嵐の前の静かさが四国に広がる。チームワークを高めるべく、友希那はそれぞれの勇者達と親睦を深めるため行動を移す。
間も無く"丸亀城の戦い"が始まろうとしていたーー
バーテックスの大規模侵攻の話を聞いた友希那は、自分が為すべき事は何かを考えた。
友希那(私は、リーダーとしてもう一度、みんなと向き合わなければならないわ……。)
思い付いた事は、勇者全員と意思疎通をしっかりと築くことだった。自分一人で戦っているわけではない。戦闘が始まってから、足並みが揃わなければ力を発揮出来ない。勇者達全員と話して、お互いの考えや性格が分かり合っていれば、戦いが始まった後に迷いや摩擦は少なくなる。そして全員が充分に力を発揮出来るだろう。どんな話題でも良い。話をしてみることで、通じ合うことはある筈だから。
燐子「一番の問題は…前回同様に敵が複数のグループに分かれて攻撃を仕掛けてきた場合です……。バーテックスの数が多ければ多い程、そうなる可能性は高いと思います……。」
友希那「成る程……。」
友希那と燐子は地図を広げながら、侵攻に向けての作戦会議を行っていた。燐子は格闘においては他の勇者達に劣るが、知識の多さや咄嗟の判断に関しては勇者達の中で一番である。次の大規模侵攻に対し、何か良い作戦を立案出来るかもしれないと思い、友希那が作戦会議を持ちかけたのである。
燐子「ですが…数の問題はどうしようもありません………。」
燐子は地図を見ながら懸命に考えている。その姿が、友希那にはとても頼もしく思えた。
友希那「ありがとう、燐子。」
燐子「どうしたんですか、友希那さん……?」
友希那「私が落ち込んで沈み込んでいた時、燐子は声をかけてくれたわ。あの時……私は心細かったのよ。自分の信じていた正しさが分からなくなって、支えになっていたリサもいなかった。燐子が話しかけてくれて……本当に嬉しかったわ。」
自分の弱さを認めた友希那の言葉に、燐子は優しく微笑んだ。
燐子「……友希那さんは……実は結構甘えん坊なところがありますよね…。」
友希那「っ!?」
言葉には出さなかったが、友希那は明らかに動揺している。
燐子「ふふっ…。今井さんが優しくしている理由が少し分かった気がします…。」
友希那「分からないで良いわ…。」
その時、燐子が何かを思いつく。
燐子「友希那さんが中心になって勇者全員がまとまれるのなら……今までに出来なかった戦い方も出来るかもしれません……。」
友希那「と言うと…?」
燐子「陣形を使うんです…。戦争の中心が兵器戦やゲリラ戦になってしまった後……陣形はスポーツの中でしか使われなくなってしまいましたが、昔の戦いを描いた本では…それを使って勝利する展開も多いんです…。確かその本が図書室にあったはず…。すみません…ちょっと探してきますね…。」
そう言うと燐子は小走りで図書室に向かって行った。
友希那「頼りにしてるわ…。」
ーーー
また別の日。友希那はあことコスプレショップへとやってきていた。
友希那「ここが、あこが行きたいところなのね…。」
あこ「そうなんです!ここには何でも揃ってるんですよ。悪魔の角とか堕天使の翼とか…。」
友希那「そ、そうなのね…。」
店内に入るや否や楽しそうに話すあこを見て、若干友希那はたじろいだ、
あこ「それにしても、友希那さんからあこが行ってみたい所に一緒に行きたいって言ってくれるなんて思ってませんでした!」
友希那「みんなの事をもっと知らないとリーダーにはふさわしくないと思ったのよ。」
あこ「そうなんですね!じゃあ思いっ切り楽しみましょう!」
そう言うとあこは着てみたいコスプレを次々と選び出し、試着室へと入っていった。
数分後、カーテンが開き、ポーズを決めたあこが姿を表す。
あこ「じゃーん!!我が右目が疼き…こう…アレが……バーンってなって…。」
友希那(なんなのかしら…。)
あこ「じゃあ、次は友希那さんの番です。これなんか良いんじゃないですか?」
そう言うとあこは友希那に服を渡し試着室へと押し込んだ。
あこ「何かカッコいいセリフを言って出てきてくださいね!」
友希那「カッコいいセリフって言われても…。」
10分後カーテンが開き見よう見まねで決めポーズを取りながら友希那が出てくる。
友希那「古より眠りし歴戦の王の魂よ…今こそ我に宿りその力を貸すがいい!!」
店内に沈黙が訪れる。
友希那(なんなのかしら、なんなのかしら………!)
