真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

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大社の巫女であるリサは、神樹から一番の寵愛を受けている。荘厳な空気の中でリサは神託を授かった。
今、四国にかつて無い危機が訪れようとしているーー




神託-しんたく-

 

 

荘厳な空気が漂う中、白装束の少女達が滝に打たれていた。彼女達のなかにリサの姿がある。ここは四国の守護の中心である"神樹"から程近い場所である修練場。滝に打たれる少女達は、神に選ばれ、その声を聞く巫女達である。今は神樹と向き合う為に、身を清めているところだった。

 

リサ(祓い給え、清め給え、神ながら、守り給え、幸い給え……。)

 

リサは心の中で祝詞を何度も唱えた。

 

 

 

 

 

滝行を終えて川から上がった少女達は、用意されていた巫女服に着替える。

 

明日香「死んじゃうかと思った……。真冬の滝行は寒いし痛いよ…。」

 

そう叫ぶのは戸山明日香。リサと同じ境遇で巫女になった人物であり、あこと燐子を見出した巫女だ。

 

明日香「リサさんが普通に滝行出来てることが驚きです。」

 

リサ「どうして?」

 

明日香「普段はこういう儀式はしてないんですよね。」

 

勇者お付きの巫女であるリサは、普段は丸亀城で勇者達と同じ生活を送っている。その為、神樹に直接謁見することは少なく、冬の滝行を経験したことも今回が初めてだ。しかし普段から大社で過ごしている明日香などは、毎日神樹の近くにいるので滝行は日常茶飯事である。

 

明日香「私なんか、何度もやってるのに全然慣れないですよ……。」

 

リサ「あはは…でも、滝行はそんなに辛く感じなかったね。勿論、水の刺すような冷たさは感じたけど……不思議な温かさがあるように思えたし。」

 

明日香「リサさんには特別な加護があるんでしょうね。神樹様一番のお気に入りですし。」

 

リサは大社の巫女の中で最も巫女としての適正が高い。彼女が大社に呼び出されたのも、重大な神託があるために、能力が高いリサが必要だったのかもしれない。

 

明日香「ところでリサさん。」

 

リサ「何?」

 

明日香「あこや燐子さんはちゃんとやれてる?」

 

リサ「元気だよ。二人とも仲良くやってる。」

 

明日香「なら安心です。」

 

リサ「明日香は二人が心配?」

 

明日香「少しだけ。私はあこと燐子さんを見出した巫女って事になってますし、責任感じてますから。」

 

リサはスマホから二人が写っている写真を何枚か見せた。元気そうな二人を見た明日香は、安心したように表情を緩めるのだった。

 

 

 

 

 

滝行の後、巫女達は神樹の祀ってある場所へ向かい、列を成して歩いて行く。整備されてない道を歩きながら、リサは丸亀城に残してきた勇者達の事を思う。

 

リサ(友希那は立ち直れたかな…みんなと仲良く出来たかな……。香澄は元気になったんだろうか……。)

 

丸亀城から離れて一日しか経っていないのに、彼女達の事ばかりが気になってしまう。

 

リサ(たった一日で、こんなに心が乱されるなんてね……。)

 

明日香に至ってはもう一年以上あこと燐子には会っていない。他の巫女達も、大切な人と離れて暮らしているだろう。たった一日でこれ程までに辛いのなら、彼女達はどれ程心苦しい思いをしているのだろう。

 

明日香「リサさん……。」

 

リサの後ろを歩いている明日香が、声を潜めて話しかけてきた。

 

リサ「喋ってると、大社の人に怒られるよ。」

 

明日香「祝詞を唱えるのに精一杯で、気にしてませんよ。………諏訪からの連絡が途絶えた事は知ってますか?」

 

リサ「………うん。諏訪とやり取りをしてたのは友希那だったから。」

 

明日香「そうでしたか。じゃあ、新たに生存者がいるかもしれない場所が見つかった事は?」

 

リサ「っ!何処!?」

 

思わず声が出てしまう。だが祝詞を唱えている神官達は気にも留めていない。

 

明日香「まだ確定って事じゃないんですけど………北海道と沖縄にほんの僅かに生存者の反応があったみたいです。」

 

リサ「……………そっか。」

 

心の中に希望が湧いてくる思いだった。四国以外にも、人が残っている地域がある。まだ人類は終わっていない。敗北していない。帰って友希那達にこの事を伝えれば、きっと喜ぶだろう。

 

明日香「もしかしたら、まだ見つかってないだけで、本州にも人が生き残ってる地域があるかもしれません。諏訪だって、滅んだって決まった訳じゃありませんよね?」

 

リサ「……そうだね。」

 

あくまで諏訪とは連絡が途絶えただけである。希望はまだ残っている。

 

明日香「リサさん………人間って、強いですね。」

 

リサ「そうだね……本当に。」

 

人類は長い歴史の中で、多くの災害に直面してきた、その度に人々は立ち止まり、涙を流してきた。けれど結局最後には、また自力で歩き出して復興を果たしてきた。

 

明日香「今度だって、人はきっと立ち直る。また元の世界を取り戻すことが出来る。」

 

リサ「アタシもそう信じてる。」

 

信じ、願い、祈る。戦う力を持たない巫女達は、そうする事しか出来ないから。

 

明日香「世界が元に戻ったら………勇者とか巫女とか関係無く、あこや燐子さんと遊べるし。お母さんとだって毎日会える。それに……私弟がいるんです。今は"天恐"で入院してるけど、きっとこの世界が元に戻ったら、治ると思う………。」

 

そう話す明日香の顔を、リサは見ないようにした。明日香が掠れた声で泣いているのが分かったから。何時だって想像してきた。

 

 

もしこの世界が平和なままだったらーー

 

 

