真伝・湊友希那は勇者である   作:悠@ゆー

16 / 35

徐々に力を増していくバーテックスに押されていく勇者達。仲間を守る為に、そして今を生きる人々を守る為に、友希那は"切り札"を解き放つ。




颶風-ぐふう-

 

 

樹海化が始まってから、勇者達の体感で三時間程ーー

 

交代で休みながら戦い、勇者達はほぼ無傷でバーテックスを圧倒し続けていた。

 

しかし友希那達は全員、このまま最後まで優勢で終わる筈は無いと思っていた。まだ敵は全力を出してはいない。友希那達はそれが分かっていた。

 

やがて、敵の動きに変化が起こる。バーテックスが集まり融合が始まったのだ。

 

燐子「気を付けてください…"進化型"になろうとしてます…!」

 

数十から数百以上ものバーテックスが一塊となり、今までとは全く異なる形状に"進化"していく。出来上がった"進化型"は巨大な蛇の様な姿をしていた。

 

前線に出ている勇者は、東側に友希那、中央が香澄、西側が紗夜。"進化型"は初めに友希那に襲いかかった。

 

だが、友希那は冷静だった。凄まじい勢いで襲いかかる"進化型"の突進を最小限の動きで躱し、居合いを繰り出す。"進化型"の長い胴が真っ二つに切断された。

 

鮮やかな一撃に、全員が息を呑むが、燐子だけは違和感に気が付いていた。斬られた"進化型"はまだ死んでいないと。

 

燐子「友希那さん…まだ…!」

 

燐子の声を聞き、友希那は反射的に後ろへ跳躍した。斬られた"進化型"が二体の個体へと変化し、左右から友希那に襲いかかる。友希那の反応がほんの少し遅れていたら、二匹の蛇に喰い千切られていただろう。

 

後方へ飛ぶ際、友希那は左の蛇の首を切り落とす。だが首を切り落とされても、その首と胴がまた別の"進化型"へと分裂する。分裂した蛇は小さくなるわけでは無く、周りのバーテックスを吸収し、元の大きさに成長。"進化型"は三体の巨大な蛇となって、友希那を攻撃し続ける。

 

友希那「斬れば敵を増やすだけね………。」

 

友希那は右手に生太刀、左手に鞘を持ち、鞘の打撃で"進化型"を牽制しつつ、刀でほかのバーテックスを倒していった。だが、鞘の打撃くらいでは、"進化型"にはダメージが入らない。恐らくこの"進化型"は全身を一度に損傷させなければ倒せないのだろう。

 

しかし、勇者達五人の中に巨大な敵を一気に攻撃出来るような武器を持っている者はいない。そんな中、あこが立ち上がる。

 

あこ「………あこの出番だね!」

 

休憩中だったあこは飛び出した。このままでは防衛戦が崩れてしまう。"進化型"に苦戦している友希那へ向かってあこは叫んだ。

 

あこ「友希那さん!"切り札"を使います!」

 

友希那「待ちなさい、あこ!それならーー」

 

友希那の制止を振り切り、あこは神樹にアクセスし、そこに宿る"精霊"の力を自らに降ろす。

 

あこ「頼んだよ、"和入道"!」

 

直後、あこの旋刃盤の形状が変化していく。

 

燐子「旋刃盤がどんどん大きく………。」

 

旋刃盤があこの背丈の何倍もの大きさに巨大化したのだ。

 

燐子「これじゃあ、投げられない……。」

 

あこ「大丈夫!根性で…投げるよーーーー!!」

 

旋刃盤を両手で掴み、まるでハンマー投げの要領であこはグルグルと回転。回りながら旋刃盤のワイヤーを伸ばして回転の半径をどんどん大きくしていった。

 

あこ「いっけえぇぇぇぇっ!!」

 

充分な遠心力を得たところで、あこは旋刃盤のワイヤーを切り離し、旋刃盤は飛んでいってしまった。

 

燐子「ワイヤーが切れちゃった……。」

 

あこ「これで大丈夫!」

 

今の旋刃盤はワイヤーで操作しなくても、あこの意志で操作が出来るのだ。巨大旋刃盤は外縁部の刃を凄まじい速さで回転させながら、"進化型"へ向かう。しかもその刃は炎に包まれていた。

 

燃え盛る旋刃盤は、友希那のすぐ横を通り過ぎ、"進化型"の全身を一気に引き裂いた。それだけに留まらず、引き裂いた敵を容赦無く炎で燃やし尽くす。

 

更に旋刃盤は意志を持った生き物の様に空中で旋回し、他の二体の"進化型"も引き裂き、燃やし尽くしてしまった。

 

友希那「凄いわね………。」

 

"進化型"を瞬く間に屠った旋刃盤はら周りのバーテックスをも容赦無く餌食にしていく。群れの中で暴れ回る火炎車に為す術も無く、バーテックスは蹂躙されていった。

 

