瓦礫の山、壊された車、燃える街並み。蹂躙し尽くされた地上で友希那達は懸命に生存者を探し続ける。
辿り着いた大阪で、一行は信じ難い惨劇を目の当たりにするのだった。
大阪駅と梅田駅は地下街で繋がっている。そしてこの二つの駅には多くの鉄道が通っており、そのせいで地下街は複雑な構造をしている。阪急神戸線の線路を辿り、勇者達は神戸から梅田駅に到着した。大阪も、岡山や神戸と同じく、既に破壊の限りを尽くされている。
駅周辺もやはり無惨に破壊されていたが、地下道へ入る階段はまだ残っていた。階段には恐らくバリケードとして使われていたであろう棚やテーブルが散乱している。どうやらバリケードもバーテックスによって破壊されてしまったのだろう。
友希那「……………。」
地下は侵入路を塞ぎやすい反面、一度バーテックスの侵入を許せば、逃げ道が無くなる。待っているのは地獄絵図だけだ。他の五人も入り口を前に足を止め、表情を曇らせる。考えている事は同じなのだろう。
友希那「………確かめてみないと、何も分からないわね。」
勇者達は階段を降り始めた。
地下は冷たい空気と静寂が支配していた。既に電気は通っていないため、出入り口から少し進むと、もう暗闇だ。持ってきた懐中電灯で辺りを照らし進んでいく。
地下街は地上に比べれば元の状態を保っているが、あちこちに襲撃された跡が見受けられる。入り口にあった地下街のマップをスマホで撮影し、その地図を見ながら歩く。
友希那「誰かいない!?」
時折友希那は叫ぶが、反応は無い。
燐子「人がいた形跡は残ってるんですけどね……。」
ゴミ箱には、空になった缶詰やペットボトルが詰め込まれ、入りきらない分は周りに散乱していた。
暫く歩くと、各所で防火用のシャッターが降りていたり、バリケードが作られていたりする。侵入してきたバーテックスに必死で対抗したのだろう。しかしシャッターもバリケードも、今は破壊されていた。
三十分程歩くと、円形の広場に出た。
あこ「な…何これ……!?」
広場の中央には噴水があり、その周辺には大量の白骨が積み上げられていた。友希那達はその場で呆然と立ち尽くす。
紗夜「酷い……地上はボロボロになり………地下も…こんな………。」
一体何人分の白骨死体なのだろうか。散策していると、友希那は床に落ちている一冊のノートに気が付いた。拾い上げ、中を見てみる。このノートに書かれていたのは、この地下街に避難していた者の日記だった。
友希那「…………そんな……っ!」
読み進めながら、ページを捲る友希那の手が、やるせなさと怒りで震えていた。
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2015年某日--
地下に潜んでから何日経っただろうか。スマホの電池はとっくに切れてしまい、もう日付も分からない。地下街の店に置いてあった電池やモバイル充電器は、一部の人が独り占めしてしまって、私達は使えない。尤も、スマホが使えても電波は通じないようだから、日付と時間を確認するしか出来ないのだけれど。
兎に角、このままじゃ日付の感覚が失われてしまう。だからそうならないように日記を付けることにした。
それに私達が救出された後、ここで過ごした日々の記録が、何か意味を持つかもしれないから。
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2015年、某日ーー
まずは状況を整理しておこうと思う。7月末に突如現れた化け物から逃げて、私達は命からがら地下街に逃げ込んだ。みんなで入り口にバリケードを作ったら、化け物は入って来なかったが、私達ももう外へは出られない。
地上は今どうなっているだろうか。お父さんもお母さんももういない…。家族は妹だけ。妹はまだ小学生だ。高校生の私がしっかりしないと。
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2015年、某日ーー
今日も喧嘩が起こった。地下街で暮らす人達の中で、喧嘩は毎日のように起こる。理由は色々だ。食糧の奪い合い、ちょっとした意見の対立、単純な弱い者虐め………。
一部の正義感の強い大人達がルールを作って、老人や子供を守ってくれている。食糧も公平に分けてくれた。その人達がいなければ、私達はきっと生きていけない。
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2015年某日--
今日起こった喧嘩で人が亡くなってしまった。化け物から逃げる為に閉じこもっているのに、人間同士で争うなんてバカみたいだ。
けど、人が死んでしまうような争いは、もう何度も起こっている。大人達がルールを作ってからは減ったけど、バリケードが出来たばかりの頃は、本当に酷かった。食糧は限られているから、それを独り占めするために、乱暴な奴らが暴力を振るって……。
死体は決められた場所に集められている。放置しておくと衛生上の問題もあるし、精神的にも良く無いからだ。
ああ、何だか私、死体をものみたいに書いてるな。私の感覚も、ちょっとおかしくなっているのかもしれない。
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2015年某日--
妹が家に帰りたいと泣き出す。普段はワガママも言わない大人しい子なのに…。
妹の泣き声に苛立った大人が外に出すかしろと言ってきた。そんな事はさせない。妹は私が守るんだ。
大体、バリケードで出入り口を塞いであるから、外になんて出られない。バリケードを解いたら、化け物が入り込んでくる。
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2015年、某日ーー
もう随分長いこと、この地下街にいる気がする。食糧不足が問題になっている。新しい食糧が持って来られることは無いから、食べ物は減るばかりだ。大人達が話し合って、口減らしとして老人や病人を殺すか、バリケードを解いて食べ物を探しに行くかすべきだという意見が出た。でも結論は出なかった。
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2015年某日--
今日のご飯は栄養補助食品2個とスナック菓子半袋。一食分では無い、一日分のご飯だ。食糧不足は思ったより深刻らしい。
昨日から引き続き、食料問題で大人達が話し合っている。弱い者を見捨てて食料を節約するべきだと主張する人、バリケードを解いて外に出るべきだと主張する人。今日も結論は出なかった。
外に化け物はまだいるのだろうか。誰にも分からない。
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2015年某日--
妹に元気がない。呼びかけると返事はするが上の空だ。何かの病気かもしれない。でも、何の病気かも分からない。
地下街に逃げ込んだ人の中に医者がいたから診てもらったけど、検査器具がないと原因が特定出来ない。
ドラッグストアにあった栄養剤を飲ませる。それくらいしか、私に出来ることはない。
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2015年某日--
今日も妹は元気が無い。でもどうする事も出来ない。
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2015年某日--
病院に連れて行かないと--
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2015年某日--
妹が返事をしない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
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2015年某日--
酷い争いが起こった。一部の人達が勝手に食料節約の為と老人と病人を殺し、その人達も別の人達にすぐ殺された。もう訳が分からない!何でみんな協力しないの!?このままじゃ全滅だ!
