真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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あの日失われた命があった。だが、救った命も確かにあった。
その命が育まれ、また別の命が生まれる。
今を生きる人々の為に、過去を抱いて友希那は前に進む。




生命-いのち-

 

燐子に引っ張られる様にして、友希那は学校から街へ出た。丸亀城周辺は市街地が多く、バーテックスが出現した三年前以降、四国の外から移住してきた人も多く暮らしている。

 

友希那(急に外へ連れ出して、どうしたのかしら……。)

 

燐子の意図が分からないまま、友希那は歩く。

 

 

 

 

 

しばらく歩き、とある民家の前で燐子は足を止めた。

 

燐子「この家に住む大学生の方は…三年前に広島の大学に通ってました…。バーテックスが現れた日……四国に避難することが出来ましたが…天空症候群を発症……。ご家族もご本人もずっと苦しんでいました……。ですが…勇者がバーテックスに勝ったというニュースを聞いた日から…少しずつ心が安定して症状が改善しているそうです………。」

 

友希那は燐子の意図が掴めないまま、その言葉を聞いていた。そして燐子は再び歩き出し、また別の家で立ち止まる。

 

燐子「このご家族は…ずっと昔から丸亀市で暮らしていて、地元に強い愛着を持っています……。もし勇者が四国を守ってくれていなかったら…大切な故郷を失ってしまっていただろうと言っていたそうです……。」

 

そしてまた歩き出し、今度はアパートの前で立ち止まる。

 

燐子「ここに住んでいるのは…殆どが本州や九州から移り住んできた方々です…。四国外から避難してきた多くの方々は…バーテックスのせいでご家族を亡くし、仕事も家も失って生きる気力を失っていました……。自殺しようとする人も沢山いたそうです…。でも…勇者の戦う姿を見て、前向きさを取り戻していっているそうですよ……。」

 

四国に住む人々は、全員が三年前の悲劇を経験している。そして間接的にしろ直接的にしろ、四国を守る勇者のお陰で、今を生きながらえているのだ。

 

燐子「私は、時々街の中を散歩したりしているんです…。そうしたら、街の人がどんな暮らしをしているか……声が聞こえてきて…私が勇者だって気が付いて、話しかけてくださる方もいるんです…。」

 

友希那「そうなのね……。」

 

友希那は街に出る事が殆ど無かった。生活は寮と丸亀城内だけで完結するし、特に友希那は顔が知られているので、外出は極力避けるように大社からも言われていた。燐子は歩きながら、しばしば立ち止まっては、街で暮らす人々の生活を語った。

 

そしてその途中、二人はベビーカーを押している女性と出会う。その女性は友希那の顔を見て立ち止まり、驚いた表情を浮かべ話しかけてきたのだった。

 

女性「あの……もしかして、湊友希那様ですか?」

 

友希那「ええ…。」

 

その女性は友希那に頭を下げ、ベビーカーに乗せた赤ちゃんを二人に見せたのだ。

 

女性「私は、三年前……島根の神社に湊様と共に避難していた者です。」

 

話を聞くと、この女性とその夫は、友希那が島根から四国へ避難者を連れて戻った時に同行していたのだという。友希那のお陰で命を救われたのだ。

 

そして三年が過ぎた今、友希那が救った二つの命から、また新たに命が生まれたのだ。

 

母親「この子には助けて頂いた勇者様の名前に肖って"友希那"と名付けました。本当にありがとうございます。やっと……直接お礼を言う事が出来ました。」

 

友希那はその赤ちゃんを抱かせてもらう。

 

友希那「………可愛いわ。」

 

赤ちゃんから生命の温かさと重さを感じる。女性は目に涙を浮かべながら、何度も感謝のお礼を口にして去って行った。

 

女性が去った後、燐子は友希那に告げる。

 

燐子「………これが、友希那さんが守っているものです…。」

 

友希那「私が……守ってるもの…。」

 

燐子の言葉を何度も噛み締める。何かが、友希那の中で変わっていくような気がした。

 

友希那(そう……これが………。)

 

瞼を閉じる。脳裏にはバーテックス襲来のあの日の光景が、今でも鮮明に焼き付いている。

 

目の前で喰われていく人々ーー

 

変わり果てた姿になったクラスメイトーー

 

蠢く化け物の姿ーー

 

荒廃した国土ーー

 

 

その記憶は長い時間がたった今でも、悪夢の様に友希那の体に絡み付いている。

 

友希那(あの日の記憶に、ずっと囚われていたのね………。)

 

トラウマだったのだ。三年前の惨劇は、幼かった友希那の心に深い傷を与えた。どんなに気丈に振る舞っていても、化け物を一掃出来る程に強くなっても、その傷は残り続けていた。

 

傷は友希那に、死者の復讐を求め続けた。バーテックスを前にして怒りに我を忘れてしまうのも、復讐に拘り過ぎるのも、その傷が深く心に刻まれているからだ。

 

 

友希那(だけどもう………乗り越えなければいけないわね……。)

 

いつまでも過去に囚われ続けてはいけない。友希那は今、多くの人々の命を背負っている。

 

死者の為では無く、生者の為に戦わなければならないーー

 

いなくなった者では無く、側にいる者に目を向けなければならないーー

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

リサ「友希那は遠くばかりじゃなくて、もっと近くを……自分の周りの人達を見てあげた方が良いかもしれないよ。」

 

 

ーー

ーーー

 

 

 

あの夜リサが言っていた言葉の意味が、漸く友希那にも分かった。

 