だが、そのまま全てのバーテックスを焼き尽くすという訳にはいかなかった。

 

あこ「………っ!」

 

突如、崩れ落ちるようにあこは膝を付いた。

 

燐子「あこちゃん!?」

 

あこ「だ、大丈夫……ちょっとクラってきただけだよ………。」

 

燐子「でも………。」

 

友希那「あこ、大丈夫なの!?やっぱり"切り札"は体への負担が大きすぎるわ!」

 

あこ「そんな事いってられません、友希那さん………前を見てください!」

 

友希那「っ!?」

 

あこに言われ、友希那はバーテックスの群れへと目を向けた。先程まで蹂躙されていたバーテックスの群れが、再び一箇所に集まっていたのだ。さっきの"進化型"を生成した時よりもはるかに多い数の個体が融合していく。

 

燐子「これは………!」

 

バーテックスは、建物の屋上に立つ友希那からも見上げるような巨体になろうとしていた。最終的には丸亀城と同じか、それ以上の大きさになるかもしれない。あこの"和入道"の力でも倒せないよう、自らを巨大化させることで対抗してきたのだろう。四国に侵入してきたほぼ全ての個体が集まろうとしている。敵にとっても最後の手段なのだ。

 

香澄「友希那ちゃん!あんなに大きくなったら、どうにも出来ないよ!」

 

焦る香澄の声を聞きつつも、友希那は静かにバーテックスの動きを観察している。

 

友希那(あれだけの巨体………急拵えで作れば、必ず何処かに綻びがあるはずよ……。)

 

 

 

集合するバーテックスの動きーー

 

 

形成されていく巨体の全身のバランスーー

 

 

 

友希那(…………そこね。)

 

友希那はバーテックスの脆弱な部分を複数箇所見つけ出し、他の勇者へ叫んだ。

 

友希那「この身体には、まだ脆い部分が幾つかあるわ!身体が完成する前に叩けば、倒せるかもしれない!」

 

香澄「脆い部分……だけど…!」

 

香澄にも見えたのだろう。だが、それは数百から数千ものバーテックスが集まっている中心。近付くことは簡単には出来ない。

 

あこ「あこの"和入道"なら………行けます!」

 

フラつく体であこは巨大な旋刃盤に飛び乗った。"和入道"の力をまとった旋刃盤でなら、周りのバーテックスを倒しながら巨体に近付くことが出来る。

 

燐子「あこちゃん、私も行くよ………。」

 

燐子も飛び乗った。今まで指揮官として丸亀城城郭に留まっていたが、最後の総力戦になると考え、前線で戦うべきだと判断したのだ。更に旋刃盤に乗り込んだのは燐子だけではなかった。

 

香澄「あこちゃんや燐子ちゃんだけに危ないことはさせられないよ!」

 

友希那「私も一緒に行くわ。」

 

紗夜「あの巨体は……私が倒します。」

 

香澄に友希那に紗夜。勇者達全員が旋刃盤に飛び乗った。

 

あこ「みんなで行きましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

形成途中の巨大バーテックスは、下腹部から砲弾のような物を次々に放ち、接近を妨げようと攻撃してくる。あこは旋刃盤を上手く操作し、それらを全て躱していった。肉体の疲労は限界に来ているが、あこは気合いで意識を保っている。

 

友希那(ありがとう……香澄。あこ。燐子。紗夜。)

 

仲間がいてくれることに、友希那は心の中で感謝する。自分の隣には仲間がいて、一緒に戦ってくれる。それがどれほど友希那にとって心強いか。

 

巨大バーテックスの脆弱箇所は複数存在する。友希那一人ではそれらを全て破壊するのは困難だっただろう。だが、仲間と一緒なら、それは可能だ。

 

友希那「あこは前方正面!燐子は上方二時の方向!香澄は下方五時の方向!紗夜は左斜め後方!私は上方を叩くわ!」

 

香澄以外の三人も、ある程度の場所を伝えられれば、脆弱箇所を見つける事が出来るだろう。

 

友希那「行くわよ!」

 

あこ以外の四人が旋刃盤から跳躍し、指示された箇所へと突っ込んでいく。

 

だが、バーテックスも弱点部分を狙われることは予測していた。脆弱な部分を守るように周囲のバーテックスが集まり、勇者達を取り囲んでしまう。このままでは、脆弱箇所を攻撃出来ないどころか、逆に集中攻撃を受けてしまう。

 

友希那(まずいわね……。)

 

こちらの動きを完全に逆手に取られてしまった。一点窮地に陥り、巨大バーテックスの融合が完了してしまう。

 

友希那(……………迷ってる時間は……無い!)