もしこの世界が元に戻ったらーー

 

 

 

勇者として戦っている少女達も、巫女として不自由な生活をしている少女達も、全く違う生き方が出来るだろう。平凡で、ありきたりで、だけど温かくて尊い日常を。

 

リサ(アタシ達は必ず帰るんだ……その日常に。)

 

やがて目の前に神樹の姿が見えた。

 

 

 

バーテックスの襲来以降、その樹木は四国に出現した。大社な祀る御神体であり、神そのものと言われる。

 

神樹は、巫女に神託を与え、勇者には戦う力を与える。四国に結界を成したり、樹海化を起こしたりしているのも神樹だ。

 

また、神託、勇者の力、四国の守護だけで無く、神樹は生物科学にも影響を与えている。勇者は神樹の力と人の力が合わさって活動するが、その身体を調整することで、細胞や人体に関する研究が急速に進んでいる。

 

リサの体は、神樹を前にして緊張で強張っていた。ここに来るまでにお喋りしていた明日香も、今は全く口を開かない。

 

神樹の両脇から巫女達の方へ、数十人もの大人達が列を成し、両手両膝をついて頭を下げた状態で座っている。巫女達が神樹に向かって歩く為の道を作っているのだ。彼らは、一様に緊張した表情を浮かべている。

 

今ここで頭を下げている人達も、道中で祝詞を唱えていた人達も、全て大社の一員である。大社を構成する人々は、各神社の神職から適格とされた人だ。

 

巫女達はリサを先頭に、大社の人々が作る道を通り、神樹の前へと向かう。神樹と相対したリサは、自然と膝をついて頭を下げる。

 

リサ(神話とかで良く聞くけど………神様の前で、人は立っていられない、っていうのは本当なんだね……。)

 

一度頭を下げた後は、何かの許しが得たように緊張がほぐれた。そしてリサは神樹の幹に手を触れる。

 

リサ(神樹様は……生きている…。)

 

不思議な温かさを感じた。まるで生き物に触れているかの様に。

 

リサ「っ!?」

 

次の瞬間、リサの体の内側が熱くなり、神樹に触れた手を通して何かが流れ込んでくるような感覚が起こる。

 

リサ「…………うーー」

 

体内の熱はやがて頭の中に集まり、重い風邪を引いた時のように意識が混濁する。平衡感覚が無くなり、五感が鈍り、視界が狭く暗くなりーー

 

 

明日香「リサさん!?」

 

神官「今井様!」

 

神官「いけない、瞳孔が開いてーー」

 

騒いでいる周りの声が遠ざかり、やがてリサの意識は完全に闇に沈むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました時、リサは大社にある社殿の一室で布団に横たわっていた。側には明日香や数人の巫女達が、リサを見守るように座っている。

 

明日香「気がついたんですね!良かった……。」

 

目を覚ましたリサを見て、明日香は安堵の声を浮かべる。

 

明日香「リサさん、意識ははっきりしてます?」

 

リサ「大丈夫だよ、明日香。」

 

そう言いながら、リサの顔は真っ青になっていた。凍える様な寒さも感じる。

 

明日香「リサさん、どうかしたんですか?」

 

リサ「神託が………。」

 

明日香「何が見えたんですか?」

 

リサ「暗い空を埋め尽くす、無数の小さな星々……星は流星の様に落ちて来て…小さな星は幾つも重なり合って、かつて無い程の輝きに………。」

 

リサの言葉を聞くや否や、明日香は周囲の巫女達に大社へ知らせるようにと指示を飛ばす。神樹を通して見えたイメージの意味を、リサは理解していた。

 

リサ「…………もうすぐ総攻撃が始まる…。四国へ侵入するバーテックスの数は、前回よりもはるかに多い……。」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

翌日リサは丸亀城へと帰った。今回の神託を勇者達に伝え、次の侵攻の対策を練らせるという任務が課せられている。

 

リサが丸亀城の寮にある自室に戻ると、そこには友希那がいた。

 

友希那「リサにお礼が言いたかったの。」

 

真面目な表情はいつも通りだが、何かが吹っ切れた様にさっぱりとした口調だった。その目は迷いの無い輝きを感じる。

 

友希那はリサが丸亀城を去ってから起こった事を話す。自分の弱さに気付いたこと、仲間達と和解したこと、もう二度と暴走しないと誓ったことーー

 

リサ「良かったよ、友希那。」

 

友希那「ええ。リサが私を信じて見守ってくれたからこそ、本当の意味で自分の弱さを知れたのよ。ありがとう……。」

 

リサが信じていた通り、友希那は自分の力で自分の弱さを乗り越えることが出来たのだ。

 

リサ「さっすがは友希那。アタシの自慢の幼馴染だよ。」

 

リサは微笑む。そして今の友希那なら、これから起こる戦いにも立ち向かえるとはっきり感じた。

 

リサ「友希那、全員に伝えないといけない事があるんだ。」

 

 

 

 

 

リサは勇者達に、間も無く起こるであろうバーテックスの総攻撃について話した。前回よりも激しい侵攻が起こるとなれば、勇者達にとって"死"という言葉さえ現実味を帯びてくる。

 

しかし、勇者達は決して悲観的にはならなかった。友希那が精神的に成長したことが、周りにも影響を与えているのかもしれない。

 

そしてリサは、四国以外にも人類生存の可能性があることも伝えた。希望が見つかったのだ。他の地域で生き残っているかもしれない人々の為にも、四国を潰させる訳にはいかない。勇者達全員が同じ気持ちになった。

 

リサ(戦いが始まったら、アタシは何の力にもなれない………。だから祈ろう。みんなが必ず戻って来る様に。)

 

希望に満ちた勇者達を見て、リサはそう思うのだった。

 

 

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