私の妹も殺されてしまった。私ももう死んでも良いかもしれない。
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2015年、某日ーー
久しぶりに日記を開いた。妹が死んでから、ずっと何もする気が起きなくて、日記も書いていなかった。地下街にいる人も、随分減ってしまった。妹が死んだ時の争いで多くの人が亡くなったし、その後も争いは絶えなかった。病気で死ぬ人や、自殺する人も多い。
人が減っても、相変わらず食糧は足りない。
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2015年、某日ーー
また喧嘩が起こった。地上へ出ようと訴える人と、それに反対する人で。私はもうどちらでもいい。どうでもいい。
結局、ここに閉じこもっても、何の意味も無かったのかもしれない。人間同士の争いで死ぬか、化け物に殺されるかの違いだけだった。
人間同士で殺し合うくらいなら、化け物に食われていた方がまだましだった。
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2015年某日--
地上へ出ようと訴えていた人達がバリケードを壊してしまった。また前と同じパターン。どうしようもない。
化け物はまだ残っていた。壊されたバリケードから化け物が次々と雪崩れ込み、防火シャッターも簡単に壊されてしまった。
きっとあの化け物はやろうと思えば初めから出入り口のバリケードを食い破って、地下街を壊滅させることなんて簡単に出来たんだろう。だけど、地上を壊すことを優先していた。それか、何もしなくても地下に逃げた人間が全滅するた分かっていたのかも。
私は今死体置き場にいる。
最期は、妹と一緒に迎えようと思う--
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ーーー
友希那は読み終わった日記を閉じる。怒りとやるせなさが、胸の中で渦巻き、手は震えていた。
他のみんなも友希那の周りに集まり、その日記を覗き込んでいた。悲しみ、怒り、怯え、不安。様々な感情が浮かんでくる。
リサ「友希那……。」
友希那「……大丈夫よ、リサ。」
安心させるようにリサに言うが、上手く普段通りの態度で振る舞えているか、自信が無かった。
友希那はその日記を、死体が積み上がった噴水の上にそっと置き、静かに手を合わせる。
バーテックスに追い込まれ、絶望的な状況ながらも生きようとしていた人々。きっとここに勇者が一人でもいれば、状況は違っていたのかもしれない。
友希那(私が……ここにいれば………。)
もうどうしようも無いこととはいえ、悔しさが胸を刺す。
次の瞬間、通路の向こうの暗闇から、重い音がぶつかり合う音が聞こえ始めた。
友希那「バーテックス………?」
化け物に対する怒りが込み上げてくる。だが、友希那は冷静さを失わなかった。
友希那「………この地下街に生き残りはもういない。脱出するわよ!リサは私の側から離れないで!」
その声と同時に、地下通路の奥からバーテックスが姿を現す。友希那が先頭に立ってバーテックスを倒しながら出口を目指す。既に地下街の地図は友希那の頭に入っていたから、迷わず進んで行った。
そんな中、紗夜は大葉刈でバーテックスを倒しながら、先程の日記の内容を思い返す。友希那はバーテックスに対する怒りを感じていたが、紗夜は違っていた。
紗夜が感じていたものは、怒りよりも、追い詰められた人間の無力さや醜さ、惨めさだった。
バーテックスに対抗する力も勇気も無く、暗い地下に閉じ籠り、ただ怯えて過ごすしかなかった人々。強大な力に抗えないからこそ、弱い人間同士で争い、奪い合う。どんなに危機的な状況に陥っても、結局人間は心底から協力する事は出来ない。
そして、地下街の人々の姿は、いずれ四国が辿る未来の縮図の様に思えた。
四国という狭い世界に閉じ込められた人々。今、状況は安定しているが、もっと危機が迫ればきっとあの地下街の人々と同じ様に、人間は醜く争い合うようになる。追い詰められ、奪い合って傷付け合って、多くの者は人間らしい尊厳さえ無い惨めな終末を迎えるだろう。
紗夜(私は……そうはならない……!)
大葉刈を振るい、バーテックスを切り倒しながら、紗夜は地下通路の深い闇の先を睨んでいた。
紗夜(私には……勇者の力があります……!あんな惨めな死に方は絶対にしない……最後まで、勇者として敬われて……生きていくんです……!)
地下街を出た勇者達は、襲ってくるバーテックスを蹴散らしながら、一通り大阪の街を見て回った。だが、生存者を見つけることは出来ず、次の目的地へと足を急がせた。
跳躍しながら移動していく勇者達は、口数も少なくなっていた。口を開けば、暗い言葉しか出てこない気がしたから。
そして勇者一行は、名古屋へと辿り着くのだった。