 

 

 

 

仲間達を守る為にーー

 

 

 

この地に住む人々を傷付けさせない為にーー

 

 

 

 

 

友希那は今、"切り札"を使う。

 

 

 

 

 

 

神樹にアクセスし、そこから精霊をその身に降ろす。

 

友希那「はあぁぁぁぁぁっ!!」

 

友希那は近くを飛んでいるバーテックスの一体を蹴り、更に跳躍した先でまた別のバーテックスを蹴って飛ぶ。それを繰り返し、本来は空を飛べない勇者が、空中を凄まじい速さで移動していた。

 

友希那が神樹から引き出した精霊は"源義経"。それは、人間離れした体術を持つ武人。義経は、海に浮かぶ舟から舟へと跳躍を繰り返し、飛ぶ様に移動したと言われている。その技の名は"八艘飛び"。

 

八艘飛びにより空中における桁外れの機動力を得た今の友希那は、危機に陥った仲間の元へ一瞬で駆けつけることが出来る。

 

重力など存在しないかのように、空中を自在に飛び回る友希那。他の勇者達を取り囲んでいたバーテックスを次々に斬っていく。八艘飛びを繰り返せば繰り返す程、友希那の速度は上がっていった。最早常人では目で追うことさえ不可能な領域に達する。友希那の力により、勇者達の行動を妨げていたバーテックスは、瞬く間に数を減らしていった。

 

あこ「友希那さん!ありがとうございます!」

 

燐子「これで撃ち抜けます……!」

 

香澄「今度こそ……勇者パーーンチ!!」

 

紗夜「もう邪魔はありません…!」

 

妨害するバーテックスを友希那が倒しているうちに、四人は脆弱箇所を攻撃していく。そしてその全てを破壊するのだった。形成途中だった巨大バーテックスは、その巨体を崩壊させ、奇妙な悲鳴を上げながら消滅していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那(体が……動かない…………。)

 

巨大バーテックスが消滅していく姿を見ながら、友希那は空から真っ逆さまに落ちていく。"切り札"を使った反動が出ている為だ。

 

香澄「友希那ちゃん!!」

 

落ちていく最中、友希那の耳に香澄の声が響いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、後世に"丸亀城の戦い"と呼ばれる激戦は趨勢を決した。前例のない大規模な"進化型"は、形成途中で崩壊。侵攻してきたバーテックスの殆どを使った進化だった為、残った個体を掃討するのは、残された四人だけで充分だった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

樹海化が解け、四国が元の風景を取り戻した後。丸亀城の敷地内にある、桜の木々が植えられているあたりを、リサは早足で歩いていた。

 

一本の桜の木の下で、一人の少女が倒れている。

 

リサ「やっと見つけたよ…………起きて、友希那。」

 

友希那「リ………サ?」

 

勇者装束は消え、友希那はいつもの制服の姿に戻っていた。

 

リサ「良かった……友希那が無事で………。」

 

神樹の神託で、友希那が生きていることを知り、リサは友希那を探しに来たのだ。友希那はまだ虚な表情で、倒れたまま尋ねる。

 

友希那「終わったの………?」

 

リサ「うん。アタシ達の勝利だよ。友希那とみんなのお陰で、守られたんだ。勇者側の被害は無し………みんな無事だよ。」

 

友希那「そう………良かった…。」

 

友希那は体を起こす。

 

友希那「少し……夢を見てたみたい…。」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

友希那「ここは…。」

 

?「「「友希那ちゃん。」」」

 

友希那の前には三年前のあの日、救えなかったクラスメイト達が立っていた。

 

友希那「みんな…。三年前のあの日、私はみんなを救えず生き残ってしまった…。だから本当はバーテックスだけでなく私も報いを受けないと…。」

 

クラスメイトA「大丈夫だよ…。」

 

クラスメイト達は首を横に振る。

 

友希那「えっ!?」

 

クラスメイトB「私達の家族はね、四国にいるの。」

 

クラスメイトC「友希那ちゃんが戦ってくれたお陰で、私達のお父さんとお母さんは生きている。」

 

クラスメイトA「だから友希那ちゃんは、もう報いを受けてるんだよ。」

 

危険を犯してバーテックスと戦い、この地と人々を守り続けること。それが友人達を守れず、自分は生き残ってしまった罪に対して、友希那が受けている報いなのだ。

 

友希那「そう……。」

 

友希那は涙を堪えながら、精一杯の笑顔を作って言った。

 

友希那「だったら……私はあなた達に誓うわ。私はずっと…ずっとこの地で生きる人々を守り続けると…。"何事にも報いを"……それが湊家の生き様だから。」

 

 

 

ーー

ーーー

 

 

リサ「どんな夢だったの?」

 

友希那は立ち上がり、どこかさっぱりした顔で答えた。

 

友希那「優しくて……厳しい…そんな夢だったわ。」

 

その時、聞き覚えのある騒がしい声が聞こえてきた。

 

あこ「あっ、友希那さんいた!」

 

燐子「良かった……元気そうです…。」

 

紗夜「湊さんがそう簡単に倒れる筈がありません。」

 

香澄「友希那ちゃん!私達、勝ったんだよ!!」

 

友希那が振り返ると、そこには駆け寄ってくる仲間達の姿があった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。