーである友希那がやるべきなのだが、今の彼女にその器量は無かった。

 

 

 

 

 

その夜、友希那はリサの部屋を訪れる。不安を握り締める様に、枕を抱えて。ドアを開けると、リサが忙しなくバッグに服やノートを詰め込んでいるところだった。

 

友希那「何やっているの、リサ?」

 

リサ「あぁ、友希那、いらっしゃい。今、ちょっと荷物をまとめてるんだ。」

 

友希那「どうして?」

 

リサはバッグを閉じ、神妙な面持ちで答える。

 

リサ「………明日、この寮を出るんだ。」

 

友希那「えっ!?な、何かあったの!?」

 

友希那は驚きを隠せない。動揺している友希那を見て、リサはクスリと笑って答えた。

 

リサ「友希那ってば、動揺しすぎ。別にずっとこの寮からいなくなる訳じゃないよ。ちょっとだけ。大社の本部に呼び出されたんだ。」

 

友希那「そ、そうだったの……。だけど、どうして突然に?」

 

大社からの呼び出しなどは滅多に無い事だ。大抵の用事なら、学校に出入りしている大社職員を通じてやり取りすれば良いだけの話しだからだ。

 

リサ「理由は話してもらえなかったんだ。たけど、年明けから色々あったからね…前回のバーテックスの襲撃は今までと比べ物にならないくらい大規模だったし、重傷者も出てたから………。」

 

四国へバーテックスの侵攻が始まってから数ヶ月が経った。今、何かが大きく動こうとしているのかもしれない。

 

リサ「ところで、友希那は何か用事でもあったの?こんな夜中に。」

 

友希那「そ、そうね………。」

 

友希那は床に座り、リサにこれまで自分が感じていた事を話し出すのだった。

 

紗夜に言われた事ーー

 

自分がこれからどう戦えばいいか分からなくなった事ーー

 

今までの自分が間違っていたのかという迷いーー

 

 

友希那「私は…どうすれば良いのかしら………。」

 

友希那の目に涙が浮かぶ。幼い頃から友希那は他人に涙を見せる事は決して無かった。だが、リサに対してだけは別だった。リサの前では、友希那は身も心も無防備になってしまう。

 

リサ「…………………。」

 

リサは友希那の問いに、答えられなかった。友希那はいつも、迷った時にはリサに頼り、リサはいつもそれに応えていた。世界を守る勇者という重責を負う友希那に対しーーそして幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた一番の親友に対し、出来る限りの事はしてあげたいとリサは思っている。

 

 

だけど、今ここで友希那に答えを教える事が、本当に正しいのだろうか。

 

友希那が抱える問題点と、その解決方法を、リサが言葉で教える事はすぐに出来る。そして飲み込みの早い友希那は、すぐに今の状況を改善出来るだろう。

 

 

 

 

 

その方法は本当に正しいのだろうかーー

 

 

 

 

表面的に問題を無くせたとしても、友希那の内面はきっと変わらない。リサ以外誰も気付いていない、友希那の精神的な脆さは消えないままだ。そしてそれはいずれ、友希那の命を危険に晒すだろう。

 

友希那「…………。」

 

友希那はリサの言葉を待っている。だが、リサは友希那に答えを与える事はなかった。

 

リサ「今、友希那が抱えてる問題は、自分で答えを探し出して、自分で乗り越えるしかないんだよ。」

 

友希那「え………。」

 

友希那は耳を疑う。リサの口から出た言葉は、口調こそは優しかったが、友希那を突き放す事に等しい意味だ。

 

友希那「そう……ね…。」

 

リサ「大丈夫。友希那ならきっと乗り越えられる………アタシはそう信じてるから…。」

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝、まだ日も昇らないうちにリサは大社の使者に連れられて寮を出た。リサは途中、何度も丸亀城の方を振り返る。友希那の事も、険悪な空気になったままの勇者達を残していくのも、不安だった。だが、大社管理下に置かれている巫女のリサに、招集を拒否する権利は無い。後ろ髪を引かれる思いでリサは寮を後にした。

 

燐子「今井さん………。」

 

そんなリサの姿を、たまたま朝早く目を覚ました燐子が、寮の窓から見下ろしていた。遠目にだが、リサの表情が見える。友希那を含めた今の勇者達の状況を考えれば、リサが抱えていた不安が何なのか、燐子にも簡単に想像出来た。

 

 

 

 

 

その日、学校が始まっても友希那はずっと沈み込んでいた。授業中も休み時間も、席から一歩も動かず、俯いたまま動かない。昼休みになりあこが友希那を呼びに来ても、返事が返ってこなかった。

 

あこ「友希那さん、相当落ち込んでるみたいだけど……。」

 

燐子「仕方ないよ…高嶋さんの件があって、今は今井さんもいないんだから……。」

 

あこ「でも、あのままにしてもくのも…。」

 

流石のあこでも、今の友希那を放っておく事は出来なかった。

 

結局、友希那は放課後まで誰とも話すことなく、ずっと俯いて過ごしていた。

 

友希那(私は、リサにも愛想を尽かされてしまったの……?)

 

今朝、友希那が目を覚ました時にはリサは既にいなかった。今までのリサであれば、友希那にだけは出発の時間を教えていた筈だ。昨日の件もあり、友希那はリサに拒絶されてしまった様に感じていたのだった。そんな時、燐子が机の前に立った。

 

燐子「友希那さん……。」

 

友希那「…どうしたの?」

 

燐子「少し出かけませんか……?」

 

 

 

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