あこ「か………カッコいい!!」
尊敬の眼差しを浮かべながら、あこは友希那の手を握る。
あこ「さっすが友希那さんです!今度あこにもカッコいいセリフ教えて下さい!!」
友希那「え…ええ。機会があったらね。」
あこ「それじゃあ、今度はコレとコレとコレと…。」
無邪気にコスプレを選んでいくあこを見ながら友希那は思う。
友希那(あこの勢いの良い性格や私の固い性格…。どちらにも良いところはある……。勇者も同じ事なのね。)
ーーー
また別の日、友希那は紗夜と一緒にネットカフェへと訪れていた。突然友希那からネットカフェへ行こうと申し出を受けた紗夜は、ずっと唖然としている。
紗夜「まさか、湊さんがネットゲームを教えて欲しいなんて言ってくるなどとは思いませんでした…。」
友希那「紗夜の事をもっと知りたくてね。このゲーム、最近始めたのだけれど、協力プレーが出来るのよね?」
紗夜は微かに笑みを浮かべる。勿論紗夜は友希那が示したゲームを持っており、かなりやり込んでいる。キャラも充分に育てられ、装備やステータスも最上級だ。
紗夜「良いですね……やりましょうか。」
それぞれがブースからパソコンで接続し、紗夜と友希那のキャラが同じフィールドに出現する。
紗夜「では、最初は腕試しに簡単なクエストからやってみましょうか。」
友希那「……。」
紗夜「湊さん?」
友希那「nihonngogasyaberenai」
紗夜「はぁ…これでは先が思いやられますね…。」
それから一時間が経った。
友希那「チャットというものを初めてやったから、変換が分からなかったわ。」
紗夜「それで今までやれていたのが不思議なくらいです。」
友希那「私もよ。簡単な敵しか倒せなかったのだけれど、どうしても倒せない敵が出てきてしまったのよ。」
紗夜「それで、私のところへ?」
友希那「ええ。紗夜がもしこのゲームをやっていたら、協力して倒せるかもと思ったのよ。」
紗夜「…………分かりました。行きましょうか。」
二人は協力してそのモンスターに立ち向かっていく。
紗夜(………本当に、変われたんですね…。)
以前の友希那であれば、行き詰まっても一人プレーを続けてただろう。しかし今、友希那は他人を信じて頼ることが出来ている。そしてゲームの中でも、友希那は紗夜と上手く足並みを揃えて戦っていた。一人で突撃することも無く、攻撃力が高い紗夜のサポートに回りつつ、要所要所で的確な攻撃を行う。紗夜は一人で遊んでいる以上に、心地良くプレーが出来ていた。
帰り道、二人は並んで丸亀城へ歩いていた。ふと紗夜が友希那に話しかける。
紗夜「温泉旅館の時もそうでしたが…湊さんにはゲームの才能があるのかもしれませんね…。」
友希那「そう?紗夜にそう言われると嬉しいわ。」
紗夜「その才能をもっと伸ばすべきです。オススメのゲームを貸してあげます。二十本ほど。」
友希那「二十本?そんなにあるの?」
紗夜「ふふ……ええ。」
ーーー
またある時。友希那は入院しているお見舞いも兼ねて、香澄の病室を訪れていた。病室に入った直後、友希那へと明るい言葉が投げかけられる。
香澄「友希那ちゃん!私、やっと退院出来るみたい!」
香澄はベッドから下り、床に立っていた。包帯も取れて、怪我もほとんど残ってないように見える。驚異的な回復の速さは、彼女自身の素養か、それとも神樹の恵みなのか。
香澄「体が鈍ってるかもしれないから、学校に戻ったら鍛え直さないとね!」
友希那「無理はしないでね。治ったばかりなんだから。それで……。」
香澄と話をしようと病室に来てみたものの、何を話すかは考えていなかった。友希那は思い切って香澄に尋ねる。
友希那「………香澄、何かして欲しい事はないかしら?」
香澄「え?どうしたの、急に。」
友希那「退院祝いってやつよ。」
高嶋「そうだなー……。」
香澄から返ってきた言葉は意外なものだった。
高嶋「じゃあ、怪我しないで。」
友希那「えっ?」
高嶋「無事でいる事!それが私からのお願いだよ。自分の事もちゃんと守って。そうでなきゃ守れるものも守れなくなっちゃうから…。」
友希那(そうか…香澄は私の愚行を誰より近くで見ていたものね…。)
友希那「分かったわ…その約束、必ず守る。」
高嶋「うん!絶対だよ!」
友希那は香澄と握手し病室を後にしたのだった。
各々の想いが交差する中、勇者達はそれぞれの時間を過ごす。
神託により示されたのは、人類の終末戦争の中で、後に"丸亀城の戦い"と呼ばれる激戦。
希望の光を守る為に、少女達は今、命を賭すーー