友希那「だからリサは私を突き放したのね……。」

 

自分が抱えている弱さには、自分で気付かなければ意味がない。リサは友希那を思いやるからこそ、敢えて何も言わなかったのだ。

 

燐子「寮を出て行く時の今井さんを…偶然見かけたんです……凄く心配そうな顔をしていました…。きっと友希那さんの事を気にかけていたんだと思いますよ……。」

 

友希那「ありがとう、燐子。」

 

燐子「勇者としては頼りないですけど……仲間ですから…!」

 

友希那「頼りないなんてこと無いわ。燐子の射撃の精密さは誰もが認めるところよ。それに、前のバーテックスとの戦いでは、燐子の機転があったからこそ勝てたのよ。」

 

燐子「友希那さんに褒められると…凄く嬉しいです……。」

 

そんな風に二人で歩きながら話していると、突然二人の間からにょっきりとあこが顔を出した。

 

あこ「二人で何話してるんですか?あこも混ぜてください!」

 

燐子「あこちゃん?どうしてここに……?」

 

あこ「りんりんと友希那さんが深刻そうな顔して学校を出てったから、心配して後追ってきたんだよ。」

 

友希那「どうやら心配させてしまったようね……。ありがとう、あこ。あなたも本当に掛け替えのない仲間よ。」

 

あこ「えへへ……そんな風に面と向かって言われると、照れちゃいますよ。」

 

友希那(私の周りには、頼りになる温かい仲間がいる……みんながいれば、きっと過去の傷にも打ち克てる……。)

 

友希那は二人を呼び止め頭を下げる。

 

友希那「あこ、燐子。あなた達が側にいてくれれば、私はもう自分の弱さに負けて暴走なんてしない。だから………もう一度、一緒に戦ってくれるかしら。」

 

その言葉に二人は頷いた。

 

燐子「勿論です…!友希那さんはリーダーですから…。」

 

あこ「はい!あこに任せてください!!」

 

 

 

---

 

 

 

その日の夜、友希那は紗夜の部屋に訪れた。

 

友希那「……………。」

 

紗夜「……………。」

 

お互い無言のまま時間が過ぎていく。

 

友希那「……ごめんなさい、紗夜。」

 

やがて友希那が紗夜に頭を下げた。

 

友希那「私は思い上がっていたわ。自分だけで戦ってるつもりになってた。一人だけでバーテックスを倒すのに充分だと思ってた。過去に囚われていたせいで、周りの人に目を向けることも出来ず、怒りに我を忘れることもあったわ。これは………私の心の弱さが招いたことよ。」

 

紗夜「…………。」

 

紗夜は友希那の言葉を、無言で聞き続けていた。

 

友希那「これからは、一人で戦っているなんて思い上がったりはしない。死んでしまった人達よりも、今を生きている人達を想って戦う。だから………これからも私と共に戦ってほしい…。」

 

紗夜は少し目を伏せ、やがて向き直り口を開いた。

 

紗夜「…………言葉では何とでも言う事が出来ます。あなたが本当に変われるのかは分かりません。」

 

友希那「…………。」

 

紗夜「だから、行動で示してください。私は………あなたを側で見ていますから。」

 

言い終わると、紗夜は気恥ずかしそうに目を逸らすのだった。

 

 

 

 

 

香澄が目を覚ましたのは、その翌日だった。意識もはっきりしていて、状態も安定していた。一般病棟に移され、後遺症も無く、順調に回復しているらしい。

 

香澄「みんなをすっごく心配させたのに、何事なく治っちゃった。人騒がせでごめんね。」

 

友希那「ちゃんと治るのが一番よ。それに……謝るのは私の方よ。香澄がこれだけの怪我を負ってしまったのは、私のせいだから。」

 

元気そうにしている香澄でも、まだ体には包帯が残っている。順調に回復しているとはいえ、決して軽い傷ではなかった。友希那は香澄ぎ意識を失っている間に起こった事を話した。紗夜との喧嘩も、自分の弱さに気付いた事も、仲間の温かさを知った事も。

 

そして、自分が大切にすべき事はら今生きている人達、側にいる人達だという事。友希那が語る言葉を、香澄は静かに聞いていた。

 

友希那「まだリーダーとしては未熟だけれど……これからも一緒に戦ってほしい。」

 

友希那が頭を下げると、香澄は友希那の手を取って微笑む。

 

香澄「勿論だよ。だって私は友希那ちゃんの友達だもん。友希那ちゃんは、一人で何でもやり過ぎちゃうところはあったかもだけど……でも、その姿がみんなの元気の素になってたことは、絶対に間違いないから。だから私は、これからもずっと友希那ちゃんと一緒に戦うよ。」

 

友希那「ありがとう……香澄。」

 

顔を上げた友希那の表情は、迷いが晴れた清々しさと、新たな決意が浮かんでいた。

 

友希那「まだ病み上がりだから、そろそろ帰るわね。」

 

しかし香澄は握った手を離さず、引き止める。

 

香澄「まだ面会時間はあるから大丈夫。こんな風に二人で話す事もあんまり無いし、もう少し側にいてほしいな。友希那ちゃん、何だか前よりも柔らかくなった気がする。私は今の友希那ちゃんの方が好きだよ。」

 

 

 

 

 

 

人類が黄昏の刻を迎えても、日々は変わらず流れ続ける。少女達はその時間の中で変わり、成長していく。

 

 

 

 

そしてーー

 

 

 

 

彼女達の試練は、これから始まろうとしていた。

 

 

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